架空世界(文化)を伴う人工言語を作っていると、ほぼ必ずぶちあたる壁があります。
現実にしか存在しないモノ(国家や人名、地名など)はどう造語すればいいのか、ということです。
今回はこの問題について私の方法を書いていきます。
用語
この記事で用いる用語を以下で定義します。
・現限語:現実世界にしか存在しないモノを表す単語
造語法
現限語は架空世界には存在しえないため、架空世界であるがゆえの文化的背景などをすべて無視して造語できます(私がこういえるのは、創作者としての私の立ち位置が、「創作世界のすべてを操作できる存在」であるからです)。
よって、例えばレーゲン語で「日本」を "Muvazirrgoop" と造語しても何ら問題ないわけです。しかし、このようには造語しません。「日本」と "Muvazirrgoop" には関連性がなさすぎて覚えにくいからです。
私の場合、現限語の造語は現地語の音写を原則としています。ただし、アクセントはレーゲン語の原則にしたがい、すべて第一母音におきます。
例えば、レーゲン語で「ドイツ」はドイツ語の Deutschland /'dɔɪt͡ʃlant/ を音写した Doiclant /'dɔɪt͡ʃlant/ といいます。「エスペラント」はエスペラントの Esperanto /espe'ɾanto/ を音写した Esperranto /'ɛspɛranto/ です(アクセントがレーゲン語のアクセント規則にしたがって E に置かれている点に注意)。
課題
この方法には「確固たる現地語が存在しない場合どうするか」や「複数の言語で呼ばれている場合どうするか」という問題があります。
例えば、「シンガポール」を考えましょう。シンガポールは四つの公用語(タミル語、中国語、マレー語、英語)をもち、各々の言語で違う発音です。こうなると「現地語」の音写で造語する、といってもどの言語を基準にすればいいのか困ってしまいます。
解決策はおおむね分けて三つあります。一つ目が折衷、二つ目が性質利用、三つ目が複数造語です。
折衷は、造語対象であるモノの各言語での名称をミックスして造語することです。例えば先ほどのシンガポールは、レーゲン語で "Xingapt" といいます。
性質利用は、現実世界での名称を無視して、造語対象であるモノの特徴などから命名することです。
例えば、「地球」はレーゲン語で "Hisenaktet" といいます。直訳すると「故郷の惑星(hisen + aktet)」で、これは地球が私の故郷の惑星であるからです。
複数造語は、造語対象であるモノの各言語での名称をそれぞれ音写し、造語結果として別々に認めることです。
例えば、スペイン王国の所謂バスク地方の「バスク」は、スペイン語の Vasco とバスク語の Euskadi を転写した Basko と Euskadi を別々に「バスク」を指す名称として認めます。
ただし、この造語方法は煩雑になるうえ、何の言語を転写対象に入れるかで政治的な判断が必要となる場合があって面倒なため、あまり行いません。
もちろん、上記の方法を無視して恣意的に造語することもできます。たとえば、レーゲン語で「スイス」はラテン語名称の Helvetica を音訳した Helwetika といいます。このほか、プログラミング言語の Python は意図的に読み方を変えて Piisfhon /'pi:sfon/ といいます。
ただし、後者のような造語は多くすると混乱が起きるので控えています。
いずれにしてもこの章で挙げた問題を完璧に解決する策は未だ見つけられていません。
<参考:転用>
現限語の造語には「転用」というものもあります。これは、その人工言語の一般名詞に現実にしか存在しないモノの意味をもたせることです。
例えば、レーゲン語の Garfmaivalaux は上院を表しますが、転用により日本の衆議院も表します。
現限語の扱い
では、現限語の扱いを考えていきましょう。
レーゲン語では現限語をHTS単語(地球世界単語)と呼び、ほかの単語と区別しています。辞書でも [HTS] というタグをつけます。
このように区別するのは、現限語が、架空世界で話されている言語の要素なのにもかかわらずその架空世界には存在しない、イレギュラーだからです。真に架空世界で話されている言語ならば、その言語に現限語は存在できないはずです。
したがって、HTS単語は純粋なレーゲン語の語彙としては扱わないことにしています。HTS単語は、架空世界の言語で現実のモノを表すのに用いる便宜的な単語という扱いです。
現限語をほかの単語と区別するきらいは他の人工言語にもあります。例えば、リパライン語では現限語を「国際理語」とよんで区別します。アルカにも「ユマナ」というタグがあります。
これらの名称がHTS単語と同じ意図をもってつけられているかは定かではありませんが、他の単語からわざわざ区別しているのは確かです。
おわりに
現限語の造語法や扱いは一意に定まるものではなく、人によってさまざまであると思います。この記事が創作の参考になれば幸いです。
新しい順のコメント(0)