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Azuula語【2024秋 人工言語コンペ】

こんばんは、RUIです。人工言語コンペ初参戦です。お手柔らかに...

お題

一般に言語には「上下」「東西南北」といった方向を表す語彙があります。このような概念は、重力と地軸が存在する地球上での生活に特有のものと考えられます。

では、もし「地球外の無重力空間で生活する人々」が存在するとしたら、どのように方向を表すでしょうか?彼らの話す言語を作り、方向を表す語彙を使って道案内する文章を作ってください。

なんだか設定の作り込み甲斐があるお題ですね〜笑

しかし、作り込み方によっては何でもアリになってしまいそうなので、前提だけ確認します。

前提

まず前提として、「地球外の無重力空間で生活する人々」ということですので、私が対象として考えるのは「ヒト(ホモ・サピエンス)」ということにしました。

ヒトである以上、個人から見た時の前後左右上下は存在します。したがって今回考えるべき問題は、個人として方向をどう認識するかではなく、他者と方向を共有するときにどうするかです。

それでは、私が制作したAzuula語をご紹介します。

Azuulaの基本情報

地球外の無重力空間で人々が生活するにはどういったものが必要でしょうか。物理学的な考察を少し交えながら、設定を構築していきます。

まず、スペースコミュニティ「Azuula」では、人々はそれぞれ自分の「家」となる宇宙船を所有しており、そこの内部で暮らしています。宇宙船の内部には空気が充満していますが、外部は空気がないため、外出する際は宇宙服のようなものを着用し、窒息しないようにします1

そして当然無重力空間ですから、地球上とは異なり、家となる宇宙船は3次元的に配置されます。さらに、家々の向きも束縛されません。したがって、「私の家の上にはAさんの家があり、下にはBさんの家があるが、Aさんの家は横向きに倒れていて、Bさんの家は上下が逆さま」みたいなこともあり得るわけです。

こんなふうに、各々の宇宙船が混沌と集まっているスペースコミュニティ「Azuula」ですが、このままでは人々は方向を共有できません。宇宙空間でも絶えず決まった方向を向くようなデバイスがあれば、それを基準に人々も方向を共有できます。

ここで、コミュニティの中心に巨大な「ジャイロ」を設置しましょう。ジャイロというのはいわゆる「地球ゴマ」というやつで、ある程度角運動量が大きい(つまりたくさん回転している)と軸の方向を常に一定の方向を保つという効果があります2。いわゆるジャイロ効果というやつです。

決まった軸に対して回転するものがあると、その回転方向に対して「南北」が定義できます(下図参照)。

Image description

(手書きですみません。)

ここで、「こでれは地球にいるのと同じじゃないか!」と思った方もいるかもしれませんが、一口に「南北」といっても、地球人とAzuula人との南北の考え方は少し異なります。

地球上ではよく下のような図が用いられます。

Image description

この図の中で「北」とは、2次元平面のうちの1方向に過ぎません。これは我々地球人が地球の表面に住んでおり、自分たちの生活環境を2次元のものとして考える場面が多いからです。

しかしAzuulaでは、先ほど「家となる宇宙船は3次元的に配置される」と書いたように、人々の生活環境は常に3次元的であり、そういった環境に住む人々にとっての「北」とは「ジャイロの回転する軸と平行で、なおかつジャイロの回転が時計回りに見える状態で進む方向」です。したがって、便宜上「北」と呼称するのが楽なのでそうしていますが、その実態は地球における「北」とは少し違うことを抑えておいてください。

ではAzuulaでは、普段人々はどのように空間を認識するのかというと、円筒座標系をよく用います。タテとヨコ、そして高さがある直交座標系とは違い、円筒座標系は半径方向r回転方向θ高さ方向zの3つで位置座標を表します(下図参照)。

Image description)

(左が直交座標系、右が円筒座標系。これも手書きですみません。)

ここまでで既にだいぶ文章が長くなってしまいましたが、これでやっと言語の話ができます。次から、人工言語Azuula語の特徴を見てゆきましょう。

このような環境で発達する言語

まず、家の外では会話は宇宙服に搭載された無線機を使って行うため、無線のノイズがあっても聞き取りやすい音声、すなわち聞こえ度の高い音が優先的に使用されます(ただし今回は発音について深く考察するコンペではなくいため、これについての創作はまた今度の機会にします)。

Azuula語はVSO型NA語順屈折語であり、名詞の格は主格、属格、対格、処格の4つが存在します。

日本語 語尾
主格 〜は (活用なし)
属格 〜の -zo
対格 〜を -ie
処格 〜へ
(〜に)
-ta

そして、肝心な「場所の表現方法」で地球と異なるのは、「あなたから見て上」、「あなたから見て下」という表現がある点です。地球上では重力があるため上下が常に共有されていますが、無重力空間ではその制約がないため、地球上で「あなたから見て右」というのと同じように、「あなたから見て上」「あなたから見て下」という表現が成り立ちます。

