coi rodo mi'e .slaimsan.
どうもこんにちは、スライムさんです。先日終了しました、人工言語コンペの講評です。今回は参加作品多数のため二回に分けます。
お題の再掲
邪神、悪魔、亡霊、悪鬼…この世に存在する邪悪な者たち。
その邪悪な存在と交信し、召喚するのに使われるのはある特別な言語。
さて、それはどんな言語でしょうか?邪悪な存在に関する神話や伝説の体系と、交信や呪文に使われる言語を作り解説してください。
ただし、もし「本物」を召喚してしまった場合は自己責任となりますのでご注意を…
個人的に好きなタイプのお題です。と言うのも、最初にコンペの企画を考えた際にテストプレイをしてみた時のお題が、魔法用の言語を作るみたいなお題でして、非常に近いものを感じるのです。
参加作品の一覧はこちらにまとめてありますので、ご参照ください。
A.さつまいもさんの 聖典ガーシャシュ語
化け物が使っている設定の言語です。化け物なので口の構造が人間とは異なるということで、使える音素がかなり限られているようです。このように人間と異なる発声機構を持つ場合の考察はなかなか見かけないため、個人的にはかなり注目している作品です。
発声機構については、元記事に図があるので参照していただきたいのですが、舌が無く、口の入り口と喉の奥の2カ所に歯を持っているということで、子音が歯音と軟口蓋音の摩擦音しかないです。文章が全体的にシュコーシュコーという音になっていて、ダースベーダーみたいな雰囲気です。
音素を制限するタイプの言語は色々作ってきたのですが、こういう形で思い切った制限は思いつかなかったので、今後音素を制限するときの参考にしたいと思います。
B.かばやなぎ/S.さんの ピジン悪魔語
悪魔と人間のピジン言語です。「なるほど、その手があったか!」となったアイディアでした。前述のガーシャシュ語が人間以外の存在だけが使う言語でしたが、なるほど、人間と人間以外の存在が交流するようになればピジン語も生まれるのは当然ですよね。完全に発想から抜け落ちていました……
さて、ピジン語という視点で見てみると、少し気になるのが音素の多さです。人間にも発音できる音素がほとんどのようですが、人間の自然言語でこんなに弁別しているのはなかなか無いように思えます。ピジン語が形成されるときは、お互いに認識しやすい音素が生き残るイメージがあるので、音素の構造は単純化していくのではないかなと思います。そうなるとこの音素の多さというのはピジン語として成立しうるのか気になる所です。あと、人間に発音できない音素については、拍手など別の方法で表現するとのことで、この発想自体は好きな部類なのですが、ピジン語として考えた場合あり得るのかは前述の疑問と同様です。
C.シラミィさんの イミスキン式詠唱術
設定がなるほどとなるタイプの作品です。人間を凶暴化させてヒトグマにするための言語です。そういう小説として読みたくなる設定です。
文法が大分複雑なのですが、これは容易に使われてしまわないように、わざと複雑にしてあるということで、この辺の設定もなるほどです。人工言語でしばしば文法を複雑化するパターンが見受けられるのですが、こちらの作品では複雑である理由付けをしているので良いと思いました。
ところでこれを詠唱している人はヒトグマ化してしまわないんですかね? 詠唱の練習中に自分に効いてしまって自分がヒトグマ化する事故とかが起きていそうな……
D.Red_camellia52さんの vɛʀzɪββ語
暴食を是とする宗教の儀式で使わてれているという設定の言語です。設定の時点で既に面白いです。過去に考えていた設定があったらしく、今回のテーマに丁度良いとのことで発展させてご参加いただいたようです。このように、日頃から色んな設定を考えておいて色んな引き出しを持っておくと、コンペに対応しやすくなるかもしれません。(とてもニッチなテクニック……)
言語的には大分癖が強く、子音が基本的に有声音しかないです。摩擦音で両唇(β)と唇歯(v)の区別があり聞き取りには注意しなければならなそうです。母音も口の開き方が5段階で区別されるので、なかなか癖が強いです。
人称が特徴的で、いわゆる三人称に該当するものが細分化されています。入信していない人、入信している人、儀式に参加している人、「蝿の儀式」を受けている人で区別をするというもので、まさにこの宗教であれば区別が必要そうな部分を文法に組み込んでいて良いと思います。このように設定を文法に組み込むのは人工言語を考えるときの面白い部分です。
E.slaimsanの 召喚術式
自分の作品なので講評ではなく解説になります。と言っても、今回は文法的な部分はほとんど実装できておらず、設定と設定から導かれる文法要素のメモ書きみたいな状態になってしまいました。いや、ほんと仕事が終わらないのよ……本当は今頃このプロジェクトは終わっていたはずなんよ……次のコンペの頃には終わる予定というのが今のところの予定ではある……
