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何溥嘉(pal Puka)
何溥嘉(pal Puka)

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イスクイル3の単語の分解が楽になるかもしれない話 1

 Attál.
 初めてイスクイルの単語を造語してから2年くらいになります。
 最近、日本語圏のイスクイル学習者が増えてきてとても嬉しい限りです。

Formative 分解はむずかしかった

 学習を始めたばかりの頃、Formative の分解に手こずりまくった覚えがあります。長い単語だとどこが語根かわからなかったり、語根かと思ったら VxC だったり、なんか変だな🤔と思ったら Formative じゃなくて Personal Referential Adjunct だったり。
 そんななか、ふと横(?)を見ると、ロジバンは「gismu(品詞の1つ) は CCVCV か CVCCV のどちらか」とか「cmavo(これも品詞の1つ) は語頭にしか子音がない」みたいな規則があり、これのおかげで見た瞬間に品詞の判定ができるようになっています。
 イスクイルもこういう風にできたらいいですよね。「単語をもっと単純化したモデルのようなもので捉えられないか?」と。

 今は、学習し始めた頃よりは遥かに速く単語を分解できるようになってきました。(それでも日常会話には遠く遠く及ばないけど!) それで思うのは、丸暗記とか機械的な処理だけじゃなく「阻害音は硬いよね」みたいな感覚を大事にしたほうが(私には)よかった、ということです。

「軟らかい子音列」

 文法書で接辞や語根の一覧を見ていると「語根や VxC のような内容的な意味を持つ部品には k, s, d のような"硬い"音が含まれがち」「Ci+Vi のような補助的なパーツには w, y, h のようなほとんど気流を阻害しない、"軟らかい"子音が使われがち」「w が現れうるところには h も現れうる」のような傾向が見えてきます。

 ここで「軟らかい子音列」を下のいずれかを満たすものと定義してしまいます:

  1. /h/, /w/, /y/ のいずれかが先頭であるもの。
  2. /'/ の後に1個以上の子音が続くもののうち、そこが語末ではないもの。

 2つめの条件に「そこが語末ではない」ことを含めたのは、bias 接辞を除外するためです。bias 接辞は語末と決まっていて、それ以外の部分の構造に全く影響しません。モデル化するときは ' と後の子音をまとめて消してしまいましょう。eqala も eqala'r も同じく《VCVC》でいいんです。
 それから、pa'el や çtâ'el などの母音に挟まれた ' はいろんな使われ方をして厄介なので、今のところは別に《'》として立てておきます。

部品を分類してみよう

《w》 軟らかい子音列
《h》 中間にハイフンがある子音列
《'》 単独で現れる、あるいは他の子音とともに語末に位置する '
《C》 それ以外の(普通の?)子音列
《V》 母音列

この規則に従っていくつかの formative (など)をモデル化してみましょう。

  • lel 《CVC》
  • pstwoirpt'《CVC》
  • tiva《CVCV》
  • tiwa《CVwV》
  • eqalex《VCVCVC》
  • e'qalex《V'CVCVC》
  • n-nruipʰawâtļûxe'ň《hVCVwVCVCV》
  • uorödyoi'gzuxhařçiámtixtou《VCVCV'CVCVCVCVCV》

 ここで重要なポイントは、モデルが同じならほぼ必ず品詞も同じで、単語の構造も大抵同じ になる、ということです。
例えば最初の2つの例、lelpstwoirpt' は文字数も音素も全く異なりますが、モデルはどちらも《CVC》であり、両方とも Formative に属します。
一方、tivatiwa は、音が似ているけれどモデルが異なり、品詞も異なります。tiva は Formative ですが tiwa は Personal Reference Adjunct です。
 最後の例語、uorödyoi'... は公式に登場する最長クラスの Formative です。ほぼ《C》と《V》しかなくカチカチした印象ですね。このカチカチ感が Formative の特徴です。
 慣れてくると単語を見た時にこの《C》とか《V》ごとに色分けされて見えたりもすると思います。いやそんなことはないけど、そういう気持ちで見てみるのも、ぽなです。

品詞判別

「formative を高速で分解する」と銘打って記事を書き始めましたが、それ以前に formative かどうかを判定する必要がありました。
モデルから品詞判別をする方法をざっと解説していきます。

イスクイルの品詞は、公式文法書に登場する順に Formative, Verbal Adjunct, Personal Reference Adjunct, Aspectual Adjunct, Affixual Adjunct, Bias Adjunct, Case Adjunct の7つがあります。
短くて簡単なものから順に解説します。

Aspectual Adjunct

 Aspectual Adjunct は《V》です。
 母音のみからなる語です。ö, ai, eo などですね。

Bias Adjunct

 Bias Adjunct は《C》です。
 子音のみからなる語です。z, pff, šš など。これも簡単。

Affixual Adjunct

 Affixual Adjunct は《VC》です。
 asq, ied, ûlţ など。

Case Adjunct1

 Case Adjunct は (母音列)+/w/+母音列 あるいは (母音列)+/y/+母音列 の形をしています。例えば wê, woi, êya などです。
 Case Adjunct に登場する母音列は /w/ と /y/ だけです。
 《w》のグループには他に /h/, /hw/, /hn/ などが入りますが、これらを使った hê, ahwoi, ehno などは Personal Reference Adjunct に属します。「モデルが同じなら ほぼ必ず 品詞も同じ」の例外がこれです。

Verbal Adjunct

 これまでに説明した品詞の語は長くて5字程度でしたが、ここからは長いものが出始めます。短いものは r-r、長いものは hruštrul-lyö’ň くらいです。
 長くなったら、語末で見分けましょう。
 Verbal Adjunct は語末が《h(V)》であることで判別できます。pal-lši, hruštrul-lyö’ň など。

