前回概略を紹介した真の世界には多数の愉快な動植物が生息しています。ここではそのごく一部について雑に述べようと思います。
ミーウィンモー(口無し人, mînn-wŷm-ō, テー語)
生息地域:マロニー大陸以外の全世界
説明:
この生物は細長い棒状のしなやかに曲がりうる胴体、2つの小さな目、呼吸をするための2つの鼻の穴、2本の脚とさまざまな工具の形をした6本の腕、そしておなかの袋を持ちます。色は全体的に茶色っぽく、直立二足歩行で歩きます。
ミーウィンモーは十分な栄養を得て成長した個体が分裂することによって生まれます。生まれるとすぐにスコップの形をした腕を用いて近くの地面に直径1モーン(現実世界では86cmくらい)、深さ3.5モーンほどの穴を掘り、そこを自分の胃として設定します。(胃が外部にあるため食物を摂取するための口はありません。)
おなかがすくと周辺を探索し、まわりの生物が必要としていなさそうなものを腕を用いて集め、おなかの袋に入れます。そして自分の胃に放り込みます。
胃の中のえさは胃液で溶かされ、ある程度溶けたところで体内にある腸に移動し、そこで栄養が吸収されます。腸で溶かされた食物の残りかすは腸の先の消臓に移動し、世界と世界のあいだの空間に送られることですべて消去されるため排泄は行いません。
集めたえさの栄養価は、胃に入れたものがどれだけまわりの生物に必要とされていなかったかで決まります。万が一みんなから必要とされているものを胃に入れてしまった場合、死に至ることもあります。そのため、人間社会で技術革新があり物質の新たな利用法が発見された場合に、適応が遅れたミーウィンモーの大量死が発生することがあります。
ミーウィンモーの生息地の周辺に穴があった場合、それは彼らの胃であることが多いです。基本的に温厚な生物で殴られても平然としていますが、自分の胃に自分以外の生物が物を入れるのは極端に嫌うため、胃の中に何か入れているのを目撃されると襲われます。
肉や皮そのものに利用価値は見出されていません。しかし、その習性から生きた個体がごみ処理に利用されています。
スドマ(語源不明, sudovma, バター語)
生息地域:バター国の一部地域
説明:
真球に限りなく近い鉱物質のからだに巨大な2つの目と小さく丸い穴のような口がついた浮遊する生物です。土や石、岩を食べます。
この生物の目を自らの両目で見た犬はその体重と同じ量の茶葉になります。犬以外の動物は影響を受けません。その茶葉はノマイと呼ばれ、食べても茶を淹れて飲んでも美味で、希少でもあることから高級な贈り物として人気です。生息地の近隣の地域では繁殖させた犬にスドマを見させることでノマイを安定的に供給しています。その製造法には現実世界におけるフォアグラと同様に批判も寄せられています。
カーベーローン(石油飲み, khe:-be-lông)
生息地域:センキー大陸全土
説明:
ゾウのような耳、まんまるで大きな目、小さな鼻の穴に細長いホースのような口をもち、体には血管が浮き出ていて、脚は4本、しっぽは短く毛がちょっと生えていて、皮膚はスベスベで黒い生き物です。
石油を飲んで暮らし、それ以外のものを飲食しません。性格は温厚で、攻撃手段も鳴き声による威嚇くらいしかもちませんが、声が怖いのに加え体格の大きさのわりにすばしっこく、肉は油臭くて一部の動物以外に食えたものではないので捕食されることは少ないです。テー自由国があるセンキー大陸の固有種で、石油が湧き出るところの周辺に7体程度の群れをつくって住んでいます。
be-lông「石油」と訳してありますが、真の世界の石油は非生物由来で無限に湧き出るものです。燃やすと致死性のガスが発生するうえ技術が未発達なのでプラスチックなどの石油製品は作られておらず、ほぼ用途がありません。しかし、石油を嗜好品として飲む民族がマロニー大陸に存在するほか、前述したミーウィンモーがえさとして好んで持っていきます。
ンドェーボッ(脆苔, ndueu-bóuk)
分布地域:マロニー大陸以外の全世界
説明:
その名の通りとてももろく、手で触ると簡単にばらばらになる苔です。淡い緑色で、偽の世界でもよく見かけるような典型的な苔の見た目をしていますが、いつも小さな声で奇妙な歌を歌っているので見分けるのは難しくありません。
手で触れた者は触れた瞬間、その苔が知覚できなくなり、そこにこの苔があったことも忘れます。これとあわせて、自分の名前と職業と家の位置も忘れます。
この性質を逆手に取り、軽い犯罪を犯した者にこれを触らせ、なんとか自力で(人に家の位置を聞くなどして)家に帰らせる刑(苔刑)があります。靴で踏んでも皮膚が触れていなければ名前と家を忘れる効果は発生しません。また、棒や道具などで触れようとすると、その棒や道具が自らの名前と役割を忘れて使用不能になるので注意が必要です。たとえば棒の場合、物をつついたりたたいたりするという役割を忘れるため物をすり抜けるようになります。
次回に続きます。ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
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