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言語の対、光語を考える その3ー2「宇宙生物の呼吸(肺の否定、アグ編)」

序論

 前回、高CO₂環境で魚類相当がどう呼吸したかを考察した。海水のCO₂分圧は140~170 mmHg(約18.7~22.7 kPa)、血液の50~100 mmHg(約6.7~13.3 kPa)を遥かに上回る。逆勾配のため、CO₂は勝手に排出されないどころか、海水から血液へ逆流しようとする

 したがって、鰓で二酸化炭素を吸収しないようイオン化して固定し、それを排出する機構を取り付けた。そのため、エネルギーコストは基礎代謝の9~14%と地球の魚類の約2倍だが、これで高CO₂の海を泳ぎ回ることができた。

 しかし、鰓だけでは陸上に進出できない。地球では、魚類の一部が「浮き袋」を肺に転用し、空気呼吸を始めた。これが両生類、爬虫類、哺乳類へと続く。袋状の肺で空気を吸い、吐き、咽頭で音声を作る。それが地球の陸上動物の基本設計だ。

 それでは、ルブラリスではどうなのだろうか? CO₂ 4~5%という大気成分比率は肺が耐えうる濃度なのだろうか? 浮き袋の進化から、地上呼吸の行く末を考えていこう。

1.浮袋の進化

 前回述べたように、ルブラリスの魚類相当は「止まれない」という決定的な制約を抱えていた。

【停止時の問題】
鰓周辺の海水が停滞

局所的にpCO₂(CO₂分圧)上昇(0.20→0.24 atm、約20→24 kPa)
ppO₂(O₂分圧)低下(0.23→0.05 atm、約23→5 kPa)

血液pCO₂との逆勾配が悪化

CO₂排出不可能、O₂不足

窒息死

 地球の底生魚(ヒラメなど)は、海底でじっとしながら、口と鰓蓋を動かして鰓に海水を送る。しかしルブラリスでは、頬ポンプのエネルギーコストが基礎代謝の3~5%にもなる。すでに高コストな鰓系(9~14%)に、さらに上乗せされる。合計で12~19%だ。

 よって、より効率的なのは「ラム換水」だ。泳ぐことで受動的に鰓へ海水を送る。遊泳コストは低速巡航時で1〜2%に収まる。しかし代償として、止まれなくなる。

 止まれないなら、せめて遊泳コストを下げたい。常に泳ぎ続けるには、浮力調整が決定的に重要になる。沈まないために鰭を動かし続けると、遊泳コストがさらに3〜5%増えるからだ。

 その解決が浮袋だ。浮袋は、食道の背側が膨らんでできた袋だ。発生学的には、食道の壁が外側へ膨出し、やがて独立した器官になる。

 浮袋の中身は、血液から能動的に分泌されたガスだ。ガス腺という特殊な細胞が、血液中のO₂とN₂を濃縮して浮袋へ送り込む。逆に、ガスを血液へ戻す再吸収域もある。この二つで浮袋の容積を調節し、浮力を制御する。

【浮力の効果】
浮袋なし
体重50kgの魚
海水より密度が高い → 沈む
鰭を動かし続けないと浮いていられない
遊泳コスト:4〜7%

浮袋あり
浮袋容積:3L(体重の6%)
浮力:+3kg
→ ほぼ中性浮力で鰭をほとんど使わずに浮ける
遊泳コスト:1〜2%

節約:3〜5%

 3〜5%のエネルギー節約より、浮袋を持つ個体は、同じ食物量でより速く成長し、より多く繁殖できる。自然選択の圧力は強烈で、わずか数百万年で浮袋は標準装備になった。

 しかし、進化はここで終わらなかった。ある突然変異にて、鰓組織の一部が、発生過程で浮袋に巻き込まれたのだ。

 浮き袋腔に導入されるガスはO₂とN₂が主体で、腔内のCO₂分圧は初期状態で10~20 mmHg(1.3~2.7 kPa)程度しかない。これは血液CO₂分圧(50~100 mmHg、6.7~13.3 kPa)よりも遥かに低い

 つまり、鰓とは逆の状況だ。

鰓での働き(CO₂を捕獲):
血液CO₂(50〜100 mmHg)
海水CO₂(140〜170 mmHg)より低い

侵入を防ぐため、CAで即座に固定
CO₂ + H₂O → HCO₃⁻ + H⁺

Cl⁻と交換して塩分として排出

浮袋での働き(CO₂を放出):
血液HCO₃⁻(30〜50 mmHg)
浮袋腔pCO₂(10〜20 mmHg)より高い

濃度勾配があるため、CAで逆反応
HCO₃⁻ + H⁺ → CO₂ + H₂O

CO₂ガスとして浮袋へ放出

 この有利な勾配を活かすため、袋肺ではCA(炭酸脱水酵素)が血液側で高発現し、HCO₃⁻を素早くCO₂に変換する。重要なのは、逆反応にはH⁺(プロトン)が必要だということだ。H⁺をどこから持ってくるのか? エネルギーを使ってプロトンポンプから供給するしかない。

