※この文章はMigdalとNoteの2ヶ所に投稿しています。
日本語には、このように動詞から派生してできる形容詞があります。
急ぐ:忙しい
騒ぐ:騒がしい
痛む:痛ましい
悩む:悩ましい
浅む:浅ましい
病む:やましい
疑う:疑わしい
すなわち、五段動詞の語幹末の子音に「-aしい」という語尾が結合することで形容詞の派生語ができていることが分かります。
しかし、「頼む」の場合はどうでしょうか。
上記からは「頼ましい」という形が予測できそうですが、実際には「頼もしい」となります。
現代語では「好む」「喜ぶ」に対応しているのは「好ましい」「喜ばしい」ですが、古語では「好もしい」「喜ぼしい」でした。
また、「恐れる」(古語では「恐る」)に対応するのは「恐ろしい」です。
つまり、「-aしい」となるのが原則だが、一部の動詞では「-oしい」になるわけです。
この違いは何でしょうか。
1つ共通点として明らかに分かることとしては、「-oしい」になる動詞は、全てオ段音を含んでいます。しかし、「急ぐ」が「忙しい」になることを考えると、オ段音を含む動詞なら「-oしい」になるという単純な図式ではないことがわかります。
上代特殊仮名遣いまで考えると
もう少し詳しく見てみると、これには上代特殊仮名遣いが関係しているように見えます。
いそ₁ぐ:いそ₁がし
たの₂む:たの₂もし
こ₂の₂む:こ₂の₂もし
よ₂ろ₂こ₂ぶ:よ₂ろ₂こ₂ぼし
おそ₂る:おそ₂ろ₂し
と、このようにオ段乙を含む場合は「-oしい」となり、そうでなければ「-aしい」となることがはっきり分かります。もっと言えば、əとaは1語根内に共存しない傾向が強いという有坂池上法則を反映したものでしょう。
なお、「たの₂む」はそれ自体が有坂池上法則に違反しているように見えますが、「手・のむ」の複合語なので「1語根」でないと考えれば違反ではないと見ることができるようです。
ただし、「狂う:狂おし」だけはこの法則に当てはまらないようです。
これを考えて何がしたいのか
想像地図の人は更紗語という架空言語を作っています。これは、想像地図世界で話されているという設定の言語です。この言語に関して、自然言語のような複雑性を持っていなければならないと考えています。そのため、前述したように動詞から形容詞が派生する語尾が、単純に1種類というスッキリしたものではなく、日本語と同じように不規則さを持ち、かつそれが「一見すると理由が分からないが、古代のことまで考えると理由が分かる法則が隠されている」というものであるべきだと考えています。
というわけで更紗語では以下のように設定する方向で考えました。
urusine(苦しむ):urusinyai(苦しい)
nate(住む):natyai(住みよい)
kyenyesine(楽しむ):kyenyesinyei(楽しい) ※現代ではkyenyesinyai
というように、語幹末に-yaiがつくのを原則としつつ、語幹側にeを含む場合は-yeiがつくとしました。
なお、更紗語のeは[e]ではなく[ə]です。
古代では更紗語の母音は[a][i][ə][u][e][o]の6個だったものの、後に[e]が[ə]に合流して今は5個になっています。ここで、現代で[ə]になっているもののうち、古代から[ə]だったものを含む動詞では-yeiが接続するが、古代では[e]だったものを含む場合は-yaiが接続する、というルールにしておけば、日本語と同様の複雑さと不規則性をもちつつ、「一見すると理由が分からないが、古代のことまで考えると理由が分かる法則が隠されている」というものにすることができます。
新しい順のコメント(0)