Migdal

Ziphineko / Ziphil 🐱🐰
Ziphineko / Ziphil 🐱🐰

投稿

シャレイア語の数詞ができるまで

これは語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2022 の 11 日目の記事です。

直前まで何について書こうか決めかねていましたが、シャレイア語で結構苦労した数詞について書いてみようと思います。

人工言語の数詞を作る際に決めなければいけないことは、大きく分けて「数をどう表記してどう読むか」と「数詞を文法的にどう扱うか」の 2 つです。どちらも特有の難しさがあって、シャレイア語はどちらについても紆余曲折がありました。両方について語りたいところですが、ここでは数詞の文法的な扱いの方に焦点を置きます。

以降はシャレイア語の話をするわけが、シャレイア語の具体的な単語を出す代わりに、山括弧で単語の意味を囲むことでその単語を表すことにします。シャレイア語の単語は時代によって綴りが異なることがあるので、そのせいで同じ意味にも関わらず記事内での表記が変わり、余計な混乱が生まれるのを防ぐためです。また、読者が記事を読んでいる最中でシャレイア語の単語を覚える手間を省くためでもあります。

最初の試み

初期のシャレイア語の数詞はかなりナイーブで、数詞を名詞の前に前置することで、その名詞の個数を表せることになっていました。つまり、〈3〉〈リンゴ〉という並びで「3 個のリンゴ」を表していたわけです。英語と同じですね。

では順番はどのように表していたかというと、〈番目〉という名詞に数詞を前置させ、〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈番目〉という並びで「3 番目のリンゴ」を表していました。シャレイア語は後置修飾をするので「3 番目」の部分が後に置かれますが、それを除けば日本語の「3 番目のリンゴ」と全く同じ表現方法だったわけです。

  • 3 個のリンゴ → 〈3〉〈リンゴ〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈番目〉

基数と序数がパラレルに

今述べた数詞の用法では、「3 個のリンゴ」という基数表現は数詞を直接前置して〈3〉〈リンゴ〉と表現できますが、「3 番目のリンゴ」という序数表現は〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈番目〉という少し長い表現をしなければいけません。

この不統一が気になったので、〈個〉という単語を用意して、「3 個のリンゴ」を〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈個〉の並びでも表せるようにしました。

  • 3 個のリンゴ → 〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈個〉/〈3〉〈リンゴ〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈~の〉〈3〉〈番目〉

数詞が形容詞に

ここまでは数詞は名詞として扱われていて、例外として数詞名詞は〈リンゴ〉や〈個〉のような別の名詞に前置できることになっていました。これはよく考えると、数詞が名詞に係っていると考えることができます。したがって、数詞を形容詞として扱えば例外規則を設ける必要がありません。シャレイア語の文法はできるだけ少ない規則から導けるようにするのを目指していたので、例外規則を消すことができるこのアイデアはすぐに採用されました。

ただし、形容詞は名詞に後置するので、数詞の語順が変わり、「3 個のリンゴ」は〈リンゴ〉〈~の〉〈個〉〈3〉の順番に、「3 番目のリンゴ」は〈リンゴ〉〈~の〉〈番目〉〈3〉の順番になりました。

  • 3 個のリンゴ → 〈リンゴ〉〈~の〉〈個〉〈3〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈~の〉〈番目〉〈3〉

縮約形の導入

基数表現と序数表現はよく使うので、〈~の〉〈個〉と〈~の〉〈番目〉の部分に対して、それぞれ語形の短い縮約形として〈基数標識〉と〈序数標識〉を用意しました。これは独立した単語ではなく後続する数詞と常に一緒に使われる拘束形態素1なので、そのことが分かるように〈基数標識 | 3〉のように数詞とくっつけて表記することにしましょう。

この変更によって、〈リンゴ〉〈~の〉〈個〉〈3〉と〈リンゴ〉〈~の〉〈番目〉〈3〉と言う代わりに、〈リンゴ〉〈基数標識 | 3〉と〈リンゴ〉〈序数標識 | 3〉と言えるようになりました。代わりに、縮約形でないもともとの形は個数や順番を強調する言い方になりました。

この変更で、〈基数標識〉が付いている数詞は基数詞で、〈序数標識〉が付いている数詞は序数詞という意識が強まり、〈基数標識〉か〈序数標識〉のどちらかが付いた全体で 1 つの数詞という認識になりました。

  • 3 個のリンゴ → 〈リンゴ〉〈基数標識 | 3〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈序数標識 | 3〉

単位付きの数での問題

「3 kg」のような単位付きの数詞を表すのには、基数詞を使って〈kg〉〈基数標識 | 3〉と言っていました。英語でも 3 kilograms なのでこれは自然です。

