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靴屋語(第14回人工言語コンペ参加作品)

お題

特定の身分や職業や立場の人間たちが用いている言語を作ってください。
架空の身分や職業でも構いませんし、言語を話せるならば人間でなくても可。
(出題者・降雨急行さんによる補足)
・特定の人が「普通の言語」と「特定の人間同士でのみ通じる言語」の二言語を話せることが肝要
・使用者は特殊な人々なので独特な単語を作る必要がある(かも)

とある昔話(最初の2段落は飛ばしてもOK)

 昔々、現在のドイツにあたる、とある地域で、ある老夫婦が靴屋を営んでいました。貧しい夫婦は、ついに材料を買うためのお金も尽きてしまい、靴一足分しか残っていません。店を畳むことに決めた二人は、最後の革を切って作業場に置き、眠りに就きました。

 次の日夫婦が起きて作業場へ向かうと、そこには素敵な靴が一足出来上がっていました。驚いた二人がその靴を店に並べると、たまたま通りかかった裕福な男がその靴を気に入り、買っていきました。
 その夜、夫婦は今日の売り上げで靴二足分の材料を買い、また切って作業場に置き、眠りに就きました。翌朝、奇麗な靴が二足出来上がっており、その靴を店に並べると、今度はお金持ちの夫婦がそれを買っていきました。そのお金で今度は靴三足分の材料を買い、また同じことをしました。翌朝、三足の素敵な靴が出来上がっていました。そして、その靴をお金持ちの三人家族が買っていきました。

 同じことが何度も続いたことを不思議に思った夫婦は、何が起きているのかを確かめようと思い、いつも通り靴の材料を置き、作業場の陰からその様子を眺めることにしました。
 何か起こることを待っている二人がうとうとしかけた時、ついに物音と話し声が聞こえてきました。二人が見ると、作業場では何人かの小人が協力して靴を作っていました。彼らが何を話しているか、老婆には分からなかったのですが、耳がとても良かった老人は、彼らの話し声を聞くことができました。そして、その会話を、近くにあった革に書き記しました。そして、二人は眠りに就きました。

 次の日、二人は彼らに恩返しをしたいと思いました。そして、彼らが裸であったことを思い出しまし、服を作ってあげようと考えました。その日のうちに二人は全員分の服を作り上げ、作業場にその服を置いて夜を待ちました。その夜、小人たちが作業場に出てきて服を見ると、大喜びして歌い始めました。そして夫婦に感謝をし、どこかへ行ってしまいました。
 その後彼らが現れることはありませんでしたが、夫婦の店は繁盛し、二人は幸せに暮らしました。

靴屋語の説明

「靴屋語」は物語に登場した小人たちが、人間界で何かの仕事をする(今回の場合靴屋)時のコミュニケーションのためのものの日本語名称です。
 物語の太字の部分にある通り、この老夫婦の話によって他の人にも伝わっており、「人間方言」として、現在もある地域の靴屋などの中で業務用言語(スーパーで売ってそう)となっています。
 小人たちが使っていた標準語は、不明な点が多く、音韻などしか分かりません。ですが、人間方言では、独自の単語なども登場し、小人の遺した知恵を仕事で活用する、といったような形での発展をしています。

音韻

小人たちが使っていた文字は不明で、現代の人間方言もあまり文字で書かれることがないので、基本IPA表記で書いていきます。
母音(標準)

前舌 中舌
i ɨ
半狭 e

現在の人間方言では非円唇中舌狭母音が非円唇後舌狭母音になっています。
子音(標準)

両唇音 歯音 歯茎音 硬口蓋音
破裂音 p/b t/d c/ɟ
摩擦音 θ

現在の人間方言での子音は、硬口蓋破裂音が無くなり、軟口蓋破裂音になっています。また、無声歯摩擦音が無くなり、無声唇歯摩擦音になっています。

単語

音節:V,CV,VC,CVCがあります。語末は全て閉音節です。
品詞:基本的に(代)名詞しかありません。
(普通名詞の)格:主格、対格、与格があります。全て膠着的な変化をします。

  • 主格:原型
  • 対格:/iθ,if/が後ろにつく
  • 与格:/eθ,ef/が後ろにつく

標準語の方は、憶測の域を出ないので(単語の)意味がはっきりと分かってはいないませんが、人間方言では意味がはっきりと分かっています。
いくつか紹介します。(標準語→人間方言)

  • piɟ→pig(革)
  • ped→ped(布)
  • θeb→feb(針)
  • bic→bik(木型)
  • bɨb→bub(靴)

