現代更紗語の母音
既に何度もツイートしているからそれなりに浸透している可能性があるが、更紗語の母音は5母音で a, i, ə, u, o の5種類である。
現代更紗語には、日本語で言う「え」の発音がなく、その代わりに中舌中央母音が存在するため、ラテン文字に転写する場合に中舌中央母音を e で転写する。ただし、今回の話題ではその表記を行うと混乱の元になるので、ə に統一することにする。
また、 u に関しても、ロシア語の У のようにしっかりと円唇で発音する母音であり、日本語東京方言の非円唇気味の「う」とは異なる発音である。
更紗祖語の母音
更紗祖語の時代には、前述した5母音に加えて、e(日本語で言う「え」の音)があり、a, i, ə, u, o, e 全部で6種類の母音が存在したと想定している。
これが後の時代に、一部はiに、一部はəに合流したことによって、5母音になった。
また、oについては、その一部がuに変化したので、結果としてoは更紗語の5母音の中で最少の登場頻度となった、とも想定している。
なお、二重母音のaiとiaはeを経てəになり、auとuaはどちらもoになった。
拗音に関して
更紗語には合拗音と開拗音が存在する。すなわち、更紗語は ma と mʷa と mʲa の如く、円唇化や口蓋化の有無による音韻対立がある。そしてこの音は動詞の活用語尾にも現れてくるあたり、更紗語が相当古い時代から持っていた性質だと考えた方が良さそうである。
動詞の活用について突き詰めて考えていくと、更紗祖語の時代で既に拗音をもっていたと考えた方が矛盾が少ないのである。
先更紗祖語の母音
更紗祖語の時点で既に拗音を持っていたという設定を合理的に説明しようと思えば、更紗祖語のもう1つ前の祖語(仮にここでは「先更紗祖語」と呼ぶことにする)はどのような母音組織だったと考えるのが良いだろうか。
ここでヒントになりそうなのが、古代教会スラブ語である。
キリル文字には硬音符号Ъと軟音符号Ьがあるが、これらは元々(uやiとは異なる)母音を表す文字だったようである。
更紗語も、「後に子音を円唇化させて自分自身は消えた母音」「後に子音を口蓋化させて自分自身は消えた母音」があったと想定する、というのはどうだろうか。ただし、それらはuやi自身とは異なる母音と設定する必要がある。例えば、以下のように設定すると上手く説明ができるようになるかもしれない。
(先更紗祖語)→(更紗祖語)→(更紗語)
a → a → a
ɪ → i → i
ə → ə → ə
ɯ~ʊ → u → u
au~o → o → 一部がoに、一部がuに合流
aɪ~e → e → 一部がəに、一部がiに合流
i → ʲ → ʲ
u → ʷ → ʷ
※更紗祖語の時点における二重母音は、先更紗祖語では間に何らかの子音が挟まっていたと考える。
現代更紗語は5母音、更紗祖語は6母音、そして先更紗祖語は8母音という仮説ができた。
もしかすると、他の再構体系もありうるかもしれない。それは今後の課題としよう。
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