ユエスレオネ連邦の政治において、重要になってくる政党は革新派である連邦社会党系と保守派である連邦国民党系に大きく分かれる。ここで重要なのが、社会党系のテーマカラーは蒼1で、国民党系のテーマカラーは赤であるということである。現世にしてみれば逆なものだが、これにはちゃんとした理由がある。
他にもリパライン語には色に関係する様々な意味や表現が存在する。今回はリパライン語話者たちが共有するカラーイメージについて紹介していく「色の話」をしようと思う。
保守の赤
現世の言語には赤旗という言葉がある。日本語版Wikipediaの記事によると、現世ではこれはフランス革命以降、社会主義や共産主義を象徴する旗のようだ。しかし、ことファイクレオネに至れば、この旗は逆に民族主義などの保守思想を示す。これには実は様々な理由があり、その理由の複層がリパライン語における「赤」(
ludiex
)のイメージを成していると言えるだろう。
まず、最初に「赤」が保守を象徴することを説明するのにリパラオネ系民族の古い伝統として見られる「血旗」(
larfe'd farvil
)が挙げられる。これは、リパラオネ人が古代に戦場で行っていた伝統で敵に討たれた仲間の血で自らのクランの旗を染め、次ぐ戦いに持っていくというものである。死んだ仲間が死んでもなお共に在ると旗で視覚的に示すことによって、戦士たちの士気は向上した。戦場では多くの血の旗が立ち、感慨にふけるほどの迫力があったという。この伝統はリパラオネ教成立以降、特に中世になるとほとんど顧みられなくなった。しかし、その色が伝統や保守的な考え方を示すことは現代にまで継承されてきた。
「赤」が保守を示すイメージである理由は、もう一つある。それはハタ王国との接触だ。ハタ王国において信仰されるトイター教の聖職者であるシャスティの着るスカルタンは、ユエスレオネ国民に異邦の魅力と連邦との違和を感じさせた。接触直後に連邦と同盟を組んだハタ王国は、女王であり、トイター教の最高権威たるスカルムレイを推戴する君主国であり、有力なシャスティたちが地方を統治する封建社会であった。当時のユエスレオネにとってはハタ王国は保守的な社会の象徴であり、当時の文学(レスバスカラスタン運動など)に大きな影響を与えている。接触当初から出稼ぎに来るユーゲ人も多く、ユエスレオネ人にとって彼らは「コンサバ的な隣人」として捉えられた。その彼らが尊敬するシャスティが着るスカルタンの紅白は「血旗」に通じて、赤の保守的なイメージを更に強化したのだった。
ちなみに、後に詳しく述べるがリパラオネ人にとって「赤」にはあまり警戒色の意味が無いとされている。むしろ、政治的な意味のほうが強いようだ。
革新の蒼
対する「蒼」(
stoxiet
)が革新の色として取り上げられるのにもちゃんとした理由がある。
「赤」は貴族や治世者にとっては「立ち向かってくる者に対しては対抗する」というミームを持った色であったが、その影響を受ける庶民にとっては「迷惑」の色だった。
ファイクレオネの軍事は、常にウェールフープが使えるケートニアーを中心にして展開されてきた。白兵戦であっても、飛行能力を持つようなケートニアーは飛び交って斬り合い、爆破能力を持つようなケートニアーは地平線に汚い「赤」の花を咲かせた。例によって、治世者の軍隊は現地調達が基本であり、行軍の間に通過した集落や都市は荒らされ、また軍法の基本である「スキを突く」ことを目的とした敵は街に潜んだ軍隊を奇襲し、人々の安寧を破壊した。
静かに暮らしてきた多くの民が思ったのは、「赤」は平和を乱すということだった。その対として挙げられたのは「蒼」だった。「蒼」は主にユエスレオネ連邦に関わる話題で取り上げられがちである。イェスカ主義を象徴する色は「蒼」であり、ユエスレオネ連邦の国旗も蒼色だからだ。しかし、まず「蒼」を「赤」に対抗する色として使ったのは、チャショーテであった。
燃える家屋を消火する水、出血する傷口を消毒する水を象徴する「蒼」は、回り回ってユエスレオネ革命を象徴する色になった。他性毀損力を嫌うリパラオネ人にとっては、積極的に他者を打ち倒そうとする「赤」よりも他者を救い維持する「蒼」のほうが魅力的に思えたのかもしれない。
ヴァルカーザの花
ヴァルカーザ(
valkarsa
