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セレニッタ語(第15回人工言語コンペ提出作品)

お題

「無」の持つ性質を文法に組み込んだ言語を作ってください
以下が審査要件です(満たしてなくても出していいよ!)
1.言語体系
2.その言語のどこに「無」が組み込まれているか
3.簡単な例文いくつか(文法の性質が活きているとなおよい)
以下は出来ればで提出してくれると私がうれしいものです
ex1.その言語を話す主体の特徴と居住地域
ex2.その主体たちの間での今年の流行語

おことわり

 この記事、及び話はフィクションです。現代の特定の思想、人物・団体とは一切関係がございません。(この記事においては)特定の思想や人物・団体を支持するコメントはお止めくださるようお願い申し上げます。

Prologue

 ビルの三階の端の部屋の戸を生体認証システムで開けると、無駄にぴかぴかしたネームを腰のあたりに浮かせている中年の男が立っていた。「建川」と書いてある。良かった。日本人だ。
「あぁ、君が今日から来た新人か。日本自治区の言語省セレニッタ語違反統括室へようこそ」顔は少し強面に見えるが、声はとても穏やかだ。耳にこびりついた機械翻訳の音声が引き剥がされていくようで、心地よい。
「なに、緊張することはない。格好つけたような名前をしているが、ここは《世界政府》の地方行政機関の中でも目立たない位置にいる。その中でも資料やコンピューターにしか向き合わない雑務だけを行っているところなのだから、この室長という肩書は仰々しすぎる」ただ、建川室長はそう言いながらもまんざらでもない表情をしている。こういう肩書って、水で溶かずにそのまま塗り付けた水彩絵具みたいだ。
 周りを見回すと、確かに数台のコンピューターと、埃を被っているものと新しめのものが混ざりあった資料の山がある。父がかつてそうだった「窓際」というのはこういうものなのかと思ってちょっと悲しくなった。
「まあ、本題に入ろうか。君は、セレニッタ語を知っているだろう?」
 交通省から急に異動命令が出て、ここに配属された。だから、少し詳しく調べることくらいはした。既に知っていたし、自分自身も一日に一回は使っているから、これ以上調べる必要があるのか、と思ったが、調べてみると、意外と知らないことが多かった。近代史に関する情報が特に多かったけれど、そこはちらっと見て「あぁ、これは無理だ」と思ってやめた。
「ここは名前の通り、日本自治区でのセレニッタ語使用における違反データの処理を行っている。まあ、この地域では違反件数が少なめだから、巨大モニター室が割り当てられていないんだよ」セレニッタ、の発音がやけにきれいに響く。
 違反。この言語について調べていた時に、初めて《三禁忌》のことを知った。それを犯すとどうなるのか。そこまでは書かれていなかった。
「この言語ができたのが約二百年前。《三禁忌》が制定されたのは丁度百五十年前だ。ここで働くなら、その経緯くらいは知っておいた方が良かったりするぞ」と、室長は最後だけ曖昧に言う。
 すみません、存じ上げないです、と応えると、彼が「待っていました」という顔をして、説明を始めた。
「じゃあこの言語が作られたところから話そうか。西暦二千三百三十年、遂に技術はかつての空想へ達し、世界は夢の国と化した…」

セレニッタ語の説明

「セレニッタ語」(Serenita[ˈɬɛ.ʁɛn.ˌɪ.ʔtʰɑ])は、人類が自らの物欲を満たすために人が必要に応じて物を得るために西暦2330年に誕生した人工言語で、母語として使用している人は存在しません。後述される《世界政府》の第三言語くらいの立ち位置です。
 詳しい文は後々説明しますが、この言語を使用すると、基本的になんでも手に入れることができます(物質のみ)。しかも、資金を一切消費せずにそうすることができるのです(正確には運営費などで国債などにはなる)。
 音韻や文法を紹介する前に、仕組みと、この世界の歴史について解説します。全て読む必要はないので、文法の主要部分についてだけ知りたい人は仕組み歴史も全部飛ばしていただいて構いません。

