この記事は、語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2023向けの記事です。
coi rodo mi'e .slaimsan.
今回は、2023/9/10に発売された『新ノシロ語 国際普遍言語は可能だ』に基づいて、ノシロ語を学んで文法の解説をしようと思いました。思いました。
……思ってたんです。ですが、色々と微妙な側面が見えていまして、どうしたものかと頭を抱えています。なので今回の方針としては、文法の説明は概要レベルで早々に終わらせて、後半はノシロ語が抱えていそうな問題点をあげて、改善案を提示してみようと思います。
A.文法概説
A1.文字と発音
A1-1.文字
文字はオリジナルのノシロ文字があるが、紙面の関係上ラテン文字転写を使う。
A1-2.音韻体系
音素とラテン文字の対応は以下の通り。
唇音 | 歯音 | 後部歯茎 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 声門音 | |
---|---|---|---|---|---|---|
破裂 | P B | T D | K G | |||
破擦音 | C (Z) | Q (J) | ||||
摩擦音 | F V | S Z | X J | H | ||
鼻音 | M | N | ||||
はじき音 | R | |||||
接近音 | Y | |||||
側面接近音 | L |
上記の通り、基本的に大文字を使う。これらに加えて、日本語の拗音に対応する小文字のyと、撥音に対応する小文字のnを使う。
全体的に発音の説明がカタカナ表記でなされているため、Z, Jの発音が厳密には分からなかった。恐らくだが、日本語の発音に引きづられて破擦音化している可能性があるため、カッコ書きとした。
母音には長母音があり、同じ母音字を二つ続けることで表す。
A1-3.用字に関する注意点
子音については、随伴母音がUのアブギダである。すなわち、子音字の後ろに母音が無い場合は、子音単独で発音するのではなく、Uを補って読むとのことである。
しかしながら、発音の説明の中でUが補われていない箇所が出てくるので、正直、どの場合は補われて、どの場合には補わないのかよく分からなかった。しかも、発音の説明の章以降、発音の説明はカタカナで表記されるため、もうよく分からない。
一部の文法的要素は、一部の文字を省略することがある。ただし用字上の話なので、発音は変わらない。
A2.単語と文法の種類
A2-1.単語の種類
単語には以下の2種類がある。
- 基本単語: 文法を支える機能語で500語程度
- 国際標準単語: 主に「部首」を持つ内容語。20,000語程度
なお、これらに加えてノシロ語では基本単語以外の単語は、日本語だろうと英語だろうと(他の何語でも)幾つでもノシロ文に挿入して良いと書いてある。実際例文では、日本語や英語の単語が多用されている。
A2-2.部首
前項で部首という概念が出てきたが、これはノシロ語の特徴的な仕組みで、単語のカテゴリを表す文字列で、単語の最初に置かれる。すなわち、同じカテゴリに属する語は同じ音から始まるという構造になっている。
例)AZは季節を表す部首で、春夏秋冬はそれぞれ下記のようになる。
- 春: AZRIn
- 夏: AZMAA
- 秋: AZOOL
- 冬: AZWIn
部首は接頭辞というわけではない。AZRInから部首を取り除いたRInに何か特定の意味があるわけではなく、AZRInで初めて「春」の意味になる。
A2-3.語順
ノシロ語最大の特徴と言えそうであるのが、語順である。ノシロ語では、
- 第1類: SOV語順
- 第2類: SVO語順
- 第3類: VSO語順
の3種類の語順が文法として用意されている。(第3類については、今回の底本では省略されている。)
主要な語の配列規則以外にも、機能語の配置方法も類によって変わる。例えば、第1類では後置詞としてUTという語が名詞に後置されて「~へ」の意味を表すが、第2類ではUTLとい前置詞が名詞に前置されて「~へ」を表すようになる。
また類によって、使用する約物も変わる。第1類では「。」や「、」を使用するのに対し、第2類では "." や "," を使用する。
A3.名詞系統の文法事項
A3-1.一般名詞
エスペラントでは名詞の末尾は-oであるため、意味は分からなくても単語の形から名詞であることは判別できる。ノシロ語にはこのように名詞であることを判別できる方法はないが、多くの名詞は部首を持っているため、部首を覚えれば判別できるようになると思われる。
