本記事は語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2024の12/8の投稿です。
自分としては何度か書いているテーマではあるものの、複雑なので例を交えて整理しなおしました。
派生語と複合語
イジェール語において、単語を形成する方法としては、主に派生と複合があげられます。この記事中は語幹と語尾・助詞の間にハイフンを入れますが、これはこのテキスト中のみの処置であり、通常イジェール語でハイフンは挿入されません。
語幹と動詞
イジェール語において、基本となる品詞は動詞です。動詞は語幹に動詞語尾として-eを後置したものとなります。
edok-e:歩かせる
tirag-e:脅威を防ぐ
単純な派生
派生名詞
動詞を基に、その動詞に対してのどの格に相当するかを基に規則的に派生語が形成されます。なお、この派生方法はロジバンを参考にしています。
edok-e:主格が対格を歩かせる
edok-om:歩かせる主体となる存在
edok-esk:歩かせられる存在
edok-a:自らを歩かせる存在
edok-∅:歩行
上記の例では、edokeskとedokaの区別はほぼありません。使役性が強い動詞の場合はこの差異が際立ちます。
akser-e:主格が対格を戦わせる
akser-om:戦わせる人、指揮官
akser-esk:戦う人、兵士
akser-a:自らを戦わせる人、戦士
akser-∅:戦い
派生記述詞
イジェール語では、副詞と形容詞に形態的な差がありません。日本語における副詞と形容詞を兼ねる品詞を記述詞と呼称します。記述詞も動詞を基に派生語として形成されます。
edok-e:主格が対格を歩かせる
edok-in:歩いている
edok-omin:歩かせるようなakser-e:主格が対格を戦わせる
akser-in:戦う、戦っている
akser-omin:戦わせる
上記の動詞を基にした記述詞派生とは別に、名詞を基に記述詞を形成することもできます。名詞を基にした派生記述詞は、単に漠然とした関連性を示唆するものとなり、文脈依存性が高いものとなります。
tibega:たばこ
tibega-n:たばこの、たばこに関する、たばこっぽいmisava:宇宙
misava-n:宇宙の、宇宙で、宇宙に関する
格と修飾
上記の例では、misava-nには「宇宙で」という意味を書いています。イジェール語では処格として助詞のraがあるのに、なぜmisava-raではないのか、という疑問が生じます。この説明にはイジェール語の格と修飾について触れる必要があります。
イジェール語において、(属格以外の)格とは名詞の動詞に対する位置づけを規定するものです。従って、英語における"the light from the window"の様に、名詞間の関係を示すために用いることはできません。日本語では「窓からの光」も「窓の光」も許容されますが、イジェール語では後者に相当する"aker s'ensand-in"のみが許容され、出格を用いた"*aker s'ensand-ur"は許容されません。
動名詞句
上記を踏まえて、動詞を名詞に派生させた場合の文全体の挙動を見てみましょう。
Re-f reke-u ko-e.:私はりんごを食べる。
Re-s ko:私が食べること
Renke-s ko:りんごを食べること
Re-f renke-u ardi-ra ko-e.:私はりんごを昨日食べた。
Re-s ko ardi-n:私が昨日食べたこと
Re-s ko ardi-n ef gev-in:私が昨日食べたことは秘密だ。
文の動詞が名詞化した場合、もともとの動詞に対しての主格・対格は属格で示し、それ以外の格は記述詞で示します。このことから、記述詞派生語尾-inには場所や経由地など、漠然とした動詞との関連性を示す意味が生じます。
※本当は順序が逆で、記述詞が漠然とした関連を示す品詞であるからこそ、文を動名詞句化した際に主要格以外が全て記述詞になっている、と言った方が正確かもしれません。
記述詞派生の複数の意味
ここまでの説明を通して、記述詞派生は複数の意味を持ち得ることがわかりました。
- 動詞を基に、その対格に置かれるような性質を持つこと
- 名詞を基に、その名詞と漠然とした関連性を持つこと
- 動名詞を基に、その動名詞が動詞であった場合の主格・対格以外の関係を持つこと
目の前に提示された記述詞がどの派生によって形成された記述詞かを区別する方法はありません。従って、記述詞は幅広い意味を持ち得ます。
これを踏まえて、複合語の形成方法を見ていきましょう。
複合語
動詞を基にした複合語
イジェール語において、複合語とは2つ以上の語幹を有する単一の単語のことを指します。派生と同様に、複合語も基本的に動詞を基に形成されます。対格-動詞の順で語幹を接続することで、複合動詞を形成できます。
namec-u cartig-e:荷物を運搬する
namec-d'artig-e:荷物運搬する
記述詞を基にした複合語
名詞と記述詞の組み合わせ複合語を形成することができます。
var uie-n:速い車
uie-var:速い車renke dir-in:赤いりんご
dir-renke:赤りんご
複合語の派生
生成される複合動詞は、更に派生することができます。
Kravia-u sor-e.:ピアノを弾く。
kravia-zor-e(=kravia+sor-e):ピアノ演奏する
kravia-zor-om:ピアノ演奏者
kravia-zor-in:ピアノを演奏するような、ピアノ演奏関連の
従って、前述の記述詞を基にした派生と組み合わせることで、さらに複雑な複合語を形成できます。
srebave kraviazorin:ピアノ演奏用のホール
kraviazor-zrebave:ピアノ演奏用ホール
別の例も見てみましょう。文→名詞+動名詞句の記述詞形→複合名詞という語形成が行われています。
Var-ef namec-u cartig-e.:車が荷物を運搬する
var namec-is cartig-in:荷物を運搬する車
namec-d'artig-var:荷物運搬車
これは、先に動詞を基に名詞が形成されたと考えても成立します。文→名詞+動詞を基にした派生名詞の記述詞派生→複合名詞の語形成です。
Var-ef namec-u cartig-e.:車が荷物を運搬する
Var namec-d'artig-in:荷物運搬の車
namec-d'artig-var:荷物運搬車
長大語の形成
さて、今までの話を総合すると、結局イジェール語においては文の殆どの要素を単一の単語に複合させることが可能であることがわかります。ハイフンなしで実際のイジェール語として見てみましょう。
Orkaf kraviau srebavera ardira sore.:男がピアノをホールで昨日演奏した。
ardizrebavegraviazororka:昨日ホールピアノ演奏男
もちろん、これは不自然な単語ですので実際には用いられることは無いでしょう。しかし、冗談として即席でこのような語形成が行われる可能性はあります。現実的には、長くても4要素程度のかたまりになるように形成されることが多いです。
複合語化しない場合
イジェール語の複合語化は語幹のみが残り語尾が削除されるため、語尾が重要な意味を持つ場合は複合語の形成が避けられます。
sone skarog-in:侵略された国
sone skarog-omin:侵略している国
skarog-zone:侵略国または被侵略国
この場合は能受の情報の重要性が高いため、このような語形成は避けらがちです。
※避けられがちなだけで非文にはならないため、区別をあえて曖昧にしたい場合や、話者の思慮が足りない場合にこのような語形成がなされる可能性はあります。日本語においても、家族間の問題って、2家族の間における問題のこと?家族構成員間の問題のこと?のように、曖昧であっても常用される表現はあります。
あとがき
イジェール語の派生・複合のシステムはロジバンを参考にシステマチックに組み立てました。本来の目的は一意性の向上にありましたが、結果として記述詞の意味が非常に広まり、あらゆる要素が能受関係ではなく動詞との緩い関連性を基に組み立てられるようになったことは、作者としても非常に興味深いです。
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