仕組み

 セレニッタ語を使用して物を得る方法について説明します。
 この言語の(文法的、音韻的に正しい)文を話すと、区画ごとについたマイクが音声を拾ったのち主語の位置情報、主語が複数の場合主語の半径4m以内の人の情報を取得し、各地の《バベル》(昔は《言語の塔》と呼ばれていたが、現在は政府公式の呼び名をそのまま使用)にデータを送ります。各《バベル》には《単語帳》(有効な名詞と形容詞の組み合わせのリスト)の名詞に紐づく3Dデータが保管されており、主語(たち)が必要とするものを各個3Dプリントし、主語の位置情報のすぐ近くへ転送します。ちなみに、技術の発達により、資源などの問題は基本的に解決しています。主語が発声者でない場合、発声者の一番近くの主語の前に転送します。また、この言語にはもう一つの効果がありますが、それについては後述します。

歴史("現在"は2026年5月時点、"現代"は2496年時点)

 2320年、(現在のポーランド領における)ビャウィストクにて、技術者や数学者、言語学者が集まって「プロジェクト・ザメンホフ」を結成した。彼らの目的は、「現実世界に干渉できる言語を作る」ということだった。
 2330年、遂に彼らの初作品・セレニッタ語が完成。「人の必要性に応じて、そこに物体を生成できる言語」という発表は、世界中の様々な学会に衝撃を及ぼした。ただ、莫大な予算がかかった上、「世界の平和や均衡を破壊しない」というルールのもと作られたため、硬貨・紙幣や、非軍事用も含む武器類を得ることはできず、得ることができるのは彼らが《単語帳》に追加している物だけであった。また、発音なども難しかったところから、一時は大注目されたが、あまり見向きされないようになった。
 2334年、亀よりも遅いスピードで少しずつ進歩していたセレニッタ語に、国際連合が目を付ける。研究の利権を買収し、使用における効果適用(=使用した時に意味がある)範囲を世界に広げ始めた。
 2337年、セレニッタ語の効果適用範囲が遂に世界を覆った。稼働の準備が始まる。また、この言語の利権を持っている国連が世界の覇権を握るようになり、議会にて《世界政府》の樹立についての議論が始まる。
 2339年、国連で議論が進む中、《世界政府》の樹立に反発する個人主義的無政府主義団体《Absoluta Libereco》(エスペラント語で「絶対的な自由」)や軍政国家による国際テロリズムが発生。世界連合軍との2年程に渡る抗争が続く。セレニッタ語の軍事使用も計画されたが、途中で中止された。
 2341年、ボゴタ(現在のコロンビア首都)の戦いの終結と同時に、連合軍の勝利という形で抗争が終結。《Absoluta Libereco》の幹部はチベットやアフリカへ逃亡し、構成員は世界中に潜伏し、現代でも小さな抵抗が続いている。国家(として参加した勢力)はもちろんと言うべきか、国連統治下に置かれた。この抗争で、樹立反対側のある国家が、連合軍側の都市マルメー(現在のスウェーデン領)に核兵器を撃ち込んだ。スウェーデン南部及び現在のデンマーク全域、ドイツ北部は焦土と化し、スカンジナビア南部の海運は多大な打撃を受けた。また、連合軍側は核兵器を使用していない。
 2343年6月、遂に国連総会にて《世界政府》の樹立宣言がなされる。多くの国の代表たちは一斉に彼ら彼女らの国の名前の書かれたボードを倒し喜んだ。国名は《地球統一連邦》。首都は、樹立当時に国連本部ビルのあったベルン(現在のスイス首都)だった。この都市は行政権の範囲を拡大し、元スイス=オーストリア連邦(2117~)の大部分まで拡がった後、ラス・ロタス・ダル・ムンド(ロマンシュ語で「世界の車輪」)、略称ムンドロタスへと改名。世論では、世界統一をしては権威集中が危険ではとの意見が流れたが、副都市制や自自区制定などの取り組みにより多くは消えていった。北アメリカは十個弱の自治区に分かれたが、日本は全ての領土を保ったまま「日本自治区」となった。なお、現代ではアイヌ民族の数が少しずつ回復し、「蝦夷自治区」の設立も考えられている。
