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bOlLrcR 語概論 (第7回人工言語コンペ提出作品)

概要

bOlLrcR 語は音が伝わらない極限の環境下で緊急性の高いメッセージを伝達するのに利用されることを目的として作られた、目の動きを用いる言語である。内容の重要度などが一部を聞き逃しても伝わるような工夫が施されているのが特徴だ。
なお本稿では (私自身もそうであるし、) 手話などの研究に用いられる用語に不慣れな読者に向けて音声言語の用語を濫用する。

音韻論および調音法

子音

子音とは、瞼を使わず、また片目ずつ個別に表現することができる目の動きのことである。

左音 右音 上音 下音
左目音 l r u d
右目音 L R U D

それぞれ、指定された方の目の目線の先を (発話者からみて) その方向に動かす動きである。例えば L なら右目を左に動かす動きとなる。

母音

母音とは、瞼を使ったり両目の動きを同期させて表現する目の動きである。

回転音 回し方
O 両目を同じように回す
o 両目を位相をずらしながら同じだけ回す
瞼音 瞬き 閉じ
左目 b c
右目 B C

o, O については上述のとおり。瞬き音と閉じ音はどちらも瞼を閉じる音で、速さによって弁別される。(次節でも解説するが、目を開ける動作は音素としては存在せず、瞼音の後に自然と後続するものとして扱われる。)

これらを寧ろ母音的だとみなす理由は聴き手はこれらの音素を一つの区切りとして発話者の目の動きを観察するだろうというところにある。

実際の目の動き

bOlLrcR 語の各音素はどのタイミングで瞼や目線の先がどこにいる必要があるのかを指定しているだけで実際の目の動きを指定しているわけではない。例えば l という音素それ単体では目を真ん中の状態から左に移すだけだが、dl という音素列の中では下に向いている目を左に滑らかに移動させる。l という音素それ単体と同じ動きは明らかに含まれないが、それは問題ではない。

また、母音よって区切られている一連の子音クラスタを調音するときに右目と左目の動きは必ずしも同期している必要はない。

既に目の先が特定の方向に向いている状態でさらにその方向に動かす場合があるときは単にその目の位置を一つの動きに必要な時間程度維持し続ければよい。

o, O についてだが、(発話者から見て) 時計周りに一周分だけ回すのが一般的である。ただしその前後の音によっても影響される。例えば lUOdL という配列があったとき、右目の方を早めに回しはじめ、右目の先が左に向いたあたりで、左目も回しはじめ、右目左目ともに 1.25 周回す形になる。

c, C では目を閉じる動作を行うが、聴き手に後続する音を伝えるためには目を再度開く必要があるので、そうする。また、c や C が連続する場合は開けなくてもよい。これらについては、妙な間が生じないほど十分早く動作をすることが推奨される。

文法

bOlLrcR 語は VSO 語順であり、動詞が一番最初に来る。形容詞は名詞の前に来る場合も後にくる場合もある。具体的には、伝えたい情報にとって本質的な情報ほど先に来る。

ex.1) その容器には熱水が入っている。
lL-lU-rL-O-rLlR dB-cD olCbC rCdB ObC rR uLO
二人称-空動詞-二人称-警告-二人称 三人称-ある 熱い 水 中に その 容器

ex.2) その金属は (水につけること自体を避けるべきだが特に) 熱水につけると爆発する。
lL-lU-rL-o-rLlR dB-rDo rR bRlB OrC lL-rRuU-rLlR cR OdC rCdB olCbC
二人称-空動詞-二人称-警告-二人称 三人称-爆発する その 金属 もし 二人称-つける-二人称 それを 中に向かって 水 熱い

動詞

動詞は、緊急相、警告相、不急相の三つの相と動詞の人称によって変化する。動詞の人称を表す接辞は、まずもって、緊迫性のある状況において注意を向ける対象を限定するために最初に置かれ、そして聞き逃した場合のために中途に置かれ、そして念押しのために最後にも置かれる。つまり、人称接辞は三つに分割されて置かれる。動詞は以下の構造を取る。

