Migdal

ンソピハ!
ンソピハ!

投稿

ハワイ語版世界人権宣言第1条にグロスふりふり

人工言語の翻訳のお題としてもよく使われる世界人権宣言第1条、みなさんはご存じでしょうか?

[こくれん]
こくれん
人間はみんな、生れながらにして自由だし、尊厳と権利とについて平等なんだぞ。人間には理性も良心もあるんだから、仲間同士だと思って行動しなきゃだよね。(意訳)

原文:https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/document/bill_of_rights/universal_declaration/

さて、この第1条ですが、「自由」「尊厳」「権利」「理性」「良心」みたいな、かたっくるしい言葉が使われているせいで、ちょっと訳しづらい感じがしませんか?
あなたの言語でいい感じに訳せるようにするには、ほかの翻訳を参考にするのがいいかもしれません。
てなわけで、ハワイ語版世界人権宣言を逐語訳してみました。需要がどっかにありますように。1

私はハワイ語話せないので、有識者の方のご指摘大歓迎です。

Hānau kūʻokoʻa ʻia nā kānaka apau loa, a ua kau like ka hanohano a me nā pono kīvila ma luna o kākou pākahi. Ua kuʻu mai ka noʻonoʻo pono a me ka ʻike pono ma luna o kākou, no laila, e aloha kākou kekahi i kekahi.

ハワイ語原文:https://www.ohchr.org/en/human-rights/universal-declaration/translations/hawaiian

・使用する文法用語の略号
PASS=受動態マーカー
DEF=定冠詞
PL=複数
PFV=完結相(……してしまった)
SUP=最上級(英語のmost)
SG=単数
LOC=(場所)で
GEN=~の
1IN=一人称包括形(聞き手も含む「私たち」)
IMP=命令

以下、逐語訳

  • hānau kūʻokoʻa ʻia nā kānaka apau loa,
  • 生む 自由 PASS DEF.PL 人.PL 全て とても
  • 全ての人は自由に生まれ、

見ての通り、ハワイ語はふつう動詞が文頭に来ます(VSO語順)。
「自由」はkūʻokoʻaと訳されています。kūʻokoʻaは「独立、自由」などを意味します。ʻokoʻa(違う、分かれた、関係ない、他の……などの意)に文法的な接辞2kū-のついた語です。個人的にこういう派生の仕方好きです。
最後のloaは、ちょっとよく意味が分かりませんでした。「とても」という意味があるらしいので、とりあえずそう書いてておきましたが、違かったらごめんなさい。

  • a ua kau like ka hanohano a-me nā pono kīvila ma luna o kākou pākahi
  • そして PFV SUP 同じ DEF.SG 尊厳 と DEF.PL 権利 市民の LOC 上 GEN 1IN 一人一人
  • 私たち一人一人において市民の尊厳と権利は平等になった。

ハワイ語のlikaには「似ている」の意もあります。kau lika(最も似ている)で「同じ」の意になっているんですね。
hanohano(尊厳)は、「名誉な、壮大な、高貴の、尊敬される、厳かな、雄大な、名高い、立派な;恐怖、壮麗、名誉、威信」といった意味らしいです。ちなみにハワイ語では、かなり頻繁に名詞と動詞が品詞交替します。(日本語の形容詞にあたるものは状態動詞と呼ばれる。)
pono(権利)は、「良い、善い」の意です。英語のrightからの影響があるのかもしれません。
その次の語のkīvilaは、辞書に載っていなかったのですが、たぶん英語のcivilからの借用語だと思います。(ハワイ語にsはないので、代わりにkになる。)

  • ua kuʻu mai ka noʻonoʻo pono a-me ka ʻike pono ma luna o kākou
  • PFV 自由な 話し手へ DEF.SG 思考 良い と DEF.SG 認識 良い LOC 上 GEN 1IN
  • 私たち一人一人において理性と良心とは自由になっている。

「理性」はnoʻonoʻo pono(良い思考)、「良心」はʻike pono(良い認識)となっています。なお、noʻonoʻoは「考える」、ʻikeは「見る」という意味の動詞で、ここでは名詞に転用されています。

  • no-laila e aloha kākou kekahi-i-kekahi
  • それゆえ IMP 愛する 1IN お互いに
  • それゆえ、互いを愛し合いなさい。

eは強い命令や忠告を表すっぽいです。もう少しやわらかい口調になるものとしてōもありますが、ここではeが使われています。日本語のダ・デアル体とデス・マス体の違いみたいなものなんですかね。

そのほか典拠:
https://wehewehe.org/?l=en
https://hawaiian-grammar.org/current/
https://en.wikipedia.org/wiki/Hawaiian_grammar


  1. (そもそも、世界人権宣言を翻訳のお題に使ってる人、あんま見ない気がするけど……。気のせいか?) 

  2. kū-は、Hawaiian Dictionary (1986)によると、「qualitative and stative prefix(質的で状態的な接頭辞)」らしいです。あんまピンと来ない語釈ですね。 

Top comments (0)