この記事は人工言語コンペ2025年夏 (第12回) 提出作品です。
お題
ラテン語の娘言語大展覧会でいきましょう
(主催者による注意書き:ラテン語から変化した言語を作ってみよう、ということですね)
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超活用ラテン語
知恵と言葉の教団によって捏造されたラテン語
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- 出典がまったく示されていないか不十分です。内容に関する文献や情報源が必要です。(再起歴24年10月)
- 独自研究が含まれているおそれがあります。(再起歴24年10月)
超活用ラテン語 (ちょうかつようラテンご、超活用ラテン語:Latina vera、無活用英語:Super-inflect Latin) とは、新興宗教団体「知恵と言葉の教団」により捏造されたラテン語である。本来のラテン語よりも複雑な屈折の体系を持ち、教団において崇拝の対象となっていた。
歴史
西暦末期、異常気象や地域紛争が全世界的に多発し、世界情勢は著しく不安定な状態に陥っていた。一般に大衰退時代と呼ばれるこの時期、移民の増加や難民の流入による人種の混交を背景に無活用英語が顕著な発達を見せた。無活用英語は、英語に残されていた屈折体系を完全に廃し、中国語やヒンディー語、その他東南アジアの言語から大量の借用語を取り入れたことにより、従来の英語に代わって各地の人々に受け入れられ、再起歴の初頭には事実上の世界共通語の地位を獲得していた。一方で、その極めて単純化された文法体系には忌避感を覚える者も多く、中にはジョージ・オーウェルの小説「1984年」に登場するニュースピークを思わせるとして批判した評論家もいたほどだった。
再起歴13年頃、欧州共和国連邦出身の活動家であったカルロ・ヴェリタは、「無活用英語の単純な文法体系の蔓延が人類の知性の低下と文明の急速な衰退を招いた」との主張を展開し、無活用英語以前の複雑な言語の崇拝と復活を掲げる「知恵と言葉の教団」を設立した。彼の単純明快な思想は多くの人々に受け入れられ、1年後の再起歴14年には教団メンバーは2万人を超えていたとみられている。後に元教団関係者は「無活用英語の拡大と文明衰退に明確な因果関係がないことは明らかであったが、我々は分かりやすい救済を求めすぎていた」と回顧している。
「知恵と言葉の教団」は、複雑な古典言語の中でも特にラテン語に対する礼賛を強めていった。その要因には、ヴェリタの母語であるイタリア語がラテン語の娘言語であったこと、無活用英語の中にラテン語の語彙が多分に含まれていることにより人々が容易に親しみを持てたことが大きな影響を及ぼしたと言われている。統一歴15年になると教団は全世界で100万以上の信徒を集めるようになり、ヴェリタは信徒たちに命じて地中海の無人島を不法占拠し「教団自治領」とした。この「自治領」内ではラテン語が公用語とされ、信徒たちは礼拝に留まらず日常生活にもラテン語を使用した。これは彼らの結束とラテン語への情熱を高めるのに大いに貢献した。
しかし、教団の活動は無活用英語を推進する諸国からは異端と見なされ、再起歴10年代後半には教団に対する弾圧が始まった。無活用英語を公用語とした初の国家であるインドシナ連邦では教団活動が禁止され、それに追従するかのように各国でも信徒への迫害が始まった。この出来事に多くの信徒が教団を去ったが、残されたメンバーはより結束を強め、自治領はさらに閉鎖性を増した。教団の活動が制限を受け、信徒が大幅に減少する中でヴェリタは焦燥を募らせ心身共に疲弊していった。彼がラテン語の捏造を始めたのはこの頃だったとされている。
元教団幹部によると、再起歴18年、ヴェリタは自治領内の遺跡で「未発見のラテン語」の記された遺物を発掘したと教団内に発表した。そこに記されていたラテン語は「古典ラテン語よりさらに古い時代」のもので、「古典ギリシャ語や先印欧語の影響を受けていない純粋なラテン語」であるとされた。言うまでもなくこれはヴェリタによる捏造であったが、自治領の閉鎖的な環境ゆえ、この「発見」は信徒たちに無批判に受け入れられ、大きな熱狂を巻き起こした。その後ヴェリタは次々に遺物を発見して見せ、そのたびに遺物に記された「より複雑で難解なラテン語」に基づいて文法書や辞書に修正を加えていった。このムーブメントには他の教団幹部や一般信徒も徐々に加わり、島内各地で様々な信徒たちが新たなラテン語の碑文を発見したと報告した。このように集団的に行われた捏造により、本来とは著しくかけ離れたものへと変貌したラテン語が超活用ラテン語である。彼らは超活用ラテン語を熱心に学び、本来のラテン語に代わって日常言語や礼拝に使用した。信徒同士の子どもの中には、超活用ラテン語の母語話者もいたと報告されている。
