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ンソピハ!
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日本語でアクセントを表記する場合に気をつけること

この記事は 語語語ADC 2025に参加しています。
思ったよりも筆が進まなかった……、くやしい。

さて、あなたが架空文字erだと仮定します。
あなたは、アクセントの下がり目(アクセントの滝)が共通語において音素であると知り、それを自分の日本語用架空文字の表記に加えたくなりました。
しかし、自分のアクセントにはあまり自信がありません。そこで、アクセント辞典を参照しながらピッチアクセントをカキカキするわけですが、そこにとんだ落とし穴があることはご存知でしょうか?
――この記事では、日本語の首都圏方言においてアクセントの下がり目が消えたり移動したりする現象のうち、自分がよく間違えたポイントをまとめました。よかったら参考にしてください。

※他の方言には詳しくないので、首都圏方言(≒共通語)だけ取り上げます。ご了承ください。

尾高型の語が平板化したりしなかったりする

助詞「の」がクセモノです。
たとえば、「コメ\(米)」が「コメノ ̄」になります。
でも、「ツギ\(次)」は「ツギ\ノ」です。
???って感じですよね。
一応傾向はあって、数に関係する語は平板化しにくいです。(他は平板化しがちです。)
たとえば「フタツ\ノ(2つの)」「ミンナ\ノ(皆の)」みたいな感じですね。
でも、ぶっちゃけ、「米の」を「コメ\ノ」と発音することもあるっちゃあります。これは個人の発音の揺れです。
「数に関係する語は必ず平板化しないものが多い。それ以外の語は基本的に平板化するが、口調や発音の揺れで尾高型のままになっちゃうときがある。」と覚えましょう。

あと、中高型の語にも、最後の拍が特殊拍(長音・撥音)だったり母音連続の後半部分だったりすると、やっぱり「の」の魔力で平板化するものがあります。
「ニホ\ン(日本)」が「ニホンノ ̄(日本の)」、「キノ\ー(昨日)」が「キノーノ ̄(昨日の)」みたいな感じです。
ただ、こちらは、そうでない単語のほうが多いです。たとえば「シャッキ\ン(借金)」は、普通に「シャッキ\ンノ(借金の)」になります。

ちなみに、1拍の起伏式名詞は、尾高型とは扱いが異なり、平板化しません。
「手の」は「テ\ノ」です。

副詞が平板化

尾高型や中高型の名詞は、副詞に転用されると平板化します。
たとえば名詞の「昨日」は「キノ\ー」ですが、副詞化すると「キノータ\ベタ(昨日食べた)」のように下がり目が消えます。

付属語のアクセント、弱化しがち

たとえば「犬にも」は「いぬ」も「にも」も起伏式なので、律儀に発音するなら「イヌ\・ニ\モ」となります。
でも、実際は付属語の発音がかなり弱化することが多く、普通の話速では「イヌ\ニモ」と発音されることが多いです。
起伏式付属語は、直前の語が起伏式だとたいてい弱化します。弱化せずに発音すると、付属語部分を強調しているような印象になります。
形式名詞でも口調によってはアクセントが弱化します。たとえば、「食べるとき」は、律儀に発音すると「タベ\ル・ト\キ」ですが、実際は「タベ\ルトキ」と発音されていることも多いです。

これと似たような感じで、動詞でも「である(デア\ル)」や「なる(ナ\ル)」などは、起伏式の語句の直後で弱化しがちです。

イントネーションによるアクセントのかき消され

これは、「〜じゃない?」とか「〜くない?」のような文でよく見られます。
「やばくない?」の本来のアクセントは、「ヤ\バク・ナ\イ」もしくは「ヤバ\ク・ナ\イ」ですが、イントネーションがこれをかき消し、「ヤバクナイ⤴️」と平板型のように下がり目がなくなります。

この他にも、強調によってイントネーションがアクセントを抑えることはけっこうあります。
日本語のアクセントとイントネーションの競合的関係 という論文に、そのような例がいくつも紹介されています。

疑問詞の平板化

疑問詞では、起伏式と平板式の使い分けがあります。
たとえば、「誰がやったの?」の「誰」はダ\レですが、「誰でも歓迎!」の「誰」はダレ ̄です。
「何(なに・なん)」や「どこ」なども、起伏式で発音されるときと平板式で発音されるときがあります。

さて、これ以降は、アクセントが移動したり生えたりする現象を扱います。

起伏式一段動詞と形容詞

そもそも動詞には、後ろから2番目の音節にアクセント核を置く「起伏式」と、アクセント核のない「平板式」しかありません。
3音節以上の起伏式一段動詞では、「て」「た」が付くと、アクセントが一つ前にズレます。
例えば、「コケ\ル」の過去形は「コ\ケタ」です。

