さて、今回は具体的な動詞変化の使い方について取り上げていくわよ……ってこの匂いは……
ウォルツァスカ? いつの間にテーブルに……?
ああ、それなら今さっき
エレーナが買ってきたものよ。専門店のウォルツァスカらしいわ。おすそ分けって感じね!
あら、ありがとう! あなたって意外に優しいのね!!
本音と建前が逆になってるわよ……まあ良いわ。頂くわね!
(ふふふ……やはり人類は愚か……そのウォルツァスカは消費期限切れのヤバい代物よ。翠に近づく泥棒猫は総じて私が「掃除」してあげるわ……!)
[都合により、茶番を中断してお送りいたします](https://dic.nicovideo.jp/a/nice%20boat.)
※ "Nice boat." は、リパライン語では "ers vynut fiurme." で、ヴェフィス語では "Adkesĥer filnaeit fou est." と言います。どこで使うのこの表現?
今回は動詞のそれぞれの変化型の作り方と方言の話を少しするわね。
現在一人称、二人称、三人称
ヴェフィス語は現在形に限って、人称変化を持つわ。これは前回で紹介したように未来や過去のような時制が別の動詞で肩代わりされたことが原因よ。
なるほど、肩代わりされなかった現在形の人称変化だけは残ったってわけだな。
その通りね。現在形は現在のことについて広く表すのに使われるわ。
andaiva [PaⅠAs1]「分かる、理解する」
Andaivas. 私は理解している
Andaivais. あなたは理解している
Andaivaisé. 彼/彼女/それは理解している
完了
完了形は物事の進捗が完了したということを表す形ね。
リパライン語の "
liaxa" に相当する相だな。
Fa andaivaide. 私は理解した
Nai andaivaide. あなたは理解した
Nen andaivaide. 彼/彼女/それは理解した
現在形以外の変化では人称変化は存在しないから、人称を区別する場合は代名詞が出てくるんだな。
行動存在
行動存在形は、リパライン語の "
liaxu" に当たるもので、その行動の進捗が半ばであることを表すわ。
Fa andaivedos. 私は理解する途中だ
Nai andaivedos. あなたは理解する途中だ
Nen andaivedos. 彼/彼女/それは理解する途中だ
行動存在形では、動作の完了の手前にあることが強調されるわね。例えば "andaivas" と "Fa andaivedos" だと「理解してるよ」と「理解しようとしているところ」くらいの違いがあるんだけど、この区別は時制とはまた別なので注意ね。
起動
起動形は、リパライン語の "
liaxi" に当たるもので、その行動が始まることを表すわ。
Fa andaivameis. 私は理解し始めた
Nai andaivameis. あなたは理解し始めた
Nen andaivameis. 彼/彼女/それは理解し始めた
ここから
変化表の下は、クラスごとの変化の違いがないから覚えるのが簡単そうだな。
不定人称
主語のない文などに出てくるのが、不定人称形ね。この形はリパライン語でいうと
仮名詞 "e" が近いものとして挙げられるけど、必ずしも同じわけではないわね。
例えば、動詞 "rienmie"[PaⅠLs3]「雨が降る」は自動詞だから、主語を取らないのよね。ほとんどの場合は "Qoiné rienmimais."「そこで雨が降る」のように言われるわね。
まあ、あとは明確な主語を語形変化で出したくない場合とかにも使うわね。前者の使い方よりも、こっちの使い方のほうがリパライン語の "
e" の使い方に似ているかもしれないわね。
Andaivamais. 誰かが理解する
伝統命令
伝統命令形は、実はあまり使われないのだけど、とりあえずは命令を表すと思っておけば大丈夫よ。
「伝統命令」ってことは伝統的じゃない命令形もあるのか?
ヴェフィス語の命令形は、基本的に二人称語尾を持つ主動詞+文末に "
pous" という小辞をつけることで作られるわ。次のような感じね。
Faéheus ne pous! 怒るな!
なるほど、簡単だな。それじゃあ、伝統命令はいつ使われるんだ?
うーん、なんというか堅苦しい命令という感じかしら。文法的にこのときに使わなければならないという場面は無いわね。
まあ、普通は pous を使った命令形を使うから、この変化はあまり気にしなくていいわよ。
方言形
さて、ここで方言の話を少しするわね。今回扱うのはヴェフィス共和国の南部で話される「東方方言」よ。
ええ、これには理由があって、ヴェフィス語の元となった中期リパライン語の
東方方言がこの方言の元になったからよ。この「東方」も結構曲者で、当時存在したリパラオネ共和国連邦という国から見て東の地域のことで、一般的にファイクレオネの文脈で言う古代ラネーメ王朝地域を指す「東」とは別なのよね……
複雑だな……それで、その東方方言と動詞の変化に何の関係があるんだ?
名詞もなんだけど、一部の変化が東方方言では違うのよね。
■ 名詞
Naiクラス、JerクラスCⅡ:-üar
■ 動詞
FaisクラスD:-üs
FaisクラスE:-üde/üs
PaクラスA:-üa(s)
PaクラスD:-üdè
ん? FaisクラスとPaクラスのDは一つにまとめられていて、FaisクラスのEは二つに減ってるな……
良いところに目がつくわね。東方方言ではⅠ、Ⅱは、FaisクラスのB・PaクラスのC・AilieクラスBにしか関係しないのよね。あと、FaisクラスのEに関しては、2が3に統合されてしまって、1が -üde になって、2が -üs になったのよね。
まあ、この講座は主にヴェフィス共和国の首都であるコトー・エヌルドで話される標準語を扱っていくから、あまり関係ないんだけど、変な変化を見た時はこういう可能性もあるってことは覚えておいてね。
時制は?
そういえば、動詞の変化体系には相しか出てこなかったな。肩代わりするっていうことは助動詞みたいな感じになるのか?
そこのところはまた別の話になってくるから、次回に取り扱う予定よ。
うーん、ウォルツァスカを食べたっきり寝込んじゃったみたいなんだけど、アレルギーでもあったのかしら? よく分からないわね……
消化に悪いのよ、それ……普通に雑穀粥で良かったのに何故……
練習問題
1."liré" の完了形はなんでしょう?
答え
"liré" はPaクラスであるので、完了形は "-aide(s) / -aidé(n)" です。PaⅡであるため "-aidé(n)" の方の変化になり、単語コードに不規則は書かれていないので、答えは "liraidé" になります。
2."pafeu" は [faisⅡAsDⅡsFa] の動詞 "pafai" の変化形です。何の変化形でしょうか?
答え
"pafai" の語幹は √paf- であり、変化語尾は -eu になります。Faisクラスにあるこの語尾はBなので、正解は現在二人称になります。
3.ヴェフィス語に人称変化が現在形にしかないのは何故でしょう?
答え
リパラオネ語族では、元々時相の変化は語幹に語尾を付けていました。しかし、後世になるとユナ語派やヴェフィス語派などで "*liə" に肩代わりされました。肩代わりされた相や時制の変化では動詞が無変化になったため、肩代わりされた動詞がそのまま膠着した形が唯一の変化形になり、肩代わりされなかった現在形には時制が残りました。
まとめ
・現在形は一人称、二人称、三人称と人称変化する。
・完了形は、行動の進捗が完了したことを表す。
・行動存在形は、行動の進捗が半ばであることを表す。
・起動形は、行動が開始することを表す。
・不定人称形は、行動の主体が不定であることを表す。気象の自動詞などで使われたり、主語を明示したくない場合に使う。
・伝統命令形は、硬めの命令を示す。通常命令は二人称語尾+語末の "pous" で表される。
・方言によって、変化形の一部が異なる場合がある。
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