また、先ほどの述べたように、この社会では直交座標系よりも円筒座標系が浸透しているため、道案内にもこれを用います。特に地球人に馴染みがないのが回転方向に関する表現ですが、これはジャイロの回転方向と同じであれば順方向、逆であれば逆方向と表現することにします。

さらに、スペースコミュニティAzuulaでは、昼夜問わず星座が見えるため、「〜座の方に」という表現が、地球に住む我々よりもよく使われることでしょう3

実際の会話例

それでは、実際に会話の様子を覗いてみましょう。

A:Wandau eri haalata, Dalei kata luumie itia ya?
A:「スーパーへ行きたいのですが、道を教えてくれませんか?」

B:Ah, laa eri tukia-jue rondu azuuleta, duo eri soi kalaam nomanlata.
B:「いいですよ、順方向に15rondu進んで、北に4kalaam進んでください。」

A:Yuutalan.
A:「ありがとう。」

それぞれの単語の意味を以下に示しておきます。

A:〜したい - 行く - 店へ, 〜してください - 教える - 道を - 私に4 - (疑問)?

B:はい, 〜すべき - 行く - 10 - 5 - (回転角の単位) - 順方向へ, そして - 行く - 4 - (距離の単位) - 北へ.

A:ありがとう

この会話で注意しなくてはいけないのは、先ほども述べたように「北」の方向です。便宜上「北」と表記しているだけで、我々が普段考える北とは少し違うでしょう。

また、「rondu」と「kalaam」はそれぞれAzuulaで使われている回転角と距離の単位です。

A:Wandau eri Naduazo kaeta.
A:「Nadua(人名)の家へ行きたいのですが。」

B:Zen, kano uula yaajia azenza guata ya?
B:「では、あなたから見て下の方に、郵便局があるのが見えますか?」
 
A:Ah.
A:「はい。」

B:Guaatai, zi Naduazo kae keplaatiazo iluyaaeta, duo sui azuulazo erilaama jue kalaam.
B:「Naduaさんの家は確かそこから白鳥座の方向にあって、ジャイロからの距離は5kalaamだったはずです。」

A:〜したい - 行く - Nadua(人名)の - 家へ.

B:では, - 〜できる - みる - 郵便局 - あなたの5 - 下に - (疑問)?
 
A:はい.

B:確か, - 在る - Nadua(人名)の - 家 - 白鳥の - 星座(の方)に, そして - である - ジャイロとの - 距離 - 5 - (距離の単位).

ここでは先ほど出た「あなたから見て上」「あなたから見て下」の表現が使われています。それに、星座も方向の表現として使用されています。地球とは異なり、常に星々が見えるAzuulaでは、星座が方向の表現としてよく用いられるのも納得です。

終わりに

というわけで、今回は人工言語コンペの作品を作らせていただきました。普段漢字系の孤立語しか作っていなかったので、めちゃくちゃ大変だった...

でも、いろんなタイプの言語を作るのも勉強になりますね。今回のコンペに限らず何か新しい言語を作ってみようかしら。。。

ではまた〜


  1. 実際には、巨大な宇宙船のなかで大勢が暮らすというスタイルの方が人類が宇宙で暮らす際には現実的だと思いますが、そうすると「巨大な宇宙船の倉庫がある方」みたいな言い回しで方向を指すことができてしまうのでこの設定はやめました。 

  2. 実際には軸を正確に維持することは極めて難しく、回転している物体は少しづつ軸のブレが大きくなり、最終的には軸の方向が上下反転してしまうジャニベコフ効果が起こってしまいます(動画)。しかし、たとえ軸がひっくり返ってしまったとしても、外力を加えない限り角運動量(回転のパワーの方向...みたいなやつ)は保たれるため、角運動量の方向をコミュニティー全体の"軸"として扱うことはできます。 

  3. 書きながら気づいたんですが、勝手に恒星が近くにない状態を想定してました。。。恒星が近くにある場合、その強い光によって遠くの星が見えづらくなることが予想されます(街の明かりで星が見えづらくなるのと同じ)。ですが今回は恒星が近くにない状態で押し切らせてください。異論は認めません。 

  4. ここで「itia(私に)」は、先ほどの活用とは少し異なった活用をしています。しかし実は、これは「iti-ta」が訛って「itia」になったもので、本質的には全く同じものです。 

  5. ここでも「azenza(あなたの)」が先ほどの活用表と少し異なった活用をしていますが、これも「azen-zo」が訛って「azenza」になったものです。 

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