 2344年、遂に諸々のメンテナンスを経て、セレニッタ語の世界での使用が始まった。「プロジェクト・ザメンホフ」はこの名義での活動を辞め、《世界政府》の管理のもと、残った数十人の元研究員と、新たに加わった人々が研究を受け継いだ。そして、この言語の研究員が世界の職業の収入ランキング5位に入る。ただ、研究所はモンペリエ(現在のフランスの学術都市)に移転し、《世界政府》の管理下に入った後の現代も、当倍速とは思えない程ゆっくり、ゆったりとした環境であり、この言語の発音も最悪なままだ。
 2345年の後半、少しずつセレニッタ語に慣れてきた人々が平均して一日に三回くらい使うようになった時。「動詞の否定活用」の存在に気づいた男がいた。彼は試しに一つの林檎を目の前に置いて、「林檎を必要としない」という趣旨の文を発した。すると、目の前の林檎が消滅した。彼はこの情報を自身のSNSに掲載し、「皆は気づいていないかもしれないが、セレニッタ語には物を消す力がある」と、広く知らせた。その後、これを悪用した事例が多発。人を消すこともできる、という恐怖に、《世界政府》、及び全ての人類は戦慄した。問題が解決するまで、この言語は使用停止となる。
 2346年の始め、急速にセレニッタ語の管理体制を見直した《世界政府》は、動詞の否定活用の悪用、また他にも起きていた問題への対処のため、《三禁忌》を発令し、《地球統一連邦》の法律に載せる。他にも細かい法律は存在するが、大きな決まりは現代でもこれだけである。同時に、セレニッタ語の使用再開始に向け準備が始まった。再開した数か月後、ある有名インフルエンサーが、これを破る、という配信をして、配信の最後に急に体が消滅する、という事件が起きた。「暗殺」「フェイク」など多くの説が流れたが、《世界政府》から「(インフルエンサーの名前)の消失に関する事実」という声明が出されたことで、それらの噂は立ち消えになった。彼らは前もって、《単語帳》に管理者などの土地でしか使えない名詞、人名の固有名詞を追加していたので、違反があればセレニッタ語を使ってその人物を消す、というどこまでも厳しい罰則を作ったのである。また、これまでほぼ《バベル》の管理、また自治区の言語に関する統計だけの業務をしていた自治区及び本部の「言語省」の業務が一気に増えた。体制変更・使用再開始への準備、《三禁忌》に関する注意喚起、各地のマイクから届く違反の統括、違反者への罰則、研究所の監視、研究所との連携強化、有国籍者の名前の登録など、その時だけの物や継続的なものなど様々である。ピーク時ではこの省の世界全体の総計予算が国家予算の半分を占めたこともあり、この省の歴史の中でこの時は一番大変な時だったと言える。《世界政府》が恐怖による支配を始めるのではないか、という意見があったが、現代までそのような大きい動きは見せていない。
 2349年、事態が落ち着いてきたところで、《世界政府》は「《単語帳》への名詞追加依頼を許可する」という声明を出した。審査制で生成できるものを追加できる、というシステムが加わった。採用されたもので今でも人気を誇るのが「wisătats」[ˈwɪ.ɬɘ.ˌtɑʔt͡ɬʰ]/ピスタチオ(一粒)である。
 そして2496年、《三禁忌》制定から150年が経った。《Absoluta Libereco》は多くの幹部の逮捕・死亡により団結力を失っており、残党の最大勢力はスマトラ島(現在のスリランカ)に陣取っているとされる。《三禁忌》違反で子供が死なないよう、生まれた赤ちゃんは無国籍のまま家族ごと残党に匿ってもらう、という「非地球民運動」が密かに流行した期間が長く続き、今では無国籍の人が推定200万人まで上っているとされる。動詞の否定活用などの存在も、セレニッタ語のプラスの面によって世間に忘れ去られたため、《三禁忌》の違反も少なくなり、各自治区の言語省の予算もピークの時の10%までに落ち、大きな省の陰に隠れてひっそりと活動している。

