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ミニマム単位『音素』を作ろう!

 こんにちは、pakuです。

 つい先日投稿した『コトバには単位があるらしい』という記事、僭越ながらたくさんのご評価賜りました。
 嬉しいことに私の尊敬する方からも読んでいただけて、誠に欣快の至りといったところ。
 今日も今日とて執筆していきたいと思います。

 さて。今回の内容は、とうとう創作言語『エトゥレ語』の『音素』作成に取り掛かっていきます。
 最後まで読んでいただければ幸いです。



『音素』って何だっけ

 前記事『コトバには単位があるらしい』を読んでくださった方、ありがとうございました。

 そこで私は、言語における『単位』の話をつらつらとさせていただきました。

 ですが、この記事を読んでくださっている方の中には「私まだ読んでないよ!」という方もいらっしゃると思います。

 そのため、今回作る『音素』についてのみ、ざっくりと復習していきましょう。

※前記事を読んでくださった方は読み飛ばしても結構です◎

 『音素』とは、言語における最小の単位。

 限界まで噛み砕いて説明すると、aとかbとかそういうのです。

 何言ってんだこいつ、って感じだと思うので、もう少し詳しく。

 説明にあたって、一度頭の中でローマ字を想像してください。
 できましたか?

 では問題。ローマ字でaと書いたら何と発音するでしょうか?

 そりゃあ当然「あ」ですね。

 第二問。kとiを並べると、何と発音するでしょうか?

 これはもちろん「き」です。

 最後、第三問。sとyとuを3つ並べると何と発音すべきでしょうか?

 正解は「しゅ」。

 全問正解できましたか?
一見小学校のローマ字の授業レベルの難易度ですが、実はここに『音素』という考え方が大いに隠されているのです。

 私たちが何の疑問も持たずに使っていた、a,k,i,s,y,uみたいなアルファベット。
 これらはすべて、「あ」「き」「しゅ」といった音を構成する要素です。
 逆に言えば、音を分解したら出てきた文字ということも言えますね。

 そういう音として存在する限界のことを『音素』と呼ぶのです。

 『限界』という言葉では分かりにくいかもしれませんが、要するに「これ以上分けたら音が消えてなくなっちゃうよ~」レベルで発音を細かく割り算したもの、だと思っていただいて結構です。

 そのため、音素は言語における『最小単位』と呼ばれています。この記事のタイトルはそういう意味ですね。

 前記事『コトバには単位があるらしい』では、創作言語を作ることにおいて「何から作り始めたらいいかな〜」と考え、結果的に音素から作るべきだということにたどり着きました。

 というわけで、この記事では創作言語『エトゥレ語』に使用する音素を考えていきましょう!!



ダルい英語の音素

 何かを創作するとき、0からいきなり1を生み出すのは少し困難です。言語の創作となればなおさら。

 なのでここは一つ、世界の代表言語である英語をサンプルとして用意してみましょう。

 というわけで英語の音素の数を検索してみました。
 すると、出てきたページにはこんな結果が。

 英語の音素一覧(20母音+24子音=44音素):
 /iː/, /ɪ/, /e/, /æ/, /ʌ/, /ɑː/, /ɒ/, /ɔː/, /ʊ/, /uː/, /ɜː/, /ə/, /eɪ/, /aɪ/, /ɔɪ/, /əʊ/, /aʊ, ɑʊ/, /ɪə/, /eə/, /ʊə/; /p/, /b/, /t/, /d/, /k/, /g/, /ʧ/, /ʤ/, /f/, /v/, /θ/, /ð/, /s/, /z/, /ʃ/, /ʒ/, /h/, /m/, /n/, /ŋ/, /l/, /r/, /w/, /j/
(引用元:
Keio University
http://user.keio.ac.jp › ~rhotta › hellog)

 ……おかしいな、アルファベットは全部で26個のはずなのに。音素の数がそれより多いってどういうことだ……?