)という植物はスキュリオーティエ叙事詩に登場することでリパラオネ人にとっては特別な意味を持つ。主人公である英雄ユフィアは叙事詩の序盤で凶悪な敵サフィアに家族を次々と奪われる。その度重なる死の中で、父の戦死を知った彼女に神の化身の一つであるフィレナが慈しんで、彼女の頭に差したものがヴァルカーザの花だった。この後、継承権に旺盛な弟であるフェヴィアに家督を引き渡すが、彼もまたサフィアに虐殺されてしまう。もはや逃げることが出来なくなったユフィアは、家臣であるスロートゲー家の長女ヴィンシアに槍を向けられ、「私の父が死んだのはお前のせいだ」と言われる。衝撃を受けながらもユフィアは自分の人への責任と神への応答を自覚し、サフィアに立ち向かっていく。
そんなプロットが意味を与えているヴァルカーザの花は、「紫」(
syduj
)をしている。こうなってくると紫色にはやはり特別な意味が込められている。少し変わったように見えるのは、リパラオネ人の一部が髪を「紫」に染めていることだ。
著名人のうちで紫に染めているのはアレス・ラネーメ・リパコールやターフ・ヴィール・ウォルツァスカイユなどが挙げられる。どうやら、リパラオネ人の間には紫色に髪を染めることが「イケてる」と感じるようだ。このような素朴な文化に繋がっているのが「ユフィアの髪に差されたヴァルカーザ」であることを意識している現代人はほとんど居ないが、このシックさに繋がるのは歴史であることを見逃してはならない。
青白い
ヴァルカーザの枝は面白い特性を持っており、その枝を水につけて、水に光を当てると青白く光る。この青白さの色を「ヴァルカーザの枝」(
valkarsa'd faista
)とリパライン語で呼ぶ。
この青白さは先に挙げたヴァルカーザのイメージとは少し違う意味を与えられている。
ヴァルカーザには、樹液にケートニアーの持続的固有ウェールフープ学的魔法制限値(
zirladurrdz
)を回復する機能があり、戦傷を癒やすという意味で「赤」と「蒼」の間の色であると考えられている。
「青白い」(
estvarn
)は、現代ではユエスレオネをイメージする単語だが、これは革命以後の第三政変で自らの存在を考え直すようになったことにも繋がるのではないだろうか。
緑
リパライン語における緑色には、様々なものがある。例えば、「深緑」(
lespli
)は、暗い青緑を指す。この色はウェールフープ化学者を象徴するのだが、これは古代の世界政府であるADLPの時代に医学者が補色残像を防ぐために深緑の服を着ていたのをウェールフープ化学者と誤認したのに由来してる。
当時、医学というのは胡散臭いものであった。市民にとってやはり「赤」は不穏なものであり、それを扱う彼らもまた「赤」だと見做された。そして、やはり「赤」に繋がるのはウェールフープによる破壊と死である。こういったイメージが誤解を導いたのだろう。
緑に関わる民族的な色としては、皇色(
tamdejix
)とラダウィウム色(
ladawi'umen dejix
)が挙げられるだろう。
皇色はラネーメ人が重要視する植物サームカールト(
tharmkarlt
)または皇草の色に由来する。この色はラネーメ文化を象徴する色であり、それは国旗の左右を貫く一本の帯の色にも反映されている。サームカールトは向精神作用を含む植物であり、これを摂取することで皇論の聖職者は儀式を行った。しかし、ことユエスレオネ連邦においては禁止薬物であるところのファークに関連している。このため、ユエスレオネにおいては皇色はラネーメ的な色として捉えられるとともに、少しばかりの「危険性」を含んだような捉えられ方をしている。
ラダウィウム色はラダウィウムという植物に由来し、リパラオネ人が果実を蝋の生産のためによく使っていたことに由来する。近代になってくるとパラフィン蝋燭が定着していくが、それまで伝統的な蝋燭はラダウィウムによるものであった。故にこの緑色は皇色とは対象に「明るさ」を象徴する色として捉えられており、服飾の業界でもラダウィウム色の服は人気であり、「いせにほ」でもシャリヤが緑色のチュニックを着ている描写(S3#146)があるが、これはラダウィウム色であると考えられる。
方位角四色
方位角四色(
iupqa'd dejix fon ecirjen systusnej
)とは、方位を指す色のことである。これは古代の世界政府であったADLPの旗の色に由来し、第一象限を白(
flan
)、第二象限を茶色(
nelen
)、第三象限を灰色(
forla
)、第四象限を黒(
deln
)とするものである。
この色はそれぞれ名詞として方向を示すため、「白に見える」(
cene miss xel flana'c.
