Migdal

スライムさん
スライムさん

Posted on

3

ビルマ(ミャンマー)文字を学ぶ

coi rodo mi'e .slaimsan.
どうもこんにちは、スライムさんです。2025/3/28 日本時間15:20頃 ミャンマー中部を震源とするマグニチュード7.7の地震が発生しました。甚大な被害が出ており、死者数は現在も増加しているところです。ニュースを見ていて、「そう言えばミャンマーの文字って全く勉強していないな」と思い、今回はビルマ(ミャンマー)文字を勉強します。言語までやっていると時間がかかりすぎるので、今回は文字の読み方までに留めておきます。なお、今回参考にした情報は主にWikipediaとなります。

※ミャンマーは、過去にビルマという名前でした。そのため文字の名前もミャンマー文字と呼ぶべきなのか、ビルマ文字と呼ぶべきなのか迷ったのですが、Wikipediaの呼称が「ビルマ文字」のため今回はこちらで統一します。

1. 音韻体系

言語は学ばないで文字を学ぶと言っても、どうしても音韻体系だけはやっておく必要があるので、ここだけは見ておこうと思います。

1-a. 子音

子音には(無声)無気音・(無声)有気音・有声音の対立がある。
また鼻音と w, l にも無声音・有声音の対立がある。

唇音 歯音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
破裂音 p pʰ b t tʰ d t͡ɕ t͡ɕʰ d͡ʑ k kʰ ɡ ʔ
摩擦音 θ ð s sʰ z ɕ h
鼻音 m̥ m n̥ n ɲ̊ ɲ ŋ̊ ŋ
接近音 w̥ w ɹ j
側面接近音 l̥ l

1-b. 介子音

ビルマ語はシナ・チベット語族に属するので、中国語と同じような介音があるようです。つまり、子音と母音の並びの間に -w- か -j- が挿入されることがあります。

1-c. 母音と声調

前舌 後舌
[i] [u]
半狭 [e] [o]
半広 [ɛ] [ɔ]
[a]

これに加えて、曖昧母音の[ə] が発生するが、文字としては専用の文字は存在しないとのこと。また、前述の母音に加えて、鼻母音が存在する。

声調は3種類ある。

  • 下降調: 高音から急激に下がる、比較的短い音。
  • 低平調: 低音か中音で平らに発音。
  • 高平調: 高音で平らに発音。

1-d. 末子音

音節末に来る子音は、鼻音[ɴ]と声門閉鎖音[ʔ]だけ。鼻音は、鼻母音の後に子音が続く場合に鼻子音化して発生するとのこと。声門閉鎖音は、綴り上では -t, -kなどの音で表記されるが、全て[ʔ]として発音されるとのこと。

2. 文字

デーヴァナーガリーの系統のため、ある程度の対応関係がある。そのためデーヴァナーガリーを知っている人は少し覚えやすいかもしれないです。しかし字形は大分崩れてしまっています。丸い形が多いのが特徴です。聞いた話だと、葉っぱに文字を書くためにこのような形になったとか。

デーヴァナーガリーの考え方を踏襲しているので、文字の種類としてはアブギダになります。つまり基本字母だけの場合は随伴母音である[a]を補って読み、それ以外の母音の場合は基本字母に母音の記号を追加することで表します。

2-a. 基本字母と転写方式

以下に基本字母の表を書きます。デーヴァナーガリーを知っている人にはお馴染みの配列で、辞書もこの順で配列されているそうです。
なお、ラテン文字への転写方法は、Wikipediaの表記に倣いMLCTS式で転写します。(これが公式の転写方法だそうです。)

無気音 有気音 有声音 (有声音) 鼻音
軟口蓋音 က k [k] ခ hk [kʰ] ဂ g [ɡ] ဃ gh [ɡ] င ng [ŋ]
硬口蓋音 စ c [s] ဆ hc [sʰ] ဇ j [z] ဈ jh [z] ည ny [ɲ]
(歯茎音) ဋ t [t] ဌ ht [tʰ] ဍ d [d] ဎ dh [d] ဏ n [n]
歯茎音 တ t [t] ထ ht [tʰ] ဒ d [d] ဓ dh [d] န n [n]
唇音 ပ p [p] ဖ hp [pʰ] ဗ b [b] ဘ bh [b] မ m [m]
その他
接近音 ယ y [j] ရ r [j] လ l [l] ဝ w [w] သ s [θ]
摩擦音など ဟ h [h] ဠ l [l] အ a [a]

有気音と歯茎音に括弧つきの列と行がありますが、パーリ語由来の単語で主に使われる文字になります。デーヴァナーガリー文字にはあるけど、ビルマ(ミャンマー)語にはない音があるためこのような状態になっているようです。具体的にはそり舌音が無いのと、有声音に無気音・有気音の区別が無いです。(その割には、デーヴァナーガリーから消えてる摩擦音もあるような。)

上記表の注意点がいくつかあります。転写文字と発音が直観的に対応しないものがあります。"c" と書いて [s] の音を表します。一方、"s" と書いて [θ] の音です。また、"r" の転写で [j] の音となります。"r" の文字はもともとは [ɹ] の音だったようですが、変化してしまってこのような状態になっているみたいです。パーリ語由来の単語では [ɹ] で発音されるそうです。

