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商業作品に人工言語を提供するときの流れ(自分の経験から)

商業作品に人工言語を提供したときにどういう流れだったか、どういう点に注意が必要かなどについて、私がDisney+オリジナル作品『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』にウーパナンタ語を提供したときや、NHK「編成王川島」に出演したときなどの経験をもとに、自分自身用の備忘録も兼ねて書いておきます。

ファーストコンタクトと企画書・条件等の確認

『ワンダーハッチ』の場合、制作側から直接、架空の言語が必要なのだが制作を依頼できないか、というメールをいただきました。通常のインタビュー取材を受けるときとあまり変わらない感じでした。

私がこれまで受けた仕事においては、企画書が最初に渡されて、どういう趣旨の企画で、(作品の場合)どういう作品なのかが示されました。この時点で確認しておく必要があると思うのは、自分の仕事の範囲、つまり責任の生じる範囲がどれくらいで、言語の納期はどれくらいで、どれくらい込み入った設定のものを作る必要があるのかなどということです。そしてもちろん、報酬額やスケジュールの相談もしておく必要があると思います。この辺りは、企画書が渡された後の最初期のミーティングで説明されると思いますが、わからないことがある場合は早めに相談しておくのが良いと思います。

制作

商業作品の場合、言語そのものの設定作りに使える時間は非常に限られていることが多いと思います。私の場合、ウーパナンタ語は一週間、「編成王川島」のサトゥア語・ヴァンサユ語は、記憶が正しければ2日程度で作る必要がありました。しかもこれは言語の文法を作るだけでなく、与えられたテクストを翻訳するところまで含めての時間です。時間が限られている理由としては、(推測ですが)おそらく映像の業界では、忙しい現場の中で架空言語をどうするかというところまで最初から計画が立てられている場合が少ないからではないかと思っています(私が参加したのも結構撮影開始の直前でした)。自分が学生映画の監督だったこともあるのでわかるのですが、映像制作の現場というのは慌ただしく、全てが急ピッチで進んでいきます。仕事を受ける時点で、どれくらい時間があるのか確認して自分の空き時間やスキルレベルと相談するのが大切なのはそのためです。

『ワンダーハッチ』で納品した言語は、文法書とすべてのセリフの音声ファイルからなっていました。音声ファイルの作り方は人それぞれだと思いますが、私は①原語の音声、②普通の速度で読んだ人工言語の音声、③語で区切った人工言語の音声、④②の繰り返し という4パート構成で制作していました。これをキャストの方々に送り、各自練習していただいた上で現場に臨んでいただくという形をとっていました。

指導

制作が終わって言語を納品したら、次は発音の指導が必要になるケースがほとんどではないかと思います。私は指導するのは得意ではないかもしれませんが好きではあるので、キャストの方のそれぞれの学習の仕方や言語バックグラウンドに合わせて指導するのが、プロセスの中で一番楽しかったです。キャストの方は、もちろん人工言語を話すことについては未経験の方が多いと思うのですが、「言われた通りのことをセリフとして言う」ことについては当然ですがプロです。ですので私は本当に遠慮なく「その母音ははっきりとした [i] ですのでもっと口を横に引いてください」などと細かい修正をお願いしていきました。ただし、修正を毎テイク入れて撮影の流れを止めたりするとさすがに迷惑がかかる(うえに撮影スケジュールが遅れると自分も困ることになる)ので、監督やその他のクルーと綿密に意見交換を行い、修正はまとめて、なるべく早い段階で入れることが必要かと思います。

撮影時に初めて発音指導していては撮影がスムーズに進まないという判断からか、『ワンダーハッチ』の場合は撮影前の準備(これをプリプロダクションといいます)中に初めて人工言語セリフの読み合わせを各キャストとともに行いました。

アフレコ

撮影後の作業のことを、プリプロダクションに対してポストプロダクションといいますが、ポスプロにおいても指導が必要になるケースがあります。『ワンダーハッチ』の場合は、アニメ部分(と実写部分の一部)についてアフレコが必要だったため、その録音に立ち会って指導を行いました。指導の要領としては撮影時とあまり変わりませんが、アフレコの方が参加人数も少なく、他のクルーとのコミュニケーションが取りやすいように個人的には感じました。ただそのあたりは現場によって違うかもしれません。

公開まで

アフレコまで終わったら基本的に義務は果たしたことになっていましたが、私の場合はプロデビュー作ということがあって、情報解禁になるのを今か今かと楽しみに待っていました。もちろん、情報解禁になる前の作品についてリークしたりすると契約違反になるなどして最悪訴えられたりしますし、何より信頼を失うと次の仕事が来ませんから、当然のことですが注意が必要です。情報解禁になった後でも、「自分が参加した作品として宣伝したいのですがこういう方法で宣伝してもいいですか」などと確認をとった方が無難だと思います。

以上、商業作品に人工言語を提供するときの流れの一例について書いてみました。私が過去にRedditに投稿したこちらの記事も参考にしてみてください。

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