名詞に使われる部首は大きく2種類に分かれていて、非物質名詞を表す母音始まりの部首と、物質名詞を表す子音始まりの部首に分かれる。
名詞に性も数もない。(昔は-Nで複数形を表していたらしいが、廃止されたとのこと。複数形の-Nは代名詞にその名残を見ることができる。)
A3-2.形容詞
形容詞も、形容詞であることを明示的に知る方法はない。形容詞には部首を持つ一般形容詞と部首を持たない形容詞(数詞、時、その他)がある。名詞の時と同様に、部首を持つ形容詞は判別できる可能性がある。一般形容詞の部首は母音2,3文字から構成される。形容詞は第1類、第2類共に名詞の前に置く前置修飾である。
A3-3.格を表す仕組み
今回の底本の中では「格」という言葉は出てこない。だが、格に相当する仕組みは大体の言語に存在するためこのような章を立てることにした。ノシロ語において、格を表す仕組みは2つの系統が存在する。一つは助詞でもう一つは修飾詞である。
A3-3a.助詞
助詞は、名詞が文の中で主語、目的語、補語のどれなのかを明示するもので、名詞の末尾に付加される付属語である。名詞節の中で使う場合と修飾節の中で使う場合とで次の表のように変化する。
名詞節 | 修飾節 | |
---|---|---|
主語 | -W(A) | -W(A) |
目的語 | -O | -(O)L |
補語 | -E | -(E)Q |
括弧書きの部分は、表記する際は省略して良い部分である。ただしこれは用字上の話で、発音はそのままで省略しない。
上記で説明したことは、厳密には、助詞のなかでも「要素詞」と呼ばれるサブカテゴリのものになる。助詞には他にも、時制詞、進行詞、態詞などがあるが、他の文法要素の中で出てくるため、省略する。とにかく、他の自立語に付加される付属語をまとめて助詞と呼んでいるらしい。
A3-3b.修飾詞
修飾詞は、英語で言うところの前置詞に対応する。A2-3.語順の項でも説明したが、第1類の場合は修飾詞は名詞の後ろに置かれて後置詞として配置される。
A3-4.代名詞
A3-4a.主語のみの列挙
代名詞には以下のようなものがある。
意味 | ノシロ語 |
---|---|
1人称(I) | SE |
2人称(you) | ME |
3人称(人間?性別不問) | FE |
3人称(he) | MAFE |
3人称(she) | DAFE |
誰か(one) | JE |
3人称(it) | TE |
複数形はそれぞれの形にNを付けたものである。(例: SEN 私たち)
更に後ろにLにを付けると再帰代名詞となる。(例: SEL 私自身、SENL 私たち自身)
Mを付けると所有代名詞となる。(例: SEM 私のもの、SENM 私たちのもの)
A3-4b.主語以外の形
前項に出てきた代名詞は、主語の時の形のみであった。これ以外に、所有形、目的語、補語の形がある。一人称単数のSEを例に他の形を列挙する。
語形 | ノシロ語 |
---|---|
主語 | SE |
所有形 | SEI |
目的語 | SE-O |
補語 | SE-E |
目的語と補語の時のハイフンは読まないが表記はされる。
所有形以外の形は、A3-3で説明した助詞と対応する。主語だけ無標識となっていると考えられる。
所有形は形容詞の類と考えられる。違うカテゴリのものが、同じ表の中に含まれているのは違和感がある。
A4.動詞系統の文法事項
A4-1.動詞
動詞であることを単語の形から明示的に知る方法はない。ただし、動詞の中で身体動作を表す動詞は部首を持つため、覚えると判別ができるようになると考えられる。動作動詞の部首はUで終わる。
A4-1a.時制
時制には現在、過去、未来の3つがある。原型が現在形で、-TAを付けると過去形、-REを付けると未来形になる。助詞の時と同様に、省略形としてそれぞれ-Tと-Rがある。これも用字上の話で、発音はそのままである。
従属節で起きている事象が主節よりも過去である場合は、(主節の時制にかかわらず)従属節の動詞は過去形になる。主節と同時なら従属節の動詞は現在形となり、主節より未来なら従属節の動詞は未来形とする。これを時制の調整という。
A4-1b.進行
動詞の末尾(時制の-Tか-Rがある場合は、それよりも後ろ)にInを付けると進行のアスペクトを表す。英語の-ingに概ね相当すると考えて良い。
A4-1c.態
他動詞の末尾(時制の-Tか-R、および進行のInがある場合は、それよりも後ろ)にZEを付けると受け身を表す。英語の受動態に概ね相当すると考えて良い。
A4-1d.時制・進行・態の補足
A3-3a.助詞の章でも説明したが、時制・進行・態を示す要素は、分類としては助詞として扱われている。助詞の中のサブカテゴリとして時制詞・進行詞・態詞に割り振られている。