 あ!そうか!

 aという一つにフォーカスしても、「ア」とか「ェア」とか「エィ」とかいっぱいあるからか!

 それにthとかxとか、特殊な発音も区分されてるからここまで増えているのか……
 それに長音の扱いも母音と一緒にまとめられてるからもっと増えている……
 なんなら日本語のカタカナじゃ書き表せないような発音まである……

 うーん…………

 ……………………

 ……一つにいっぱいあるとかめんどくさ!!ナシ!!

 というわけで、私の言語ではこういうルールを設けることにします。

1.文字一つにつき音素は一つまで(文字と音素は単射)

 これで「chなのに"ク"とも"チュ"とも"シュ"とも読むの!?はあ!?」のような理不尽な発音がなくなりましたね!やったぜ!



必要なのは『オリジナリティ』!

 では早速使用する音素を用意しましょう。

 現在の章のタイトルにもある通り、ここでは私の独創性を存分に発揮させてやりたいと思います!
 他の言語にはないユニークさをたくさん持たせるということを常に意識してやっていくので、みなさん振り落とされないように付いてきてください👍

 まず初めは母音から作っていきましょう。

 日本語の母音素はa,i,u,e,oの5つ。
これに則してみてもいいのですが、それじゃあオリジナリティが足りない!ナンセンス!

 なので思いきって、母音を減らしてやりましょう!!

 でも減らす音はどれにしようかな…
 せっかくならスパッと消しちゃいたいので、u,e,oの3つとかどうでしょう?「あ」とか「い」とかの発音がない世界…これもまた面白そうですよね!

 じゃあ逆に母音を作ることもできるのでは?それも面白そう!!やってみます!!

 うーん、どうしようかな。

 うーん……

 ……………………

 あ、そういえば。

 日本語で「イェーイ!」と言うとき、「イェ」の部分って「イ」と「ェ」で発音してる感じないですよね。
 yの音に母音のeがくっ付いてると考えるのが、英語のスペリング的にも自然です。
 
 それに、思い返せば英語でyは子音。でも日本語の文字としてみたら、「イ」も「エ」も母音。
 言語によってy音の分類は異なるということなのでしょうか?

 言われてみれば、"rhythm"という英単語を見てみると、rもhもtもmも子音。ということは唯一「リズム」の「リ」の発音を構成するiの母音係はyの一文字が一任しているということになりました。
 ということは、英語のyはときに母音になることもあるってこと……?

 うーん……

 めんどくさいからyも母音にしちゃえ!!

 エトゥレ語においては、「イェ」からeの音を抜き去った「イュ」みたいな音、これを母音にしてみたいと思います。

 というわけで、母音素はu,e,o,yの4つ。

 すごいインパクトのある並びですね。
 これぞオリジナリティの塊っ!!!(自己満足)

 余談ですが、とある消費者金融カードローンのCMで、

「この世から愛がなくなってしもうたら、あ行は『う』と『え』と『お』だけになってしまう」

 的なことを言っていたのを思い出しました。

……別にエトゥレ語に愛がないわけじゃないですからね?

 気を取り直して、お次は子音ですね。

 みなさんも知っての通り、多くの言語では子音字は母音字よりも多くなります。

 「エトゥレ語はその枠組みも乗り越える!なので子音は3つにしちゃろう!」

 というのはちょーっと非現実的なので、則るべきイデアには則っておくことにしましょう。逆張りは身を滅ぼします。

 まず私の名前が「paku」なので、pとkは欲しいです。
こうしないと作者の名前が書けませんからね……

 ……母音にaがないからどっちにせよ書けない?