これらの実態は、再起歴22年に欧州共和国連邦によって行われた教団掃討作戦により、教団自治領が制圧されたことで明らかになった。彼らの捏造したラテン語は、無活用英語に倣って超活用ラテン語と呼ばれるようになった。ヴェリタは投獄されて1年後に獄中で衰弱死を遂げたが、超活用ラテン語こそが真のラテン語であるとの主張を最後まで曲げなかったとされている。
超活用ラテン語の捏造に関わっていた元教団関係者は当時の状況を次のように振り返っている。
18年の夏に先生 (ヴェリタ) がラテン語の碑文を発見したと発表した時から、それが虚偽であることは皆分かっていました。でも、私も他の皆も、その「発見」を否定できなかった。だって先生があんなに笑顔で、熱意に溢れているのを私たちは何か月も見ていなかったのですから。私は気づいたときには先生の真似をして、宿舎近くの浜辺にある洞窟で手ごろな石を拾い、夜な夜なでたらめなラテン語の文を刻み付けていました。しかし、どんなにお粗末な偽物の碑文でも、皆は目を輝かせて賞賛してくれた。私たちは正しさよりも、皆で同じ熱狂を共有し合う心地よさの方を優先してしまっていました。でもそれは皮肉なことに、私たちが崇拝するラテン語の姿を歪ませることに他ならなかったのです。
発音
→詳細は「超活用ラテン語の文法」を参照
超活用ラテン語の母音は基本短母音、基本長母音、対応短母音、対応長母音の4つのクラスを持つ。これらの対応関係は、語幹母音の交替による文法範疇の表示に関係する。
| 基本短母音 | 基本長母音 | 対応短母音 | 対応長母音 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| a | [a] | ā | [aː] | ä | [æ] | ǟ | [æː] |
| i | [i] | ī | [iː] | ü | [y] | ǖ | [yː] |
| o | [o] | ō | [oː] | ö | [ø] | ȫ | [øː] |
| e | [e] | ē | [eː] | ë | [ɤ] | ë̄ | [ɤː] |
| u | [u] | ū | [uː] | ï | [ա] | ï̄ | [աː] |
超活用ラテン語の子音は以下の通りである。
| p | [p] | b | [b] | ph | [pʰ] |
| t | [t] | d | [d] | th | [tʰ] |
| c | [k] | g | [g] | ch | [kʰ] |
| q | [kʷ] | qh | [kʰʷ] | ||
| z | [t͡s] | zz | [d͡z] | zh | [t͡sʰ] |
| ž | [t͡ʃ] | žž | [d͡ʒ] | žh | [t͡ʃʰ] |
| f | [f] | w | [v] | ||
| s | [s] | sz | [z] | ||
| š | [ʃ] | šž | [ʒ] | ||
| h | [h] | ||||
| x | [ks] | ||||
| m | [m] | ||||
| n | [n] | ||||
| r | [r] | rh | [ʀ] | ||
| l | [l] | lh | [ɬ] | ||
| v | [w] | ||||
| j | [j] |
文法
→詳細は「超活用ラテン語の文法」を参照
超活用ラテン語は極めて高度な屈折性を持つ。これは教団内の多数の信徒によって屈折形が追加されたことが原因である。いくつかの屈折形は、フィンランド語やバスク語など、ラテン語とは系統的に無関係な言語を元にしていると推測されるものもある。それぞれの品詞は、以下の文法範疇を屈折により表示する。
名詞・形容詞に表示される文法範疇
- 性 (男性・女性・中性・両性)
- 数 (単数・双数・複数)
- 定性 (不定、定)
- 格 (主格・呼格・対格・与格・奪格・地格・様格・時格・入格・出格・具格・共格・欠格・因格・向格・経格)
動詞に表示される文法範疇
- 形 (定形・不定形・分詞形)
- 態 (能動態・受動態・中動態・相互態)
- アスペクト (未然・未完了・完了・習慣・反復・断続)
- テンス (現在・過去・未来・通時)