人称接頭辞-語根-人称接中辞-相接辞-人称接尾辞

例えば、息ができない (rLolD) という語根を例に取ると、以下のようになる。

ex. 3) (私は) 息ができない。
bB-rLolD-dU-O-cC
一人称-息ができない-一人称-危険-一人称

以下が人称接辞の一覧である。

接頭辞 接中辞 接尾辞
一人称 bB dU cC
二人称 lL rL rLlR
三人称 dB
命令 bR uB cBcB

動詞の相は、その動詞の動作主に危険が及んでいる度合いに応じて使い分けられる。緊急相は今すぐの対処が必要な場合に、警告相は重要だが対処するべき時宜が今その時ではない場合に、不急相はそれ以外の場合に用いられる。

上の例文 3 番では息ができない本人である発話者自身に緊急の対処が必要であることを示すために危険相が用いられている。

以下が相接辞の一覧である。

相接辞
危険 O
警告 o
不急

ただし、不急相であり相接辞が入らない場合、二人称接中辞及び二人称接尾辞の連結 rLrLlR は rLlR に縮約される。

また、対処が必要な対象が必ずしも状況を表す動詞の動作主ではないこともあるだろう。そのような場合には空動詞の lU を用いて対処が必要な相手を明確化する。

ex.2 (再掲)) その金属は熱水につけると爆発する。
lL-lU-rL-o-rLlR dB-rDo rR bRlB OrC lL-rRuU-rLlR cR OdC rCdB olCbC
二人称-空動詞-二人称-警告-二人称 三人称-爆発する その 金属 もし 二人称-つける-二人称 それを 中に向かって 水 熱い

前置詞

英語の前置詞と同様に後ろに名詞を伴って、位置関係などの補足的な情報を付加する。前置詞に支配される場合でも名詞の形は変化しない。

ex.1 (再掲)) その容器には熱水が入っている。
lL-lU-rL-O-rLlR dB-cD olCbC rCdB ObC rR uLO
二人称-空動詞-二人称-警告-二人称 三人称-ある 熱い 水 中に その 容器

注意点

ここまで紹介しておきながらなんなのだが、この言語は欠陥を抱えている。

まずもって学習が非常に難しい。o などに至っては調音することそのものが困難であり、辛抱強い練習を必要とする。

そして、その練習を重ねる過程で斜視になる可能性が高い。これは一般的にもデメリットであることに違いはないのだが、bOlLrcR 語話者にとっては特に致命的だ。

bOlLrcR 語で意思疎通するには相手の目をしっかりと見る必要がある。相手と会話を試みている距離にも依存するのだろうが、一般的には高い視力を要する。

そんな bOlLrcR 語を習得するには斜視のリスクと闘いながら練習する必要がある。この点において bOlLrcR 語は自己矛盾を孕んでいる。

また、bOlLrcR 語の引き起こす健康的被害は斜視だけではない。動詞の節でも述べた通り、瞬きというのは一人称のマーカーとして働く。なので、bOlLrcR 語話者どうしが同席しているとき、瞬きをすると相手に会話を始める意図があると勘違いされる場合が多い。この事情により、bOlLrcR 語話者は自然と瞬きを控えるようになる。そしてその結果として、bOlLrcR 語話者の目は乾燥する。bOlLrcR 語話者は乾燥した目を不自然な方向に動かし、また酷使され視力が低下した目で何とか相手の目を凝視して会話を試みる。

そして何よりも、bOlLrcR 語を学ぶことで得られるリターンがこの代償に全く見合っていない。大抵の状況において、bOlLrcR 語の利便性は手話のそれよりも劣っている。こんな言語を学習するくらいなら日本手話でも学習した方が数倍マシである。

bOlLrcR 語を本気で学習しようとしている読者がいるなら (いないだろうが) 今すぐ考え直すべきだ。この言語に貴重な目の健康を損ねてまで学ぶような価値はない。学習した人間はみな口を揃えてこう言う。「あんな言語はもう二度と学習したくない」「あんな言語学ぶんじゃなかった」、と。

重ねて言うが、この言語を学習することによってもたらされる利益やこの言語を学習する合理的かつ積極的な動機というものは単純に存在しない。まかり間違ってもこの言語を学習しないよう、読者のみなさんには注意されたい。

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