 しかしルブラリスの浮袋は、偶然の幸運に恵まれていた。浮袋は消化管(食道)由来なのだ。消化管の遺伝子発現プログラムを引き継いでいる。特に、胃で発達したH⁺-K⁺-ATPase(強酸分泌システム/胃酸を作る仕組み)が、浮袋内壁でも発現していた。結果として、浮袋はpH 2〜3の強酸性粘液を分泌していた。この酸性環境が、H⁺の供給源になる。

 こうして、浮袋はCO₂の一時貯蔵庫として機能し始めた。鰓で処理しきれなかったCO₂を、30〜40%引き受けるようになれる。しかし、そうなると、二酸化炭素がたまり続けてしまう。バッファとしての意味を持つために、定期的にCO₂を排出する必要がある。最も単純な方法はげっぷだ。

【げっぷ行動】

  1. 浮袋のpCO₂が80〜100 mmHgに達する(1〜2時間後)
  2. 浮袋と食道をつなぐ気道弁が開く (本来はガス腺からのガス導入路)
  3. 腹筋を収縮させ、浮袋を圧迫
  4. CO₂リッチなガス(CO₂ 30〜40%)が食道へ逆流
  5. 口から排出(げっぷ)
  6. 新鮮なO₂/N₂をガス腺から補充
  7. 浮袋pCO₂が10〜20 mmHgにリセット

 しかし、げっぷには問題がある。

** 【口げっぷの問題点】**

  1. 摂食との競合: げっぷ時は口を大きく開く → 捕食中・摂食中にげっぷできない
  2. 遊泳効率の低下: 口を開く → 抵抗増 → 数秒間の減速でエネルギーロス
  3. 捕食リスク: げっぷ時は無防備 → 捕食者に狙われやすい

 したがって、クジラの噴気孔のように食道背側の第二突出部が形成される。そこに浮袋背側が膨張し、皮膚を貫通、括約筋を得て開口部を得た。背側噴気孔からのCO₂排出は、遊泳効率を損なわない。開口部は
背中にあるので、流線型を保ちやすく、開閉時の抵抗も最小限だ。また、気相は袋肺内に限定され、循環系には入らない弁・括約筋体系が発達し、気泡塞栓(血管に気泡が入る危険)の危険は避けられる。

 噴出孔の進化と並行して、浮袋内部にも変化が起きた。浮袋が二つの機能、浮力調整CO₂処理を同時に担うようになると、それぞれに最適化した領域が括約筋に隔てられる二つの袋に分化した。

 決定的だったのは、酸性粘膜の局在化だ。

 当初、浮袋内壁全体が消化管由来の遺伝子発現プログラムを共有していた。しかし、浮袋は食道から「背側」へ突出した器官だ。発生学的に、前後軸の位置情報を保持している。

消化管の前後軸パターン
前方(口・食道):中性〜弱アルカリ(pH 7〜8)
中央(胃):強酸性(pH 2〜3)
後方(腸):中性〜弱アルカリ(pH 7〜8)
  ⇊
頭近部(前部70%):食道型遺伝子発現

  • pH 7.0〜7.5(中性〜弱酸性)
  • 薄い粘膜(10〜30µm)
  • 浮力調整・ガス分泌に特化
  • O₂/N₂の分泌・再吸収
  • 軽度のO₂補助吸収

背近部(後部30%)胃型遺伝子発現

  • pH 2〜3(強酸性)
  • 厚い耐酸性粘膜(0.5〜1mm)
  • CO₂処理に特化
  • H⁺-K⁺-ATPase高密度
  • 酸性液の溜まり(3〜10mm深)
  • CAを含む鰓組織が集中

 しかし、どうして袋を分ける必要があるのだろうか?理由は、二つの機能のサイクルが全く違うからだ。

浮力調整のサイクル:深度が変わるたび、食事の後、成長に応じて、常に微調整が必要。ガス腺がO₂/N₂を精密に出し入れする。調整は数分おき、ほぼ連続的だ。

CO₂処理のサイクル:血液からCO₂が溜まるのを待ち、1~2時間に一度まとめて排出する。断続的だ。

 同じ一つの袋で両方をやろうとすると、深刻な問題が起きる。

問題1:浮力計算が狂う
CO₂が蓄積すると、ガスの密度が変わる。O₂とN₂だけなら密度は一定だが、CO₂が30~40%まで増えると、ガス全体が重くなる。浮力が予測できなくなり、深度制御が困難になる。

問題2:CO₂が無駄に排出される
 浮力調整のたびにガスを出し入れすると、せっかく溜めたCO₂も一緒に排出されてしまう。CO₂処理が非効率になる。

問題3:ガス腺の負担
 ガス腺は本来O₂/N₂だけを扱う器官だが、CO₂まで処理しようとすると、エネルギーを無駄に使う。

 これらの干渉を避けるため、袋肺は物理的に二つに分離した。頭近部と背近部の間に袋間括約筋が発達し、二つの袋を独立制御できるようになった。

 さらに重要なのは、CO₂分圧を調整してバッファ機能を維持する仕組みだ。

 背近部では、血液側の上皮細胞にCAが高発現している。血液中のHCO₃⁻が細胞内でCO₂に変換され、腔側へ放出される。さらに、酸性粘液(pH 2~3)がH⁺を供給し、この変換を加速する。

