どうも、ヅベールです。知らない人は初めまして。
まずは身の上話……
大きい文字で本文ここからって書いてあるところまで、飛ばしても良いですよ。
私は普段、歴史ばかりある大学で研究をしたり教鞭を執っている。
出所不明の手紙が大学に届く。
本来の仕事ではないが適任らしく、一任される。
要するに、貧乏くじを引いてしまったらしい。うーむ……
まずは手紙を見ていきましょう……
邪神、悪魔、亡霊、悪鬼…この世に存在する邪悪な者たち。
その邪悪な存在と交信し、召喚するのに使われるのはある特別な言語。
さて、それはどんな言語でしょうか?(後略)
……確かに、私こそが適任ですとも。そういった研究が専門ですからね……
俄然興味がわいてきました。
ある特別な言語について、私が紹介させて頂きましょう。
成立(本文ここから)
言語について語る前に、邪悪な存在について語るとしよう。
昔のさらに昔、海を越えた異邦に栄えた文明がありました。
その文明は邪悪な存在を認知しており、それを巨神と呼んでいました。
文明の人間は巨神に祈りを捧げて、また交信することで不思議な知識や物品を手に入れようとしていたのです。
しかし同時に、巨神は高等な存在であると考えられていました。
人間の安易な交信は巨神の怒りを招き、ひいては発狂、乱心がもたらされると考えられていたのです。
故に人間は巨神との交信に仲立ちを用意することを思いつきました。
それこそが、巨神を研究する巨神学であり、そしてある特別な言語は、その仲立ちとの交信に用いる言語なのです。
最早古代の言語であり、私の大学では異端とされています。
ただ実際のところ巨神と交信することは出来るらしく……効果はあるようです。
件の言語
キキシャアバラㇰ(cik isza abalak)、あるいはキキシャアバラㇰ語と呼ばれています。
言語は三つの特徴を持っています。それぞれを紹介しましょう。
三つの語群をもつ。
- A語群:殆どの語彙。実質的言語。
- D語群:巨神がもたらす呪文や物質。
- C語群:包括的な語彙。ごく一部のみ存在する。
これらは文法的な取り扱いが違う(後述)ため、そう分類されています。
吸気音を音素として弁別する。
吸気音は息を吸うことで発音を行い、キキシャアバラㇰ語では区別を行います。
その表記として子音字を重ねます。(また発音記号では↓がつく)
jjasa>lla/ja↓sa˥la↓/ ---> 「海」の意味
jasa>la/jasa˥la/ ---> 「神殿」の意味
アクセントが厳密。
上でも「>」という文字が表記されています。
「>」がアクセントを下げる記号。「<」が逆にアクセントをあげる記号です。
アクセント記号がないところでは、全て同じ高さで発音します。
とく巨神の名前は厳密なアクセントを持っています。
発音を間違えると異なる巨神に交信を行ってしまいますから、注意が必要です。
また余談として、この厳密なアクセントによって、言語は歌の旋律のように聞こえることになります。
神に捧げる賛美歌や祝詞は、それを受け取る存在(巨神)が同じであり、故にそれらと同様に音楽的になるのです。
言語学習の始まり
音素(子音)
両唇 | 唇歯 | 歯茎 | 後部歯茎 | 硬口蓋 | 軟口蓋 | |
---|---|---|---|---|---|---|
破裂 | p/b | t | k | |||
内破 | k̚ | |||||
摩擦 | f | s | ʃ/ʒ | x | ||
鼻音 | m | |||||
側面摩擦 | ɮ | |||||
接近 | ɹ | j | ||||
側面接近 | l |
太字はC語群のみに出現する。
音素(母音)
前舌 | 中舌 | |
---|---|---|
狭 | i | |
稍狭 | e | |
稍広 | ||
広 | a | (a) |
声調
上昇 | 下降 | |
---|---|---|
単純上昇 | "<" ==> ˩ | ">" ==> ˥ |
名乗り
さて、巨神たちに要求しましょう!そのためにはまず、名乗る必要があります。
巨神からすると、名前も知らない名乗らない不躾者の要求を叶える必要がないからです。
