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Laviel K. Cui
Laviel K. Cui

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ロディラウ共和国 【第11回(2025年春)人工言語コンペ提出作品】

ロディラウという国

▼ロディラウの国土と首都の位置
Rodiraaw Map

首都ギトゥーロスは、その独特な街並みから観光地として人気だ。特に日本から近いという立地のため、韓国やタイに並ぶ旅行先の人気スポットである。その証左として、全国でいくつもの大学でロディラウ語を学ぶことができ、ロディラウの食べ物をモチーフにしたスナック菓子やインスタント食品も増えている。

もしあなたがロディラウへの旅行を計画しているならば、文化や歴史、言語を学んでおけば、楽しみは二倍や三倍になるだろう。そこで、この記事では独自に築かれたロディラウの文化や、短いながらも興味深いロディラウ史を軽く解説する。


歴史

文化を説明するには歴史を踏まえた方が分かりやすいうえ説明もしやすい。学校の授業のようになるかもしれないが、少しのあいだ辛抱願いたい。

ロディラウという地域に住む人々はカムチャツカ半島の集落に由来している。それゆえに、中世までは記録がほとんど取られておらず、具体的な活動内容はあまりはっきりしていないのが現状である。

現在のような大国に成長するきっかけとなったのは「産業革命」であった。
17世紀、ある者がアリューシャン列島に舟で氷を持ち込んだ。アリューシャン列島というのは環太平洋造山帯に立地しているため火山が多くある。そのため地熱で氷を融かすことができたのだ。こうして水力発電を発明することに成功したロディラウでは少しずつ近代化が進むこととなった。

しかし、アリューシャン列島というのは 17,670 km2 と狭い。参考程度に、日本の領土は合計で 377,975 km2 だ。やはり、それでは土地の広さに限界があったうえに、発電量も多くはなかった。そんな最中さなか、18世紀に入った頃にアラスカでとある鉱石を発見した。それは氷、特に純度の高い氷と良く反応し、大きな熱を生んで氷を効率的に融かせるものであった。この鉱石は後に熱という意味の単語を縮約してネルキズと命名された。こうして遂に「産業革命」が花開いた。

一方、その数年後、シベリアを開拓するロシア帝国がカムチャツカに辿り着いた。これがロディラウ人にとって初めての外国勢力との接触であった。幸いにも双方は友好的に接し、ロディラウは毛皮を輸出して西洋の情報を受け取っていた。その反面、ネルギズは一切持ち出さず、存在すら明かさなかった。ロディラウ人は、これは機密情報とするのが良いと判断したのだろう。

また、ロシアとの国境は、およそリトクチ(チャウン湾沿岸の町)とペンジナ川の河口を結んだ線となった。

▼当時の国境
Rodiraaw Map in 1716

急速に発展を遂げたロディラウは、1794年に憲法(通称「共和国憲法」)を発布した。この憲法を以て国境を画定し、正式に「ロディラウ共和国」として一つの共和国が発足した。また、これはフランス人権宣言の影響を大きく受けており、法の下の平等及び人権を宣言している。この憲法は翌年に施行された。

技術が進んだということは軍事も進歩したということである。1838年、極東地方と沿海州を巡ってロシアと戦争になった。これをアムール戦争という。産業革命によって著しい技術革新を遂げたロディラウはロシアに見事に勝利した。この勝利の要因として、その高い軍事技術のほかにも、ロシアの主要な都市であるモスクワやサンクトペテルブルクから離れていたということも挙げられる。ともあれ勝利を収めたロディラウは国としての威信も高まり、英仏といった西洋諸国にとってもロシアの敗北は衝撃的なものであった。

20世紀のはじめ。欧州で火蓋が切られた第一次世界大戦には協商国として参戦した。とはいえ明確な戦果を挙げたわけではなく、日米と同じように武器を輸出して儲けていった。日本、米国、そしてロディラウが第一次世界大戦で揃って大戦景気が巻き起こったことは、後世で「環太平洋の奇跡」と称されている。

1917年に起こったロシア革命はロディラウに危機感を与えた。というのも、資本主義と民主主義を保ちたい政府は共産主義と一党独裁を拒み、社会主義革命を恐れたからだ。そのため、ロディラウが中心となって、日本、米国、英国等がシベリアに兵を派遣し、エニセイ川以東に緩衝国としてシベリア共和国を建国した。これをシベリア出兵という。当然ソ連との関係は悪化し、後に共同宣言を出すまでは国交を開いていなかった。