《三禁忌》全文(日本語訳)

 セレニッタ語の文としての使用において、以下のことを禁ずる。
 一、代名詞を必要格に当たるものとして使用すること。また逆に、代名詞でない名詞を主語として使用すること。
 二、「menos」[mɛnɔɬ]/私、また「nonos」[nɔnɔɬ]/私達、以外の代名詞を主語として使用すること。
 三、動詞の否定活用を使うこと。また、それを用いて否定文を発すること。
 これを破った本邦の国民は厳重に処罰される。なお、文法的、音韻的にこの言語の文として成り立っていない場合は、以上のことを行っても違反にならない。

音韻

表記
この言語は基本口語ですが、表記する時は《単語帳》の表記基準に乗っ取ったものを使用しています。動詞や形容詞のセレニッタ語辞書も同じ表記の仕方をしています。
母音

 
前舌 中舌 後舌
狭めの広 ɪ
中央~半広 ɛ ə ɔ
ɑ

i[ɪ],e[ɛ],ă[ə],o[ɔ],a[ɑ]
 二重母音は[w-]です。長母音の有無は話者によりまちまちで、多少許容されます。
 単語末の[ɑ]の異音として[ə]が許容されています。なのでこの言語名は時々[ˈɬɛ.ʁɛn.ˌɪ.ʔtʰə]と発音されます。
 
子音(半母音含む)

両唇音 歯茎音 硬口蓋音 口蓋垂音 声門音
破裂音 t(tʰ) q(qʰ) (ʔ)
破擦音 t͡ɬ(t͡ɬʰ)
鼻音 m n (ɲ) (ɴ)
摩擦音 ɬ ç/ʝ
接近音 w ʁ

t[t],kw[q],ts[t͡ɬ],m,n,s[ɬ],hj[ç],jj[ʝ],w,r[ʁ]
 [ə]以外の母音の後に頭子音が破裂・擦音の音節が続く時、[ʔ]が間に入ります。また、その破裂・擦音は帯気音化します。[n]は硬口蓋音が後ろに来る時[ɲ]、口蓋垂音の時は[ɴ]といった異音になることがあります。
音節構造
V,([ʔ]+)CV,([ʔ]+)CV(+[ʔ]+)C
 子音連続はn+(w以外の子音)のみです。音節と音節の間でしか存在しません。
 アクセントは強勢です。後々説明します。

