こんにちは!
今回の人工言語コンペのお題が吸着音なので、せっかくですから、吸着音について解説します。
我々の使い慣れていない音素を使うときには、やや注意が必要です。吸着音もその一つです。
目次
そもそも吸着音ってなんやねん
たとえば、舌打ちの「チェッ」は、吸着音の一種です。
日本語は、吸着音を子音の音素として使うことはありません。舌打ちから始まる単語なんて辞書に載っていないでしょう? でも、世界の言語には、舌打ちから始まる単語もあるのです。(それもいっぱい!)
自然言語では、吸着音はサハラ以南アフリカの諸言語にのみ見られます。特に吸着音を使いまくる諸言語は「コイサン諸語」と一括りに呼ばれることがあります。たとえばター語は、80以上の種類の吸着音を持ち、ある調査では基礎語彙の82%が吸着音で始まっていたそうです。
サハラ以南以外ではオーストラリアのダミン語にも吸着音がありました。しかし、ダミン語は儀礼的な役割を持った特殊な言語変種であり、人工言語であると言い伝えられています。
吸着音は原始的な言語の特徴を残しているという説が提唱されたことがありましたが、現在の言語学では一般に否定されています。(そもそも、現存する言語はすべて様々な歴史的変化を経ているので、特定の言語を「原始的」と呼ぶこと自体がナンセンスです。)
国際音声記号(IPA)では、次の記号が吸着音を表します:
ʘ(両唇吸着音)
ǀ(歯吸着音;舌端吸着音)
ǃ(歯茎吸着音;舌尖吸着音)
ǂ(硬口蓋歯茎吸着音;舌端側面吸着音)
ǁ(歯茎側面吸着音;舌尖側面吸着音)
それから、𝼊(そり舌吸着音)も、公式のIPA表には載っていないものの、ほぼIPAのように使われます。
さて、では今から、そんな吸着音の落とし穴を見ていきましょう。
吸着音は全部二重調音
吸着音は必ず二重調音です。口に2つの閉鎖を作って発音します。
たとえば、普通に「かー」と言ってみてください。(小声で結構です。)子音[k]を発音するとき、口の後ろのほう(軟口蓋)に舌が付いているのが分かるでしょうか。これが、普通の破裂音です。吸着音の場合は、これプラス別のところでも閉鎖を作ります。舌打ちしてみてください。軟口蓋と歯のあたりの両方に舌が付くことがお分かりいただけますでしょうか。
国際音声記号では、無声破裂音との二重調音がデフォルトとされています。たとえば、[ǃ]という表記は、[k͡ǃ]と同じ発音を表します。上のタイを省略して[kǃ]と表記することもできます。
無声破裂音以外とも吸着音は一緒になることができます。たとえば、有声吸着音は[ɡǃ]または[ǃ̬]、鼻音吸着音は[ŋǃ]または[ǃ̃]と表記されます。
軟口蓋以外に閉鎖があることもあります。たとえば[qǃ]では、軟口蓋の代わりに口蓋垂で閉鎖しています。
「そもそも吸着音ってなんやねん」で紹介したター語のように、吸着音の数がやたら多い言語は、このような二重調音のバリエーションによってたくさんの吸着音を区別しています。
発音上は鼻音がデフォ
国際音声記号では、無声破裂音との二重調音がデフォルトですが、発音上は、鼻音との二重調音がデフォルトです。吸着音を持つ全ての言語は、鼻音吸着音を持っています。一方で、非鼻音(口音)の吸着音を持たない言語としては、ダハロ語とダミン語が知られています。
詳しくは、WG Bennett (2017)を参照。
なんで鼻音がデフォルトなのか、呼気のメカニズムを一言で説明します。(詳しくは上記論文を見てください。)そもそもヒトの言語では肺気流音のほうが無標的なのですが、鼻音吸着音では肺からの呼気を鼻へ流せるから、[+pulmonic](肺気流性がプラス)だと分析できるらしいです。
音節内での位置
不思議なことに、音節末に吸着音が来る言語は地球上で見つかっていません。言語の普遍性の一つです。吸着音は必ず頭子音です。
もっとも、そもそも吸着音を使う言語は世界の言語の1.8%しかない上に、それらの言語の全てが末子音がないかその種類が少ない言語です。もしかしたら異世界で、末子音の多い言語に吸着音が生えたら、吸着音で終わる語が生まれる可能性も……?
おわりに
吸着音は、発音のバリエーションも豊富ですし、回避発話(avoidance speech)などの文化的な位置づけも興味深かったりなど、非常に奥深いテーマです。みなさんもぜひ、吸着音のある言語を作ったり、学んだり、調べたりしてみてください!(吸着音のある言語を今作ったら、今季の人工言語コンペにも提出できますよ!)
ばーっと書いたので、色々と及ばぬところがあるかもしれません。吸着音について他に知るべきことをご存知の方がいらっしゃいましたら、よかったらぜひコメントしてください。
ほんとはもうちょっと見直したかったけど、予定ができたので今パパっと公開しちゃう
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