 結果として、背近部のCO₂分圧が急速に上がる。しかし、これには限界がある。背近部のCO₂分圧が血液CO₂分圧(50~100 mmHg、6.7~13.3 kPa)に近づくと、濃度勾配が失われ、血液からのCO₂放出が止まってしまう。バッファ機能が停止する。

 そこで袋間括約筋が開く。背近部の高CO₂ガスが、頭近部のO₂/N₂リッチなガスと混ざる。すると背近部のCO₂分圧が下がる。再び血液との濃度勾配が回復し、CO₂の受け入れが再開される。

 つまり、頭近部はCO₂の希釈剤としても機能する。背近部で濃くなりすぎたCO₂を、頭近部の清浄なガスで薄めることで、バッファ容量を回復させるのだ。

サイクル:

  1. 背近部で血液からCO₂を積極的に受け入れる(CAとH⁺により)
  2. 背近部のCO₂分圧が40~60 mmHg(約5.3~8.0 kPa)まで上昇
  3. 血液との勾配が小さくなり、受け入れが鈍化
  4. 袋間括約筋が開く
  5. 頭近部(O₂/N₂リッチ、CO₂ほぼゼロ)のガスが背近部へ流入
  6. 背近部のCO₂分圧が20~30 mmHg(約2.7~4.0 kPa)へ低下
  7. 再び血液からCO₂を受け入れられる
  8. 袋間括約筋が閉じる
  9. 繰り返し

 このサイクルを1~2時間繰り返すと、背近部全体のCO₂濃度が30~40%まで上がる。その時点で噴出孔を開き、CO₂リッチなガスを一気に排出する。

 空になった浮袋で、頭近部のガス腺が新鮮なO₂/N₂を補充し、再びサイクルが始まる。この二段階制御により、浮力調整を維持しながら、CO₂を効率的に処理できる。

 こうして、浮袋は単なる浮力調整器官から、CO₂処理を担う複合器官へと進化した。この浮袋はさらに簡単に酸素を吸収できるように進化する。

 恐らく偶然の発見だっただろう。浅海に住む個体のうち、海面で噴出孔を開いた後、括約筋が閉まる前に腹膜が下がり、空気を吸引してしまった。

 するとどうなるか?

 ここで重要なのがヘンリーの法則だ。これは「気体が液体に溶ける量は、その気体の分圧に比例する」という単純な原理である。分圧が高ければ高いほど、液体(この場合は血液)へたくさん溶け込む。

 空気のO₂分圧は410 hPa(約308 mmHg)——海水のO₂分圧95 hPa(約71 mmHg)の4倍以上だ。つまり、同じ時間でも、空気からの方が海水からよりも遥かに速く、大量のO₂を吸収できる。

 前方部の薄い粘膜(10~30µm)を通じて、O₂は急速に血液へ流入する。しかも、気相は拡散が速い(拡散係数が大きく、境界層抵抗も小さい)ため、海水中よりも効率が良い。

 しかし問題がある。空気のCO₂分圧も228 hPa(約171 mmHg)と血液CO₂分圧(50~100 mmHg、6.7~13.3 kPa)より高いのだ。ヘンリー則に従えば、CO₂が空気から血液へ逆流してしまう。

 ところが、袋肺の後方部にはすでに酸性粘膜(pH 2~3)があった。消化管由来の遺伝子が偶然発現していたのだ。

 この酸性環境が、CO₂の侵入を防ぐ。CO₂が粘液に溶け込んでも、酸性(H⁺が豊富)ではHCO₃⁻に変換されない。CO₂のまま気相に留まる。さらに、上皮細胞に発現したCAが、万が一血液側へ拡散しようとするCO₂を即座にHCO₃⁻へ固定し、逆流を防ぐ。結果として、O₂だけを吸収し、CO₂の侵入を防げる。

 O₂を吸収し終えたら、海中で噴気孔を開き、残ったCO₂リッチなガスを排出すればいい。前方部のガス腺が新鮮なO₂/N₂を補充し、浮力も回復する。この偶然の産物は、利点が明白だったため、急速に定着した。数世代で空気呼吸が標準行動になっただろう。

 こうして、浮き袋は空気を呼吸できる器官へと進化した。これを袋肺と呼ぼう。しかし、この時点ではまだ「補助的」だ。主力は依然として外部鰓で、袋肺が担うのはO₂の10~20%、CO₂の30~40%に過ぎない。