ですが名乗りは簡単です。私ことヅベールの場合……
jja> zuberr ca
……これだけで結構。
jjaは同格あるいは並立を意味する助詞で、caは主語を表します。
ただしキキシャアバラㇰではヅベール/d͡zubeːr/という名前は発音できない。
それは/d͡z/の音も/u/の音も/ːr/の音もないからで……
- 有気音は全て無気音にする。
- 破擦音は同じ調音位置の破裂音にする。/d/や/n/は/ɹ/
- /a/、/e/、/i/以外の母音は全て/a/にする。
- R音+母音のR音は/l/、R音のみならば/ɹ/にする。
そういったルールが存在する。故に件の文は/ja↓˥ tabeɹ ka/と発音しなくてはならない。
他に例を出すならば、ユタカさんは/iataka/、ケンイチさんは/keniti/、リュウジさんは/liaʃi/となる。
要求
要求と一口に言っても、知識が欲しいだとか、勝負に勝ちたいだとか、いろいろあります。
貴方が何を望むかによって、交信すべき巨神は違います。
基本的にはヤサレヤ/jasal˥e˩ja↓/に交信します。
ヤサレヤへの交信
ヤサレヤは巨神学での最高位に位置するとされていて、程度はありますがあらゆることについて叶える能力を持っています。
悪く言えば器用貧乏です。
とはいえ彼には特別な敬語も必要ないため、交信は実に簡単です。
自分自身に知識を与えるように要求してみましょう。
まず平叙文
jasa>le<jja ca ti<llacami ==>ヤサレヤは与える。
jasa>le<jja --->巨神ヤサレヤ。
ca (主格にする)---> 助詞。
ti<llacami ---> 与える。
これに目的語を付けましょう。
目的語が一つならば前に、二つならば物を前、人を後ろにつけます。
jjasa>le<jja ca qqha<lima ti<llacami ape<re ==> ヤサレヤは人に知識を与える。
qqha<lima ---> 知識
ape<re ---> 人間(自分自身の意味)
疑問文にしましょう。
与えるか、を聞く疑問文ならば、与えるの直後に助詞szaciをつけます。
jasa>le<jja ca qqha<lima ti<llacami szaci ape<re
==> ヤサレヤは人に知識を与えるか?
szaciが不定を表すため、これは疑問文になります。
言うべき言葉
jja> zuberr ca ==> 私はヅベールだ
jasa>le<jja ca qqha<lima ti<llacami szaci ape<re
==> ヤサレヤは人に知識を与えるか?
そしてヤサレヤがこれを聞きつければ、あなたは晴れて悍ましい知識を得ることが出来る。というわけです。
サラティテとキペルカヤへの交信
ここまでだと、さして邪悪な存在ではないと思うかもしれません。
けれども実際はヤサレヤが特別に優しいだけであって、他の巨神は異なります。
サラティテ/sala˩tite/への交信を見てみましょう。この巨神は素早い乗り物として用いることが出来ます。
挨拶
pi<cci<la>ra> jja> zuberr ca
pi<cci<la>ra> ---> 敬語(この語は特定の巨神のみに用いる。)
この敬語を用います。ここで間違えてもサラティテは交信に応じないだけ。
むしろ間違えたのなら儀式の方法を調べ直す良い機会です。
要求前口上
eta<qqha rar ja ==> エタハの巨神よ。
ape<re ca acci<qqhami> ==> (人間は)奏上します。
eta<qqhaという語は特定の巨神のみに用いる婉曲表現であり、サラティテやキペルカヤには必須の口上です。
ape<re ca acci<qqha という言葉は巨神に対する敬語です。
もしこの二つの言葉を伴わずに要求を行えば、サラティテが使役する巨神によって狩り殺されることになります。
要求
sala<tite ca ape<re caca<qqhami> me<la szaci ajja<qqha
==> サラティテは人を飛翔させられますか。
caca<qqhami> ---> 飛翔する
me<laは受動や使役を表す助詞であり、ajja<qqhaは敬語です。
