表題の件について。以前から考えていたことなので,もしかすると既にどこかで書いたかもしれません。また,わたしは別に法律に詳しくもなんともないので,詳しい人が見たら意外とあっさり解決してしまうかもしれません(というか,そうなってほしい)。
@slaimsan の記事でも言及されているように,人工言語には著作権が発生しないのではないかとの考えがあります。より正確に言うと,(人工言語で書かれた作品などにではなく)統語や語彙などの,形式と意味とを結びつける規則(以下,総称して「文法体系」と言います)にです。
しかし,ここで懸念があります。以下のようなケースを考えてみましょう(登場する固有名詞はすべて架空であり実在のいかなる人物・言語等とも関係ありません)。
- 人工言語作者の馬部 瑠々は,カクーノゲン語を制作している。
- 小説家の野辺 理栖斗は,作中にカクーノゲン語を用いた小説『指は藻の蛾たり』(以下,『ゆびもが』)を発表した。作中の一節に登場する表現「東から鳥に鳴かれる」(に相当するカクーノゲン語の表現)は,その箇所の文脈のもとでは「目覚まし時計に起こされる」の隠喩となっていた。
- 『ゆびもが』のこの一節を読んでインスピレーションを得た馬部は,この表現「東から鳥に鳴かれる」を,「目覚まし時計に起こされる」を意味するカクーノゲン語の慣用句とすることにした。同時に,カクーノゲン語の単語集にもそれを掲載して公開した。
- 野辺は,その表現は野辺が表現技巧を凝らして創造したもので著作性が認められ,かつ馬部の単語集の該当箇所は引用の要件を満たさずに野辺の著作物を不当に用いていると訴えた。
著されていない文法体系には著作権が発生しないとしても,それで書かれた作品にだけは著作権が発生することで,このような摩訶不思議なトラブルに発展する可能性があります。野辺氏がカクーノゲン語を用いた "二次的な" 創作をするときには著作権を気にしなくてよい一方で,本来は "本家" であるはずの馬部氏のほうが気を遣わなくてはならないような状況に陥るのです。(実際にはこのケースの野辺氏のような訴えを起こす人はいないと思いますが)
このようなトラブルを未然に防ぐ方法として考えられるのが,馬部氏がカクーノゲン語の単語集等を公開するサイトの規約に「当サイトの単語集等に基づいて産出されたあらゆる言語表現は,将来的に,それが定型的なものであると制定され,単語集その他の媒体にその旨を記される可能性がある;表現者はそれを認めるものとする」という旨の文言を入れておくというものです。しかし野辺氏が,そのサイトではなく馬部氏のツイート等だけを見てカクーノゲン語を学び『ゆびもが』を書いたと主張した場合には困ったことになります。
どうにかなりませんかね…
人気順のコメント(7)
これは単純にコーパスの著作権問題でしかないですね
cf. bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai...
確かにそっくりだ…
まあ私が知財権法とコーパス言語学を履修済みだったから即座に気づいたというのがある
やっぱりそういうのって独学じゃなく履修してこそ気付けることもあるものなのでしょうかね… 履修組みの参考にします、
(知財は知らないけどコーパスは結構触れている)
まあこの場合の履修ってのは学校における科目履修だけじゃなくて、教科書/学術書を用いた体系的独学も含むぞい
なるほどです
これはもうどうにもならないような気がするが、何か解決策があるかもしれない