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ヴェルメ語[第10回人工言語コンペ]

お題

邪神、悪魔、亡霊、悪鬼…この世に存在する邪悪な者たち。

その邪悪な存在と交信し、召喚するのに使われるのはある特別な言語。

さて、それはどんな言語でしょうか?邪悪な存在に関する神話や伝説の体系と、交信や呪文に使われる言語を作り解説してください。

ただし、もし「本物」を召喚してしまった場合は自己責任となりますのでご注意を…

概要

ヴェルメ語は、トゥレリア半島1に存在したヴェルメ人によって使用されていた言語。聖暦500年代にはヴェルメ人国家の隆盛と共にその存在が世に広く知れ渡ったが、フィルキス4世2によるトゥレリア遠征、そしてその後の聖教政策により現在はいくつかの書物にしかその姿を留めない。まあ、いわば死語だ。
さて、そのいくつかの書物の中の一つ、トゥレリア遠征の将軍クレヴス著作、「トゥレリア戦記」によれば、彼らの言語と祭祀はこのような物だったらしい_____

彼らは黒い雌鶏を裂き、山羊の頭を象った異教の祭壇に仰々しく捧げ、そして彼らの司祭が祭壇の前でこう唱えたのだ...
Fesetī (聞け) śi (我々の) cilā () Veścaiāri (ヴェシュカヤールよ)
Ta (汝は) śisorofāl (目覚めん) śā (我ら) e () tecālāmē (信者に因りて)
Ta(汝は) ete(である)ši(我々の) rēś() e() bendi(世界の) rēś()
Etesī(奪え) (彼らの) picas(目を) e() fesāsen(耳を)
すると、祭壇の雄山羊の頭が動き始めたので、祭祀を目撃していた人々はみなこれをウェシュカイアルの御業だと口々に言いふらした。

...まったく、禍々しい!一体彼らはどうしてこんな事を平然と行ったんだ?いやはや、しかしこんな蛮族を打ち破り、その上聖教化するなんて、やはり「聖帝」フィルキス四世は実に偉大だよ。君もそうは思わないか?
...
...
...
思わないか...いやいや、今のは私個人の意見だからね、気にしないでくれ。さて、あまり長話も良くないし、ここらで資料を見てもらおうか。


解説(ヴェルメ人と言語について)

ヴェルメ語は、SVOの形をとる屈折語である。アウレビア大語族西エレニア語派トゥレリア語群に属するとされる。話し手はトゥレリア遠征で征伐されたトゥレリアのヴェルメ人(ウェルマイ人とも)であったことが明らかになっている。
彼らは聖教政策が行われるまでヴェシュカヤールを主神とする独自の宗教を信仰しており、この宗教は多分にサタニズム的、悪魔崇拝的な要素3を含むものであった。
ヴェシュカヤールは天界と冥界の支配者で生死を操る神だとされており、ヴェルメ人は動物御供の儀式を通して彼を一時的にこの世に顕現させ、直接祈るという崇拝の形態をとっていた。多神教であることから他にも多くの神が信仰を集めており、中には人身御供を祭祀に組み込む神もいたという記述がトゥレリア戦記には残されている。

(前略)彼ら(ヴェルメ人)はセセレー(Šeserē)4という神を讃えるため、1年に1度、15~18歳の、割礼した少年を供物として捧げる。生贄となった少年は祭壇の前で腸を剥き出しにされ、神への供物とされる。その後3日間祭りが続き、彼らの王は金品を貧民に振る舞う。

文法解説

ヴェルメ語は典型的な屈折語である。
全ての品詞は男性女性に分けられ、主格、属格、対格、与格の4格を持つ。
自然言語ではあるが、現在は各地に残る碑文や「トゥレリア戦記」といった書物に描かれた祭祀の場面などを除き記録が現存せず、日常生活におけるヴェルメ語についてはわかっていないことが多い。

文字と読み方

ヴェルメ語を正確に表す文字は当時存在しなかったため、本資料におけるラテン文字表記法はアーラン・ウィクトリウスが聖暦1911年にトゥレリア戦記中の記述法を参考に考案したものを使用する。