 よって、袋肺を補助にするか主体にするかで進化が分かれる。二つの系統の地上進出を見比べてみよう。ここで、前者を系統A、後者を系統Bとしよう。

2. 潮間帯から陸上へ

 約15億年前、袋肺を獲得した魚類相当のうち、最初に潮間帯へ踏み出したのは系統Bだった。

 彼らはすでに浅海(0〜30m)で空気呼吸を日常化しており、海面へ浮上して吸気し、数分の潜水を繰り返す生活に適応していた。体は小さく(5〜15cm、10〜50g)、素早く動き回れる。外部の鰓はほぼ退化し、代わりに体内の袋肺が酸素の大部分を取り込んでいた。

 何より重要なのは、エネルギー効率が抜群に良かったことだ。呼吸にかかるコストは基礎代謝のわずか6〜8%だった。これは、同時代の系統A(9〜14%)を大きく下回る。つまり、同じ量の食物で、より速く成長し、より多く子を残せるということだ。

 潮の干満は1日2回、各6時間。満潮の時は普通に海で餌を探し、干潮で潮だまりに取り残されても、空気呼吸で簡単に乗り切れた。夜間に水中の酸素が減っても、水面に口を出して空気を吸えばいい。

 やがて彼らは、潮だまりから潮だまりへと這って移動するようになった。湿った森林の縁には小さな虫がたくさんいる。それを追って、短時間だけ陸に上がるようになったのだ。

 腹びれと胸びれは地面を押すために太く強くなり、関節が発達し、筋肉が増えて、少しずつ「脚」のような形になっていった。約13億年前には、体長10〜20cm、体重50〜200gにまで大きくなり、干潟を自由に歩き回っていた。

 しかし、ここで見えない壁にぶつかる。系統Bには、3つの決定的な弱点があった。

弱点1:呼吸の構造的な限界
 系統Bの呼吸は、元々「水を口で押し込む」方式だった。これは水中では問題ないが、空気ではうまく働かない。

 さらに、吸った空気と吐いた空気が同じ通り道(気管)を通る。これを「往復式呼吸」という。地球の哺乳類も同じ方式だが、地球の大気CO₂はわずか0.04%だから問題ない。

 しかしルブラリスの大気CO₂は4〜5%。地球の100倍だ。

 吐いた空気(CO₂が濃い)が気管に残る。次に吸う時、この残った空気が混ざってしまう。これを「死腔」という。結果、肺に届く空気のCO₂濃度は6〜7%にまで上がってしまう。

 血液中のCO₂を外に出すには、血液のCO₂濃度よりも、肺の中のCO₂濃度が低くないといけない。水が高いところから低いところへ流れるように、CO₂も濃い方から薄い方へしか移動できない。

 しかし血液中のCO₂濃度も6.5〜13%相当——肺の6〜7%とほぼ同じだ。濃度差がほとんどないから、CO₂がうまく排出できない。数時間動くと息切れして、疲れてしまう。満潮を待って海に戻るしかなかった。

弱点2:皮膚呼吸のジレンマ
 系統Bは、酸素の10〜20%を皮膚から吸収している(地球の両生類同様)。そのために皮膚を薄く湿らせておく必要がある。

 しかし、これには大きな代償があった。大気中のCO₂濃度(225 mmHg相当)は、血液中のCO₂濃度(50〜100 mmHg)よりも高い。つまり、大気のCO₂が皮膚から血液へ逆流してくるのだ。

 ならば鱗を持てばいいではないか、と思うかもしれない。しかしそれは不可能だった。彼らはまだ海に依存していたからだ。

 鱗は体を覆うと、可動域を狭める。さらに重量(ウェイト)にもなる。陸上ならそれでも構わないが、水中では致命的だ。体が重くなれば海底に沈む。袋肺で呼吸する系統Bは、定期的に水面へ顔を出す必要がある。沈んだままでは呼吸できない。

 鱗で体を守るか、水中での機動性を保つか。系統Bは後者を選ばざるを得なかった。結果として、皮膚は薄いまま、CO₂逆流のジレンマを抱え続けた。

弱点3:塩の補給問題
 CO₂を捨てる時、体内ではHCO₃⁻という形で運んでいる。これを体外に出すには、Cl⁻と交換する必要がある。

 海中では海水から無限にCl⁻を補給できた。しかし陸上では、食べ物から取るしかない。数日で不足して、体調を崩してしまう。

 こうして系統Bは、潮間帯と湿地、マングローブ相当域を主領域とする半水生に留まった。満潮期に潜水採餌、干潮期に潮だまりで休息し、ときに森林床の縁を素早く往復する――その生活史は洗練され、個体数も潮間帯・浅海では優勢を保ったが、完全な陸上化だけは果たせなかった。

 系統Aによる潮間帯への本格進出が始まったのは約12億年前で、系統Bより2〜3億年遅い。外部鰓を主力とする系統Aは、当初、乾燥に弱く、空気中では数分で機能を失ってしまう。彼らは潮間帯で一方的に押されていた。