単語集はZpDICを参照してください。

文法

語順は「主語(人称代名詞のみ)-対格目的語-与格目的語」です。
主語が相によって変化します。

  • 進行相:/et,et/が後ろにつく
  • 完了相(状態の完了):/ep,ep/が後ろにつく
  • 命令相:/ɨθ,uf/が後ろにつく

日本語に直訳すると、「(主語)(対格)を(与格)へ持っていく(相により変化)」という文構造になっています。対格目的語と与格目的語によって意味が変わってきます。
例えば、/ɨcet θebiθ piɟeθ/は直訳で「私は針を革へ持っていっている」となり、「私は革を縫っている」というような意味合いになります。
対格や与格が人称代名詞になるパターンも見てみましょう。

  • 対格:/itet iti bɨbeθ/は「あの人はあの人自身を靴へ持っていったことがある」つまり、「彼(あの人)は靴の中で作業した」という意味
  • 与格:/ipɨθ θebiθ ɨce/は「('あなた'に対して)針を私へ持っていけ」つまり、「針を持ってきて」という意味

命令文は、主語の人称によって意味が変わります。

  • 包括複数形以外の一人称:「~しないといけないのだね(確認)」
  • 一人称包括複数形:「~し よう(勧誘)」
  • 二人称「~してね(単純命令)」
  • 三人称「あの人(たち)に~するよう言ってね」

次に否定文と疑問文です。否定文は、肯定文の文頭に/c,k/がついてできます。完了形のニュアンスは「~し終わってない」や「~してない」、命令文のニュアンスは「~しないで」などになります。
疑問文は文末を上がり調子にする必要があります。また、疑問詞を含む場合、主語・対格目的語・与格目的語のどれかが疑問詞に変わります。

  • 疑問代名詞(人)は/did/・/didi/・/dide/と変化
  • 疑問代名詞(もの)は/piti/・/pite/と変化

主語の場合「誰がするの?」、対格目的語の場合「(与格目的語)をどうする?」、与格目的語の場合「何を(動作)する?」のように意訳できます。
/ɨcɨθ θebiθ pite/は「私は針を何へ持っていけばいいの?」つまり「何を縫えばいい?」となります。
他にも、/didet bic dide/で「誰が木型をその人自身へ持っていっている?」つまり「木型、誰が持ってる?」となります。
疑問に対する答えは基本単語で返されます。

  • /ɨcɨθ θebiθ pite/に対しては/pedeθ/で「布を縫って」と返答できる
  • /didet bic dide/に対しては/idet/で「あの人たちが持ってる」

基本的な文法はこのような感じです。

最後に、物語の中で小人たちが歌ったとされる歌を靴屋語で記し、日本語訳も書いておきます。
/ɨɟep bɨbiθ deɟɨteθ,ugep bubif degutef/
僕たち靴を作った(私たちは靴を作業台に置いた)
/ipep piɟiθ ɨɟe,ipep pigif uge/
夫婦が革をくれた(あなたたちは革を私たちに与えた)
/ipep pidiθ ɨɟe,ipep pidif uge/
それに洋服もくれたのさ(あなたたちは服を私たちにくれた)
/ɨɟet teθibiθ ipe,uget tefibif ipe/
ありがとう、お二人さん!(私たちは礼をあなたたちに与えている)

終わりに(ほぼ制作談)

 以上、第14回人工言語コンペ提出作品「靴屋語(標準語と人間方言)」の紹介でした。
 コンペ初参加で、お題も本当に運ゲーすぎて不安だったのですが、降雨急行さんのこのお題だけ「靴屋語」という単語がおぼろげながら浮かんできたんです(小泉構文)
 その後、「小人の靴屋」というグリム童話を思い出し、これに登場する言語を造ろう!と抽選前に勝手に思っていました。なので、今回のお題が当たったのは正直神展開でした。
「人間たちに聞こえないよう作業する」という設定で作ったので、子音の聞こえ度がとても低くなってます。
 途中で、「動詞無くそう!」という案を思いつき、今回のSOO語順になりました。ちなみにその前の案はOSVの抱合語でした。
 記事を書き終えたのが2/14でした。テスト期間と被ってたので正直執筆進まない部分もありましたが、先にやっておこうと思い早めに終わらせました。
 単語を少しでも増やさなければ…と思っているうちに18日になり、そこから謎の病で2日寝込むという巨大デバフがありましたが、19日夜~20日でどうにか単語をZpDICにぶち込むことに成功し、投稿開始時間を迎えました。
 難しいこともありましたが何とか良いものができたと思います。出題者の降雨急行さん、運営のslaimsanさん、せんちゃ!さん、OH!Kateさん、/rollDiceのslaimon、そしてこの記事を読んでくださっている皆さん、ありがとうございました!
 

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