音韻・音声
母音
母音は陽・陰で対を成す。
| 陽 | 陰 |
|---|---|
| a | ä |
| y | i |
| u | ü |
| - | e |
| o | ö |
古くはeにも対応する陽母音(ê)があったが、こちらは早々にeと合流した。
また、母音共和があり、一つの語に陽母音と陰母音が同時に出現することは原則としてない。
ただし外来語についてはその限りではない。
陽母音で共和している語を陽語、陰母音で共和している語を陰語と称する。
子音
| 唇 | 歯茎 | 口蓋 | 喉 | |
|---|---|---|---|---|
| 破 | p, b | t, d | k, g | q, ğ |
| 鼻 | m | n | ||
| 震 | r | |||
| 摩 | s, z | h | ||
| 接 | w | l | j |
q, ğ : k, gは前後の母音が陽か陰かで決まる。
前後が陽母音であればq, ğが用いられ、前後が陰母音であればk, gが用いられる。
例:
陽母音
qadai /qɑdɑj/ - 偉大なる
buğan /buʁɑn/ - 真っ直ぐな、直線の
陰母音
dülkän /dʉlcɛn/ - 竜
göz /ɟɵz/ - 語、言葉
陰母音前後のk, gは、元々は[kj], [gj]のような音であったが、時代が進み[c], [ɟ]と硬口蓋破裂音へと変化した。
なお、方言によってはこの変化がさらに進み、陰母音前後のk, gが破擦音([t͡ʃ] , [d͡ʒ])となっている場合もある。
例:
綴り
標準語 : 方言
dülkän
/dʉlcɛn/ : /dylt͡ʃæn/
göz
/ɟɵz/ : /d͡ʒøz/
強勢
ピッチアクセント的な特徴を示し、原則第一音節に強勢がある。
強勢のある母音は高めに発音される。
形態
特徴
虎人語は、膠着語である。
数・格等が語尾を付加することで示され、例外は少ない。
語尾の母音は、直前の語幹母音の陽陰により自身の陽陰も変化する(母音共和)。
例:
tümürnäk - tümürnäkür
qyz - qyzul
kül - küllir
名詞
名詞の数は、単数と複数。
一部の単語や、方言の中の古い特徴を示すものには両数が残っていることがある。
数の語尾は以下のようになる。
| 単数 | (両数) | 複数 |
|---|---|---|
| -∅ | (-ym/im) | -ur/ür |
例:
göz - gözür
syn(土地、土) - synur
maluw(州) - (maluwym)※ - maluur
※ maluwymnu bynu tültüm 「双州の間に立つ」のような諺にのみ見られる。
maluw - maluur のように、-uw/üwで終わる語の直後に-u/üから始まる語尾が付くと、-w-が落ち、
-uu-/-üü-のように同母音が連続する形になる。
読み方としては、正統文法ではあたかも長母音のようになるのが正しいが、実際の発話を観察すると間に弱い声門閉鎖音が現れることが多い。また、虎人の母語話者の認識としても、「長い母音」ではなくあくまで「ふたつの同じ母音の連続」であることが伺える。
ただし、方言によってはlやnなどの子音を挿入しこのようなヒアートゥスを避けることもある。
格語尾は以下のようになる。
| 格 | 語尾 |
|---|---|
| 主格 | - ∅ |
| 所属格 | - yn/in |
| 目的格 | - ul/ül |
| 方向格 | - y/i |
| 処格 | - nu/nü |
| 起点格 | - qan/kän |
| 伴格 | - ysy/isi |
| 様態格 | - lyr/lir |
主に用いられるのは上の8つだが、他にも限られた場合・限られた名詞にのみ付く語尾などもある。
以下からは格の大まかな用法を見る。
主格
名詞の最も基本的な格。
文の主語、呼びかけ、辞書の見出し、列挙などに用いられる。
tümürnäk tümürül qazyqum - 鍛冶屋が鉄を打つ
所属格
A-yn B : 「AのB」のように、語尾の付いた名詞に、掛かる名詞などが所属している・所有されていることを表す。
Malwyn Qyz - 州長(州の - 長)
目的格
主に文の目的語となる。基本的に動詞に結びつくが、目的格を取る形容詞などもある。
tümürnäk tümürül qazyqum - 鍛冶屋が鉄を打つ
方向格
主に指向性のある動作の目的語となる。
