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Fafs F. Sashimi
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リパライン語の「名前感覚」

※ この記事は、悠里・大宇宙界隈 Advent Calendar 2022の二十日目の記事です。

アリスという名前は現代西洋人にはお婆ちゃんみのある古い名前に聞こえるようで現代ではあまり付けられていないらしいという噂をよく聞くが、非英語圏の名前統計によるとロマンス圏では普通に上位10位に毎度食い込むレベルらしいので、どうにもただの噂のように見える1
日本では、あちらこちらのようによく名付けに使われているというのを聞いたら、彼らはどう思うのか気になるところだ。

さて、現世語の名前にも流行り廃りがあるように、リパライン語の名前にも命名の感覚のようなものがあるに違いない。今回はリパラオネ人の名前を巡りながら、それを考えていきたい。

イェスカ型

イェスカ( jeska )やユミリア( jumili'a )、シャル( xal )など元から人名として使われる語のタイプである。
これらの語源は明らかになっていない物が多い。こういう名前は歴史的人物の名前として定着していて、現代では命名されない名前( jeska , lipakorl )と現代でもよく付けられる名前( xal , klan )がある。前者は、わざわざ自分の子供に「ヒトラー」や「スターリン」と名付けないような感覚である2。後者は古代に巨大な統治体であったADLPが聖名と呼びまとめているものに由来する。

神話型

リパラオネ教の教典や叙事詩から名前を持ってくるパターンである。これは語源が分かっているものと分かっていないものが混じっている。例えば、リパラオネ教の神族(唯一神アレフィスの化身的な分離体)は大体語源がわかっている。哲学者であるフィシャ・グスタフ・フィレナ( fixa gustaf filena )の名はフィレナ( filena )だが、これは神族の名前に由来し、語源は古典リパライン語の"firener"「火をつける者」という単語である。
この他にも、叙事詩の英雄3や活躍した人物の名前( yfi'a , aldas , , vinci'a など)であったり、教典で活躍した人物の名前( vileti , lech )などもこのタイプに入るだろう。

一般名詞派生型

一般名詞に " -ija ", " -iju ", " -rdia ", " -af " などの語尾を付けて名前語に派生した形である。例えば、近代法学の父たるレシェール・ヴェンタフ( lexerl.ventaf )の名前は " vent "「絶え間なく続く」に名前派生語尾 " -af " が付いている。先に出てきたグスタフ( gustaf )も " gustu "「弓矢」の詩語形 " gust " に名前派生語尾 " -af " が付いた形になっている。
ちなみに神話型+名前派生語尾の形も存在する。例えば、政治活動家であるフィシャ・グスタフ・ヴェルガナーデャ( fixa gustaf velganardia )がこれに挙げられるだろう。彼の名前は神族の名 " velgana " に名前派生語尾の " -rdia " が付いたものである。

最後に

リパライン語の名前のタイプを巡ったところで、最後に実際に存在する幾つかのリパラオネ人たちの名前を由来とともに見ていこう。

名前 タイプ 由来
エレーナ
elerna
イェスカ型 諸説あり。パイグ語のi2 let2 nam2(雪を閉じる)やユーゴック語のi rei naamo(一つの満月の知らせ)、古理語のillening*-æɳɖɾiə(私は未来を行く者)など。
リーサ
lirca
イェスカ型 原義が不明。cがもともと/k/だったとしてリパライン祖語再構形*ləjk̟ale(測る)との関係性があると考えられている
フィレナ
filena
神話型 神族の名前 " filena " に由来。平等と正義を司るため、そのような願いが名前に込められている。
ヴェルガナ
velgana
神話型 神族の名前 " velgana " に由来し、その語源は古典リパライン語の "velgano"「駆逐、殲滅」に由来する。古い軍神でもあり、武力を司るため、強い子に育って欲しいという願いが名前に込められている。
シャリヤ
xalija
一般名詞派生型 " xal " は " xel "「見る」と同根で、それに " -ija " が付いた形。「全てを見通す子」の意。
ステデラフ
stedelaf
一般名詞派生型 " stedel "「掴み取る」に " -af " が付いた形。「夢を掴み取る子」の意。
アルヴェイユ
alveiju
一般名詞派生型 " alve "「祭り」に " -iju " が付いたもの。「祭式の子」の意。
シールジャーラフ
cirldzarlaf
一般名詞派生型 " cirldzarl "「真実」に " -af " が付いた形。「嘘をつかない子」の意。
キィルフィヤ
kjilfija
一般名詞派生型 " kjilf "「結果を導く」に " -ija " が付いたもの。「物事を動かす人」の意。
タリェナフ
talienaf
一般名詞派生型 " talien "「逆立ちする」に " -af " が付いたもの。「普通の人とは違う見方をする子」の意。
イスナシュテイユ
isnaxteiju
一般名詞派生型 " isnaxte "「責任を引き受ける」に " -iju " が付いたもの。「重責を引き受けても毅然としてそこに立ち続ける者」の意。


