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みかぶる
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時代区分

この記事は、語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2024の25日目向けに書かれた記事です。この記事は引用部分を除き、cc0ライセンスです。
間に合わなかったので冒頭だけ載せています。いずれ加筆します

はじめに

 私みかぶるは2015年ごろに人工言語という概念を知り、ネットでエスペラントやアルカについて調べ、2016年からツイッターアカウントを作成して人工言語界隈と呼ばれている界隈と交流を持ってきました。人工言語趣味を始めたのはつい最近のような気分でずっと過ごしていて、界隈の歴史などは私よりもっと古参の人が勝手に書いてくれるだろうと思っていたのですが、よく考えると9年くらい経っていることに気づいたので、一度日本語圏のネット上の人工言語コミュニティーの歴史を今わかる範囲である程度まとまった文章として残しておきたいと思いました。誰にでもアクセスできる歴史があることで、古参しか知らない出来事の有害な神秘性が失われ、一度起こった議論の成果を参照しやすくなり、新参や界隈外の人にとって、制作の参考のみならずさまざまに有用だと思います。

三つの歴史区分

 日本のネット上の人工言語界隈の歴史は大きく三つに区分でき、それはセレン時代、「集団創作時代」、「インフルエンサー時代」であると考えます。
 これらの区分を、時代名、期間、特徴、代表的な言語の要素で表で示すと表1のようになります

表1. 人工言語界隈史の三分法

時代名 期間 特徴 代表的な言語
セレン時代 2005年から2013年 掲示板や個人サイトでの活動が中心。セレンアルバザード氏を中心にした創作集団による「人工言語アルカ」の存在が圧倒的。語彙数や、現実世界からの独立性(セレン氏は「アプリオリ言語」と呼ぶ)を重視するアルカの姿勢は、後の時代から、「セレニズム」と呼ばれ批判される。 アルカ、アスガル語、キロン語、リサトプ語, ノシロ語
創作集団時代(後アルカ時代、悠里時代) 2014年から2017年 Twitterやatwikiが活動の中心。ユーゴック語とリパライン語の世界設定を接続することから始まった「悠里」や、銀河系にひろがる文明と言語を創作する「大宇宙」といった創作集団が、おおむね一人一言語の担当を持って創作を進める。 リパライン語、ユーゴック語、エミュンス語、ダンラハン語、アラズ語
インフルエンサー時代 2018年以降 twitter、discord、migdalを中心にyoutube、VRChatでも活動。「異世界語入門」の出版、アルティハジーク語の朝日新聞への掲載、シャレイア語の言語オリンピック日本予選問題への採用、クイズノックチャンネルへの露出、すきえんてぃあ氏のインフルエンサー化など、個人のメディア露出が増える リパライン語、シャレイア語、オ゛ェジュルニョェーッ語、ワタナベタウン語

セレン時代

 セレン時代は、セレンアルバザード氏が製作し、後に創作コミュニティーが制作に協力した「人工言語アルカ」が界隈の中心だった時代で、アルカが初めて掲示板に登場する2005年から、作者のセレン氏が逮捕収監される2013年まで続きます。
 セレン時代の人工言語の活動は、にちゃんねるの言語学板の「人工言語について語りましょう」シリーズなどのスレ、@chsの「人工言語アルカ板」、 無料レンタル掲示板YYかきこ上の「人工言語憩いの場」、したらばの「人工言語掲示板」での議論や言語の共同制作、twitterでの交流、個人サイトでの製作物の発表によって行われました。
 アルカ以前の日本語圏のネット空間では、ノシロ語や地球語など国際補助語が中心でしたが、セレン氏は国際補助語は時代遅れで文化やコンテンツを持たない言語は学ぶ動機が薄いと批判し、異世界で話されるという設定のアルカを発表しました。また、自ら立ち上げた「新生人工言語論」というサイトで、「人工言語学」と称して人工言語の目的や志向に沿った作り方を体系的に論じました。この人工言語論は、アルカの遠回しな宣伝であると批判されることもありました。また、語彙や文化をなるべく大量に作り込み、アプリオリ(完全オリジナル)を薦めるなど彼の人工言語論の推奨する傾向は、後に「セレニズム」と批判されるようになります。
 セレン氏の影響で、異世界を持ちアプリオリな架空言語の創作を始める人が多く現れました。リパライン語(2011)、シャレイア語(2012)など後に大きな影響力をもつ言語もこのころ誕生しました。