Personal Reference Adjunct

 ひとつには《CV》《wV》《VCV》《VwV》のどれかの形であれば Personal Reference Adjunct です。no, , êti, aqri など。
 語末《-wV》あるいは《-'V》であることでも判別できます。raleowa, foteuye’çç, ta'e など。
 もう少し感覚的に言うと、最も語末に近い子音列が《C》ではなく《w》か《'》で「軟らかい」ということです。ラテン文字列の右端を触ったら軟らかい感じ。

Formative

 上記のどれでもないものが Formative です。
 最も語末に近い子音列が《C》であり、全体に《C》が2箇所以上あるもの、もっと感覚的には「綴りの末尾が硬い」ものが Formative です。
 eqal, ükšoawîl, izkaluntekra, uorödyoi'gzuxhařçiámtixtou とか。長い Formative はいいですね。

以上で品詞の判別は終わりです。お疲れ様でした。

品詞判別を Google スプレッドシートにやらせよう

とりあえず作ってみました
REGEXREPLACE でほぼすべてを解決しています。
単語として成立しない文字列を入れられた場合には、エラーを吐いたりせずに強引にどれかの(間違った)品詞を返してきます。単語が正しいか正しくないかの判断には役立ちません。

Formative の語根の位置について

 bias 接辞があれば取り除いてから語末を見ます。
 単語が母音列《V》で終わっていれば、その母音列が slot XII の Vf にあたります。単語が子音列《C》で終わっている場合は、slot XII の Vf は暗黙の値として -a- を持ちます。
 この Vf は Format (と Context) を表します。公式文法書の Table 23 を見ると、左の (a), i, e, u の列の Format が None となっています。
 Format とは2つの語根の複合のしかたを決めるものですから、Format が指定されていないなら副語根が無く、単語が持つ語根は主語根1つだけです。
 Vf が (a), i, e, u の場合は、副語根(Cx) はなく、単語に含まれる語根は1つ。それ以外の場合は、副語根を持つので語根は2つ。と覚えておいてください。2 なおこれにも僅かに例外があります。3

 これで取り出すべき語根の数が分かったので、語根の位置がどこかを調べます。
 形態式の最初の7個の slot を見てみると、

((([I]:Cv +) [II]:VL +) [III]:Cg/Cs/Cn +) [IV]:Vr + ([V]:Cx/Cv + [VI]:Vp/VL +) [VII]:Cr ...

となっています。(太字部分が語根です)
 ここで slot III に入りうる Cs はハイフンを含む特徴的な形の《h》で、Cg と Cn は見るからに軟らかい《w》です。
 大抵の場合、語根は、語頭から最も近い《C》になります。(例外がある 4) 綴りの左側から手を入れたときに初めてコツンと何か硬い感触があって、あ~これか~となる感じです。(もし slot I《C》が埋まっていれば、slot III は Cs《h》で埋まります。それより後に出てくる最初の《C》が語根です。)
 で、語根に触れたらそれを取り出します。取り出すべき語根の数が2個である場合には、今取り出したものは副語根 Cx ですから、もう少し奥まで手を伸ばして主語根 Cr も取ってあげてください。

 と、こういう感じで考えると、少しとっつきやすくなるかもしれません。

 工学言語の文法書って、コンピュータ内部の処理のように淡々と厳密に事実だけを書かれがちですよね。もちろんそういうスタイルが心地よい人もいると思います。Formative の形態式を呪文のように暗記するとか、自らが構文解析器 (ゲントゥルファヒ) になったつもりで読むとか。
 でも、私はそういうのじゃない工学言語との触れ合いを大切にしたいです。
 「Verbal Adjunct の一番右端のほうにハイフン入り子音列《h》があるの、なんかバネかピストンがついてるみたいな感じで触ってみたいよね」5 とか。
 今回は質感とか触覚の語彙が多くなりましたが、色とかオノマトペとか、似合う音律とか、単語を潰したときの粒子の細かさとか、ウオロェデョイとか! そういう話もしたい。してほしい。

 今回の記事は説明があまり厳密でなく、かといって初心者向きでもなく、中途半端になってしまったかもしれません。
 あとで続編とか補足とかを書ければ書きたいところです。
 皆さんもいろんな人工言語との、いろんな形の触れ合いを語ってください。
 おわり!


  1. 公式文法書の本編ではなく Updates/Changes のページでひっそりと解説されています 

  2. 例えば eqalexa, eqalexi, eqalexu, eqalexe, eqalexo の5語があるとき、最初の4つは Cx を含まないので構造式は Vr-Cr-Vc-Ca-VxC-Vf になります。eqalexo だけは Vr-Cx-VL-Cr-Vc-Ca-Vf です。ややこしいですね。 

  3. Format は複合のしかたをざっくりと9種類に分けるものです。9種類の中では伝えたい意味が表現できない!という場合には、Format Expansion Suffixes を使って、比較格類を除く72種類の格から選んで複合させることができます。(公式文法書の7章の最後で解説されています。) この構文で1~9格のどれかを選んだ場合には、Vf が a, i, e, u のどれかなのに副語根があるという例外の状態になります。素朴にイスクイルを使っていて遭遇することはあまりないでしょうけど……。 

  4. slot V, Vi を Cv, Vp が埋める場合は、slot IV の母音列の直後に ' があるので見分けがつきます。 

  5. Verbal Adjunct をぽにぽにする 

古い順のコメント(1)

たたむ
 
nsopikha profile image
ンソピハ!

ほんわかした説明に癒されました、ありがとうございます(?)