  1. 例として、2019年のイタリアでは、5位に入っている(参照) 

  2. と思うかもしれないが、実はインドのタミル人政治家にM. K. Stalinという人は居たりするし、ヒトラーアイスクリームというどうしてそうなったというのも存在するが、まあ…… 

  3. 余談だが、リパラオネ人は「英雄」( Fjacafi )は最後には非業の死を経るものと考えているので、歴史的には不吉として付けられてこなかった。しかし、近代にヴェルテール哲学が出現し、宗哲目的論が取り上げられるようになると、「人間の死は伝統的にはタブーではなく、それによって人間の意味を完成する」というような現世でいうハイデガーの本来性(Eigentlichkeit)に近いような考え方が取り沙汰されるようになり、現代では普通に人名として付けられるようになっているという経緯がある。 

Latest comments (2)

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佐藤陽花 • Edited

これ、方言の違いによる命名感覚の差異とかはあるのだろうか(きになる)

(by Xelken jerl tarl xerulafa 1)


  1. 洞窟 xelken 理語名 

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Fafs F. Sashimi • Edited

同じリパラオネ人にも、ヴェフィス系やフラッドシャー系、ラネーメ系、リナエスト系、そしてもちろんXelken系など様々な民族・社会の系統があり、それぞれ命名感覚は結構違うと思いますね。今回記事で紹介したのは、ユナ系という最も一般的なものになります。
ヴェフィス系だと、叙事詩尊重の意識が非常に強く神話型を避ける傾向があって、一般名詞派生型が普通です(そもそも、スキュリオーティエ叙事詩の英雄であるユフィアという名前も yfiet 「リズム」という名詞から派生したヴェフィス語名です)。フラッドシャー系は、神族の名前を付けることが多いようで一般名詞派生型が殆どなくヴェフィス系と対称的な傾向を持ちます(連邦国民党アルティ・ヴェルガン・レシルなど)。
リナエスト系、ラネーメ系リパラオネ人だと元々の民族の言語から単語を持ってきて、一般名詞派生型の形式で派生することがよくあります(連邦憲法裁判所裁判官ハースチウスナ・ヴィール・リカリア、キャスカ・ナモイユなど)。Xelken系はXelken自体がADLPの派閥だったこともあり、聖名を重視しているところがあるかも知れません(ウェールフープ科学者シェルケン・スカーナなど)。
デュイン方言の話者に関しては、民族が多様でデュイン方言を母語として話している者というのが少ないので原住民系の名前を持っていることが多いです(デュイン総合府行政長官ユルティンギ・ティーラヒータ・ウィーッラナ・リーナ・ブツィニルなど)、一方でリパラオネ化された原住民系名を持っている人も居ます(連邦憲法裁判所裁判官リツィルティーニ・バーチ、ファルトクノア共和国環境庁特殊調査官リツィーティーニ・グスタフ・アルテアなど)。デュインの移民リパラオネ人に関しては、どうやら本土の命名感覚とそこまで乖離は無いようです(連邦特別警察庁所長レシェール・クラディア、連邦特別警察研究所主任ヴァレス・ゲーンなど)。