創作集団時代

 創作集団時代はtwitterで出会った個人が、それぞれの言語の世界観を共有した創作集団を結成し、skype通話やオフ会で交流し、atwikiなどのwikiサービスを共同編集し発表する創作形態が多かった時代です。創作集団時代はセレン氏の逮捕でアルカコミュニティーの影響が薄まった2014年から、twitterでの意見の衝突が激しくなる2017年まで続きます。
 創作集団時代前期には、悠里(ユーゴック語、リパライン語、パイグ語、バート語等)や大宇宙(エミュンス語、ダンラハン語、クレリカ(離脱))などの創作集団がありました。悠里は二つの惑星、大宇宙は銀河系を舞台にしています。各創作世界では各参加者がおおむね一つの言語とその言語が話される国や文化圏の創作を担当しました。悠里での「古理字論争」、世界設定共有問題などの設定のすり合わせの混乱、連絡がつかなくなったメンバーの創作の停滞、メンバーの進学や就職でしだいに創作は停滞していきました。このうち、悠里は、FaFsさんのライトノベル「異世界語入門」やパイグ語の架空卓上ゲーム「パイグ将棋」などの個人ベースの創作が中心に継続しました。
 創作集団時代後期には架空地図から発展した想像地図世界、架空国家創作から発展した亜空世界、ミザソーグ語から発展した観測世界などの創作集団が出現しました。これらは、コアとなる創作が一つであるか、最初から集団創作として出発しているため、設定のすり合わせに無理がなく、一つの惑星上で展開されることが特徴です。
 創作集団以外の活動では、この時代に個人によるミニマル言語や冗談言語が流行しました。また、トキポナやイスクイル、ロジバンなどの海外の人工言語を楽しむ日本語圏の人が増えたのもこの時期です。お題をもとに人工言語をつくる人工言語コンペも初めて開催されました。
 創作集団時代の特徴は、創作集団に属すか否かに関わらず、人工言語界隈全体の人数が80人程度であり、ほぼ全員がtwitterで相互フォローであり、空リプとして話題を共有できる環境に依存していました。2016-07-13以降活動のないそぶろさんによってまとめられた「人工言語屋たちのリスト」は2025-04-01時点で42アカウント、2018-02-13に鮎川氏によってまとめられた「人工言語クラスタがチョット分かるリスト」にあるアカウントをフォローする人工言語クラスタフォローのフォロー欄は2025-04-01時点で81アカウントです。しかし、2017年に「囲碁たん事件」「個人と界隈事件」「ユーフォニー指数事件」といった界隈内外での衝突があり、それぞれ囲碁たん、藤原安眞さんおよびトルミスナーノさん、すきえんてぃあさんが集団ブロック対象になりました。2020年に「讃岐弁-批判たん事件」「お気持ちブーム事件」があり、人工言語論で対立がありました。これらの時期から、すきえんてぃあさん、トルミスさん、藤原安眞さんなどは、界隈外では知られる存在になりますが界隈からは無視されるようになりました。

インフルエンサー時代

 インフルエンサー時代は、FaFsさんによるリパライン語を扱ったライトノベル「異世界語入門」の出版、トルミスナーノさんのアルティハジーク語、Omizan Sakamotoさんのワタナベタウン語などの新聞やテレビでの紹介、トルミスナーノさんや藤原安眞さんの商業作品での架空言語監修、シャレイア語の言語オリンピック問題への採用やクイズノックチャンネルへの登場、すきえんてぃあ氏のTwitterやYoutube上でのインフルエンサー化により、界隈外にも知られる人工言語創作者が現れるようになった時代です。
 界隈の人口が200人程度まで増加したことと、2017年以降の事件による対立から界隈の相互フォロー率が下がったこと、人工言語の他にも活動域がある人が増えたことなどから、twitterのタイムラインは界隈全体へ空リプがつながる場所ではなくなりました。みかぶるの人工言語作者をまとめたリスト「Conlanger」は2025-04-01の時点で190アカウントです。それに伴って、twiiterに加え、discordサーバーや、人工言語創作向けSNSのmigdalを併用して人工言語の創作活動が行われるようになりました。

時代の区分法の補足説明

 これらの時代区分のうちセレン時代が既に用例のある言葉で、「集団創作時代」と「インフルエンサー時代」は私の造語です。創作集団時代は、悠里が代表的な創作集団だったことから「悠里時代」とも呼ばれることがあります。また、セレン氏収監以降の時代を、アルカ関係者は「後セレン時代」「ポストセレン時代」と呼ぶことがあります。
 このほかに、アルカの創作コミュニティーに着目すれば、逮捕以前の制アルカ/新生アルカ時代、逮捕以降の俗アルカ時代の区分があります("人工言語アルカの総括" (@slaimsan) )。制アルカ/新生アルカ時代がセレン時代、俗アルカ時代が集団創作時代以降に対応します。
 実際には、これらの時代の特徴は重なりながら連続に変化していったもので、どこかにはっきりとした区切りはありませんが、区切りを設けないと記述できないので区切っています。
 

「セレン時代」の用例

🚩かぱはた🚩 on X: "友達につけてもらった名前をずっと使い続けるという、セレン時代から見られた言語名の形態。" / Twitter https://x.com/yuugokku_2/status/864062448512389120 7:18 PM · May 15, 2017

㆑ on X: "ちょっとアンテナ低いので界隈がどうなってるかわからない (セレン時代は一つの掲示板があってそこを界隈の全体像とみなすことができた)" / Twitter https://x.com/Wartemeinnicht/status/1293721134186106880 10:28 AM · Aug 13, 2020

時代を三区分する用例

想像地図の人 on X: "2012年頃の人工言語界隈と、2015年頃の人工言語界隈と、今の人工言語界隈は、3つともまったく様相が異なる印象。 2012年は牧歌の時代、2015年は紛争の時代、そして今は一体?" / Twitter https://x.com/koridentetsu/status/1562771633277784065 8:59 PM · Aug 25, 2022

ボムさん (「セレン時代」、「悠里時代」、「現時代」で分類していたが、2024-12-25現在アクセスできない) https://x.com/boemboemConlang/status/1708460026044809724?s=20

※「後セレン時代」は記憶では使っていた人がいますが用例を見つけられませんでした。
 

Maycia Arenberg on X(2017-09-20): "セレニズム期(アルカ、ヒュムノス、ミリ語等)→主権言語期(ピース語、凪霧、ユーゴック語、リパライン語、マクシャギュア語等々)→グループ期(悠里、大宇宙、フォルメア、アルシディア等)" / Twitter https://x.com/MayciaArenberg/status/910493887055110145

人気順のコメント(1)

たたむ
 
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スライムさん

「後セレン時代」は「ポストアルカ時代」とかで出てくるかもしれないです。