最近忙しくて極めて低浮上になっている Xirdim です。ちょっと見つけたものがあるのでごく短い記事を投稿します。
オエル語では,いわゆるアポストロフィ «'» を,声門閉鎖音 /ʔ/ を表す文字(文字名: 'aпostroф /ʔɶt̼ɤɬʈrɤθ̼/)として用います。
この文字名 'aпostroф はお察しのとおり (?), apostrophe を借用したもの(正確にはロシア語の апостроф だった気がする)なのですが,本来借用元にはないはずの声門閉鎖音が語頭についています。これは,他の文字名からの類推で〈文字名の語頭にはそれ自身の音価がつくはずである〉という意識が生まれた結果,(«'» の音価である声門閉鎖音の "聞こえづらさ"(?) も相まって)語頭に声門閉鎖音がまるで「元々あった」かのように半ば無意識的についたものだとされています1。
これに関連して,ついこの間興味深いことを知りました。
ラテン文字 «H» の英語名は /ˈeɪt͡ʃ/(エイチ)のはずですが,/ˈheɪt͡ʃ/ と発音する話者が若年層を中心に増えてきているというのです2。
The pronunciation /heɪtʃ/ may be a hypercorrection formed by analogy with the names of the other letters of the alphabet, most of which include the sound they represent.
(他のほとんどのラテン文字は名前にその文字自身が表す音が含まれるのだが,/heɪtʃ/ という発音は,そういった文字名からの類推が成因となって起こった過剰修正であるという可能性がある。)3
とありました。
オエル語のアポストロフィの名前も,これと似たような現象なのかもしれません。まあこの世界の現象じゃないんですけどね…
他にも文字名に関する興味深いお話があったら,(人工言語でも自然言語でも)ぜひ教えてください!
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「されている」というか数年前に私が「した」んですが… ↩
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堀田隆一(2010-08-28).「#488. 発音の揺れを示す語の一覧」.『hellog~英語史ブログ』.https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2010-08-28.html, 最終閲覧 2024-06-27. ↩
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和訳は Xirdim による。意訳注意 ↩
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