形容詞も似たような感じで、「く」が付くと一つ前にズレます。
「サム\イ」は「サ\ムク」になります。
ただ、共通語ではこのあたり揺れが激しくて、「サム\ク」という語形も使われます。

複合語化によるアクセントの移動

たとえば「大学」は「ダイガク ̄」ですが、「国立大学」になると「コクリツダ\イガク」になります。
前部要素のアクセントは無視され、後部要素がダ\イガクのように頭高型っぽくなることが多いです。ただし、中高型の後部要素はアクセントが変わらないことも多いです。「トショ\カン」(図書館)は「ケンリツトショ\カン(県立図書館)」になります。

複合動詞の場合は、近年は全部起伏式になります。
(昔は平板式になる場合と起伏式になる場合がありましたが、起伏式に統合される傾向があります。)
たとえば、「マウ ̄(舞う)」と「アガル ̄(上がる)」を組み合わせると「マイアガ\ル(舞い上がる)」になります。

母音の無声化

母音が無声化すると、アクセントが前へズレることがあります。
たとえば「県」という接尾辞の付いた語は基本的には「アオモリ\ケン(青森県)」のように後ろから3番目の拍にアクセント核を置きますが、「山梨県」は「ヤマナ\シケン」とも発音されます。
昔の東京方言では、母音が無声化すると必ずアクセントが移動したらしいです。でも、現在では「ヤマナシ\ケン」のようにアクセントが移動しないことも全然あります。このあたりの発音の揺れは、ご自身の発音を内省して考えてみてください。

付属語境界にアクセントが生えてくる

付属語と付属語が組み合わさると、間に下がり目が挿入されます。
たとえば「では」は、「で」と「は」の複合助詞なので「デ\ワ」になります。

てた

「〜ていた」は「ネテイタ ̄(寝ていた)」のように動詞にそのまま接続するのに、平板式動詞に「〜てた」が付くと「ネテ\タ(寝てた)」のようになぜか下がり目が挿入されます。
ちなみに「〜てる」では挿入されません。「ネテル ̄」です。謎です。

形式名詞のアクセントの変化

いくつかの名詞は、制限修飾を受けると、語末にアクセント核が移ります。
「ヒ ̄(日)」は「イクヒ\(行く日)」に、「ヒト ̄(人)」は「イクヒト\(行く人)」になります。

こういった尾高型の形式名詞には発音の揺れがあり、頭高型になることがあります。
「こと」は尾高型ですが、「そんなこと言うなよ」は「ソンナコ\ト・ユ\ーナヨ」みたいに発音されることがあります。
特に「トキ\(時)」は頭高型で発音されることのほうが多いです。ぶっちゃけ、常に頭高型だと思ってしまっていいかもしれません。
こういったことは個人差が大きいので、自分の発音を内省して考えてみてください。

連体詞まわり

連体詞の中には「人、子」などの語と1つのアクセント単位を形成するものがあります。
たとえば、「その人」は本来「ソノ ̄・ヒト\」ですが実際は「ソノ\ヒト」と発音するのが普通です。
「あの子」も普通、「アノ ̄・コ ̄」ではなく「アノ\コ」と発音します。

アクセント単位が一つになったりならなかったり

アクセント単位が一つになるかどうかで揺れがあったり、それによって意味が変わったりするものもあります。
「良いらしい」には「イーラシ\ー」「イ\ー・ラシ\ー」の二通りの読みがありますし、他にもアルテ\ードorア\ル・テ\ード(ある程度)、イーカゲン ̄orイ\ー・カゲン ̄(いい加減)など色々あります。
「オンナ\ノコ」と言うと女子のことですが、「オンナノ ̄・コ ̄」と言うと、女の人の娘or息子のことです。まあ、後者のような表現を使うことは普通ないと思いますが。

形態素境界

形態素境界を強調するためにピッチを急激に下げることがあります。
例えば「非農耕社会」を「非+農耕社会」というニュアンスで言うときは、「ヒ」と「ノ」の間でピッチが下がります。
イメージとしては、「ヒ\・ノーコーシャ\カイ」みたいな感じです。

標準的なアクセントに違和感

自分のアクセントに不安があると参照するのがアクセント辞典ですが、そこに載っている標準語のアクセントに違和感を抱くことがあります。それもそのはずで、現代のアクセントは世代差・個人差が大きいのです。古い辞典になればなるほど違和感は大きくなるでしょう。

まとめ

ややこしいですね。
慣れです(投げ)

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たたむ
 
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Yudai Sensei

普段教えてることが大体全部きれいにまとめてあってまるで仕事している気分になりました()