レスゲム語における定形の接尾辞は接尾辞の*-qiが膠着しているもの(一次的な定形)と、接尾辞の-eを用いるもの(二次的な定形)の大きく二つに大別できる。
一次的な定形の発達
一次的な定形は音韻的な特徴からスヮドゥン祖語の時点で存在していたものと考えられている。しかし、亜大陸以外の語派における形態論的な定形の非存在などから、祖語においては定形は文法化されておらず、あくまでも自由な接尾辞の組み合わせの一部であったと分かる。
一次的な定形の一例は-jēn(強変化定形与格)である。これは*-qi-ən > *-hjēn > *-jēnの音変化を経ている。
この一次的な定形は、現在も使われている-jēnの他にもたくさんの形態が存在したと思われている。例えば強変化定形生物対格には-qi-ənに由来する-enという形態も考えられただろう。
しかしこれは口蓋化子音を語末子音に持つような語に関して問題を来たす。bats(草食動物)の対格を考えよう。
*batʲ-ən > *batʃen > batsen (強変化不定形生物対格)
*batʲ-qi-ən > *batʃhen > batsen (強変化定形生物対格)
このように定形と不定形が同一の形態となってしまうのだ。
これは不合理であり、このような事情からこのような形態は二次的な定形に取って代わられていったのではないかと考えられている。
また、定形変化の中でひときわ異質である強変化生物主格の-aだが、これは*-qiの強調形である*-qi-aqに由来する。
二次的な定形の発達
不定形において無標なメンバにおける一次的な定形は*-qiに由来する-eという語尾を本来的には持っていたと考えられる。弱変化における定形の接尾辞はこれを転用することによって作られた。(cf. -a(弱変化不定形対格) vs. -ea(弱変化定形対格))
また*xən(人)に由来する-hon-を含んだものは-e-を挿入した形態においては-ho-が脱落した。(e.g. 弱変化不定形与格生物-honon vs. 弱変化定形与格生物 -enon)
また、レスゲム語はアクセントのない位置の母音の長短のみで弁別されるのを嫌い、-e-enは-ēnではなく-ejenとして実現される。
これはまた、前述の通り口蓋化子音を語末子音に持つような語に付く場合に定形と不定形が同形態となるような接尾辞に取って代わるように強変化にも広まった。
強変化不定形生物対格接尾辞: -on
強変化定形生物対格接尾辞: -e-on > -ø̄n
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