文法

品詞
 品詞は(代)名詞、動詞、形容詞が存在します。
 (代)名詞・形容詞は閉音節終わり、動詞は開音節終わりです。どの品詞においても、第一強勢は最初の音節にあります。
 代名詞は、一人称単複数、二人称単複数、男性・女性単数、三人称複数形があります。ですが、一人称以外の代名詞を主語として文中で使用することは《三禁忌》によって禁じられています。
 名詞には複数形がなく、数詞もありません。全て単数です。一部の名詞は、特定の形容詞がついていないと、話しても意味がないです。例えば、「水」単体では意味がなく、「コップ一杯の」や「バケツ一杯の」という形容詞を付ける必要があります。
格変化・活用
 名詞・及びそれに係る形容詞が格変化することがあります。一般名詞は基本主格・目的格が原型ですが、主語になることは《三禁忌》によって禁じられています。格には「目的格」と「必要格」がありますが、格変化することがあるのは「必要格」です。これは「~があることでのみ」という意味になるものです。
 一般名詞の必要格変化には、母音調和が存在します。変化前の最終音節の主音が前~中舌なら[-.ˌɪ.tʰɑ]、後舌なら[-.ˌɔ.tʰɑ]が付きます。変化前の単語に第二強勢がある場合、また、最終音節の主音が[ə]なら、それは変化時に[ɛ]になります。代名詞も必要格変化することはできますが、それは《三禁忌》で禁じられています。
 形容詞の必要格変化は、語末の子音が硬口蓋音または口蓋垂音でない場合、その子音が硬口蓋化し(表記でも-jが付く)、その後語末の子音にかかわらず[-ə]が付きます。
 動詞には否定活用があり、[-.nɛɬ]が付くことでそうなります。ですが、否定活用を使うことは、《三禁忌》で禁止されています。この言語では"無"にすることを望む方法が(法律上)無いのです。
語順
 (必要格をN(necessary case)と呼ぶと)語順はSVN(O)です。また、形容詞は前置します。文の意味は「SはNがあることでのみ(Oを/に)Vする(できる)」というような意味になります。否定文の時は「SはNがあることでのみ(Oを/に)Vしない(できない)」というような意味になります。ですが、否定文を発することは、《三禁忌》で禁止されています。また、うっかり母語の語順が出てしまわないよう注意しましょう。《三禁忌》に引っかかってしまう可能性があります。
例文と効果
凡例:

発音
単語訳
日本語訳
効果・補足

menos wiwi jjănresisjă aqwota.
[ˈmɛ.nɔɬ ˈwɪ.wɪ ˈʝəɴ.ʁɛɬ.ˌɪ.ɬjə ˈɑq.ˌɔʔtʰɑ]
私(S)/生きる(V)/コップ一杯の水(N)
私はコップ一杯の水があることでのみ生きられる。
基本的な文です。話者の目の前にコップ一杯の水が現れます。「生きる」という動詞さえあれば、どんな文でも辻褄がちゃんと合う、という欠点があります。現代でのこの言語の正式使用において、一番使用されている動詞です(全体の8割くらい)。

nonos mankwa wisătatsota wisătats.
[ˈnɔ.nɔɬ ˈmɑɴ.qɑ ˈwɪ.ɬɘ.tɑʔt͡ɬʰ.ˌɔʔtʰɑ ˈwɪ.ɬɘ.ˌtɑʔt͡ɬʰ]
私たち(S)/食べる(V)/ピスタチオ(N)/ピスタチオ(O)
私たちはピスタチオがあることでのみピスタチオを食べられる。
SVNOの文です。また、小泉構文です話者+周りの人の目の前にそれぞれピスタチオ一粒が現れます。「食べる」とは言っていますが、食べるか食べないかは個人の自由です。ピスタチオ好きの人は周りに人を一杯集めてからこの文を使用して、沢山ピスタチオをもらいましょう。

menos kwikwo kwarota eris.
[ˈmɛ.nɔɬ ˈqi.ʔqʰɔ ˈqaʁ.ˌɔʔtʰɑ ˈɛʁ.iɬ]
私(S)/行く(V)/車(N)/彼(O)
私は車があることでのみ彼(のところ)に行ける。
代名詞が目的語に来ることもできます。車種は分かりませんが、きっと最新技術を詰め込んだ環境にやさしい車でしょう。

hjisătem wiwi mejjă akwota.
[ˈçɪ.ɬət.ˌɛm ˈwɪ.wɪ ˈmɛʝ.ə ˈɑʔqʰ.ˌɔʔtʰɑ]
魚(S)/生きる(V)/巨大な水(N)
魚は巨大な水(水たまり一つ~小さな湖くらいの量)があることでのみ生きることができる。
名詞が主語に来ているので《三禁忌》違反です。近くの魚の周りに急に水が溢れ出したら迷惑ですからね。

nonos mankwanes worekwita sarat.
[ˈnɔ.nɔɬ ˈmɑɴ.qɑ.nɛɬ ˈwɔʁ.ɛʔqʰ.ˌɪʔtʰɑ ˈɬɑ.ʁɑʔtʰ]
私たち(S)/食べない(V)/フォーク(N)/サラダ(O)
私たちはフォークがあることでのみサラダを食べることができない。
否定文なので《三禁忌》違反です。たとえ他人に迷惑がかからないように思えてもです。この文を使用した十数秒後、セレニッタ語によって話者は消滅します。

