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産業革命後のカシュダグ語

(この作品は、第11回人工言語コンペのために制作されました)
(未完なので、コンペ期間終了後に完成版を投稿するかもしれないです)

お題

苛烈な気候によって、歴史的に独特の言語や文化が形成されてきた……とある地域。

過酷な気候を持つその地域は、特殊なエネルギー源によって産業革命を成し遂げ、高い生活水準を手に入れたという。

さて、産業革命によってこの地域の言語や文化はどのように変質したのでしょうか?

・過酷な地域の様相について。

(ケッペンの気候区分のA区分,B区分,E区分など)

・気候によって形成された独特の言語や文化。

・特殊なエネルギー源の詳細。

・産業革命による言語や文化への影響。

これらを説明してください。


謝辞

この研究に際し、ナユン聖職者とカシュダグ官僚の夫妻(本人ら希望により匿名)に、多大なるご協力を賜りました。心より感謝申し上げます。


はじめに

ここに、„世界で一番進んだ国“カシュダグ連邦への留学で得た学びを記す。ともに留学した連中は、恐らく、カシュダグの産業のなんと素晴らしいかについて述べることだろう。しかし、私はカシュダグに対しては些か批判的だ。

かつてカシュダグ人は天を仰ぎ、土を尊び、互いの名を正しく呼ぶことに誇りを持つ民族だった。宗教は一神教でありながら、自然との調和を説いていた。「神は唯一にして、我らに氷をも水をも与える者」――かつての聖典にあるこの言葉は、克己と慈愛の精神を支える支柱だった。酷寒の厳しい気候の下にあったが、祈りと共に営まれた生活は、つつましくも豊かなものだった。しかし、人口が増えだしたため力と土地を求め始め、ついに5年前、強大な軍事力によってナユンのほとんどの部族を征服してしまった。

ご存知の通り、カシュダグは占領したナユン地区から産出する霊晶のエネルギーを用いて産業革命を成し遂げた。近年では我が国を含む複数国の学者によって環境への問題が指摘されているが、その開発の勢いは衰えるところを知らない。
霊晶のエネルギーによって都市は生まれ変わり、生活は劇的に便利になった。定時の祈りは工場の機械音へとすり替えられ、信仰の場であった聖堂は未来と発展のための研究施設に姿を変えた。
霊晶の発見以来、神に感謝することよりも神を不要にすることがで望ましいとされるようになったのだ。
信仰は体制によって曲解され、新しいスタイルが政府によって提案された。それは瞬く間に広まり、伝統は「古臭い」として忌避される対象となった。
カシュダグが霊晶を手にして以来、変わったのは工場の数や国民の装いだけではない。最も劇的に変わったのは、人々の口から発される音――すなわち言語そのものである。彼らの言語は命令と報告の体系へと再編された。祈りの言葉は死語に近づき、子どもたちは「今の言葉しか使わないように」と教えられている。


概説

ナユン語とカシュダグ語は、元来全く異なる語族に属している。文法的にはナユンが膠着的なのに対してカシュダグは屈折的であったり、音韻的にはナユンは柔らかい音が多くカシュダグは硬い音が多いなどと形容されてきた。双方、歴史のある豊かな言語を持っていたはずなのだ。
しかし、近年のカシュダグの政策によってナユン人は同化されようとしている。ナユン語の多くの方言はカシュダグ人右派活動家によってカシュダグ語の方言であるかのように喧伝され、それを免れた方言もカシュダグ人との接触によってピジン化し始めている。
変化したのはナユン語だけでなく、カシュダグ自身の言語も、政府にとって国民を管理しやすいように再編された。具体的には後述するが、責任の所在を明らかにするような体系となった。
ナユン語の資料をどうにか集めようとしたが、むべなるかな、外国人である私が、政府が必死に消そうとしているナユン語についての資料を易々と手に入れられるはずもない。ナユン語についてはまだよく調べることができていない。研究が進めば、別の機会にまとめてみようと思う。ここではカシュダグ語がどのような言語だったのか、そしてどう変わってしまったのかについて詳しく語ろう。(産業革命を経ても音韻構造は変わらず、文法が変化したそうだ)


産業革命前のカシュダグ語

音韻

発音記号と文字が違うものは、表内の発音記号の右に()で併記する。

子音

唇音 歯音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
破裂音 p/b t/d k/g ʔ(q)
鼻音 m n ŋ(ng)
はじき音 r
摩擦音 f s ç(h)/ʝ(y) x/ɣ(gh)
接近音 β̞ (w) j
側音 l

