これは語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2023 の 9 日目の記事です。遅れてしまってごめんなさい!
今年は副詞について書こうかなと思います。副詞について思うことはいろいろある1のですが、この記事では形容詞と副詞の関係について注目します。
形容詞と副詞
多くの言語で、形容詞から副詞を派生させる形態素だったりシステムだったりがあります。例えば英語には、形容詞に -ly を付けて作られた副詞がたくさんあります (例: fortunate → fortunately, happy → happily)。日本語では、形容詞の連用形が副詞的に働きます (例: 美しい → 美しく)。格変化のある言語では、名詞や形容詞の斜格2形が副詞として使われることがよくあります。
シャレイア語も例外ではなく、動詞型不定辞と呼ばれる枠に分類されている単語は、a- を付ければ形容詞として使え、o- を付ければ副詞として使えます。
このように、互いに派生関係のある形容詞と副詞のペアは、多くの言語で観測できます。しかし、そのような形容詞と副詞のペアの意味の関係性は、1 パターンではないはずです。「幸せな / happy」から「幸せそうな / happily」が派生するときの意味の変化は、「当然な / natural」から「当然 / naturally」が派生するときと果たして同じでしょうか?
私がシャレイア語を作る中で、形容詞と副詞の意味の関係性が単語によってまちまちなように感じられるということは、ずっとモヤモヤの種でした。そこで、シャレイア語では、形容詞と副詞の意味の関係性を 3 つ3のパターンに分類し、各単語がこの 3 分類のうちどれに当てはまるかを明確にしました。
シャレイア語での考え方
シャレイア語における形容詞と副詞の意味の関係性の分類では、次の 2 点に注目します。
- 副詞を形容詞に言い換えたときに、もともと副詞が係っていた動詞はどうなるか?
- 形容詞を副詞に言い換えたときに、もともと形容詞が係っていた名詞はどうなるか?
例えば、「当然 / naturally」と「当然な / natural」について考えてみましょう。
(1a) 彼は当然怒った。/ He naturally got angry.
この文では「当然 / naturally」という副詞が使われています。これは、「当然な / natural」という形容詞を用いて次のように書き換えることができます。
(1b) 彼が怒ったのは当然だ。/ It is natural that he got angry.
さて、(1a) において「当然」が係っているのは「怒った」という動詞です。
この「怒った」が (1b) でどうなっているかを見てみると、この動詞は「当然な」が係る節の中にあり、その節を作る主動詞になっています。
逆に、(1b) において「当然な」が係る「彼が怒った」という内容は、(1a) では主節全体になっています。
以上のことを最初に注目すると言った 2 点に沿ってまとめると、以下のようになります。
- 副詞を形容詞に言い換えると、副詞が係っていた動詞は、形容詞が係る節の主動詞になる。
- 形容詞を副詞に言い換えると、形容詞が係っていた名詞 (節) は主節になる。
シャレイア語において形容詞と副詞の関係性を分類するときには、このような分析を行います。では、分析方法が分かったところで、シャレイア語で区別する 3 つのパターンについて詳しく見ていきましょう。
シャレイア語における分類
パターン 1:「当然 / naturally」
すでに述べた「当然 / naturally」と「当然な / natural」の関係性が 1 つ目のパターンです。改めてまとめると、以下のような関係性です。
- 副詞を形容詞に言い換えると、副詞が係っていた動詞は、形容詞が係る節の主動詞になる。
- 形容詞を副詞に言い換えると、形容詞が係っていた名詞 (節) は主節になる。
「あり得て, もしかすると / possibly」と「あり得る / possible」の関係もこのパターンですね。
パターン 2:「突然, 予想外にも / unexpectedly」
次に、「突然, 予想外にも / unexpectedly」と「予想外の / unexpected」の関係について考えてみましょう。
(2a) その手紙は突然送られてきた。/ That letter was sent unexpectedly.
(2b) その手紙は予想外だった。/ That letter was unexpected.
