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りめすとり
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自言語の新しい格体系

以前のものに不満があったので改訂しました。

事前知識

遠い昔の段階では基本的に文はその文で表したい状況に登場するものを羅列するだけであった。

nəa bətʷ ɢasʷ
私 獣 殺す

これは「私が存在する/獣が存在する/殺すということが存在する」という言明であると考えられる。しかしこれだけでは情報が足らず登場した概念同士の関係が不明瞭なので、どのような様態で存在するのかを表す副詞が補助的に用いられた。

nəa bətʷ-ən ɢasʷ
私 獣-相対する 殺す

「獣が(何かに)相対するように存在する」というふうに表現を限定することで獣が私を殺すのではなく私が獣を殺すのだというのが分かるようになっている。

*-ən, *-əd, *-ix のような主に副詞としてしか用いられない形態素も存在するが動詞を副詞として転用することも可能だった。例えば後置詞の ȳʃuf (~のあたりで)は *jə-qluf ((小さく)周る)が副詞として用いられたことに由来している。

新しい格変化表

生物 非生物
主格(1) -∅ -∅(/-i)
対格(1) -Vn -∅
奪格(2) -(V)duf -i
与格(2) -id -Vn
属格(1) -id -ak
後置詞格(3) -V -V
具格(2) -ak -ak

(それぞれの格の横に添えられた数字は語幹の形を示している。(1)が無標の形で(2)は語幹の後ろまでアクセントが移動した形(これは母音交替を伴う)、(3)は一般的に(1)と同じ形だが一部の名詞では不規則な変化をする)
(表中の -V は特徴母音と呼ばれそれぞれの名詞に定められた a, i, u いずれかの母音である)

主格, 奪格

主格は通例無標の形で現れるが「~によって」という風に強調的に表現されるとき奪格接尾辞である *-ix が用いられた。これは「~からの影響を受けて」というような意味合いで用いられている。また奪格を表す表現として「失う」の意である *-dʷəf が用いられることもあった。(「私が存在する/彼が『物を失うような様態で』存在する/宝が存在する/私の「奪うということ」が存在すたちる」というような文は「私は彼から宝を奪う」という風に解釈されうる)

生物 非生物
主格 -∅ -∅
強調主格 -ix -ix
与格 -ix/-dʷəf -ix/-dʷəf

しかし古バーシュ語からの影響で生物と非生物の区別が明確になると動詞的な要素である *-duf (< *-dʷəf) は生物に対してのみ用いられるようになり、また生物は主語として現れる頻度が高いことから生物主格は強調形も廃れた。

生物 非生物
主格 -∅ -∅(/-ix)
奪格 (-Vdz)-ix/-duf (-Vdz)-ix

また当時場所以外のものに対しては与格接尾辞や奪格接尾辞の前に処格接尾辞を挟む *-(V)dan (< *-əd-ən) *-(V)dzix (< *-əd-ix)などがよく用いられていて、またそれらの接尾辞群の第一母音はしばしば脱落したので、 *-duf も *-(V)duf (< *-əd-?uf) であると誤解され余計な母音が挿入された。

生物 非生物
主格 -∅ -∅(/-ix)
奪格 (-Vdz)-ix/-Vduf (-Vdz)-ix

しかし次第に処格を挟んだ表現も廃れ、また非生物との対比から生物に対して*(-Vdz)-ix を用いるのは誤りだと考えられるようになり現在の体系に落ち着いた。

生物 非生物
主格 -∅ -∅(/-i)
奪格 -(V)duf -i

対格, 与格

対格は本来的には動詞に抱合される形で表現されたので副詞的な要素は伴わないが強調的には与格の接尾辞である *-ən が用いられた。これは「~に対して」というような意味合いで用いられている。また与格を表す表現として「取る」の意である *-gəd が用いられることもあった。(「私が存在する/彼が『物を取るような様態で』存在する/手紙が存在する/私の「書くということ」が存在する」というような文は「私は彼に手紙を書く」という風に解釈されうる)

生物 非生物
対格 -∅ -∅
強調対格 -ən -ən
与格 -ən/-gəd (-əd)-ən/-gəd

しかし古バーシュ語からの影響で生物と非生物の区別が明確になると動詞的な要素である *-jid (< *-gəd) は生物に対してのみ用いられるようになり、また非生物は目的語として現れる頻度が高く生物はそうではないという事情から生物対格は強調形、非生物対格は非強調形が用いられることが通例となる。

生物 非生物
対格 -Vn -∅
与格 (-Vd)-Vn/-jid (-Vd)-Vn

そして非生物との対比の意図などから生物与格として *-Vn を使うのは誤りという認識が生じ、現在の体系が確立された。

生物 非生物
対格 -Vn -∅
与格 -id -Vn

属格, 後置詞格, 具格

祖語の時代には属格的な意味を持ちうる接尾辞が3種類あった。まず漠然と名詞と名詞が繋がりを持っていることを表す *-ə 、そして処格接尾辞を兼ね(譲渡可能な)所有を表す *-əd 、最後に具格接尾辞を兼ね(譲渡不可能な)所有を表す *-akʷ である。しかし非生物の譲渡可能所有の用法はまれであると考えられる。(この段階では生物と非生物の区別はない)

生物 非生物
属格
譲渡可能所有格 -əd -əd(まれ)
譲渡不可能所有格 -akʷ -akʷ

しかし話者の集団が古バーシュ語からの影響を受けると生物と非生物を区別する習慣が徐々に生じはじめ、この際に非生物の所有は *-akʷ に統合されはじめる。

生物 非生物
属格 -V -V
譲渡可能所有格 -Vd -akʷ
譲渡不可能所有格 -akʷ -akʷ

またこれにより生物に対しては *-Vd を用いるという認識が生じはじめ、生物に対しては譲渡不可能な所有の場合でも *-Vd を用いるようになり譲渡可能性による対立は失われた。

生物 非生物
属格 -V -V
所有格 -Vd -akʷ

また所有格は用法の拡大を見せ次第に本来属格で表していたような場合でも使われるようになり、属格は「~の上」などの一部の慣用的な表現でのみ使われるようになり、本来単純な名詞の処格などだったものが後置詞という新たなカテゴリーとして認識されるようになると属格も後置詞のための格という位置を確立した。

生物 非生物
後置格 -V -V
属格 -Vd -ak

しかし生物属格は生物与格の *-jid と混同され名詞の特徴母音に拘わらず -id の形で用いられるようになった。

生物 非生物
後置格 -V -V
属格 -id -ak

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