 しかし、偶然の発見が全てを変えた。

 湿った岩陰に身を寄せていた個体群の中に、粘液の成分がわずかに違う変異が現れた。

 普通の粘液は弱酸性(pH 5〜6)だが、この変異個体の粘液は、乾燥すると逆にアルカリ性(pH 8.5〜9.5)になった。すると、大気中のCO₂が粘液に吸収されるようになったのだ。

【アルカリ粘液の効果】
吸い込んだ空気:CO₂ 4〜5%

鰓の粘液(アルカリ性)を通過

CO₂が化学的に吸収される

清浄な空気:CO₂ 2〜3%
これが鰓本体へ届く

酸素が取り込みやすくなる/
CO₂も排出しやすくなる

 これは工場の「CO₂スクラバー(洗浄装置)」と同じ原理だ。アルカリ性の液体がCO₂を化学的に捕まえて取り除く。
 この発見により、陸上での活動時間が数分から数時間へと飛躍的に延びた。選択圧は凄まじく、この形質はあっという間に広まった。

 アルカリ粘液の成功に続いて、鰓そのものが前後で役割を分担するようになった。

【鰓の三段階構造】
入路部:「スクラブ室」

  • アルカリ性粘液(pH 8.5-9.5)
  • 大気からCO₂を削り取る
  • 4-5% → 2-3%へ 鰓前部:「吸引室」
  • 中性の粘液(pH 7.0-7.5)
  • 酸素を取り込む 鰓後部:「排気室」
  • 酸性の粘液(pH 5.0-6.0)
  • 血液中の炭酸水素イオンをCO₂に変換
  • 濃いCO₂として排出

 空気の流れは一方向になった。前から入って、側面から出る。吸った空気と吐いた空気が混ざらない。つまり、死腔がゼロだ。

 さらに決定的だったのは、CO₂を海に頼らず、直接空気へ捨てられるようになったことだ。

 排気室では、血液中のHCO₃⁻が、酸(H⁺)と反応してCO₂ガスになる。このCO₂は排気孔から直接、外へ出ていく。排気孔のCO₂濃度は10〜15%——大気の4〜5%よりずっと濃い。だから確実に排出できる。

 Cl⁻の補給も不要になった。陸上での連続呼吸が可能になったのだ。

 この段階に至ると、袋肺の存在意義は薄れる。陸上では浮力調整は要らない。袋肺は死腔が大きく、鰓の改造型より効率が悪い。維持するコストの割に得るものが少ない。

 袋肺は11〜10億年前から縮み始め、10〜9億年前には痕跡程度になり、9億年前以降には完全に消えた。

 同時に、皮膚は厚く硬くなり、鱗で覆われた。これは地球の爬虫類のような変化だ。

 厚い皮膚により、大気のCO₂が血液へ逆流することを完全に防いだ。乾燥にも強くなった。呼吸は全て鰓の改造型が担い、水辺から完全に独立できるようになった。

 効率が良く、先に進出した系統Bは、構造的な限界で足踏みした。効率が悪く、出遅れた系統Aが、新天地を独占した。ルブラリスでは肺ではなく鰓によって地上に立つことになった。

 この鰓の改造型は「アグ」と呼ぶことにしよう。

3. アグの完成

 約9億年前、アグは完成形に達した。構造は極めて複雑だが、原理は明快だ。高CO₂の空気を、三段階で処理する。

第一段階:スクラブ管
 口を開けて吸い込んだ空気は、咽頭を通り、吸気弁を越えてスクラブ管へ入る。スクラブ管は、アグ本体(交換小管帯)に入る前の前処理室だ。地球の消化管で言えば、胃の前の十二指腸のような位置づけである。

 スクラブ管の内壁は無数のひだで覆われ、表面積を最大化している。これは地球の小腸の内壁に似ているが、栄養ではなくCO₂を吸収するためのひだだ。ひだの表面には極細の鞭毛(髪の毛の1000分の1ほどの太さの突起)が密生している。鞭毛は絶えず波打って粘液を攪拌し、新鮮な表面を作り続ける。まるで畑を耕すように、常に新しい「CO₂吸収面」を用意しているのだ。

 そして最も重要なのが、厚いアルカリ性粘液だ。粘液の厚さは0.5から1.0ミリメートルで、pHは9.2から9.6という強いアルカリ性に保たれている。主な成分はHCO₃⁻で、40から60mmol/Lの濃度で含まれており、これが主要なバッファとして働く。OH⁻(水酸化物イオン)は微量だが決定的な役割を担う。そしてムチンという粘性タンパク質が粘度を維持している。

 外気のCO₂(約225 mmHg、300 hPa)がこのアルカリ性粘液に触れると、界面で化学反応が進む。CO₂と水酸化物イオンが反応して炭酸水素イオンになるのだ。これは中和反応の一種で、CO₂が粘液中に「捕獲」される。スクラブ管を通過した空気はCO₂をおよそ半減させられる。入口では5%だったCO₂が、出口では2から3%へと清浄化される。