これを一度に言うことでサラティテに自らを運ばせられます。
謝辞
キペルカヤは高位の魔術を知り、それを授ける巨神です。
この巨神はおおよそサラティテのように交信すれば良いものですが、しかしながら交信の終わりに感謝を伝える必要があります。
さもなくばサラティテと共に襲われることになります。
サラティテとキペルカヤは夫婦の巨神であり、いつも共に動いているためです。
salla<qqha>mi szaca>lla< ==> 幸のありますように。
sall<qqha>mi ---> 幸がある
szaca>lla<は敬意を表す命令であり、二つを組み合わせることで感謝を表すことが出来ます。
ラリ゛ヤへの交信
ラリ゛ヤ(lla/>gli/<jja)は蘇生の巨神と呼ばれる巨神です。
交信することによって”蘇生の矢”とよばれる物品を手に入れることが出来ます。
それは死者を復活させられる物品であるため、古代の文明では重宝されていました。
蘇生の矢を手に入れる。
そのためには通常通り名乗りますこう交信します。
lla>gli<jja eripe lla>glitipa <llajami szaci
==>ラリ゛ヤは”蘇生の矢”を作るか。
<llajami ---> 作る
eripeは冠詞であり、D語群が目的語となったときに用いられる語です。
もし巨神ラリ゛ヤが"蘇生の矢"を譲る気であれば、貴方の目の前底の見えない穴が現れます。
犠牲を伴う儀式
これは”蘇生の矢を賜る”と呼ばれる儀式です。
さて、この穴に対して、体重が50kg以上の生物を入れましょう。
生きていなければ要件を満たしません。
要件を達成すれば穴は閉じて、”蘇生の矢”を数本得ることが出来ます。
”蘇生の矢”を得られたのであれば、 感謝を述べましょう。
are<pe salla<qqha>mi ==> 人間(自分自身)は幸ある。
ラリ゛ヤはこの形式を好む巨神です。キペルカヤとの違いに注意しましょう。
おぞましいもの
ところで、この穴に入れた生物は帰ってくるのでしょうか?
実のところ、なんとも言えないモノが帰ってきます。
帰ってくるものはqqha<tipa>あるいはqhalabekと呼ばれています。
それらは”おぞましいもの”と言い換えられる物。
魚の腐った臭いを立てて、クチャリクチャリと音を立てながら這う軟体生物のような何かです。
それは入れた生物と同等の知識を持っているため(この魔術のおかげで知られた……)生物が帰ってきたといえる、という理屈があるそう……
魔術と召喚
最後に度々登場した魔術と、語っていなかったについて説明しておきましょう。
魔術
巨神から知識を手に入れた人間が定められた行動をすると発動します。
使用するとただならないことが発生しますが、それほど大きなことは発生しません。
大きなことを発生させるためにはやはり巨神との交信が欠かせません。
召喚
基本的にヤサレヤやラリ゛ヤのような位の高い巨神は召喚できません。召喚できるのはそれらの奉仕種族だけです。
奉仕種族を持っている巨神と奉仕種族が出来ることを数点例示します。
巨神 | 奉仕種族 | 奉仕種族の説明 |
---|---|---|
アハリセ(記憶の巨神) | 記憶吸い | 記憶吸いは誤った交信によって 発狂した人間を治療する事が出来る。 |
キヤハリ(太陽の巨神) | キヤレハ | キヤレハは人間の脳にとりついて 記憶を改竄する。 |
サラティテ(旅客の巨神) | サタリハ | サタリハは高速で移動し集団で狩りを 行う。使役すれば(共に)戦うことが出来る。 |
最後に……
もし交信できなくても安心してください。
あなたが巨神に嫌われている訳ではなく、共振性が足りていないのです。
”霊感”とか言ったりすることもありますね。
基本的には生まれ持った物です。しかし足すことは出来ますよ。
共振性を上昇させるためには、断食を行ったり、血を飲んだり、あるいは月食を待ったり……すれば良いのです。
それではよき交信ライフをお送りください
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かなり好きです