第二次世界大戦には連合国側で参戦する予定を立てていた。というのも、満州から沿海州を占領される危険性を排除したかったのに加え、オホーツク海に面する樺太と千島列島1を獲得してその海の安全を守りたかったからだ。しかし、バルバロッサ作戦(独ソ戦の発端となった侵攻作戦)以降、連合国とソ連の関係が友好的になっていったことによって、政府はソ連との国交正常化が必要だと考えた。そこで、ロディラウとソ連はロ・ソ共同宣言を出し、実質的なロディラウの傀儡国となっていたシベリア共和国をソ連に返還し、国交を樹立することを宣言した。

しかし、1945年に入ってもなおロディラウは参戦しなかった。米・英・ソ・ロで開かれたヤルタ会談でロディラウは参戦を約束していたが、なるべく被害を最小限に抑えるため、参戦の機会をうかがっていたのだ。長崎に二発目の原爆が落とされた同年8月9日、ロディラウは日本に宣戦を布告し、急速に樺太と千島列島を占領し、領土とした。これらの領土はサンフランシスコ平和条約を以て正式にロディラウの領土となった。

その後、冷戦においては第三世界の代表として地位を確立し、米ソともに友好的な関係を築いた。

現在では米国に次ぐ第二位のGDPを誇る大国だ。因みに、米国とロディラウというのは、ともに歴史上ではおよそ17~18世紀からの登場という若い国であるというのは興味深い点である。


文化

産業革命前

産業革命前のロディラウは文書に残っていない。しかし、出土品とイヌイットの暮らしからある程度予測することはできる。

ロディラウの本拠地であるカムチャツカ半島は主に冷帯(亜寒帯;D)に区分され、シベリアやアラスカ等と同じく極寒の地である。よって作物は基本的に育たず、狩猟や漁撈ぎょろうで食べていたと考えられる。特にオホーツク海には鮭やにしんのいい漁場であるため、魚料理が特に発達した。
また、当然氷や雪は身近なものであり、11世紀を越えた後にはイヌイットの影響でイグルーを作っていた跡もある。

それらは言語にも表れており、例えば「食べられる魚」と「食べられない魚」で語を区別する(cf. illa, iqqe)。また、現代ロディラウでも魚はよく食べられており、諸外国では魚料理として寿司と並ぶのがニコレ(niqore)という魚料理だ。ニコレでは様々な魚が使われるため、日本と同じように様々な魚の種の名前が膾炙している。


産業革命後

産業革命は人々の生活を大きく変えた。衣食住や娯楽が充実し、工業が発達した。

毛皮を効率良く加工する機械が発明されたことによって衣服の生産量がぐんと伸びた。
火を使えるようになったことによって魚の加工方法がぐんと増えた。
機械によって木をより効率的に伐採することができるようになったことによって木造建築が盛んに立てられるようになった。

しかし、大英帝国の産業革命と同じように、正の側面があれば負の側面がある。氷を用いて水力発電をするため、当然氷がどんどん減っていく。よって、現在では地球温暖化が深刻になっている。また、大英帝国と同じように劣悪な労働環境が問題となり、西洋の情報が入ってきてからは労働組合が結成されて共産主義の政党が密かに結成された。

また、これまでの文化と、産業革命によって作り出された新たな文化と、西洋から入ってきた文化がないまぜになったことによって、唯一無二のロディラウ文化が形成された。これによって現在も観光業は国を支える産業のうちの一つとなっている。


言語

ロディラウでは基本的にロディラウ語が用いられる。それに加え、国内では他に、ロシア語、イヌクティトゥット語、英語がよく用いられている。これの言語も国内で比較的高い地位を持っており、ロディラウの高校ではこの三つの言語から選べる選択教科があるのがほとんどであり、空港等の公共施設ではロディラウ語の他にこの三つの言語が基本的に表記されている。観光地として有名なだけあって、国民の約半数が英語をある程度話せるという。
よって、観光に行く際には英語さえ使えたら問題は無い。とはいえ、現地の言葉を知っておくとロディラウの人からの印象は上がるだろう。


ロディラウ語の概要

言語学的観点から言うと、ロディラウ語は未だ系統関係が明らかになっていない。孤立した言語だという説が有力だが、イヌクティトゥット語やアイヌ語との関係があるという説も提唱されている。しかし、周辺の言語、イヌクティトゥット語などに少なからず影響されているようだ。文法が非常に似通っており、それはさながら日本語と韓国語(朝鮮語)の関係のようである。ここでは詳しい文法要素は省き、ざっとした紹介に済ます。

もし、よりロディラウ語に興味が出たならば、白水社『ニューエクスプレスプラス ロディラウ語』2をおすすめする。音声ダウンロードもついており、独学にはもってこいだろう。


文字・発音

文字はラテン文字が用いられる。基本的にはローマ字読みと似たようなものだ。ダイアクリティカルマークは一切使われず、母音も日本語と同じく5個であるため、日本語話者にとって文字と発音は親しみやすいものだろう。