同表記法で使用する文字は以下の通り。文字とIPAの音が一致しないものは文字の直後に[ ]を置いて読みを示す。
母音はa,e,i,o,uの五母音だが、長短の違いがある。

子音

s, ś[ʃ], c[k], k, t, d, r, l, p, b, v, h, n, m

母音

a, ā, e, ē, i, ī, o, ō, u, ū

語順

基本的にはSVO/NAの語順をとる。
格変化のせいか語順が流動的であり、与格をとる目的語が動詞の前に来ることがあり、その時はこの文章の様な形となる。

例文
Ec ā pe ete cerētē
1nom-3f.dat-渡す-犬acc
(私は彼女に犬を渡す5)
シュリエ市郊外で見つかった石片より

人称代名詞

人称代名詞は以下の2つの表の通り。
ヴェルメ語において普遍的な4つの格を持つが、与格は具格や位置格の要素も兼ねていたとされる。なお、研究が進んでいないため、一部が欠損していたり、再構された形であったりする。再構されたものは*で示す。

・単数

一単 二単 三単男 三単女
主格 ec ta el *es
属格 ti es es
対格 be tem *i ā
与格 (欠損) ā

・複数

一複 二複 三複
主格 śa i la
属格 śi ī
対格 šet (欠損)
与格 śā ie les

名詞

名詞は全て男性と女性に区別されていたと考えられている。祈祷文などではこれら4つの格に加えて呼格形の形が散見されるが、例が少ないためこの表では記さない。

・男性名詞I型
この形にはほとんどの男性名詞が含まれる。
ヴェルメ語の男性名詞は主格形が-r-sで終わることがほとんどである。これらは全て男性名詞I型に含まれる。

主格 属格 対格 与格
単数 ø(無標) -un
複数 ø(無標) -en -as

例文
Ec ledēce cilā veśkaiarē
1nom-誓う.1sg-神-ヴェシュカヤールdat
(私は神ヴェシュカヤールに誓う)
「ケルセイア」3章より

・男性名詞II型
男性名詞II型はtやdで終わる名詞が多く含まれる。
例えばabīt(少年)やcerēt(犬)はここに含まれる。なお、これらには当然例外も存在するので、語尾だけで性を判断する方法は必ずしも確かだとは言えない。

主格 属格 対格 与格
単数 ø(無標) -i -e
複数 ø(無標) -es -en

例文
Abītis er pos cilā śeserētē
少年.1plnom-である-為-神-セセレーdat
その少年たちはセセレー神のためである。
「トゥレリア戦記」中のヴェルメ人の言葉

・女性名詞
女性名詞には母音で終わるものや抽象名詞が多く含まれる。例えば「神」を表すcilāは女性名詞である。
そのため、女性名詞では格接辞に子音がつくことがある。

主格 属格 対格 与格
単数 ø(無標) -(t)i -(t)e -(t)ē
複数 *-(t)a -(t)es -(s)en -(s)ē

Be veterī porite cilāmes
1dat-与える.imp-力acc-神.plgen
神々の力を我に与えよ
「ケルセイア」中の祈祷文より

名詞の複数形

複数形の標示方法は非常にシンプルであり、男性名詞なら語末に接尾辞-(i)sを、女性名詞なら-(a)mをつけるだけで表すことが出来る。

動詞の活用

動詞も人称に合わせて活用する。
また、er動詞のように特殊な変化をとる動詞もある。

一人称 二人称 三人称
単数 ø(無標) -l -s
複数 ø(無標) -t -re

er動詞

er動詞は英語のbe動詞やフランス語のêtre動詞に相当する存在である。
現在はこの動詞のみ不規則な変化をすることが判明しているが、ヴェルメ語の不規則動詞は他にも数多くあったと見られる。

原形 一人称 二人称 三人称
単数 er er ete er
複数 er ise ete er

例文
Ta ete śeserē, cilā eranec
2nom-である-シェセレー、神-偉大な
汝はシェセレー、偉大な神
「トゥレリア戦記」中のヴェルメ人の発言


最後に

さて、資料はいかがだったかな?
まだまだ未完成だが、満足いただけただろうか。
あ、そうだ!
せっかくここまで読んでくれたのだし、最後に最新のヴェルメ語研究資料を見せよう。
まだ学会にも発表していない物だよ。
えーっと、どのファイルだったかな...

