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「どんなことでもトキポナで話せる」とはどういうことか

こんな人におすすめな記事

①そもそもこの記事の内容に興味のある人
②語彙数少ない系人工言語を自分も作ってみたいなと思っている人
③トキポナに興味ある人

そもそもトキポナってなんやねん

2001年にカナダ人の言語学者・翻訳家であるソニャ・ラング氏(トキポナ:jan Sonja)によって発表された人工言語です。おおよその語彙数が120~137語であり、複合語や派生は全くありません。一つ一つの語の意味範囲が非常に大きく、文意が漠然としたものになる傾向があります。たとえばilo kalama(音の道具)という表現は、「ラジオ、ベル、ホーン、楽器、ドラム、アラーム、ピアノ、ギター、スピーカー」など、さまざまな意に解釈されます。

前置きぃ

さてさてみなさんは、「トキポナは曖昧な言語なので、科学的な事柄を話せない」という話を聞いたことはないですか?
トキポナの公式書籍にも、そんな内容のことが記載されています。

Toki Pona has a rather narrow functions.(中略)it is impossible to translate a chemical textbook or legal document in the language without significant losses.(中略、途中改行あり)As an artistic language with limited means of expression, Toki Pona does not strive to convey every single facet and nuance of human communication.

雑な訳:トキポナの用途は少なめです。(中略)化学の教科書や法律文書を、重大な損失なく訳すことは不可能です。(中略、途中改行あり)表現手段の限定された芸術言語として、トキポナは人間のコミュニケーションのあらゆる側面やニュアンスを伝えることに努めません。

ところが近年のトキポナ界隈では、「どんなことでもトキポナで話せる」派の意見のほうが主流になりつつあります。

たとえば、有名なやつ(トキポナ界隈基準)だと、非ユークリッド幾何学についてトキポナで解説した動画とかがあります。

こんな曖昧な言語で、どんなことでも話せるってホントでしょうか?

そもそも、いろんな専門用語をトキポナに訳せるの?

この答えはイェスとも言えるしノーとも言えます。
最近の潮流では「イェス」というのが流行っていますが、これは一つの現象を別の側面から見ているだけです。

さて、トキポナが反lexificationの方針を取ってるのは周知の事実(トキポナ界隈基準)ですよね?

反lexificationっていうのは要するに「複合語を作らない」って意味ですが、その説明のために2021年に出版された公式書籍(ku)に掲載されているjan Likipi氏の言葉を引用します。ただ、これだけだと具体的なイメージできないかもしれないので、その具体例として2014年に出版された公式書籍(pu)からも引用します。

There are no hard-set compound phrase in Toki Pona. This is by design! Part of the goal of the language is for you to break down your surroundings from your own viewpoint and describe things dynamically, not use the same phrase to mean the same thing at all the time. Think about what the topic means to you, and consider what is important about it.(kuより引用。jan Likipi氏の言葉)

雑な訳:トキポナには固定的な複合語フレーズがありません。そういう設計なんです! トキポナのゴールの一つは、自分の周囲にあるものを自分の視点に分解し、ダイナミックに物事を描写することです。同じものを表すのにいつも同じフレーズを使うことではありません。その話題があなたにとってなにを意味するか、何が重要かを考えてください。

Toki Pona has strong focus on context. From the perspective of a passenger, a car might be tomo tawa (an indoor compartment that moves). The driver might see it as ilo tawa (machine for going). If you're crossing the street and - bam! - a car hits you, then it might be a kiwen tawa (hard object that moves).

雑な訳:トキポナでは文脈をとても注目します。乗客の視点では、車はtomo tawa(移動する室内空間)かもしれません。運転手はそれをilo tawa(移動の機械)と見るかもしれません。もしあなたが道を通っていて……、バン! 車があなたをひいたら、それはkiwen tawa(動く硬いもの)となるでしょう。

要するに、トキポナっていうのはめっちゃくちゃ主観的な言語なんです。
専門用語は厳密性を求めますが、トキポナではそんなもの求めていません。一つの事物を表す言葉も、その事物が自分とどのような関わりであるかによって、表現が変わるのです。

トキポナは複合語フレーズを嫌う傾向が非常に強いので、特定の概念を表す訳語が規定されることはありません。

では、専門用語を訳すことなんて無理なんじゃないでしょうか? いいえ、そんなことはありません。

専門用語の訳し方

たとえば、x, yが専門用語だとして、「xがyする」をトキポナに訳すときは、こんな言い方ができます:

『なになにはなんたらである。これをここでは「x」と名付ける。一方、どうたらはこうたらである。これをここでは「y」と名付ける。さて、xはyである。』

xやyの訳はその場限りのものです。例えば「角」を「uta palisa」(くちばし)と言ってみたり、「目的語」を「nimi ilo」(道具の言葉)と言ってみたり。xやyという訳語を導入する前後に、若干の説明を入れなくてはいけません。なぜなら、そういった訳語をそのまま使っても意味はほとんと通じないからです。(たまに恣意的な訳語をごり押しで使っている話者も見かけますが、ガチで読みにくいです。)xやyという概念の説明の際に他に専門用語が必要であれば、それについての説明も加えます。

こんなふうにして説明するので、普通の言語の1単語がトキポナの1文に相当するというのはザラで、極端な話、1段落に相当するなんてこともあります。

こういったメソッドについては、jan Telakoman氏の『jan li ken pana e sona ale kepeken toki pona』を一読することをおすすめします。とりあえずトキポナ版をリンクしましたが、「Literal English」ってとこクリックすると英語版も読めますよ~。

まとめ

要するに「どんなことでもトキポナで話せる」というのは、「専門用語の訳し方」で説明したように、概念の説明がうまくなるということです。

だからトキポナでは基本的に、自分のよく知らないことについて話せません。(そういう意味では、「どんなことでも話せる」は偽だと言えるでしょう。)

たとえば日本語では、たとえ物理学についてあまりよく理解していなくても、「ぼくらは3次元の世界に住んでる。」みたいなことが言えます。ところが、トキポナで「3次元」を正確に表現するためには、「3次元」がなんたるかを知っている必要があるのです。

……私はトキポナがとても好きですが、これはトキポナの欠点になりえるポイントだなと思っています。
長所として考えると、自分がその物事について本当に理解しているかを確認することができます。
短所として考えると、自分の詳しくない物事に対する解像度が極端に低くなります。

なんでも使い方次第。トキポナも使い方次第です。

人気順のコメント(2)

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shirosuke_2 profile image
しろすけ2号

今度「『どんなことでもパニパニで話せる』とはどういうことか」って記事でも作ってみようかしら。

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nsopikha profile image
ンソピハ

ぱ、パニパニで……!?
まずは非ユークリッド幾何学とかをパニパニで解説することで、それを証明する必要がありそうですね……(笑)
pona tawa toki Panipani!(訳:パニパニに幸あれ)