母音

前舌 中舌 後舌
i ɯ(u)
中央 e̞(e) ə(y)
半広 ɛ(a) ʌ(o)

音節構造
観測できた音節は:
CV, CVC, CVCC, CCVC, CCVCC
の5種である。

  • 母音の連続は許容されず外来語であっても必ず母音の間にqが挿入される。
  • 同じ子音の連続(長子音)についても許容されない。
  • 語頭に硬口蓋音と/ŋ/が立つことはなく、語末の接近音は許容されない。
  • 子音/ʝ/と母音/ə/は同じ文字yを使っているが、話者は上記の規則などの感覚に基づいて発音を判断する。

文法

語順
整合的VO型

代名詞

単数 複数
一人称 noqa nom
二人称 so som
三人称 aq aqm

名詞
数:2
格:7(6)

単数 複数 単数の例(kligh「剣」) 複数の例
主格 -∅ mi- kligh mikligh
対格 -(e)k mi-(e)k klighek miklighek
与格 -(e)s mi-(e)s klighs miklighs
属格 -(e)se- -mihe- klisegh klimihegh
奪格 -(e)s(e)- -mis- klisgh klimisgh
処格 -(e)slax(e)- mi-la-(e)x klislaxegh miklilaghex
呼格 -y- my-y- klygh myklygh
  • 接中辞は最初の母音の後に置かれる。
  • 呼格は最初の母音をyに変えることで表す。一部の方言では主格に吸収されている。
  • 最初の子音が無声音の単語は、上表の活用の代わりに最初の子音を有声音にすることで複数を示すことがある。(例:gligh, glighek, glighsなど)

動詞

時制 単数 複数
1人称 2人称 3人称 1人称 2人称 3人称
直説法 現在 -an -as -∅ -am -asem -m
未完了 -avan -avas -ava -avam -avanir -avanar
過去 -id -is -i -im -inir -inar
大過去 -etid -etis -eti -etim -etinir -etinar
仮定法 現在 -qeqir- -qeqis- -qeqi- -qeqim- -qeqinir- -qeqinar-
命令法 肯定命令 -(e)s! -ir! -ar!
否定命令 nes- nir- nar-

その他の標識
動詞にも名詞にもつくことができる。人称や数によって形が変わらない。

種類 意味
na- 話題マーカー -について言えば
kak- 焦点マーカー -こそ

産業革命後のカシュダグ語

文法

代名詞

単数 複数
一人称 no nom
二人称 so som
三人称 aq aqm

名詞

数:明示的な複数形は消滅し、数量詞または文脈で補完される。

格:主格・対格のみ。他の格は助詞として再解釈された。

接尾語/助詞化例
主格 -∅
対格 -ek
与格 助詞 tu
属格 助詞 sa
奪格 助詞 fa
処格 助詞 nox
呼格 廃止
  • 複数接頭辞 mi- は廃止。
  • 所有や場所を表す格はもっぱら助詞で補う。

動詞

活用方法の変化

動詞の語幹は変化せず、接頭語または補助語で人称・時制・態度を表現するようになった。

人称標識 例(dos「持つ」)
1人称単 no- no-dos
2人称単 so- so-dos
3人称単 aq- aq-dos
1人称複 nom- nom-dos
2人称複 som- som-dos
3人称複 aqm- aqm-dos
  • 人称標識は主語に一致する接頭辞として動詞に付加される。

時制のマーカー(補助動詞)

時制 用例 意味
現在 無標識 no-dos kligh 私は持つ
過去 -et no-dos-et kligh 私は持っていた
仮定 -ra no-dos-ra kligh 私が持つなら
完了 -fin no-dos-fin 私は持ち終えた

命令・報告・否定

種別 マーカー 用例 意味
命令 -ra! dos-ra! 持て!
否定 no- no-no-dos 持たない
報告(事実) do- aq-do-dos 彼は持っている
確認 -ka? so-dos-ka? 持っているのか?

その他の標識

種類 意味
na- 話題マーカー -について言えば
kak- 焦点マーカー -こそ

証拠性の標識

種類 意味
en- 直接経験 実際に見た
tigh- 伝聞 人から聞いた
ra- 推測 証拠はないが

産業革命前後の比較

前:Noqa ghaqetid klighek aqes, doqeqirs (klighek)
後:(No) noghaset klighek tu aq, nodosra (klighek)
日本語訳:もし私が剣を持っていたら、彼にあげたのに。

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