あ、これだ。
cerinūr、「雄山羊」という意味だ。
このテクストは従来の文献とは比べ物にならないほど長大な祈祷文でね、ヴェルメ語の再構がまた一歩前進しそうなのだよ!それにヴェルメ人の宗教にも深く関わっていそうだし、まさに一石二鳥さ!
どうせだし、出来ればぜひ声に出して読んでくれないか?資料はここに置いておくよ。

「雄山羊」

Ši feterī e veśkaiarī
Cilā vetates eteses, ceretes
Petres veresen e kiroveras
Bē ceretī porite
Les ceretī trasen
Pic śi er tes ti
Fesā śi er tes ti
Vetā śi er tes ti
Les ceretī trasen, trasen, trasen

日本語訳

我らの父よ、ヴェシュカヤールよ
命の神、奪い、与え、
冥界と地上を支配する者よ
我に力を与えよ
彼らに罰を与えよ
我らの目は汝にある
我らの耳は汝にある
我らの命は汝にある
彼らに罰を、罰を、罰を!


さて、しっかり音読してくれただろうか?
...
...
...
そうかそうか!読んでくれたのかい!
いやいや、僕はなかなか自分で読む勇気がなくてね、実は君に「毒味役」を任せたんだ。
え?どうして勇気が出なかったのかって?
...それは__まあ、そうだね、説明するのも面倒だし、後で君の後ろに立っているCerinūrにでも聞いてくれ。
え?誰もいない?
うーむ...そうか...残念だ、残念だけど、
君は「選ばれなかった」ようだね。
...
...
...どうなるのかって?
さあ?私は読んだことがないから分からない。まあ、きっと大丈夫さ、幸運を祈るよ。
それでは (Ne śesete pecole!) 6


余談

お題から結構逸れちゃった気もしますが、今回は「キリスト教化前のヨーロッパの言語」をモチーフに、ラテン語などを参考にしながら作ってみました。本当は宗教をもっと作り込みたかったのですが時間と知識不足で断念。
それにしてもアカウント名に「ヒューシェア語の人」とか書いておきながら初投稿がヒューシェア語じゃないのはこれ如何にという感じですが、今からmigdalでヒューシェア語の記事を書くのも面倒くさいので、一旦見逃してください🙏
メインで創作しているヒューシェア語についての記事はぼちぼちあげていく予定なので、もし興味のある方は定期的にこのアカウントを覗いてみてください!
それではまたどこかでお会いしましょう!

備考


  1. メディオ=アウレビア大陸北東部に位置する半島。黄海に面しており古来から貿易で栄えた。現在はエルビア連合王国領。 

  2. アウレビア帝国第17代皇帝。将軍クレヴスを派遣しトゥレリア半島の「異民族」を平定、同地域の聖教化を進めたため死後「聖帝」と呼ばれた。 

  3. むしろ「ヴェルメ人の宗教が悪魔崇拝のイメージを作り上げた」というのが正しい。この事から、ヴェルメ人は悪魔と交信する力があったオカルト界隈でまことしやかに囁かれている。 

  4. シェセレーが何の神かはよく分かっていない。女性名詞であることや少年の供物を要求することから女神だと考えられており、だとすれば聖教における大精霊テッセ(Tesse)と同一の存在である可能性がある。 

  5. 文脈的にもおそらく「渡す」を意味するpeceteだと思われるが、石片の文字がかすれていて読むことが出来ない。別の言葉である可能性もある。 

  6. Ne śesete pecoleは、ヴェルメ人の墓に刻まれている言葉。死後の平安を祈るものである。 

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