- 法 (直説法・接続法・命令法・希求法・可能法)
- 主格の人称と数 (一人称単数、二人称単数、三人称単数、一人称双数、二人称双数、三人称双数、一人称複数、二人称複数、三人称複数)
- 対格の人称と数 (一人称単数、二人称単数、三人称単数、一人称双数、二人称双数、三人称双数、一人称複数、二人称複数、三人称複数)
- 与格の人称と数 (一人称単数、二人称単数、三人称単数、一人称双数、二人称双数、三人称双数、一人称複数、二人称複数、三人称複数)
名詞の屈折
超活用ラテン語は本来のラテン語と同様に語幹と語尾から成るが、決定的に異なるのは、語幹母音の交替により文法範疇を表す点である。例えば、本来のラテン語は語尾屈折により名詞の複数形を表すが、超活用ラテン語は語幹母音を長母音化させることにより複数を表す (一方で、超活用ラテン語では母音の長短によるレキシコンの区別は語幹子音の相違に置き換えられている)。また、本来のラテン語とは違って接頭辞や接中辞を多用する点も超活用ラテン語の特徴である。
名詞は、語幹母音の交替により定性と数を表す。
| 基本短母音 | 不定・単数 | malum | 「ある1つのリンゴ」 |
| 基本長母音 | 不定・複数 | mālum | 「ある複数のリンゴ」 |
| 対応短母音 | 定・単数 | mälum | 「その1つのリンゴ」 |
| 対応長母音 | 定・複数 | mǟlum | 「その複数のリンゴ」 |
さらに、不定単数の語幹母音の直後に接中辞 -s- (直後が有声阻害音の場合は -z-) を付加することにより双数を表す。
pelha → peslha
ある1人の少女 → ある2人の少女
語尾は、性と格を表す。性には男性名詞、女性名詞、中性名詞、両性名詞があり、それぞれ主格の語尾が概ね -us、-a、-um、-is で終わる。以下は、中性名詞 malum の格変化である。
| 主格 | mal-um | 「リンゴが」 | 地格 | mal-i | 「リンゴにおいて」 |
| 呼格 | mal-ē | 「リンゴよ!」 | 時格 | mal-tō | 「リンゴである時に」 |
| 属格 | mal-ī | 「リンゴの」 | 様格 | mal-tus | 「リンゴとして」 |
| 対格 | mal-im | 「リンゴを」 | 具格 | mal-am | 「リンゴを用いて」 |
| 与格 | mal-ō | 「リンゴに」 | 共格 | mal-ä | 「リンゴと共に」 |
| 奪格 | mal-ö | 「リンゴから」 | 欠格 | mal-üs | 「リンゴなしで」 |
| 入格 | mal-ë̄ | 「リンゴの中へ」 | 向格 | mal-tē | 「リンゴのために」 |
| 出格 | mal-ex | 「リンゴの中から」 | 経格 | mal-ǖ | 「リンゴを経て」 |
動詞の屈折
→詳細は「超活用ラテン語の動詞」を参照
動詞は、語幹母音の交替と接中辞の挿入により定形・不定詞・分詞と態を区別する。例として、動詞 āme「愛する」の語幹の変化を以下に示す。
| 能動態 | 受動態 | 中動態 | 再帰態 | |
|---|---|---|---|---|
| 不定詞 | āme | āsme | ǟme | ālme |
| 定形 | ama- | asma- | ǟhma- | alma- |
| 分詞形 | äma- | äsma- | ǟgma- | älma- |
超活用ラテン語の動詞における最も大きな特徴は、主格・対格・与格の人称と数を表示する点である。主格と対格については語尾屈折で、与格については接中辞で表される。これにより、主格・対格・与格の代名詞は多くの場合省略される。
Amot.
私はあなたを愛するDetonē.
私はそれをあなたにあげる
参考文献
- 御菩潟破婁虚『ネオアポカリプス 超活用ラテン語』(爆睡社)
- ピルト・ダウン『知恵と言葉の教団 彼らの罪とその末路』(不二村真一訳、民明書房)
- ぺッテンソン笠根『ヴェリタの話を信じるな』(国際信州学院大学出版)
関連項目
- 知恵と言葉の教団
- カルロ・ヴェリタ
- 反無活用英語運動
- 宗教団体によって制作された言語の一覧
Oldest comments (4)
おおwikiwiki
一瞬Wikipediaかと思ったじゃないですか。
かなりこれ好きです。
ヴェリタの話を信じるな大好き…しかもペッテンソン笠根じゃん……
追記:ネオアポカリプスの新刊あって嬉しいです
最高です
言語もそうですが魅せ方が美しすぎます