文字 発音
A a /a/
C c /tɕ/
D d /d/
E e /e/
G g /g/
I i /i/
J j /dʑ/
K k /k/
L l /l/
M m /m/
N n /n/
ng /ŋ/
O o /o/
P p /p/
Q q /q/
R r /ʁ/
S s /s/
T t /t/
U u /u/
W w /w/
Y y /j/
Z z /z/

日本人にとってあまり慣れないのは Q /q/ と R /ʁ/ の発音だろうか。この二つは喉の奥を使って「ク」「グ」と鳴らすような音だ。前者はアラビア語の ق やウズベク語の Q の音、後者はフランス語の R やアルメニア語の Ղ の音と同じ音になる。

また、N の前に Q が来ると(すなわち qn という形になると)このままでは発音しづらいため、Q が [ɴ] という音(異音)になる。この発音は後述するあいさつの表現で出てくるため、できるだけ練習しておこう。

また、母音である A, E, I, O, U は、重ねることによって長母音となる。よって、Rodiraaw は「ロディラーウ」/ʁodiʁaːw/ と発音する。


文法

文法はイヌクティトゥットに大きく影響を受けているため、抱合語であり能格言語である。語順は SVO が基本だが、格が示されるため、他の語順も認められる。

名詞は、(単数、双数、複数)、所有者、(絶対格、能格、処格、奪格、向格)によって接尾辞がつけられる。例えば、「一つの石」ならば “tias” で、「二つの石」ならば “tiaak” で、「三つ以上の石」ならば “tiait” といった具合だ。

面白い点が能格言語であるというところだ。「が」「を」に関する格として絶対格、能格がある。
絶対格は自動詞における主語、他動詞における目的語にあたる単語につけられる。能格は他動詞における主語につけられる。「ボールを転がす」と「ボールが転がる」が同じ格で示されるわけだ。あまり慣れないかもしれないが、どちらも転がっているのはボールであると考えれば案外納得できるかもしれない。

また、抱合語であるため、一文が一語で表せることもある。例えば、以下のような文章がある。

  • Tiaituqodantin.
  • Tia-it-u-qod-an-tin
  • 石-PL-COP-DP-NEG-3.PL
  • かつては石(複数)ではなかった。

ロディラウの国歌

黒田龍之助は、著作『外国語の水曜日再入門』3で、「歌は外国語の学習に多大な効果をもたらす。発音練習にもいいし、文化に触れることにもなる」(41頁)と述べている。それに倣って、ロディラウの国歌である『Rodiraaw Idawo(邦題例:ロディラウの歌)』の楽譜と歌詞をここに載せる。

Image description

Uykooproqaaqyaq pewaaem agingetyaq ipkip potesadaq.
Opapewaa riilgel, iiguipa negeolgizi negeolrunataq.
Ziotlaagsesakoq agingetlosakoq esojayin aipeitlee.
O, kingeecitlee, kuqilgooypodugel.

和訳

白銀の地に 自由の旗は翻る
雪原照らせ 産業の火は燃ゆ
民主と自由と豊かな人民よ
ああ祖国よ 永遠に輝かん


現地で使えるフレーズ

ロディラウにこれから旅行する人はこれだけ覚えておけば困らないだろうというフレーズを集めた。ぜひ参考にしてもらいたい。

日本語 ロディラウ語
おはようございます。(朝の挨拶) Toomurutaqnaa.
こんにちは。(日中の挨拶) Mepluukutaqnaa.
こんばんは。(夜の挨拶) Rayezutaqnaa.
さようなら。 Laqoolpautaqnaa.
ありがとう。(カジュアル) Lutaacitpa.
ありがとうございます。(丁寧) Lutaacitadarotnaa.
ごめん。(カジュアル) Nososiirpa.
すみません。(丁寧) Nososiirlecetarotnaa.
はい。 Uu.
いいえ。 Ikee.
私の名前は ____ です。 Kuumecol ____utaq.
____ はどこですか。 ____ egapepadaq?
日本語は話せますか。 Yaponiyapudatil eimulupezit?
助けて! Rulugepgel!

ロディラウという国

再三申し上げるが、ロディラウというのはその独自に育まれた文化が魅力の国だ。ここまで読んでくださったあなたならばその背景が少なからずつかめただろう。
現在日本とロディラウとの関係は良好で、治安もカナダ並みだ。ロディラウ語のフレーズを覚えた皆さんならば、ロディラウへの旅行を阻むのはその厳しい気温だけだろう。
ぜひともその独一無二の街並みをその目で見て感じてほしいものである。


参考


  1. ここでいう「千島列島」は北方四島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島)を含む。 

  2. まだ発売予定はない。いつかは出るかもしれない。 

  3. 黒田龍之助『外国語の水曜日再入門』白水社、2021年、ISBN 978-4-560-08921-7。 

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