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テー語紹介 その2「音韻体系のこだわりポイント」

前回の記事ではテー語の音韻体系を紹介しましたが、ここからはどのような点にこだわって言語名や音韻体系を決めたかについてお話しします。前回の記事の音韻体系の部分を見ながらだと話がわかりやすくなると思います。なお、テー語の語を示すときには「新書法/旧書法」で書きます。

言語名

もともと「ヌテランド語」という仮称がありましたが、これは中学のときに適当に決めた国家名が由来であり、この言語の音韻体系にも合っていなかった(他称という設定ならいけたかもしれませんが)ので、早急に変えたいと思っていました。
そのためにはまず民族自称を設定する必要がありましたが、昔つくっていた同じ語族であるバター語の「バター(Bataa)」と同根の「パッテー(phak5-the1/bɑk-dea)」と決めました。
そこで言語名も「パッテー語」にしようと思ったのですが、なんだか平凡な名前だなと思ったのと、言語名はその言語の音韻体系の特徴がよくあらわれている名前にしたいと思ったので、単音節語が多いということや、元ネタとなっている漢語・東南アジア大陸部諸語にも一音節の言語名が少なくない(イメージがある)ということでテー語(ku4-liong4-the1/klo-fliɑŋ-dea)と決めました。この名前はほかの人工言語とくらべて独特だと思えて、けっこう気に入っています。

有声・無声・無気の区別

古代テー語において有声阻害音(破裂音・破擦音・摩擦音)であった音をどうするのか悩みました。最初期は*d>dとしていましたが、有声音が無声有気音に合流したが、その区別が声調という形で保たれているという方が面白いと思ったので、*d>tʰとしました(その他の阻害音も同様です)。
ですが、p,bとt,dの区別があってk,gの区別がないといったいびつな体系が好きなので、タイ語や台湾語がそうであるように別の音素が変化した結果として、有声・無声阻害音の区別が存在しているようにしました。テー語のbはかつての*m, *m̥に由来し、zはかつての*ʐなどに由来しています。*b>pʰとなり、*z>sとなっています。

無声接近音

ヨーロッパっぽさとは対極にあるような言語を目指して作るにあたり、(私の感覚で)ヨーロッパにはみられなさそうな音素をいくつか設定する必要がありました。そこで目を付けたのが無声接近音・側面接近音(ɹ̥, l̥)でした。そもそも[ɹ̥]や[l̥]が好きというのもあります。
ちなみにɹ̥は古代テー語よりも古いバタール祖語における母音間のsに由来しています。いわゆる「ロータシズム」というやつですね。わたしはこのロータシズムを信奉しており、ロータシアンを名乗っております。
無声のjやwなどを設定することも考えましたが、こちらはあんまり好きな音ではないのでやめました。無声鼻音も一時期は採用していましたが、「漢語とは違って(普通話でも猫とかは第一声ですけども)、鼻音なのにすべての声調にあらわれたらおもしろいのでは?」みたいな感情で全部有声にして、祖語の有声・無声の区別は声調に残っているということにしました。

前鼻音化子音

チベット語に出てきた前鼻音化子音の響きが気に入ったので採用することにしました。*b, *d, *gのうち古代テー語において*Nə-(Nは鼻音)がついていたもの、およびバタール祖語においてb, d, gの入破音(※記号をコピペしてくるのがめんどくさかった)だった子音はmb, nd, ŋgとなっています。あまり数は多くないですが、わりと頻出の単語(人称代名詞や「手」「石」「作る」など)に出てくるので満足です。

単母音

単母音の制定も悩んだところです。いろいろあったのですが、大きな点としては
・響きが好きなのでø, y, əを採用した
・oがないとおもしろい気がしたのでɔだけにした
・バター語ではaになっている単語でもテー語での実現形が異なると面白いと思ったので、祖語の*aはɛに、*ɑはɑということにした
ことがあげられます。