 捕獲されたCO₂(HCO₃⁻やCO₃²⁻の形)は、鞭毛の波動運動で後方へ送られた粘液とともに、スクラブ管の終端で回収される。粘液は特殊な静脈(粘液回収静脈)に吸い込まれ、体内の処理器官へ送られる。

第二段階:交換小管帯
 スクラブ管を通過した清浄な空気は、次に交換小管帯へ送られる。ここは本系統で最も「肺胞的」な領域だ。

 交換小管帯の構造は、地球の鳥類のパラブロンキ(鳥の肺にある細い管の束)に酷似している。太い気道から段階的に分岐し、最終的に数百から数千本の細い並行管(直径0.5から1ミリメートル、長さ5から10センチメートル)が並走する。各管の壁は極めて薄く、厚さはわずか10から30マイクロメートル、紙の半分以下だ。この薄い膜に毛細血管が超高密度で密着しており、螺旋状に巻き付いている。

 清浄な空気(酸素9%、CO₂ 2~3%)が並行管の中を前から後へ流れる。一方、血液は管の周りを後から前へと流れる。この対向流配置により、管の全長にわたって濃度勾配が維持され、ガス交換効率が最大化される。

 酸素は空気から血液へ拡散する。空気中の酸素分圧は304hPaと高く、血液へスムーズに流れ込んでヘモグロビンに結合する。同時に、代謝で生じたCO₂は血液から空気へ排出される。血液中のCO₂分圧は50から100 mmHgだが、空気側は約68~102 mmHgと低いため、濃度差によって拡散が進む。

 交換部の血液側では、CAが高発現している。細胞質の5から10%をCAが占めるほどの高濃度だ。これにより、HCO₃⁻とCO₂の相互変換が高速化され、拡散速度に追従できる。血液中のHCO₃⁻が素早くCO₂に変換され、空気へ放出される。

 ここで重要なのは、スクラブ管でCO₂を削ったおかげで、交換がスムーズになったことだ。もしスクラブがなければ、交換部に届く空気はCO₂ 5%のままだ。血液CO₂も6.5から13%相当だから、濃度差が小さく、排出が困難になる。しかしスクラブのおかげで、交換部の空気はCO₂ 2から3%と低く保たれ、血液との濃度差が大きい。だからCO₂がスムーズに流れ出る。

 同時に、酸素の取り込みも速くなる。CO₂が少ないと、血液中のヘモグロビンが酸素を捕まえやすくなるからだ。これは地球でも知られているボーア効果という現象である。

 交換小管帯を出る時点で、空気の酸素濃度は9%から5から6%へ低下し、CO₂は2から3%から5から6%へ戻っている。酸素を奪われ、代謝由来のCO₂を受け取った空気だ。

第三段階:排気室
 交換小管帯を出た空気(酸素5~6%、CO₂ 5~6%)は、並行管が再び合流して太い管になり、最後に排気室を通る。ここはスクラブ管と真逆の化学が働く場所だ。

 排気室の粘液はpH 5.0~6.0と酸性に保たれており、厚さは0.5~1.0ミリメートルある。壁の上皮細胞にはH⁺-K⁺-ATPaseというプロトンポンプ(水素イオンを汲み出すポンプ)があり、ATPを消費してH⁺を分泌し、粘液を酸性に保つ。スクラブ管がアルカリ性なら、排気室は酸性。両者は正反対の環境だ。

 スクラブ管から回収された粘液は、体内で処理された後、HCO₃⁻リッチな清浄液として排気室へ供給される。この液体が排気室の粘液層に染み出すと、酸性環境でHCO₃⁻とH⁺が反応して、CO₂と水になる。これは酸との中和反応で、大量のCO₂ガスが発生する。

 結果として、排気室の空気はCO₂濃度が10~15%(約342~513 mmHg、45.6~68.4 kPa)まで濃縮される。大気のCO₂濃度は5%だから、排気は2~3倍も濃い。

換気の駆動
 換気を駆動するのは、アグの下方に位置する腹膜(地球の横隔膜に相当する筋肉板)だ。腹膜はドーム状で、収縮すると平らになり、アグの容積が増える。これが陰圧を作り、吸気を引き込む。弛緩すると元のドーム状に戻り、陽圧を作って排気を押し出す。

 換気は三つの段階に分かれる。

吸気相(1~2秒):口から空気が流し込まれる。腹膜が下がり、咽頭弁が跳ね上がると交換小管帯が陰圧になる。すると吸気弁が受動的に開き、空気が流入する。鞭毛の波動運動により、空気は前進して交換小管帯の並行管へ分配される。

保持相(0.5~1秒):咽頭弁が下がり、吸気弁も閉じる。排気弁も閉じたままだ。この間に交換小管帯でガス交換が進む。

排気相(1~2秒):腹膜が上がり、交換小管帯と排気室の平滑筋が蠕動的に収縮し、陽圧になる。中間弁が開き、空気が排気室へ送られる。側面の排気孔にある排気弁が外側へ開き、CO₂リッチな空気が押し出される。排気室の壁に配置された平滑筋のマクロな蠕動運動が、排気を効率的にコントロールする。