)などと言うと「右の方に見える」という意味になってくる。それでは、「白い物の方に見える」と言いたい場合はどう表すのかと言うと "
cene miss xel fal flan mors.
" というふうに前置詞で隔離したりする。このあたりは混同が起きやすいが、ネイティブたちはちゃんと表現で区別していることに注意が必要だ。
黄色
悠里世界にあるアーキテクチャ2003fに対応するOSの一つにパンクワテール(
panqateel
)というものがある。パンクワテールの致命的エラーを示す画面は「黄色状態」(
pevustol
)と呼ばれており、画面全体が「黄色」(
pevust
)で満たされる。
「黄色」はこのように「赤」よりも警戒色の性質が強い。これにはフェヴェヨー(
fevejor
)と呼ばれるフルーツが関わっていて、摘果からすぐに駄目になってしまう日持ちのしない果物であることから、「もうこれ以上持たない」という意味が付くようになった。このため、警戒色としての意味もリパラオネ人にとっては少しばかり違うものになっている。
現世の旅客機には警告を示すために Master Caution/Warning Switch が付いており、Cautionが黄色で、Warningが赤色になっている。しかし、ファイクレオネで開発された飛行機にこのような警告灯がついているなら、その色は逆になっていることだろう。
「いせにほ」の S7#311 にて、日本に来たシャリヤが信号機を無視して横断しようとしたのはユエスレオネ時代は信号よりも交通整理員の方が一般的だったからだが、赤信号を見て止まろうとしない本質はここにもあるのかもしれない。
白黒
リパライン語には "
kujit
" と "
deln
" という黒を表す単語が二つある。色的には同じ黒を示すのだが、意味するものが少し異なる。
前者の「黒」(
kujit
)は、ネガティブなイメージが付随している。リパラオネ教におけるいわゆる地獄に相当する世界はこの単語で言い表されるし、また「食べ物が焦げる」(
knloanerl is kujit
)という表現でも登場する。暗闇のマイナスなイメージが応用されているようである。
変わって後者の「黒」(
deln
)は、伝統性であったり、フォーマルさや堅苦しさを指し示す。これはADLPの構成員が制服に黒を選択していたことに由来する。同じ黒でも単語によって大きくイメージが異なるので注意したいところだ。
「白」(
flan
)は、リパラオネ教の聖職者であるシャーツニアー(
xarzni'ar
)の着る服であるフラニザ(
flanisa
)をイメージさせるという。詩語体のリパライン語では「白を着る者」(
xalurmer flan
)というとシャーツニアーを指す。礼拝堂であるフィアンシャもまた白で塗られている場合がほとんどである。このようなところから、「白」は清廉さの象徴と見做されているようだ。
ちなみに科学技術計算用高速実行アーキテクチャとして開発された「計算する白色」(
lex litarle flan
)は元がアルテナ語であるのでリパラオネ人の「白」とはあまり関係がない。
まとめ
この他にも「雨過色」(
lumirsalost dejix
)や「神族イイェルストの髪の色」(
vi'enklint dejix
)など様々な色があるが、あまり頻繁には使われないのでここでは紹介を省いた。
昔から色の話を周りの言語作者が良くしていたので一度はいつかまとめてみたいと思って、今回この記事を書いてみた。皆さんの言語や自然言語で面白い色の話があれば、是非コメント欄で紹介してみて欲しい。
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何故「青」の字を使わないのかというと、リパライン語が関わる共同創作の中では青をテーマカラーとするものが多いため、それらと区別するために「蒼」の字を使っている背景がある。つまり、「蒼」が示すのはリパライン語において政治的な青であり、「青」という場合は普通に色としての青を指し示している。 ↩
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