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ななみ
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物質語【第7回人工言語コンペ】

 ※この記事は、人工言語コンペ2024春(第7回)投稿作品です。

 地球からはるか551光年離れたところに、みなみのうお座ε星という恒星がある。そのε星の第二惑星(以下、単に「第二惑星」と言う。)には、自分たちを「Br」と呼ぶ生物が生息しているが、彼らは道具の使用や意思の疎通など、一定の基準を満たす知的活動を行うため、彼らを宇宙人と見なし、「第二惑星人」と呼ぶことにする。

 これは第二惑星の言語がもつ、最も奇妙かつ魅力的な特徴なのだが、地球の言語で音声が意味を表すように、第二惑星の言語では化学物質が意味を表す。つまり、1種類の元素が1つの語を、1種類の物質が1つの文を意味するわけである。本稿は、このような言語を物質語と名付け、紹介するものである。

 第二惑星人は言語を話す際、以下のような過程を経る。まず、話し手は上肢を使って地中や空中から化学物質を採集し、口から物質を摂取する。それから、「BaF2」と呼ばれる器官に物質を貯蔵し、化学反応によって文を生成する。そして、聞き手が話し手の中央部にある突起を包み込むと、話し手は突起から文を排出する。最後に、文を摂取した聞き手は、含まれている物質の分析によって文を理解する。

 正直に言うと、私は物質語を二度と学習したくない。なぜなら、物質語で話される文はしばしば地球人にとって有毒であるため、その研究は命に関わる危険をもたらすからである。私自身も、幾度となく生死をさまよった。それでも私が研究を続けてきたのは、言語の魔力に取りつかれたからと言うしかない。

 これから私は例文をいくつか紹介する。どれもこれも、取るに足らない意味しか有しないにもかかわらず有毒な物質である。

 1

CuSO4(硫酸銅(Ⅱ))

Cu S  O
火 見る 私

私は火を見る。

 硫酸銅(Ⅱ)は、白色の粉末である無水物や、美しく青い結晶である五水和物などが知られるが、触れると発赤や痛みが生じ、また、わずかに飲み込んだだけで死に至る恐れがある。

 2

HCl(塩化水素)

H Cl
山 言う

「山」と言う。

 塩化水素は無色透明で刺激臭のあるガスであり、水溶液は塩酸として知られるが、吸い込むとアレルギーが生じるか、若しくは死に至る恐れがある。

 3

AgNO3(硝酸銀(Ⅰ))

Ag N  O
Ag 取る 私

私は「Ag」(水中に生息する生物の一種)を獲る。

 硝酸銀(Ⅰ)は無色の結晶であり、銀めっきの原料などとして用いられるが、触れると皮膚が腐食し、また、酸化剤につき火災を引き起こす恐れがある。

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