 弁と括約筋が協調して働くことで、逆流は完全に防止される。スクラブ管、交換小管帯、排気室という順序は厳守される。呼吸は連続的で、1サイクルは約3から5秒だ。1分間に12から20回呼吸する。

 こうしてアグは、高CO₂の大気環境下でも、三段階の化学処理で完璧に機能する。しかし、その代償は大きい。

 アグ本体(スクラブ管、交換小管帯、排気室)の運転だけで、基礎代謝の12~19.5%を消費する。地球の哺乳類の呼吸コスト(3~5%)の約4倍だ。

 さらに、粘液循環と石灰肝(後述)を加えると、総コストは基礎代謝の25~30%に達する。ただし、石灰肝は通常の肝機能(栄養処理、解毒、窒素老廃物処理)も担っているため、単純な比較は難しいが、参考までに、地球の哺乳類では、呼吸(3~5%)+ 肝臓(20~25%)+ 腎臓(7~10%)で合計30~40%程度を消費する。

 ルブラリスの総コスト25~30%は、実はそれほど高くない。しかし、呼吸だけで12~19.5%というのは、やはり地球の3~5%と比べて非常に高い。高CO₂環境で陸上生活をするには、これだけのコストを払わねばならなかったのだ。

 そして、もう一つの代償がある。音声を作れないのだ。排気孔が6~12個、体の側面に分散しているため、声帯のような振動膜を作れない。空気は常に前から側面へ流れ、口から「吐く」ことができない。吸気時には咽頭を通るため、短い吸気音で警告音や威嚇音は作れるかもしれない。しかし、持続的で複雑な音声言語は不可能だ。

 アグを持つ動物は、高CO₂環境で陸上生活を可能にした。しかし、その代償として、膨大なエネルギーと、音声言語への道を失った。彼らは別の方法——光——で会話することになる。次回はついに発光器官について考察することにしよう。

おまけ
身体の血管構造
 アグを持つ動物の心臓は、地球の爬虫類に似た二心房一心室の構造だ。より進化した系統では、完全な中隔を持つ二心房二心室になっている。

右心房:全身からの静脈血を受け取る。酸素が少なく、HCO₃⁻が多い。
左心房:アグからの動脈血を受け取る。酸素が豊富で、HCO₃⁻がやや減っている。
心室:両心房から血液を受け取る。不完全な中隔があり、ある程度は右側と左側で血流を分離するが、完全には分離していない。心室内の螺旋状の筋肉構造により、多少の混合はあっても、アグへは主に静脈血が、全身へは主に動脈血が送られる。

 収縮期には、心室から二つの大動脈が出る。一つはアグへ、もう一つは全身へ。ここで、心臓から送られた血液がアグを通った後の道筋を追っていこう。

 右心房から心室の右側へ送られた静脈血(酸素少/HCO₃⁻多)は、アグ動脈を通じて交換小管帯で酸素を取り込んだ後、アグ静脈で心臓の左心房へ戻る。

 左心房から心室の左側へ送られた動脈血は、体動脈を通じて全身へ向かう。体動脈は全身の組織——筋肉、神経、骨格、脳、発光器官など——へ分岐する。各組織の毛細血管で酸素を渡し、代謝で生じたCO₂をHCO₃⁻の形で受け取る。全身からの静脈血は、最終的に右心房へ戻る。

 しかし、二つの特殊な血管系は、心臓へ直接戻らずに、途中で石灰肝(後述)を経由する。

門脈系
 消化管(胃、腸)の毛細血管を出た静脈血は、門脈に集まる。この血液には、消化管で吸収された栄養素、水分、そして処理が必要な物質が含まれている。

スクラブ処理系
 体動脈から早い段階で分岐した枝が、スクラブ管へ向かう。この枝をスクラブ管動脈と呼ぼう。スクラブ管動脈は、スクラブ管のひだの中を網目状に走る毛細血管に分岐する。

 ここで、粘液へNa⁺とHCO₃⁻を供給し、血管内皮細胞のNa⁺/HCO₃⁻共輸送体が、血液から粘液へイオンを汲み出す。そのあとは、スクラブ管の終端で、鞭毛によって後方へ送られた粘液が、血管の特殊な開口部から吸収される。その際、粘液中のHCO₃⁻、CO₃²⁻、Na⁺、K⁺などが血液へ移動する。

 血液は、次に排気室を経由する。排気室の壁を通る間に**血液中のHCO₃⁻の一部が、粘膜を通じて排気室の粘液層へ染み出す。排気室の酸性環境でプロトンと反応しCO₂ガスが排出される。また、粘液から回収されたK⁺を血液から供給することで酸性を維持する土台をつくる。

 この2つの血液系が石灰肝で合流し、複雑な化学処理を経てもう一度心臓に帰ってくる。

石灰肝の役割
 石灰肝は、体の前部中央、消化管のすぐ脇に位置する巨大な器官だ。地球の肝臓に相同するが、ルブラリスでは三つの血管系(門脈、スクラブ処理系、肝動脈)が合流する中枢となっている。

