先に投稿した例文リストの訳について、細かいところをこの記事で補足しておく。
出会いの挨拶
例文リストにある通り "
salarua!
"(ザラーウア/ザラーワ)が一番基本的な挨拶である。全時間帯と状況で通じる挨拶で、現世だとヒンディー語の「ナマステ」に近いものがある。ちなみに語源である古典リパライン語の "sfadfalfa" は「こんにちは」の意味で、昼にしか使えなかった。語形変化と共に時間ごとにあった挨拶は一つに集約されてしまったようだ。
この挨拶は、親しい間柄や砕けた状況では "
salar
"(ザラー)と言うこともできる。また、"
xwarkh
"(シュワーフ)という挨拶も親しい間柄で使うことができる。
例文リスト内では、カヴィーナやデュイン、礼拝堂の話を挙げたが、これは現代標準リパライン語の話というより、社会の話になってくる。カヴィーナは多民族都市でストリートごとに民族が変わるため、母語が多様であり、元の母語の挨拶はリパライン語で話していても使っている場合がある。デュインも同じような状況で先住民族と移民がいるため、元々の挨拶のほうが通用する。
礼拝堂ではシャーツニアー(礼拝堂に住み着く宗教家)から "
arnema
"(アーネマ)という挨拶を受けることがあるが、これには同じ言葉で返してはいけない。この場合は、軽く礼をするだけで良い。
同じようにアーネマで返せば、びっくりしたシャーツニアーに "
co at es festena noler?
"「貴方も聖職者なのですか?」1と言われてしまう。この挨拶はシャーツニアーが礼拝堂に訪れる礼拝者に向けて言う言葉だからである。
「お元気ですか?」
リパライン語の話者には、昨今の調子や相手の健康を会話の導入で訊く慣習があまり無い。リパライン語の話者と一口に言っても、様々な民族や社会集団が居るので完全に無いわけではないが、ユエスレオネ本土の一般的な街に住んでいるような人であれば少なくとも一般的ではない。
彼らは親しい関係ならば、挨拶を交わすと訊かずともそういったことを自分から喋りだすからである。親しくない、それこそ店員と客のような関係なら、挨拶を交わして、言うべきことを言って終わりである。ただ、これも一口にそうだと言い切れるものではないのだが……
ともかく、リパライン語では "How are you?" や "Wie geht's?" に当たるような表現が一般的ではない。例文リストで挙げた "
co mol nironj?
"(ソ モル ニーオニ) も会話の決まり文句感があるかというと変である。
この違和感が何かというのはしばらく考えてみると分かった。
そもそも "
Mol nironj!
"(モル ニーオニ) という別れの言葉の定型句があるからだ。語学で「お元気ですか」というフレーズを聞くのは、会って、挨拶を交わして、それから雑談に入ろうというその段階だろうが、リパラオネ人には先の言葉は逆にさっさと別れたいように聞こえるのかもしれない。
じゃあ、逆に何と聞けば良いのかって?
"
hame co mol?
"(ハメ ソ モル)「どんな感じ?」とかはどうだろうか。それっぽい感じな気はする。何らかの議論の意見を聞いてるようにも聞こえるので完全ではないが……
「ごめんなさい」
リパライン語では、謝る状況に合わせて様々な表現を使い分ける。
一番基本的な謝罪の言葉は "
nace
"(ナーセ)なのだが、これは人に物を尋ねたり、道を開けてもらうときには(基本的には)使えない。前者は本人が悪いからこその謝罪であるが、後者は当人は困っているのであり、悪いわけではないからである。故に、後者の二つは例文リストで表されるように "
cespal ...
"(セスパル)と "
fanalirme plax!
"(ファナリーメ プラシュ)となるわけだ。この状況で "
nace
" と言ったら、「いきなり謝罪してどうしたんだこの人は」と怪訝がられることだろう。ブルーアーカイブのハルカの謝罪はどっちで訳すか? ううむ……
この他にも、謝罪の表現は多様ではあるが、基本は謝る人自身が悪いのか、それとも当人が困っていて謝るのかを区別する傾向にあることを頭に入れておくとよいだろう。前者は "
nace
" を使えば大体通るし、後者の場合はそれぞれの状況にあった謝罪の言葉を使うことが大切だ。
ちなみに、先の説明で「(基本的には)使えない」と言ったが、例によって古典リパライン語ではこの基本的な区別が無かったり2、他言語を母語とする話者は混同しがちであるため、道を通り抜けるときに "
nace
" と言う人も居るっちゃいる。規範的ではないが、あなたが自分を外国人らしく見せたいなら、そういう語法もありなのだろう。
肯定と否定
誰もこんなニッチなタイトルを挙げて変なことを言い出すはずもないだろうが、とりあえず言っておくと映画のタイトルではない。
リパライン語の「はい」と「いいえ」の言い方は、基本的には例文リストに書いたとおりではあるが、他にも様々な間投詞がある。例えば、肯定側で言えば "
corsh
"(ソーシュ)「そうです」や "
jexi'ert
"(イェシエート)「その通り、明らかだ!」などがあり、否定側で言えば "
har
"(ハー)「違います」などがある。これらはニュアンスが少しづつ違うのだが、サバイバルレベルでは例文リストに挙げた "
ja / niv
" だけでも良いだろう。
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直訳すれば「あなたも聖職を帯びている者なのですか?」という意味になる。何故 " co at duxien fal festena? " とかじゃないのかというと、シャーツニアーになるための儀式を " festenol " というのだが、これは " festena ”「聖職」と " nol "「帯びる」に由来し、それを動詞として使う場合には " festena nol "となるからである。まあ " festenoles " でも良い気はするが、シャーツニアーがそういう飾りっ気のないリパライン語を話すとは考えづらい。 ↩
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無いので、古典語由来の慣用句では本人が悪くないのに " nace " と入る場合がある。" cespal nace " などはその典型だ。 ↩
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