0. はじめに
本記事は2025年秋(第13回)人工言語コンペ参加作品です。
今回のお題は「独自の表意文字を使う言語」です。
1. 基本方針
まず、今回は文字に着目したお題ということで、発音を一切持たない書記言語にします。こうすることで音声の制約から脱し、音韻関係を考える手間も省けます。
さて、せっかく音声から脱したのだから、それを活かしたものにしたいところです。
第8回大会のお題が「線条性に抗った言語」でしたが、音声言語の場合は発話自体に時間的流れが存在するため、どうしても線条性が生じてしまいます。しかし、書記言語ならこれを無視できるのではないかと考え、この方向で進めることにしました(実際、この時提出された作品は書記言語ばかりでした)。
この時提出された作品である Falīta語 および ジュウロク語 を参考に、2つを組み合わせ、より発展させた形式の言語、色繋語を作りました。
2. 文字構造
色繋語で使用する文字である色繋文字は、以下の画像のような、4つの領域を持つ構造をしています。
中心にある領域は語幹領域と呼び、その単語の意味を表す部分です。
語幹領域の上側の部分は接辞領域と呼び、数・相・時制・その他さまざまな文法的機能を示す領域です。
語幹領域の左側および下側の部分は被接続領域と呼び、その単語に接続する単語の形式や、どのような修飾を受けるかを示す領域です。
語幹領域の右側の部分は接続領域と呼び、その単語がどの単語に接続・修飾するか、どのように接続・修飾するかを示す領域です。
3. 修飾・接続関係
色繋語の最大の特徴は、各単語が色を持ち、それにより修飾・接続関係が示されることです。
たとえば、以下は「大きい車が速く走る」という意味の文です。各単語は、左からそれぞれ「大きい」「車」「速い」「走る」という意味です。
見てみると、各単語の接続領域のみ、他の領域と違う色がついていますね。色繋語では、単語Aの接続領域の色と単語Bの語幹・接辞・被接続領域の色が一致するとき、単語Aは単語Bに接続していることを表します。
左の2文字を見てみましょう。「大きい」の接続領域の色は青色、「車」の語幹・接辞・被接続領域の色も青色です。このことから、「大きい」が「車」に接続している事がわかります。
さらに、「大きい」の接続領域にある図形と「車」の被接続領域にある図形(★)を見ると、形も一致しています。この形は「大小」を示す図形で、「大きい」がどのように「車」に接続するかを示しています。今回の場合、「大きい」という語は「車」の大きさを示す単語として接続していることを表しています。
今度は「車」の接続領域を見てみましょう。今度は黒色で、先程とは別の図形(●)があります。これは、この単語が主格であることを示す図形です。「走る」の被接続領域を見ると、同じ図形があります。色も黒色です。つまり、「走る」の主語が「車」であることがわかります。ちなみに、「車」の接辞領域にある図形(◆)は、「車である」を「車」に名詞化する役割があります。
「速い」についても同様です。接続領域に「速度」を表す黒色の図形(▼)があるので、これは「走る」の速度を説明する単語として接続することがわかります。
また、各単語の接辞・接続・被接続領域のうち、全体に一本の線が引かれているものがあります。これは、この領域に当てはまるものがない、という意味を表しています。字形を整えるのが目的です。
4. 述語
色繋語の文は、必ず述語を一つだけ持ちます。述語はその文の中心になる単語です。
述語の接続領域には何も書かれません(正確には、何もないことを示す1本の線を引きます)。逆に言えば、接続領域に何も無い単語がその文での述語になります。
述語の定義としては「接続領域に何も無いこと」なのですが、文中で述語を目立たせるため、以下のようにするのが通例となっています。
- 述語は黒色(黒背景などで見にくい場合は白色)にする
- 述語以外の単語の色の選択は黒(白)以外なら自由に選択して良い。
- 述語の被接続領域は下側の部分に書く。述語に接続する単語がない場合、一本の線を引く。
- 述語以外の単語は、被接続領域は基本的に左側を使用し、下側は使用しない。下側には線も引かない。
被接続領域には左側と下側の領域がありましたね。特に横書きの場合、述語だけ下側の領域を記述することで、述語がわかりやすくなります。基本的に下側領域を使うのは述語だけですが、長くて複雑な文の場合、主語や目的語など、文の中心に近い単語も下側領域を使うことで文構造をわかりやすく示すことができます。
また、述語ももちろん左側の領域を使用でき、例えば主語や目的語の存在を示す図形を下側に、述語を直接修飾する副詞などは左側に書く、などすれば理解しやすくなるでしょう。なお、「よく晴れている」などのように、主語や目的語などを持たないが、述語を修飾する部分がある場合には、述語の左側の被接続領域を使い、下側の被接続領域には線を引くことができます。
なお、縦書きの場合は下側と左側を入れ替えることで、同じように述語を目立たせることができます。
5. 複文
一つの文に述語は必ず一つだけです。それでは、複文の表現はどうするのでしょうか。
並列節の場合、並列を示す専用の単語を述語として用います。「私は食べ、飲む」という文では、以下のようになります。
また、2つの節で主語が異なる場合、「私は食べ、あなたは飲む」のような例では以下のようになります。
「私」が「食べる」に、「あなた」が「飲む」に接続していますね。どちらも主格なので、接続する図形の形状は同じですが、色が違うのでどちらがどちらに接続するのかがわかるようになっています。
従属節の場合はもっと単純です。以下は、「私は彼にあなたがすることを言う」という文です。
「する」という単語が、「言う」という単語に接続されていますね。この文では「私」「あなた」という2つの単語が主格になっていますが、どちらも色が違うので簡単に接続を見分けられます。
6. 語順
ここまでの仕様から分かる通り、語順は意味に一切影響しません。一つの文に含まれるすべての単語をランダムに並び替えたとしても、全く同じ意味を表します。つまり、完全に語順が自由な言語であると言うことができます。
語順が自由な言語によくある、語形変化によって役割や修飾先を示すため、同じ語形変化をする語が複数あるとき、一意に解釈が定まらないということは起こりません。なぜなら色は連続量であり、いくらでも種類を増やせるので、理論上色被りが起きないからです(人間の認識できる範囲、という制限はありますが)。
これを活かして、例えば非常に複雑な構造の文では、まず述語、そして主語や目的語といった文の中心になる語を並べ、その後にその主語や目的語を修飾する語を並べる…という風に整理することで、文の構造がわかりやすく書けます。





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