 石灰肝の内部は、肝小葉という六角柱状の単位が数千個集まって構成されている。各小葉の辺縁には三つの血管が並ぶ。

小葉への入力:
門脈→
スクラブ処理動脈→
肝動脈(酸素供給用)

 これら三つの血流が、小葉の辺縁から中心へ向かって洞様毛細血管(シヌソイド)を通じてゆっくりと流れる。シヌソイドの内壁には、放射状に配列された肝細胞が密着している。血液がゆっくりと流れる間に、肝細胞が複雑な化学処理を行う。シヌソイドを通った血液は、小葉の中心にある中心静脈に集まる。中心静脈は合流して太い肝静脈となり、右心房へ戻る。

機能1:CO₃²⁻の沈殿除去
 スクラブ処理系から流入したCO₃²⁻(7から16%含まれている)に、肝細胞がCa²⁺やMg²⁺を添加する。Ca²⁺とMg²⁺は血液中から取り込まれ、肝細胞内でCO₃²⁻と反応してCaCO₃・MgCO₃の微細結晶を形成する。結晶は分泌小胞に包まれ、肝細胞の反対側(石灰細管)へ放出される。石灰細管は合流して太い石灰管となり、石灰嚢(胆嚢に相当)で濃縮される。最終的に消化管へ合流し、白いペースト状の排泄物として体外へ出る。

機能2:イオンのリサイクルと調整
 スクラブ処理系から流入した過剰なNa⁺、K⁺、Cl⁻を、肝細胞が選択的に処理する。

 Na⁺は90から95%が血液へ戻される。Na⁺-K⁺-ATPaseが肝細胞膜で働き、Na⁺をシヌソイド側(血液側)へ汲み出す。回収されたNa⁺は、血液を通じて再びスクラブ管へ送られ、再利用される。

 K⁺も同様に80から90%が回収される。余剰分は、後述する腎臓で排泄されるか、石灰肝内で一時貯蔵される。

 Cl⁻は85から90%が回収される。Cl⁻/HCO₃⁻交換体が働き、Cl⁻を血液側へ、HCO₃⁻を細胞内へ移動させる。

 この大規模なリサイクルにより、呼吸による塩分喪失が最小化される。もしリサイクルがなければ、体重1kgの動物は1日に約50グラムの塩を摂取する必要があるが、リサイクルのおかげで5グラム程度で済む。

機能3:CO₃²⁻の生化学的活用
 CO₃²⁻を沈殿させる前に、肝細胞は積極的にCO₃²⁻を利用する。

重金属解毒:血液中の重金属イオン(Fe²⁺、Cu²⁺、Cd²⁺、Pb²⁺など)を、肝細胞内の解毒区画——pH 8.5から9.0に保たれた特殊な小胞体——へ取り込む。ここでCO₃²⁻と反応させ、可溶性の炭酸錯体を形成する。有用金属(Fe、Cu、Zn)の錯体は血液へ戻して全身へ輸送し、有毒金属(Cd、Pb)の錯体は石灰細管へ分泌してCaCO₃ペーストと一緒に排泄する。

脂質乳化剤の合成:肝細胞は脂肪酸とCO₃²⁻を反応させ、炭酸脂肪酸塩(石鹸様の界面活性剤)を作る。これが石灰胆汁として胆汁細管へ分泌され、石灰嚢で貯蔵される。食後、石灰嚢が収縮して石灰胆汁を十二指腸へ放出し、脂質の消化を助ける。地球の胆汁酸の代替だ。

有機毒物の分解:肝細胞内の過炭酸解毒区画で、HCO₃⁻とH₂O₂を反応させて過炭酸イオン(HCO₄⁻)を作る。HCO₄⁻は強力な酸化剤で、植物毒素、環境汚染物質、薬物などを酸化する。酸化された毒物にCO₃²⁻を抱合させ(炭酸エステル形成)、水溶性を高めて排泄する。地球のP450系とグルクロン酸抱合の代替だ。

pHバッファ調整:血液中のHCO₃⁻濃度を調整し、全身の酸塩基平衡を維持する。代謝が活発でCO₂が増えればHCO₃⁻を放出し、逆にアルカリ化すればHCO₃⁻を回収する。

機能4:栄養処理
 門脈から流入した栄養素(糖、脂質、アミノ酸)を処理する。
 糖はグリコーゲンとして貯蔵されるか、必要に応じて血糖として放出される。脂質は脂肪として貯蔵されるか、エネルギー源として酸化される。アミノ酸はタンパク質合成に使われるか、糖新生の材料になる。
 地球の肝臓と同じく、栄養の「中央銀行」として機能する。

機能5:窒素老廃物処理
 全身から来たアンモニア——タンパク質代謝の副産物で有毒——を、肝細胞が尿素や尿酸に変換する。尿素・尿酸は血液中に留まり、後で腎臓で濾過されて尿として排泄される。

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