 ま、、まあ、母音なんて後でどうとでもなるでしょう。これもオリジナリティです。(訳:完全に忘れていました)

 とまあ、まずは2つの子音が確保されました。

 ついでに「エトゥレ」という語も書き表せるようにしたいので、TとLも使います。

 これで4つになりましたね。

 後は何にしようかな〜……そうだなあ……

 そういえば、最初に投稿した『ごあいさつ』にて、私がこんなことを書いたような気がします。

「エトゥレ語においては、『同じ舌の位置に来る文字は点で違いを表す』という表記の仕方をします。」

 ということは、舌の位置(拡大解釈すれば唇などの口の形)が同じである子音は作っていいということです。

 じゃあTと同じ舌の位置にある音は……

 DとLですかね。これも確か『ごあいさつ』で紹介した気がします。
 同様にして、PはBと同じ、KはGと同じ。

 これで7個できました。

 うーん、増えはしましたがまだ欲しいですね。

 じゃあ適当にS、H、Vも登場させてやりましょう。

 SはZと、HはFと、VはWと似ているので、これで6つ増えて13個。だいぶ様になってきた頃なのではないでしょうか。

 と、ここまで作っておいて気が付きました。

 これでは既成の音素を使っているだけで、オリジナリティがない!と。

 何か1個でも特殊で突飛な子音が欲しいですね〜……

 そうだなあ、たとえば、唇や舌先を使わずに舌根を口腔に押し当てて出す音とか。

 マストで有声音になりますし、発音も絶妙に難しそうで面白い。

 じゃあ発音してみましょう。実際にやってみました。
 

「んぐ、ん、にゅ、にぅー……」

 文字起こしするとなんだか間抜けな感じがしますね。

 まあでも、おかげで分かりました。
 舌根だけ使って出せる音は、nっぽい音ですね。

 ただ単純なnの音でもなさそうです。
鼻濁音というか、少しyやgの音が干渉しているように聞こえました。

 この音に名称をつけるなら……ny、とかが無難でしょうか?

 「ニュ」とも「ニャ」とも付かない微妙な子音。
いいオリジナリティが出てるんじゃないですか?

 てなわけで、nyも晴れて子音の仲間入りです!
これくらいあればエトゥレ語には十分ですかね〜

 結果、t,d,l,p,b,v,w,s,z,k,g,h,f,nyの14個の子音ができました!!

 こう見ると面白いですね。言語そのものには存在しない音素がある、というのもまた文化的な何かが垣間見えますし、これからこれらの音素を使ってどんな単語が生まれてくるのか楽しみです。



音の次は文字!

 今までの「音素を作る」というフェーズでは、音を表す記号としてアルファベットを用いてきました。

 それは、「『クッ』という音」と表現するより「kの音」と言ったほうが分かりやすいからです。

 もっと簡単に言うと、『き』という音を分解すると「『クッ』と『イ』の音になる」と言うこともできるけど、「『k』と『i』の音になる」と言ったほうがローマ字履修者としてはありがたいよね、ということです。
 それに日本語のカタカナで表記するには限界がありますし、そこに関しては英語様様の持つ音素の偉大なお力をお借りしていました。

 ただ、「じゃあ分かりやすいしエトゥレ語も英語と同じようにアルファベットを文字として使用しよう!」というのは少し芸に欠けるのではないかと思いました。
 肝心のオリジナリティを捨ててしまうことになる、それはちょっと私としては不本意です。

 なのでここは意を決して、新しい文字そのものを創作してみたいと思います〜!

 というわけで、ドン。

Image description

 こんな感じでexcelで対応表を作ってみました。
アルファベットの右隣の文字が、そのアルファベットの音素と対応しています。
 三角形っぽい文字一つで「トゥ」と発音する、みたいなイメージですね。

 どうでしょうか?我ながら未知の言語っぽい文字にできたんじゃないでしょうか。
 どこかルーン文字っぽさも、記号や暗号っぽさも、はたまたハングル文字っぽさも感じる形になっているのではないかと思います。

 そしてよく見てみると、BはPの文字に点を一つ打った文字、GはKの文字に点を一つ打った文字……と、発音の似た文字は形状も寄せてあることが分かります。

 それは「ごあいさつ」の記事でも申し上げた通り、『同じ舌の位置に来る文字は点で違いを表す』というのを守って作ったからにほかなりません。
 発音が似ていたら文字も似せる、というシステマティックな文字作成も、いくぶん興味深いものがありました。

