この言語において、動詞は名詞と共通のパラダイムを持ち、「~すること」を意味している。そして、動詞を述部として使う場合は動詞格という特有の格を用いる場合が多い。今回はその発達について解説し、また動詞格の一つである-l格の発達と可能法の発達は大きく関わっているので共に取り上げる。
(1) -t格の発達
主に動作動詞に用いられる動詞格である-tは*də「する」を動詞の後ろに膠着させたものである。動詞としては*dəの強調形である*də-aqも用いられ、この動詞は*dəを付加することなく述部として使用されたが、後に-t格を取るようになり、現在知られているようなdɛːtの形で用いられるようになった。
(2) -l格と可能法の発達
主に状態動詞に用いられる動詞格である-lは*li「ある」が動詞の後ろに膠着したものである。*dəの時と同様、動詞としては強調された*li-aqも用いられた。
かくして動詞格語尾の*-leと動詞の*li / *ljaʔが共存する状態が生まれたが、「~することができる」、ないし「~することがある」を表す「(動詞の原形) {li / ljaʔ}」という構文から派生し、可能相を作る接尾辞である*-li / *-ljaʔが生まれ、また*-leとの音の接近を避けるために*-liは廃れ、*-ljaʔのみが生き残った。(*-ljaʔが付加する場合は*-do / *-leは付加されない)
その後、*lj > *ʎ > jという音韻変化を経て、 動詞格語尾の-l、可能相を作る接尾辞である-ja、動詞として用いられるli / jāという形態になり、一見するとこれらの関係は不明瞭となる。
また*dəと同様、本来は動詞格接尾辞を用いずとも述部として用いることができる例外的な動詞であったが、後に-lが付加された。この時、同一の流音が連続するlilの形態は異化の影響を受けrilに変化した。またそれと同時に、-jaにも接尾辞の-t / -lが付加され、-jat / -jalという形態が生み出された。
また、liとjā、rilとjālという二つの形態は本来交替可能であるが、時代が下るに従って規範意識により有生性による対立が生み出され、li/rilは無生物に、jā/jālは生物に使われるようになった。
以下に軽くまとめる。
存在動詞 *li / *liaq(強調形)
↓
動詞格(状態動詞) *-le
可能相 *-li / *-ljaʔ
存在動詞 *li / *ljaʔ
↓
動詞格(状態動詞) -l
可能相 -ja
存在動詞(原型) li/jā
存在動詞(動詞格) lil/jāl
↓
動詞格(状態動詞) -l
可能相 -jat(動作動詞)/-jal(状態動詞)
存在動詞(原型) li(無生)/jā(有生)
存在動詞(動詞格) ril(無生)/jāl(有生)
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