召喚用の言語ということで、自分が最初にイメージしたのはCCさくらの呪文詠唱でした。私の世代の共通言語と言っても差し支えないでしょう。あと、竜破斬の詠唱も……
今回、力を入れたのは召喚儀式が失敗する原因を呪文の言語的な特性に求めようと考えました。漫画などでよく、儀式が失敗したり暴走したりする描写がありますが、その原因が呪文で1語抜けていて、意味が大きく変わってしまって失敗したみたいな状態にしたいなと。言語的に失敗しやすい要因を色々と埋め込んでみました。
F.Lanthaniteさんの サメの言葉
人工言語コンペ史上初めて動画形式での投稿作品となりました。コンペの提出形式は特に決まったものはなく、インターネット上で公開されていれば何でも良いとなっております。一番多いのはこのMigdalでの投稿ですが、Noteでも良いですし、Google Drive, One Driveにドキュメントを置いて公開でも良いです。
さて、そんな初めての動画形式ですが、個人的な意見としては今回の内容的にはテキストでも良かったのではないかと思います。というのも、動画の内容がテキストの読み上げがほとんどであった、動画である必然性が低かったように思われます。また、動画は飛ばし読みするのが難しいです。ただ、動画の後半で例文を肉声で読み上げている部分がありましたで、この部分については動画にした効果が大きく出ていると思います。
総合して言うと、新しいメディアでの発表の可能性を示して頂けた点は大きいと思います。テキストと動画を上手く組み合わせたコンテンツで提出するというスタイルが今後考えられるかもしれません。例えば、文法の説明はテキストで行い、例文の読み上げを動画として作成しリンクを付けておくなどすると、テキストでの読みやすさと動画での伝達力を両立することができるかもしれません。
さて、作品の内容の話ですが、設定としてはハワイ語などのオーストロネシア語族の言語でハワイ語から色々と変化している言語とのことでした。音素が退化していたり音節構造が単純化していたりで、個人的には好きな部類の言語です。こういうミニマルな構成を考えるのが好きなのです。
G.AmeAgari_風斗さんの Espelarg語
悪魔を召喚して使役する用途の言語ということで、今回のお題としてはスタンダードな言語かと思います。音素(文字)もスタンダードな感じです。発音する必要はなく頭の中で唱えたり、紙に書いて効果を発声させることもできるようです。文法が特徴的で、一文の中で動詞が2回繰り返されたり構文によって異なる品詞の語が挟まる部分があるなど、呪文として複雑化させている部分があります。やはり、呪文は通常の言語から離れて複雑化する傾向にあるということなのでしょう。
H.いももちさんの フドリュー語
こちらもお題に対してスタンダードな形で解答している作品になるかと思います。儀式的な手順に着目した作品になっています。特に挨拶に関する部分が多いです。やはり召喚のための言語となると、言語そのものよりも挨拶や礼儀作法のような周辺の設定を考えたくなるのは、私と同じのようです。
音素に関する説明がないのですが、そもそも単語を発音記号で表記してくれているので、IPAに慣れていれば問題なく読めるかと思います。このように文字と発音の説明を省いてIPAで直接記述する方法は上手いなと思いましたので、次回以降の参考にしたいと思います。
I.不織布さんの ヴェルメ語
migdalでルビって打てるんだ!
調べたら説明の中に書いてありましたので、皆様も参考にしてみてください。
さて作品本題の話ですが、研究者が研究内容を説明する形で書かれています。こういう形式は読んでいて楽しくなるので個人的に好きな部類になります。前回コンペの私の作品もそうですが、言語の説明以外にも読んでいて楽しくなるような工夫というのもコンペでは重要になってくるかもしれません。
文法は印欧語的な雰囲気でスタンダードな感じですが、曲用や活用を色々作っているのは個人的にはポイントが高いです。(やはり普段から、こういう活用表のパターンをストックしておいて、いざという時に使えるようにしておくと便利かもしれない。)
そうそう、文法表に「欠損」があるのも良いなと思いました。碑文などから文法を再構築しているという体なので、曲用の形が史料にないということもあり得ます。その点を再現しているのは良いなと思いました。人工言語を作っていると、こういう表を完全な形で作ってしまいがちなのですが、設定によってはこのような欠損がある方が自然なこともあり得るので、今後の参考にしたいと思いました。
というわけで、前半の9作品の講評でした。(後半は、来週か再来週あたりかな……)
人気順のコメント(0)