イーンス語が新参語と古参語に分かれる語群を持っていることは前回説明した通りですが、必ずしも全ての概念がその二つに分類されているわけではないので、文法的に新参語として扱われるか古参語として扱われるか示すための語があります。イーンス語では「言明」(古参語:lelno 新参語:uʃfacun)と呼んでいます。
言明の対象になるのは、文全体に対する特定の名詞句、動詞句、従属節、あるいは固有名詞、人名、技術用語、特にそのものを表したい語(英語でtheがつくような語)などです。
固有名詞、人名などの語に対して言明するのはxaːとʃuːです。xaːは後に来る単語が新参語であることを、ʃuːは後に来る単語が古参語であることを言明しています。固有名詞と人名は、原則として無標で古参語になります。従って、ʃuːは基本的にあまりつける必要はありません。近代になって造語された新参語の語彙を含む語に対して例外的に用いられる場合があるだけです。
句や節は、固有名詞とは区別されています。leːが古参語句を、lwaが新参語句を言明しています。leːやlwaで表すことのできるものをイーンス語ではまとめてdwaŋsと呼んでいますが、逆に言えば文法的にあまり区別されていません。形容詞から修飾される語、不定詞の用法、これらは全てdwaŋsとなります。
大事なのは、文脈上明らかである場合言明はしなくても良いということです。固有名詞や人名は、基本的には古参語です。つまり、新参語文で特定の人に「〜に」と言いたい場合は、何も言明しません。従属節が主節に対して置かれる場合では、VSOを充足するバスファースィーの文では文には特に言明しなくても問題ありません。従属節が古参語-古参語-古参語-新参語のようになる場合、新参語-新参語-新参語-古参語のようになる場合は、わかりやすさのために言明を行います。
よし
ただしdwaŋsは主節とは異なるレイヤーであることを表示します! そしてdwaŋsの内容が句や節を構成するとき、固まりのバスファースィーを用いることがあります。
ham tajal iːsam jaːnsiː juːŋs leː ziːsaml ziːbiðiːc is suːdal ciː.
私が前の夏に渡したあの本を妹はいつも持っている。
古参語-古参語-古参語第二敬体-古参語第一敬体-古参語-古参語言明-古参語第二厳格体-古参語第一厳格体-新参語-一人称
これは……
1階層 通常体のレイヤー
ham tajal〜juːŋs…… 〜は……の本をいつも持っている
2階層 古参語敬体のレイヤー
iːsam jaːns…… 私の妹は……
3階層 古参語厳格体のレイヤー
ziːsaml ziːbiðiːc…… 私が与えた…… (ここでは動詞として解釈するよりも「私のプレゼントの……」のような訳の方が訳の整合性が取りやすいかも)
4階層 新参語のレイヤー
is suːdal…… 前の夏に……
に分解できます。それぞれのレイヤーは、形容するものがされるものよりも数字が大きいという意味でバスファースィーであると言えます。2階層は、第二厳格体から通常体になっていて属格表示のバスファースィーの条件を満たしています。3階層も形容されるものであるjuːŋsが通常体で、leːのあとも第二厳格体、第一厳格体で続くのでバスファースィーです。
そしてこのような場合では、レイヤー同士にもバスファースィーの関係を見出すことができます。「敬体」と「厳格体」、および「通常体」をひとつの塊としてみたとき、形容されるものが常に優先度が高いものでなくてはなりません。これらの優先度は、通常体 > 敬体 > 厳格体の順序で高いです。
第一階層はjuːŋs「本」を含むものであるので、形容される側の階層です。第二階層はそれとは関係のない主語の説明です。第三階層は、juːŋsの説明として厳格体を用いています。第一階層と第三階層の関係がバスファースィーですね。通常体なので第三階層でバスファースィーを構成している厳格体より優先度が高く法則と一致しています。一方で、第二階層は属格表示に敬体が用いられていますが、ここでは特に第一階層とは形容関係を持っていないので特に議論とは関係ありません。第四階層は新参語であるのでそれとはまた別のレイヤーであるとみなされます。ちなみに、leːを用いているので新参語が第三階層の内部にあることがわかります。
つまり、バスファースィーと言うと「体」の内部で構成されるものと、その外側で繰り広げられる異なるレイヤーの関係のものがあるわけですね。
基本的にイーンス語の文は、このような関係性を満たします。例外はいくつかあります。
1 第一階層が意味の表現として厳格体で活用したとき、第二階層が通常体になる場合。
固まりのバスファースィーも再帰性を持ちます。通常体から文を初めて厳格体まで使い切ってしまった場合、厳格さを表現する意図として最初に厳格体を用いた場合は、通常体に戻って文を始めることができます。このとき、通常体の階層の内部のバスファースィーは全て無表示になります。単に通常体では表示できないためなのか、統語論の例外的挙動なのか……
2 会話や文を「正確に」引用する場合。
このような表現をハレーイー「直接表示する/直示する」と呼びます。(イーンス語の話者の存在する世界の主要な理解では)これらは、概念そのものを直接的に表すものであるとされます。現実世界でもソクラテスやデリダが似たようなことを言っています。
3 談話マーカー ka(古参語)やhe(新参語)が用いられたとき
やや俗語的ですが、いくつかの談話マーカーバスファースィーの関係をリセットする役割を持ちます。
ここでは固まりのバスファースィーとして、「体」が固まりになる例を挙げましたが、この固まりは細分化することができ、その最小の単位は第一敬体や第二敬体の個々の形態です。その場合は、通常体 > 第一敬体 > 第二敬体 > 第三敬体 > 第一厳格体 > 第二厳格体の順番に優先度が高いです。属格表示とは真逆になるわけですね。固まりと個々の活用で異なる文法を表せて便利!
このような状況を図にすると以下。
Xに新参語か古参語を任意に代入します。小文字のnはnormal、pはPoliteness、dはdifficultを表しそれぞれ通常体、敬体、厳格体の省略記号とします。通常の活用では厳格体は第二までしかありませんがここでは例外的に存在する第三厳格体も考慮して記載しています。
設定的な言語史の話をすると、これらの文法は突然完成したわけではありませんでした。歴史的にはこれら以外の方法でバスファースィーを構成する言語学派や方言が無数に存在し、代表的なものでは特別に「中立体」の活用を設け第一敬体→中立体→第二敬体と繰り返すタプニスィー方言、古参語に「ミリ」「アピド」の分類があるフィブリーブ方言(フィブリーブ分析主義派)などがありました。現在の形に落ち着いたのは、今の文法がイーンスの絶対的聖典であるユーンスを解釈するのにもっとも都合の良い学説だったからです。

Top comments (0)