2-b. 介子音の表示

介子音を表示するには、基本字母に追加的な介子音記号を付けることで表す。介子音記号は以下の4種類がある。

  • y [j]
  • r [j]
  • w [w]
  • h 鼻音などの無声化

※[j]音に対して2種類の記号があるのは、おそらく単語の語源などで使い分けるのだと思われます。
※記号単独の文字は、フォントが入っていなくて上手く表示できませんでした。

例として ပ (pの文字)か မ (mの文字)に 介子音記号を付けた形を以下に書きます。

  • ပျ(py [pj])
  • ပြ(pr [pj])
  • ပွ(pw [pw])
  • မှ(hm [m̥])

さらに、これらの記号は複合することもあるようです……字形としてはそれぞれが複合したような形になっているようなので、ここでは省きます。

注意1: 軟口蓋音 က ခ ဂ (k hk g)に [j]音の介子音が付いた場合は、[kj][kʰj][ɡj]にはならず、[tɕ][tɕʰ][dʑ]と硬口蓋音化する。(この音を表すのが[j]音の介子音の本来的な役割らしいです。)
注意2: ယ(y)と ရ(r)に h の介子音が付いた場合は、[ɕ]の音になる。
注意3: လ(l)でも、単語によっては[ɕ]になる。じゃあ原則は? [ɬ]という音という記載があったのですが、冒頭の音素の表の中に出てこないので何なんだろうという状態です。

2-c. 母音と声調の表示

母音と声調の組み合わせを1つの記号で表します。アブギダなので基本字母にこの記号を付けることになります。
※母音のラテン文字転写は、 [a], [i], [u], [e]はそのままのアルファベットを使います。[ɛ]は "ai", [o]は "ui", [ɔ]は "au" となります。[o]だけ要注意です。
※声調のラテン文字への転写方法は、母音字の後に下降調はピリオド(.)、高平調はコロン(:)、低平調は何も書かないことで表します。

付加する記号は以下の表のとおりです。

下降調 低平調 高平調
[a] ◌ (a.) ာ (a) ား (a:)
[i] ိ (i.) ီ (i) ီး (i:)
[u] ု (u.) ူ (u) ူး (u:)
[e] ေ့ (e.) ေ (e) ေး (e:)
[ɛ] ဲ့ (ai.) ယ် (ai) ဲ (ai:)
[o] ို့ (ui.) ို (ui) ိုး (ui:)
[ɔ] ော့ (au.) ော် (au) ော (au:)

_何となくですが、下に小円を一つ付けると下降調、横に小円を二つ付けると高平調です。ラテン文字転写のピリオドとコロンはこのイメージから来ていると思われます。
_

ただしခ(hk)ဂ(g)ဒ(d)ပ(p)ဝ(w)の5字母の場合、[a] と [ɔ] については下記の記号を使う。whyyyyyyyyyyy?

下降調 低平調 高平調
[a] ◌ (a.) ါ (a) ါး (a:)
[ɔ] ေါ့(au.) ေါ် (au) ေါ (au:)

2-d. 末子音の表示

前半の音韻の説明にも書いたように、音節末に来る子音は鼻音[ɴ]と声門閉鎖音[ʔ]だけです。ただし綴り上は単語の区別のために様々な子音字が使われます。

鼻音[ɴ]は、င(ng)、ဉ(ny)、န(n)、မ(m)に末尾子音であることを表す記号を付加することで表します。例によって、記号単独では表示ができなかったため、mの字に記号を付加した文字を例示します。

(例) မ် (am)

(mの字の上に付いている "c" のような記号が末子音化記号です。)
なお、鼻音が末尾子音の時は、声調を表す記号(下降調は下に小円を一つ、高平調は横に小円を二つ)は母音記号ではなく末尾の鼻音の方に付けるようです。

(例) မ့် (am.)
(例) မ်း (am:)

なおこれ以外にも末尾の鼻音を表す方法があるようなのですが、省略します。何となく、鼻音の文字の上に "c" のような記号が付いていたら末尾鼻音だなと思っておけば良さそうです。(単語の区別で書き分けるようです。)

末尾の鼻音と同様に、破裂音 က(k)、စ(c)、တ(t)、ပ(p)に末尾子音であることを表す記号 "c" を付加することで[ʔ](声門閉鎖音)が表現されます。上記4つのどの子音に付いても声門閉鎖音です。単語の区別のために書き分けるそうです。
声門閉鎖音が末尾になる場合、声調は3種類のうちどれでもなく、異なる高く短い音になるそうです。これをもって、声門閉鎖音を4つ目の声調と考えることもあるようです。


というわけで、ミャンマー文字の基本は以上です。後は単語毎に綴りを覚えるしかなさそうです。
感想としては、デーヴァナーガリー系統の文字でシナ・チベット語族の言語を表そうとすると、こうなるんだなと実感できました。母音と声調の情報が土台となる子音字にガチャガチャくっ付いていく構造になっていて、あの複雑な見た目の文字になっているだということが理解できました。
人工文字に応用するなら、母音と声調と末尾子音の情報を上手く整理して付加記号に落とし込めないか検討したいところです。

Top comments (0)