このページに表示されている自言語は全て音素表記です。日本語訳は拙訳。
本文
Álisan, tʃínʁa ksat, dǿnlutit ȳʃuf roggúdm pimóʁak svir bínan lyʁvī́ ranés bupl sḗnsat. Vō ani gam fli den ksvibr ʃéspra tukóʁdu, jāk razʁénak tʃitsép lyʁvī́, "tōn ʁlott ʃespr" Ális nǿudut "razʁéntʃip ek tʃitséptup?"
原文
Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, "and what is the use of a book," thought Alice, "without pictures or conversations?"
解説及びグロス
Ális-an, tʃínʁ-a ksat, dǿnlut-it ȳʃuf roggúdm pimóʁ-ak svir bín-an lyʁ-vī́ ranés bupl sḗn-sa-t.
Alice-ACC bank-IND.POS on sister-DEF.GEN around directly sit-INS thing do-DAT non.exist-NOM fill excessively begin-CONT-ACT
アリスは川辺で(ただ)お姉さんの隣で座って何もすることがないのに退屈し始めていました。
初っ端から非常に難しい文なのですが、骨子は
Ális-an pimóʁ-ak lyʁ-vī́ ranés bupl sḗn-sa-t
アリスは座ることとないことに退屈し始めていた。
ですね。「退屈する」というのは退屈している人を対格に取る ranés bupl という動詞句を使って表します。ranés は満たす、bupl は「~すぎる」という意味で ranés bupl は「満たしすぎる」みたいな感じになりますね。(英語の be fed up with とかを思い浮かべてもらえれば分かりやすいかと思います) bupl は英語の too と同じように下のような使い方もできます。
Sa ʃéspr-a ʃǿlur bupl.
this book-DEF thick excessively
この本は分厚すぎる。
そして主語の pimóʁ-ak lyʁ-vī́ ですが、lyh (存在しない) が主格になっていて pimóh (座る) は具格になっています。具格には「~と一緒に」やさらに単に「~と」のような用法があり、同じ格が期待される句が並列されるとき往々にして最後以外の句は具格になります。
sēn は動詞の(不定詞の)与格を伴って「~し始める」という意味です。自動詞で「来る」という意味で使うので英語の come to do と似たような感じですね。また、「し始めていた」という表現であるにも拘わらず単純な進行相として表されていますが、実はこの言語には時制が存在しません。ただし完結相を単純過去の意味で使うことはあります。
より細かく見ていきましょう。tʃínʁa ksat は「土手の上で」です。tʃínʁ (土手)は後置詞格になっていますね。ksat は後置詞格支配の後置詞でしたが属格支配(多分一番多い)とか他の格のものもあります。
dǿnlut-it ȳʃuf roggúdm は「お姉さんの隣で」。ȳʃuf roggúdm はセットで「~の隣で」という意味の後置詞で、属格支配です。「姉」は dǿnlut と訳されていますがこれよりも den (年上のきょうだい)の方が一般的な語です。実際、これより後では基本的に den が使われています。
Vō ani gam fli den-∅ ksvib-r ʃéspr-a tukóʁ-du, jāk razʁén-ak tʃitsép-∅ lyʁv-ī́, "tōn ʁlot-t ʃespr-∅" Alis-∅ nǿu-du-t "razʁén-tʃip ek tʃitsép-tup?"
one or two time sister-DEF.POS read-REL.CONT.3 book-DEF.ACC peep-PFV.ABL 3INANM.GEN picture-IND.INS conversation-IND non.exist-ABL INTER.DAT use-ACT book-IND.ACC Alice.NOM think-PFV picture-IND.ABE and conversation-IND.ABE
一度か二度お姉さんが読んでいる本を覗き見してみましたが、そこには絵も台詞もなかったので、「絵もおしゃべりもない本なんて一体何の役に立つのかしら」とアリスは思いました。
次の文に移ります。文全体の構造は前文より分かりやすいと思います。
den ksvibr ʃéspra は関係節の den ksvibr が ʃéspra を修飾している形になります。一般に形容詞句は後置されますが関係節は前置されます。(正確には前置されるわけではないですが詳細は省きます。)また、関係節の主語は後置詞格をとります。(den の場合後置詞格も主格も形は変わりませんが……)
tukóʁdu の -du という接尾辞は「完結相(不定詞)の奪格」を表す接尾辞で割と頻出なので覚えておいて損はないと思います。(完結相に限らず)(動詞の不定詞の)奪格は、「~なので」ないし「~{した/していた}ところ」などの用法で用いられます。
A(属格) B(無標の格) jāl/lýʁvil という構文は「AがBを持っている」ないし「AにBがある」を意味します。この場合 jāk は ʃéspra を指していて、「本に絵とおしゃべりがある」ということですね。
"tōn ʁlott ʃespr" Alis nǿudut "razʁéntʃip ek tʃitséptup?"
の部分は少し分かりにくいかもしれません。
従属節が分裂しているのをもとに戻すと
Alis nǿudut "tōn ʁlott ʃespr razʁén-tʃip ek tʃitsép-tup?"
さらに従属節の中が VO 語順になっているのを一般的な OV 語順に戻すと
Alis nǿudut "ʃespr razʁén-tʃip ek tʃitsép-tup tōn ʁlott?"
です。(原文と同じような語順が許容されていて、そうすることで原文と同種の「引き」を作ることができるのでこのような非標準的な語順で訳出しました)
従属節の文は(暗黙の主語が省略されているわけでもなく)主語が存在していません。これは何かしらの一般論を表す場合などに頻繁に用いられる表現で、今回の例の場合「(誰というわけでもなく一般的に人は)絵と台詞のない本を何に使うのか?」ということです。日本語訳するときは受動態として訳した方が分かりやすいかもしれませんね。(「絵と台詞のない本は何に使われるのか?」)
主語がない文の述語の動詞は三人称の形をとります。
また、本という単語が "ʃéspra" と "ʃespr" の違う形で二回登場しています。この言語には定性の概念(英語の a/an と the の区別のようなもの)が存在していて、定なものと不定なものでは語形が異なります。この例だと、「絵と台詞のない本は何に使われるのか?」というときの「本」は特定の本ではありませんから、不定である "ʃespr" が、「お姉さんが読んでいる本」はある特定の「本」ですから定である "ʃéspra" が用いられています。
しかしながら、定と不定で語形が変化しない場合も多いことも事実です。(し、実際この記事でもここに至るまで触れる機会はありませんでした)ですがだからこそ定と不定で語形が変化する名詞にはしっかりと注意を向けるようにしましょう。
(今回は記事が長くなってしまいましたが、今後過去の記事で紹介した文法や語法に関しては重ねて解説することはないと思いますので今後はもっとテンポよく記事を投稿していけると思います)
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