文法的に文として成り立たない(効果が無い)例

  • 特定の形容詞が必要な名詞にその形容詞を付けずに使用したとき
  • 《単語帳》に載っていない形容をした名詞を使用したとき
  • 代名詞に形容詞がついているとき
  • S、V、Nのどれかが抜けているとき
  • 語順がSVONやSOVN(または主語が二つあるような状態)などの時(《三禁忌》に違反はしないが意味はない)

ただ、効果が無いので、会話の中での文として使うこともできます。
hjisătem wiwi akwota.
[ˈçɪ.ɬət.ˌɛm ˈwɪ.wɪ ˈɑʔqʰ.ˌɔʔtʰɑ]
魚(S)/生きる(V)/水(N)
魚は水があることでのみ生きることができる。
《三禁忌》に違反してはいますが、文法的に正しいかのチェックが先(そもそも《三禁忌》は後付けのルール)なので、処罰されることはありません。SVO語順ならば、本当に普通の会話もできてしまいます。

辞書(《三禁忌》に触れる単語や曲用も含む)はこちらです。

Epilogue

「なるほど、一人の男の好奇心がバタフライエフェクトを起こしたんですね」
 適当にまとめてみる。こういうことをすれば、室長のような人はきっと嬉しくなるだろう。
「おお、その通りだな。聞いてくれてありがとう」室長がにんまりする。おお、その通りだな、と違う意味で思った。
「そうだ、君は近々この言語に関する新たなプロジェクトが始まることを知っているか」
 知らない。「知りません」
「命を持つものを、犬とか猫とか、生成して送れるようにするようだ。倫理的にどうだという意見もあるが、とにかく開始はほぼ確実と聞いた」
 それって必要によるものなのかな、と思ったけど、言ってしまったら、この言語が悪人の道具にしか見えなくなるような気がして、言わないことにした。
「今日はもう挨拶だけで、業務はないから、君は帰っていい。お疲れ様」聞くだけであまり疲れていないけど、「ありがとうございます」礼儀は絶対に必要だと思う。
 ドアを開けようとした瞬間、頭に一つの疑問が過った。体をねじって、室長の方を向く。
「建川さん、セレニッタってどんな意味なんですか」僕の「セレニッタ」は、小さな子供が描く絵みたいな発音になる。意味は通じるけど、完璧とは言えない。
「あぁ、実はそれはあまり知られていなくてね。これの原型は「serăn」[ˈɬɛ.ʁən]だ。この単語は《単語帳》には載っていないんだ。プロジェクト・ザメンホフの一員がこう言った、という噂がある」そこで彼は大きく息を吸い、
「これの意味は『全て』だ」と言った。
「全てが必要、つまるところこの言語は欲の塊でしかないわけだ。」心の中のすごく硬いもやもやが、一気に弾けていくように思えた。なぁんだ。
「教えてくれて、ありがとうございました。明日からよろしくお願いします」ドアノブを捻り、長い廊下に出る。
 壁にあるデジタル掲示板には、「セレニッタ語単語・連語の必要格としての使用回数ランキング(今年度、日本自治区)」というものが張り出されている。ほぼリアルタイムらしい。一位のところには「min tomat」[ˈmɪn ˈtɔm.ɑʔtʰ]/プチトマト、と書いてあった。なんでみんな、そんなにプチトマトが必要なんだろう。
 一人の男の好奇心がバタフライエフェクトを起こした。
 その男は苦悩した。自分が気づかなければ、と。「君が気づかなくてもいずれこうなっていた」と周りは言った。励ましだったのだろうが、彼にとっては突き刺す槍のようにしか思えなかった。
 増大、進歩、成長を絶対に望まなければならないのか、何もない、虚を望むことはできないのか、と男は考えた。考え続けた。
 しかし、最終的に彼は死んだ。皮肉にも、セレニッタ語で生成した林檎に毒を自ら塗りつけて。
 進むことを拒むこと。それは、この現代において最高に贅沢なこととなった。「技術」の辞書に「現状維持」という言葉は無く、「倫理」という部分は破り捨てられた。《単語帳》への生命追加もそうだ。まさに25世紀が終わろうとしている今、いつからこうなってしまったのか、と思考を巡らすことは、どこまでも野暮なのだろう。
 エレベーターの▽ボタンを押して、小さな箱の中へ入る。中には他に誰もいなかったし、誰も他に入って来なかった。
 モニターに映し出されている数字が3から下がっていく様子を見ながら、どのマイクにも拾われないような小さな声で、[ˈɬɛ.ʁən]、と唱えた。