(2a) で「突然」が係っているのは「送られてきた」です。この動詞は (2b) には存在しません。つまり、(2b) から (2a) の方向に書き換えるためには、この「送られてきた」という動詞を補完しなければなりません。
ここで重要なのが、この書き換えにおいて補完しなければならない動詞は、その形容詞自身やそれが係る名詞からほぼ自明に想定できるものであるという点です。「手紙」が「予想外」と言われたら、特殊な状況でない限り、その手紙が「来た」もしくは「送られてきた」のが予想外だと捉えるのが普通でしょう。このように補完される動詞が自明である場合にのみ、このパターンには分類します。
さて一方で、(2b) で「予想外な」が係っている「その手紙」は、(2a) では「突然」が係る動詞「送られてきた」の主語になっています。
まとめると以下のようになります。
- 副詞を形容詞に言い換えると、副詞が係っていた動詞は消える。形容詞から副詞への言い換えにはこの動詞の補完が必要となるが、それは自明である。
- 形容詞を副詞に言い換えると、形容詞が係っていた名詞は、副詞が係る動詞の補語 (上の場合は主語) になる。
「激しく / violently」と「激しい / violent」の関係もこれです。
パターン 3: 「幸せそうに / happily」
今度は、「幸せそうに / happily」と「幸せそうな / happy」の関係を考えます。
(3a) 彼は幸せそうにピアノを弾いている。/ He is happily playing the piano.
(3b) 彼はピアノを弾いていて、彼は幸せそうだ。/ He is playing the piano while he is happy.
(3a) で「幸せそうに」が係っているのは「弾いている」です。この動詞は (3b) では、「幸せそう」と述べている節の付帯状況として置かれている「彼はピアノを弾いている」という節の中にあります。
逆に、(3b) で「幸せそうな」が係っているのは「彼」です。これは (3a) において「幸せそうに」が係っている動詞「弾いている」の主語になっています。
まとめると以下のようになります。
- 副詞を形容詞に言い換えると、副詞が係っていた動詞は、形容詞が使われる文の付帯状況として現れる。
- 形容詞を副詞に言い換えると、形容詞が係っていた名詞は、副詞が係る動詞の補語 (上の場合は主語) になる。
「元気に / cheerfully」と「元気な / cheerful」などもこれです。
それ以外のパターンについて
シャレイア語における形容詞と副詞の関係性は、必ずこの 3 つのパターンのどれかに分類できます。
しかし、この分類は、あらゆる言語の形容詞と副詞の関係性を対象にしたものではありません。したがって、シャレイア語以外の言語では、互いに派生関係のある形容詞と副詞の関係性が、この 3 つのパターンのどれにも当てはまらないことが十分あり得ます。単に、そのような派生関係はシャレイア語では認められていないというだけです。
終わりに
以上がシャレイア語における形容詞と副詞の関係性についてでした。より詳しく厳密な話は、シャレイア語の文法詳細 #STL に書かれているので、興味がありましたらこちらをご覧ください。
自分の言語の形容詞と副詞の関係性について再考する機会になれば幸いです!
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副詞は、英語の adverb が ad-「~に」と verb「動詞」から成っていることからも分かるように、動詞に係る単語が分類されるべき品詞です。しかし、結構多くの言語で、他の品詞に分類しづらかった単語たちも一緒に入れられがちです。これも結構モヤモヤの種で、シャレイア語では「副詞」を厳密に定義することで何でも入れられる品詞として扱わないようにしたのですが、この記事では触れません。 ↩
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主格 (主語を表す形) 以外の格。対格 (「~を」に相当する形) や奪格 (「~から」に相当する形) など。 ↩
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本当は 4 つで、以降で「パターン 3」として紹介するパターンが 2 つに分かれています。しかし、この違いは、形容詞と副詞の意味というよりシャレイア語固有の語法に由来するものなので、ここでは一緒にしてしまいました。 ↩
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