 ちなみに、発音によって文字が分類されるというのは日本語にはそこまで大きく反映されていないですが、英語にはちょこっと登場するそうです。

 例えばVとW。
 今更ですが、「ヴヴヴ」という音と「ウウウ」という音の出し方は非常に似ています。エトゥレ語でもその法則を持ち出して、VとWの文字は似せています。

 今となってはWの音が含まれた英単語はたくさんありますが、英語でWという文字が生まれたのはそれ以外が生まれた少しばかり後のことなのだそう。当時Wにあたる文字が存在しなかったことに不便さを感じた人々は、比較的Wと音の似たVを二つ繋げた文字を作ってW(ダブルユー)と呼ぶようにしたのだそうです。

 「じゃあ何で『ダブルブイ』じゃなくて『ダブルユー』なの?」
という質問が飛んできそうですが、それはその当時VとUの区別が正確にはされていなかったからでして……

 と、これは私が解説するよりもっと簡単に解説してくださっている方がいらっしゃりましたので、そちらのほうの動画を共有させていただきます。

https://youtube.com/shorts/2yAUX50yOec?si=iL3ujLP_B2fCPqUQ
(引用:だいじろー様)

 少し話が脱線してしまいましたね。

 お話した通り、複雑そうに見えて実はシンプル。それがエトゥレ語文字の魅力です。

 そんなNEW文字くんたちですが、ここで一つ、エトゥレ語の文字に持たせた秘密を公開。

 上図の対応表は、上が子音字、下が母音字というふうに分かれています。そしてすべての文字が、点を除いて一筆書きできるようになっています。
 その二つのグループ分けを見比べてみて、何か発見はありませんか?

 分かった方も多いかと思います。正解発表といきましょう。

 実はエトゥレ語の文字、『書き始めと書き終わりに書いてある丸の高さが揃っている』という特徴があります。
 加えて、『子音字はすべて高いほうに、母音字はすべて低いほうに揃っている』ということも言えます。

 つまりこれがどういうことかと言いますと、子音が連続したとき、一文字目の書き終わりと二文字目と書き始めの位置が同じで、繋がるということになります。もちろん母音でも同じです。

 これにより、「書き始め・終わり〇が上にあるからこの文字は子音か」と一目見て分かるほかに、連続する子音/母音は文字も連結させることができる、ということになります。

 なんだか英語の筆記体みたい?なんちゃって。

 とにもかくにも、これで文字の作成とオリジナリティの封入が完了しました。

 要はこれで『音素』の作成が終わったということになります。

 そして同時に、『音節』も作成完了と言ってもよいでしょう。
なぜなら音節は子音と母音でできているがゆえ、わざわざ一つずつ「uと書けば『う』、seと書けば『せ』と読みます。そして~……」なんて説明しなくとも、普通のローマ字の感覚で音節も作れてしまうからです。

 というわけで、言語の単位『音素』『音節』をクリアすることができました。ユーディディト!



おわりに

 いかがでしたでしょうか。

 前回は結構ガッツリ中学国語文法の復習!って感じの記事になってしまったので、今回は思い切り創作言語の"創作"部分について深くご紹介してきました。

 少しでも興味を持っていただけていたなら幸いです。

 次の記事では『音素』から一段階グレードアップした単位である『単語』を作成していきたいと思います。
 どんなユニークが言葉が生まれてくるのか、ぜひワクワクしながらお待ちください!

 また、この記事を見て「言語ってオモシロ!」と思ってくだされば、私としても嬉しい限りです。

 というわけで、2023年最後の創作言語語りでした。

 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 それではまた、次の記事で。

 

Top comments (1)

たたむ
 
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Atridott

なんだか回路とかの配線を思わせるような文字の作りでめちゃくちゃ好みです……音素選びとなると無難になりがちなところを楽しく選んでてすごいなぁと思いました