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Ziphineko / Ziphil 🐱🐰
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Ziphil の人工言語創作論

この記事を発端にして、人工言語創作論を書くのが流行ってるらしいですね。この流れに乗じて、私が人工言語を作る際に大事にしていることを書いておこうと思います。

なお、これはあくまで私が大事にしていることです。人工言語を作る際はこうするべきという主張をしたいわけではありません。なので、普遍的な創作論ではないです。

文法

一貫性

文法を決める際は、「一貫性」をかなり重視しています。「できるだけ少ない規則を設ける」とも言いかえられます。

例えば、形容詞の語順について、「形容詞は名詞に後置する」という規則を採用したとしましょう。このとき、副詞の語順はどうするのが良いでしょうか?

仮に「副詞は動詞に前置する」という規則にしたとします。すると、形容詞も副詞も同じ修飾語なのにも関わらず、形容詞の方は被修飾語に後置して、副詞の方は被修飾語に前置することになります。これでは一貫性がありません。

「副詞は動詞に後置する」という規則にすれば、形容詞であれ副詞であれ、修飾語は被修飾語の後ろに置かれることになるので、一貫性があります。また、「形容詞は名詞に後置する」と「副詞は動詞に後置する」という 2 つの規則を述べなくても、単に「修飾語は被修飾語に後置する」と言えば両者を包含できるので、実質的な規則の数を減らせます。

糖衣構文としての解釈

ただ、文法の一貫性を突き詰めすぎると、言語として使いづらくなってしまうことが多々あります。

例えば、シャレイア語は、動詞がとる項ごとにそこにモノ (=物体や概念など) が置かれるのかコト (=行為や出来事など) が置かれるのかが決まっています。例えば、「信じる」という単語の目的語には、必ず信じた内容となるコトが置かれることになっています。これは、動詞の項として不規則にモノが置かれたりコトが置かれたりするのを避け、モノが置かれるのかコトが置かれるのかに一貫性をもたせるためです。

しかし、これではかなり不便です。例えば、「信じる」の目的語は必ずコトだとしてしまうと、「彼は潔白だということを信じる」とは言えますが、「彼の話を信じる」と言えなくなります。「彼の話」はモノだからです。

そこで、「彼の話を信じる」という表現を、「彼の話が本当であることを信じる」を省略した形だと解釈することにしました。こうすることで、「信じる」の目的語は必ずコトであるという規則を保持しつつ、「彼の話を信じる」という表現も可能になります。

結局「彼の話を信じる」が言えるようになるのだから、モノとコトに関する法則が最初からなかったのと同じではと思う人もいるかもしれません。しかし、これは、法則がまったくない無秩序な状況とは異なり、以下のような状況になっています。

  • 前提となる法則が 1 つだけある。
  • 一定の規則でその法則に帰着させられるような解釈ができる範囲で、そこから外れた表現も許す。

要するに、1 つの規則とそれにもっていける規則によって全てを説明できるという点で、無秩序なのではなく全体として規則的なのです。

自分の言語に無秩序に見える点を見つけたら、まず「根本にある普遍的な法則はないか?」と考え、それが見つかりそうなら「そこから外れるようなものも根本の法則に帰着させられないか?」と考えて、上で述べた状況にもっていくということをします。最近のシャレイア語の文法改定は、だいたいこの作業の成果です。

単語

意味範囲の明確化

単語を作る際は、その単語が表す範囲を明確にすることに重点を置いています。

例えば、「食べる」を造語するとしましょう。その単語を指す範囲が明確であるということは、例えば以下の質問にはっきりとした理由をもって全て答えられるということです。

  • 「飲む」との違いはあるか? 違いがあるなら特に:
    • 味噌汁のような具が入っている液体は、「食べる」なのか「飲む」なのか?
    • タピオカティーは一般にドリンク扱いされるが、これは「食べる」なのか「飲む」なのか?
    • ヨーグルトのようなペースト状のものは、「食べる」なのか「飲む」なのか?
    • 固形物でも噛まずに飲み込んだら、それは「食べる」なのか「飲む」なのか?
  • 「食事する」との違いはあるか?

単純に「「食べる」に相当する単語は sôd である」と決めるだけでは、これらの質問に理由付きで答えることは難しいでしょう1。これにはっきり答えるためには、sôd という単語が指す範囲を具体的に明文化しておく必要があります。

シャレイア語辞書では、「語義」という枠にその単語の意味を明文化することで、その単語が指す範囲をできるだけ明確にしようとしています2

具体的な方法

意味範囲を決める際に具体的にどうするのかについてですが、主に 2 つのアプローチを使っています。

  • 対応する日本語や英語の単語の意味範囲を (国語辞典などで) 調べる。
  • コーナーケースを出す。

まず、自分の言語について考える前に、日本語や英語の意味を調べることが多いです。その単語に似た単語があるなら、「A B 違い」みたいな検索をかけたりします。他の単語との意味の違いから、その単語自身の意味範囲が見えてくることは結構あります。

また、コーナーケースを出すのも重要です3。コーナーケースというのは、その単語が指すのか指さないのかギリギリの位置にある単語です。「食べる」の例であれば、具が入っている「味噌汁」やペースト状の「ヨーグルト」などがコーナーケースに当たります。コーナーケースは単語の意味範囲の境界付近にあるので、それを含めるか含めないかを考えることで、意味範囲の境界が明確になっていきます。

私が毎週土曜日にやっている造語放送は、この意味範囲を明確にするという作業をするのを主題にしています。私が何を考えて意味範囲を決めているのかよりよく分かると思うので、よかったら見てね。


  1. 「単語の意味範囲は日本語と全く同じとする」などと決めてあるなら別ですが…。 

  2. そのため、シャレイア語の単語は一義的になりがちです (そういう方針です)。colexification 好きの方、ごめんね…。 

  3. 造語放送では、見てくださってる方からコーナーケースをいただくことが多いです。大変助かっています。 

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