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ななみ
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声調ラテン語【第12回人工言語コンペ】

 ※この記事は、人工言語コンペ2025夏(第12回)投稿作品です。

 はじめに

 今回のお題はラテン語を元にした言語である。ラテン語は話し言葉として使われなくなってからも、ヨーロッパで長い間書き言葉として使われた。ところで、東アジアで書き言葉として使われた言語に漢文――つまり古代漢語――があるが、中古漢語には現代の中国語と同様に声調があったことが知られている。そこで、ラテン語に声調を付けた言語を作り、この言語を「声調ラテン語」と呼ぶことにする。

 発音

 声調ラテン語には、/a e i o u/の5種類の母音、および、/p t tʃ k m n f v s ʃ l r/の12種類の子音がある。
 声調には以下のものがある。

  • 第1声 高く平ら
  • 第2声 上がる
  • 第3声 下がる
  • 第4声 低く平ら
  • 第5声 高く短い
  • 第6声 低く短い

 語順

 語順は主語―述語―目的語―修飾語である。

Pe3 e1 pan3 in3 tom4.
少年 食べる パン LOC 家
少年は家でパンを食べる。

 人称代名詞の属格・指示詞・数詞は名詞の前に、形容詞は名詞の後に置かれる。

i3 fo3 rup6
DIST 花 赤い
あの赤い花

 語形変化

 語形変化を行う語には人称代名詞とコピュラがあり、それ以外の語は変化しない。人称代名詞とコピュラの具体的な語形については後述する。

 コピュラ

 名詞や形容詞を述語にするには、名詞や形容詞の前にコピュラを置く必要がある。コピュラの語形は、不定詞と述語動詞に分けられる。不定詞/e1/は名詞のように使われ、また、助動詞とともに使われることもある。述語動詞は、主語の人称と数によって以下のように変化する。

  • sum3 私が…である
  • e1 あなたが…である
  • et5 彼/彼女が…である
  • sum3 私たちが…である
  • et5 あなたたちが…である
  • sut5 彼ら/彼女らが…である

I1 et5 ma2tʃit6.
3SG.NOM COP.3SG 教師
彼は教師である。

E1i3 sut5 ma2tʃit6.
3PL.NOM COP.3PL 教師
彼らは教師である。

 文の種類

 文は平叙文、疑問文と命令文に分けられ、それぞれの文はさらに肯定文と否定文に分けられる。疑問文については後述する。
 肯定文は無標であり、否定文は動詞の前に副詞/non4/を置くことによって表される。

Uk5 a1 non4 vo4.
PROX 鳥 NEG 飛ぶ
この鳥は飛ばない。

 命令文は、主語の省略によって表される。

Let5 lip6.
読む 本
本を読め。

 テンス

 テンスには非過去時制と過去時制がある。非過去時制は無標であり、過去時制は述語の前に助動詞/ap5/を置くことによって表される。

Ek5 ap5 it5 at5 ko1la1.
1SG.NOM PST 行く DAT 学校
私は学校へ行った。

 前置詞

 前置詞は名詞の前に置かれ、名詞を修飾語にする。主な前置詞には、以下のものがある。

  • an3te1 …の前で
  • at5 …のほうへ
  • ek5 …の中から
  • in3 …の中で
  • in3fa1 …の下で
  • kum3 …を使って、…とともに
  • po1 …のために
  • pot5 …の後で
  • sup5 …の上で
  • te2 …の、…から

Vi4 ap5 ʃit5 lit6ra2 kum3 ti3.
男 PST 書く 手紙 INS ペン
男はペンで手紙を書いた。

 接続詞

 接続詞は、等位接続詞と従位接続詞に分けられる。等位接続詞は2つの語句の間に置かれ、語句を繋げる。従位接続詞は節の前に置かれ、節を修飾語にする。
 等位接続詞には、以下のものがある。

  • et5 および
  • ot5 または
  • set5 しかし

kan3 et5 fe3
犬 と 猫
犬と猫

 主な従位接続詞には、以下のものがある。

  • at5kwam3 …する前に
  • kum3 …するとき
  • kwi1 …するので
  • pot5kwam3 …した後で
  • si1 …すれば
  • tum4 …する間に
  • ut5 …するために

Kum3 i1 pu1, ek5 non4 it5 ek5 tom4.
…とき 3SG.NOM 雨が降る 1SG.NOM NEG 行く ABL 家
雨が降るときは家から出ない。

 疑問詞

 疑問文は、肯否疑問文と疑問詞疑問文に分けられる。
 肯否疑問文は、文頭に副詞/si1/を置くことによって表される。

Si1 uk5 et5 ti3?
Q PROX COP.3SG ペン
これはペンですか?

 疑問詞は、文頭に置かれる。また、疑問詞は疑問代名詞と疑問副詞に分けられる。疑問代名詞には、以下のものがある。

  • kwe3 誰
  • kwit5 何

 主な疑問副詞には、以下のものがある。

  • ku3 なぜ
  • kwat5 いつ
  • kwi3 どのように
  • up5 どこで

Kwit5 uk5 et5?
何 PROX COP.3SG
これは何ですか?

 代名詞

 代名詞には、人称代名詞や指示代名詞などがある。
 人称代名詞には、以下のものがある。人称代名詞は格によって変化し、格には主格、属格と対格がある。

  • ek5(私が) me2(私の) me2(私を)
  • tu1(あなたが) te2(あなたの) te2(あなたを)
  • i1(彼/彼女が) et5(彼/彼女の) e1(彼/彼女を)
  • no2(私たちが) not6(私たちの) no2(私たちを)
  • vo2(あなたたちが) vot6(あなたたちの) vo2(あなたたちを)
  • e1i3(彼ら/彼女らが) o3(彼ら/彼女らの) e1o1(彼ら/彼女らを)

Ek5 ap5 vi2 te2.
1SG.NOM PST 見る 2SG.ACC
私はあなたを見た。

me2 fi1li2
1SG.GEN 息子
私の息子

 指示代名詞には、以下のものがある。

  • uk5 これ
  • i3 あれ

Uk5 et5 ak5.
PROX COP.3SG 水
これは水である。

 略語一覧

1 first person 一人称
2 second person 二人称
3 third person 三人称
ABL ablative 奪格
ACC accusative 対格
COP copula コピュラ
DAT dative 与格
DIST distal 遠称
GEN genitive 属格
INS instrumental 具格
LOC locative 処格
NEG negation 否定
NOM nominative 主格
PL plural 複数
PROX proximal 近称
PST past 過去
Q question 疑問
SG singular 単数

 参考文献

松平千秋・国原吉之助(2015)『新ラテン文法』第10版、東洋出版

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