Migdal

スライムさん
スライムさん

投稿

人工言語コンペ 2025年冬(第10回)講評 後半

coi rodo mi'e .slaimsan.
どうもこんにちは、スライムさんです。前回の続きです。

J. torlotさんの グラヌフ語

発話するのに複数人必要とする言語です。複数人必要な言語として以前のコンペ作品にトレア・カ語というものがありました。こちらは5人が同時発声することで発話するものでしたが、グラヌフ語は1人が音声、もう1人(話しかける世界の遠さによってはそれ以上の人数)が動作を行うことで発話をするというものでユニークです。

作中に善方語と悪方語というのが出てきます。子音の無声/有声と母音の非円唇/円唇を切り替えると善悪が入れ替わる仕組みです。詳しくは記事を読んでいただきたいですが、これは呼びかける世界の方向によって切り替わります。実質的には同じ言語にはなりますが、こうやって2つの言語を生成するという方法はどこかで使えそうな気がしました。

自然言語である手話でもそうですが、動作を記述するというのは中々難しいです。これは今後も出てくるであろう動作言語でも課題になりそうです。これは絵か動画を使うというのが今のところの解決案となりそうです。

K. ふぃるきしゃ(FILUKISJA)さんの 作品

お話の中で言語を説明するという作品です。普通にお話として読んでしまいました。面白かったです。前回の私の作品もそうなのですが、単に文法を説明するだけではなく読ませる工夫があると楽しいなと思います。

言語としては、子音の組み合わせの単語に、主観的な評価に基づく母音を適当に挿入することで単語とする仕組みを取っているのが特徴です。このような仕組みは歴史があり、ヒュムノス(新約パスタリエ)の想母音、クレリカの感性詞で同様の仕組みがあります。このような仕組みは割と好きなので、上手く利用した言語が出てくることを期待しています。

あ、キャラクターがかわいいです

L. Cyanoさんの 名もなき者達の言葉

話の導入が架空の書物からの引用文ということで、やはりこのお題は、こういう導入をしたくなるようです。

子音は調音点の区別が細かく、母音は単、長、超長など種類も多く、声調が5段階での区別など発音が複雑です。使いこなすのは大分慣れが必要そうです。
代名詞に有生、無生の区別があるのは時々見かける区別なのですが、人工という区別があるのは珍しいです。よく考えたら有用な区別なので参考にしたいです。

個人的に良いなと思ったのが、法(ムード)が割と細かく設定されていて、分詞の組み合わせで色々な表現ができるようになっているところでした。時制や相(アスペクト)は皆、比較的考えて作りこまれているのですが、法まではそこまで細かくないことが多い印象なのです。Cyanoさんの言語では法まで踏み込んで考えていて、その後の例文で希求法が活用されていて良いなと思いました。

M. ボガードさんの 聖典正ロラト語

お題に対して正攻法で解答している作品になります。今回のお題で重要な世界観を丁寧に記述していて良いと思います。ロラト教の教義、ロラト人の社会構造、暦、このように言語以外の構造に着目しています。芸術系の人工言語ではこのようなところにまで想像を働かせることが多いです。

さて言語の方ですが、接辞を多く提示しています。接辞は語彙を一気に増やすことができる仕組みで、エスペラントでも活用されています。自分が人工言語を作る時に接辞が弱かったかもしれないと若干思いました……ちゃんと作ろう。単語もすでに200語以上あるようですので、このまま発展させていけば1つのコンテンツとして成立するのではないでしょうか。

N. 降雨急行さんの 巨神の言語キキシャアバラㇰ

大学の教授が研究の結果を説明するという体の作品です。これも読ませる工夫かと思います。吸気音があったり、母音が非円唇性のものしかなかったりで癖が強めです。声調があり、上昇と下降の2種類なのですが、表記法として '<' と '>' を利用していました。私はいつも声調を母音の上にダイアクリティカルマークを付けて表していたので、なるほどこういう手もあるかと思いました。機会があったら利用してみます。

文法の説明がまとまっている部分はなく、具体的な例文の後に文法事項を補足するという実践的なスタイルになっています。コンペとしては一番向いているスタいるのように思います。次回以降のコンペで参考にしてみたいです。

O. さなすのさんの ホードェレッツァ語

狂いかけている学者からその言語の情報を聞き出しているという設定です。理解不能な概念が出てくるのはホラーですね。クトゥルフ神話のような感じでシリーズ化できるかもしれません。

P. 三日月レン/rainさんの 邪神を降臨させるための秘密の言語

なるほど、こういう方法で魔法や呪文をハックする方法もありますね。現代の技術と結びつける案は思いつかなかったです。


ここからはコンペの投票対象にならなかったものの、提出していただいた作品になります。

番外編1. 矛盾と混沌さん(出題者)の 作品

お題の出題者の作品です。冒頭にもある通り言語の説明というよりは物語です。やはり今回は、このような物語形式が向いているお題のようです。語り部が次第に言語に浸食されていくような描写は上手いですね。

番外編2. 雨刄さんの 邪神ロイ語

コンペの後に提出された作品です。今回のお題から、尊敬の概念に注目したようです。他の方の作品でも注目されいたポイントになります。名詞の語順が上位存在と下位存在の順で決まるという案は今まで思いつかなかったです。名詞のクラスによって序列があり、語順を決定するという構造は他の言語にも応用できそうです。


というわけで、第10回の講評でした。

Top comments (0)