また、qulun(~を目標として)のような後置詞と結びついて使われることもある。
処格
「場所」を表すことが多い。また、処格と所属格を組み合わせた表現も存在する。
wylnuwyn kül - 村での祭り(村 - で - の)
起点格
主に「~から」という意味を表す。
伴格
「~と、~をもって」という意味を表す。また、otan(~と共に) のような後置詞と結びついて使われることもある。
様態格
「~のような」という意味を表す。また、buğanuq(まさに~のような)といった後置詞と結びついて使われることもある。
動詞
動詞は、動作や状態などを表す。
最も無標な語順はSOVであり、基本的に動詞は文末に置かれる。
辞書の見出しなどとなる最も基本的な形は中立形という。
中立形の例:
düstüm - 転がる
tültüm - 立つ
qazyqum - 打つ、叩く
uldum - 作る、生み出す、具現化する
müm - (一方向に)移動する
中立系は時制を示さない形である。格言や諺の中によく見られる形であるが、実際の会話においても用いられる。
実際に用いられる際には、格語尾を付して、名詞のように用いられる(「〜することは、することを」のような意味)ことが多い。
未完了形
未完了形は、基本的に「まだ完了していない動作」を表す。
そのため、単独では、文脈により「~している」、「(これから)~する」など様々な意味を表す。
語尾は中立形の-um/ümを取り払って、-ar/ärを付すのみ。
また、虎人語に特有なのは、基本的に人称を示さないが、場合により強意人称語尾が付く場合がある、ということ。
まず、虎人は基本的に人称語尾ではなく個人名を核として会話をする。
Buğanという虎人とYsqanという虎人が話す場合、Buğanは一人称としてBuğan、またはtuq(この) Buğanを用い、二人称としてYsqan、tuq Ysqanを用いる。三人称で別の人物を話題に挙げる場合もKäzin, lyq(あの) Käzin などと言うが、例えばBuğanとBuğanが会話しており、また別のBuğanの話をするような場合には、区別を明確にするため強意人称語尾を動詞に付す。
強意人称語尾は以下のようになる。
| 一人称 | 二人称 | 三人称 |
|---|---|---|
| -ny/ni | -suw/süw | -a/ä |
未完了語尾と強意人称語尾の順番は(未完了語尾)-(強意人称語尾)である。
例:
Buğan tültärsüw. - (BuğanがBuğanに語りかけて)君は立つ/立とうとしている。
またこの強意人称語尾は中立形に付くこともある。例えば:
Buğanyn tümürül qazyqumsuw… - (BuğanがBuğanに語りかけて)君が鉄を打つことは……
完了形
完了形は、名の通り完了、終了した動作をあらわす。
こちらも文脈により「~した」、「~し終えた」など様々な意味を表す。
語尾は中立形の-um/ümを取り払って、-tuq/tükを付すのみ。
こちらも同じく場合により強意人称語尾がつく。
順番も未完了形のときと同じだが、三人称の-a/äのときだけ-tuğa/-tügäとなるので注意。
これは-tuq/tükに-a/äが続くに際してq, kが有声化したものである。通常、q, kが母音に挟まれても有声化することはないが、この場合のみ有声化する。
このため、母語話者には-tuğa/-tügäを単一の語尾であると認識している者も少なくない。
動詞の基本形は中立形・未完了形・完了形の3つであり、ここから意味を限定するために様々な助語尾を付していく。
助語尾
助語尾は、先述の中立形/未完了形/完了形の語尾の後に付して、基本的な意味からさまざまに意味を派生させて限定するものである。
未完了形に付くもの
現在進行:-dyl/dil
Buğan tümürül qazyqardyl.
ブガンは鉄を打っている。
Toluq düstärdil.
トルクは転げ回っている。
着手:-san/sän
Huzuq kibüni märsän.
フズクは北に向かうところだ。
Ysqan wylnu külül botarsan.
ウスカンは村で祭りに加わるところだ。
意志:-oğu/ögü
Tarbuq Uzmoqyn Maluwy märögü.
タルブクはウズモク州に行くつもりだ。
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