しかし、これは問題がありました。同じように「3 °C」を表そうとすると〈°C〉〈基数標識 | 3〉となるわけですが、3 °C は 1 °C を 3 つ集めたものではないので、基数を使うのは妙です。かといって序数を使うのはもっと不自然です2

ここで、〈基数標識 | 3〉が〈~の〉〈個〉〈3〉の縮約であることを思い出します。この縮約前の形では、単独の数詞〈3〉が名詞〈個〉に直接係っています。そこで、これと同じように、「3 °C」を表すのに単独の数詞〈3〉を名詞〈°C〉に修飾させ、「3 °C の水」は〈水〉〈~の〉〈°C〉〈3〉のように言えば良さそうです。「3 個のリンゴ」と「3 °C の水」が同様の表現方法になるわけですね。

これをより厳密な規則にするために、「単位名詞」という特殊な名詞分類を設定し、数詞は常に単位名詞に係る形で使われることにしました。

  • 3 個のリンゴ → 〈リンゴ〉〈基数標識 | 3〉/ 〈リンゴ〉〈~の〉〈個〉〈3〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈序数標識 | 3〉/ 〈リンゴ〉〈~の〉〈番目〉〈3〉
  • 3 °C の水 → 〈水〉〈~の〉〈°C〉〈3〉

単位付きの数が何について述べているのか

これでもまだ問題がありました。例えば「3 cm の」と言ったときに、長さが 3 cm なのか厚さが 3 cm なのか深さが 3 cm なのか分かりません。

これを解消するため、単位付きの数詞は名詞ではなく形容詞に修飾させ、その形容詞の程度を表すということにしました。つまり、長さが 3 cm であることを言いたい場合は〈長い〉〈~の〉〈cm〉〈3〉と言い、厚さが 3 cm であることを言いたい場合は〈厚い〉〈~の〉〈cm〉〈3〉と言うことにしました。

しかし、これを採用すると、基数と序数の表現と整合性がとれなくなるので、基数と序数の表現もこの形に修正する必要があります。そこで、基数はものの多さを表すことから、形容詞として「多い」を用いて「3 個のリンゴ」は〈リンゴ〉〈多い〉〈~の〉〈個〉〈3〉と言うことにしました。また、序数は最初から数えてどのくらい後にあるのかを表すことから、形容詞として「後続する」を用いて〈リンゴ〉〈後続する〉〈~の〉〈番目〉〈3〉と言うことにしました。これによって、数詞を使う全ての表現が同じ枠組みに載せられます。

縮約形として導入された〈基数標識〉と〈序数標識〉の定義もこれに合わせて変え、それぞれ〈多い〉〈~の〉〈個〉と〈後続する〉〈~の〉〈番目〉と同じ意味だとしました。これによって、基数と序数を用いた表現は、これまで通り〈リンゴ〉〈基数標識 | 3〉と〈リンゴ〉〈序数標識 | 3〉のように言うことができます。

  • 3 個のリンゴ → 〈リンゴ〉〈基数標識 | 3〉/ 〈リンゴ〉〈多い〉〈~の〉〈個〉〈3〉
  • 3 番目のリンゴ → 〈リンゴ〉〈序数標識 | 3〉/ 〈リンゴ〉〈後続する〉〈~の〉〈番目〉〈3〉
  • 3 °C の水 → 〈水〉〈熱い〉〈~の〉〈°C〉〈3〉
  • 3 cm の厚さの本 → 〈本〉〈厚い〉〈~の〉〈cm〉〈3〉

これが現在のシャレイア語の数詞の用法です。この「形容詞+〈~の〉+単位名詞+数詞」という形はほぼ全ての数詞の用法をカバーでき、私自身もかなり納得しているので、おそらくシャレイア語の数詞の用法はこれで確定でしょう。

終わりに

以上がシャレイア語の数詞の用法の変遷です。数詞をナイーブに名詞に前置させるところから始まって、現在の「形容詞+〈~の〉+単位名詞+数詞」という枠組みに落ち着くまでの紆余曲折が伝われば幸いです。

この記事での説明は分かりやすいようにかなり細部を省略しています。もっと詳しい数詞の変遷の様子はシャレイア語日記 H2402 にまとめられているので、興味が湧いた人はこれを読んでみてください。


  1. 単独の単語としては使われず、他の単語と一緒に使われて始めて何らかの意味を表せるようになる形態素のこと。Wikipedia などを参照。 

  2. この辺りの問題に気づいたのはちょうど『入門 シャレイア語』の執筆中でした。そのせいで出版が数ヶ月遅れることになりました。ちゃんと数詞の用法を固めてから出版できたので良いことですけどね。 

古い順のコメント(0)