~完~

あとがきと感想
参加チーム名「炒飯定食
Menber
記事and諸々担当:friedrice
(主に)語彙追加and例文担当:せんちゃ!

 こんにちは。またしてもテスト期間が被ってしまったfriedriceです。

(お題が)「苦手」とかなんならthumbsupもthumbsdownも押さない中立が最適解(from コンペ鯖での私の投稿)

 今回のお題は丁度自分が上記の行動をしていたものでした。でもやってみればいいお題だったのでちょっと後悔してます。
 今回の道のり

  • 5/1(開始日) 発想が来ました。ただおぼろげながら浮かんで…(以下省略)なのでまだ砂の城状態です。
  • 5/2 一旦セレニッタ語という名前に決めて記事とZpDICを作りました。まだ空です。
  • 5/5 単語作りが大変になりそうだと感じたのでチーム参加募集をしました。速攻せんちゃ!さんが手を挙げてくださったので安心しました。
  • 5/11~5/15 migdalが閉まってましたね…週末の10,11日までに記事の55%くらいは書けてたのでOKかなと思います(本来ならダメです)。ZpDICは空のままです。
  • 5/18 記事を書き終えました。ZpDIC作業に移ります。
  • 5/20 本気出し始めです。単語整備とか例文とか
  • 5/21 新規単語を作りまくりました。10単個強くらい増えてます。
  • 5/22 提出期間開始です。記事と辞典が大体仕上げに入ってます。
  • 5/23 あとがきを書ききって提出です!20~22日はすごく頑張りました!

 前回の作品とは大きく趣向を変えてみまして、ちょっとSFめです。Absoluta Liberecoとか三禁忌とか中二病かよそもそもお題に合ってるか、という部分もかなりこじつけな感じがあります。記事も脱線が多かったり構成の仕方が下手とすごく読みにくい記事になってしまいました。より精進しなければならないことだけは分かりました。
 中々進捗が厳しい今回のコンペでしたが、なんとか作品を完成させることができました。改めて、出題者のかめりぁさん、運営の皆さん、制作を手伝っていただいたせんちゃ!さんにここで感謝申し上げます。また、長い長いこの記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
by friedrice


炒飯定食のせんちゃです。
お口直しにでもどうぞ。
……という冗談は置いておいて、ここまで読んでいただきありがとうございます。
friedriceさんの募集に自ら行った立場ではありますが、設定のほとんどをお任せしてしまったので不甲斐ない限りです……
……私はテスト週間を恨みます。

さて、設定を考えてくださったfriedriceさん、運営の皆々様、そしてここまで読んでくださった皆さんに最大級の謝辞を述べたいと思います!
ありがとうございました!
by せんちゃ!


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