二重母音

二重母音の最もこだわったポイントは、uø, ɛøという変な組み合わせがあるところです。uøは古代テー語の*u(のうち開音節のもの)に、ɛøは*au, *aoに由来するのでわりと高い頻度で出てきます。*u>uøという変化は、英語の大母音推移でuːが二重母音になったのが元ネタです。同様に*ɔ, *o>uとなっています。
また、広東語にもあり気に入っているɑːiを採用、普通話にはない(普通話っぽい響きを減らすことも目標の一つなので)oeも取り入れました。それぞれ古代テー語の*ɑi, *ai、*oe, *ueに由来します。
加えて、ビルマ語のouNという韻母も好きなので、*ut, *un, *uk, *uŋ>out, oun, ouk, ouŋとしました。ouは開音節ではあらわれません。同様に*it, *in, *ik, *iŋ> eit, ein, eik, eiŋに変更することも考えています。

鼻母音

鼻母音は台湾語のそれが気に入っています。本家同様鼻音韻尾と鼻母音でミニマルペアがあると面白いなと思ったので、-n韻尾をもっていた語のうちよく使われる(という設定の)ものを開音節の鼻母音にしています。

-ʔも台湾語のものが気に入りました。また、英語でも変種によっては一部の語の末子音が-ʔになりつつあると知りますます好きになりました。鼻母音と同じく-p, -t, -kと-ʔでミニマルぺアがあるのが好きなので、よく使う語において-p, -t, -k>-ʔとしています。ですがわたしはこの発音が苦手なので、文末や文の区切り(詳細は未定)の末尾以外では-ʔが取れて変調するようにしています。それならいっそのこと英山方言みたいに-ʔの音節は213とか下がって上がる声調にしてはどうか?と一瞬思いましたがやめました。

母音の長短の区別

普通話しかやったことがなかったわたしはタイ語を学んで「声調言語なのに母音に長短の区別がある」ことに驚き、かつそれが魅力的に思えました。-m, -n, -ŋ, -p, -t, -kをもつ音節においてすべての母音に長短の区別を設けたかったのですが、古代テー語の母音のバリエーションも兼ね合いにいれると、ɑとeに区別を設けるので精いっぱいでした(*ɑC>ɑːC、*iaC, *ɤC>ɑC、*ɛC>eːC、*eC>eC)。ですが、十分満足しています。ミニマルペアも誕生しています(aam1/ɦɑm「山」、am1/ɦɤm「踊る/回る」)。

音節主音となる鼻母音

サンスクリットに触れて音節主音となる子音の存在を知り衝撃を受け、とても味わい深いと思いました。そして広東語や上海語での否定副詞や「五」などでの出現を知ったあとに、台湾語でゼロでない声母を伴ったŋ韻母がわりと出てくるのを知ってすっかりとりこになりました。
思い切って*(C)om>(C)m, *(C)on, *(C)oŋ>(C)ŋとしています。そんなわけで台湾語以上に多くの語に出てきます。しかも所有をあらわす(ofにあたる)前置詞がm2/ʔom, 関係代名詞がng4/l̥ŋonなので、出現頻度も高いです。ng4はテー語が属するヌデッレ語派独自の語ですが、m2はバター語にもある語(om「下」)と同根語なのでなおさらお気に入りです。

声調

声調もかなり悩みました。最初期は曲線声調が多かったのですが、発音すると普通話っぽくなったのと(普通話も好きなんですがエキゾチックさはあまり感じない)、よく考えてみると意外と(上海語のように)段位声調が多い方が好きかなと思ったので、8つの声調のうち4つは平調にしました。最初は6つのうち4つでしたが、バランスをとるために下降調と上昇調を1つずつ追加しています。

そんなわけで、文法よりも音韻体系を考えるほうに熱量を注いでしまうわたしなのでした。単語をつくるときも、よく使うと思われる語にはわたしの好きな要素が含まれるようにしています。次回はたぶん子音と母音と音節構造の古代テー語・バタール祖語からの変化について書きます。ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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