俺は今、超絶意味不明な状況に置かれている。
俺の横に居るのは銀髪碧眼の美少女、ギンガムチェックの上着に赤いマフラーを合わせ、シックなハンドバッグを手に掛けている。足はタイツに覆われていて、少し靴底が厚めのスニーカーを履いていた。
そんな彼女と一緒にいるのは俺――三上涼の客室である。
この船、豪華客船ハーヴェスト号はいつの間にか、うめきながらそこら中を徘徊する奴ら――まるでパニック映画に登場するゾンビのようだ――に満たされていた。そんな中、彼女だけは普通に話せる存在としてまだ「生きて」いた。
美少女と一緒に客室に居るのは素晴らしい状況だが、問題が一つだけあった。
"Xace fua celdino mi."
その言葉が分からないことだ。
状況を整理しよう。
俺は彼女を取り敢えず自分の客室に保護している。そこらへんをウロウロしているゾンビたちに襲われる前に腕を引っ張って、無理やりでも部屋に引き連れたという形だ。
彼女は抵抗せず付いてきてくれた。見ず知らずの高校生男子にこんなことをされれば、どんな女の子でもビビることだろう。しかし、彼女は困惑しながらも平静を保っていた。
(まずはお互いの名前を知るところからだよな……)
だが、言葉が通じない状況でどうやって自己紹介をするのだろう。
とりあえず自分を指さして、「リョウ」と自分の名前を連呼してみる。すると、彼女はハッとした様子になって、口を開いた。
"Mi veles stieso tarf.xal. ers xal."
彼女は「シャル」 と言って、自分のことを指した。それが彼女の名前らしい。俺が彼女を指して「シャル」と言うと、彼女はにっこりと笑みを見せて頷いてくれた。
一応お互いの名前を知ることが出来て、一息ついたところで俺はどうやって現状を切り開くのか考えていた。
この状況、もし操縦室までゾンビで埋め尽くされているなら、海を漂流するだけだ。いつになれば着くのか分からない状況で、食料も限られている船内に籠もるのは得策ではないだろう。
となれば、するべきことはゾンビを狩りながら、通信室のようなところに入って救難信号的なものを出すことだろう。
俺は武器になりそうなものを探して、部屋を見渡す。その視線を追うようにシャルもきょろきょろし始めた。なんだろう、可愛くて癒やされるな……
"Harmie co melfert?"
シャルが言ったことは、おそらく「何を探しているのか」といった感じのことだろう。言葉は通じないが、状況からある程度判断は可能だ。
「武器になりそうなものを探してるんだ。えっと……」
俺は何かを持って、振る動作を繰り返した。
シャルはそれを見ながら、首をかしげていたが、ややあって納得したように胸の前で手を合わせた。彼女はバックを開け、その中から黒光りする何かを取り出した。
「うわっ、拳銃じゃねえか……」
なぜこんなものを……と考えながら、そのリボルバー式の拳銃を受け取る。
手に掛かる重みがリアリティを増して感じさせた。これを使って、ゾンビを倒せということなのだろうか。
俺は拳銃を受け取りながら、そんなことを考えていた。
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