A4-2.準動詞
動詞の末尾に付属語を付けて動詞を名詞や形容詞に転用しているものを準動詞というカテゴリで呼んでいる。
A4-3.助動詞
助動詞とは、動詞の前に置いて動詞を修飾する副詞のようなもの(なら副詞でも良かったのでは?)とのこと。法(mood)などを表す。助動詞は部首がGIとなっている。
A4-4.副詞
動詞や形容詞、文を修飾する語を副詞という。色々な種類がある。部首を持つ一般副詞と他の品詞から転用された派生副詞があり派生副詞には、変換詞のLIが末尾に付くため、判別しやすい。派生副詞は元の語の部首が継承される。
A5.要素を接続する文法要素
A5-1.接続詞
底本の中では構成詞となっているが、一般的には接続詞と呼んだ方が理解しやすいと思われるため、このように呼ぶこととした。
接続詞は基本的にOで始まるため判別しやすい。(接続詞は文法を支える基本単語に分類されるため部首を持たない。したがって接続詞に共通するOは部首ではない、とのこと。)
A5-1a.OnDとOnP, OnS
英語のandに相当する単語がノシロ語では、OnD, OnP, OnSの3種類存在している。意味としては同じであるが、形容詞が掛かる範囲が変わる。
OnDは通常のandと同様で、形容詞の掛かる範囲は曖昧である。
白い 家 OnD 車
これは、「白い」が家だけに掛かるのか、家と車両方に掛かるのかは曖昧である。
OnPは並列しているものを強く結びつけているようで、形容詞は両方に掛かるようになる。
白い 家 OnP 車
これは「白い (家 and 車)」のように解釈され、「白い」は家と車両方に掛かるようになる。
OnSは上記のような結び付きはなく、形容詞は片方だけに掛かっていることを明示する接続詞である。
白い 家 OnS 車
これは「(白い 家) and 車」と解釈され、白いのは家だけであることが明示される。
上記ではandに対応する語だけ説明したが、orやxorに相当する語にも、同様の区別がある。
A5-2.関係詞
底本の中では節理詞と呼ばれているが、一般的には関係詞と呼んだ方が理解しやすいと思われるため、このように呼ぶこととした。
A5-2a.形容詞節を導く関係詞
Kyは文を取って続く名詞を形容する形容詞節を構成する。すなわち英語で言うところの関係詞節を導く機能語である。語順が英語準拠である第2類では、修飾される名詞は形容詞節の前に置かれる。修飾される名詞は、英語と同様に先行詞と呼ばれる。語順が日本語準拠である第1類では修飾される名詞は形容詞節の後ろに置かれる。(底本の中では後行詞と呼ばれている。)
A5-2b.名詞節を導く関係詞
Myは文を取って「~するということ」という名詞節を導く。この節全体で名詞扱いとなるため、格を示す助詞が付属する。
B.問題点と改善案
B1.独特な用語の説明
もっとも、人工言語を作成していると独自の用語が生まれることはよくある。しかしその場合は説明をする部分があって然るべきと思うのだが、その辺りは丁寧な作りにはなっていないため、色々と推察する必要がある。問題点の話をする前に、そのような独自用語の意味について考えていく。
B1-1.「国際普遍言語」
本の副題にもなっているのだが「国際普遍言語」という単語が出てくる。どうやらノシロ語はこの「国際普遍言語」というものを志向しているらしい。しかしながら、肝心の「国際普遍言語」というものがなんであるか明確に説明している部分が底本にはなかった。幸いにも「国際普遍言語」という用語は出てくるため、その使い方から意味を推測してみることにする。以下、底本から幾つか引用する。
[p.24] 本章の目的は今宇宙における普遍言語を考えることであり
[p.24] 諸民族に公平で自然言語より合理的な普遍言語を追求する営みも大変意義のあること
[p.25] 実用可能な普遍言語を作るには(中略)共通する良い規則だけを残して再編し、諸民族に公平で、これ以上望めない程に合理的で、使い易く、美しい普遍言語を作り上げて行く訳です。
[p.25] 私は世界共通語を作るための「土台」として利用すべき言語に
このあたりの記述から見るに、「国際普遍言語」というのは「国際補助語」に近い性質のものと考えられる。すなわち、エスペラントのように世界全体で公平に使われることを志向するものであると考えられる。
本の副題にも出てくる用語なので、明示的に説明する部分が欲しかったと個人的には思う。でないと、ノシロ語が目指している方向性が正確に分からなくなる。
B1-2.「部首」
文法の説明の中でも出てきたが、「部首」という概念が出てくる。単語をカテゴリに分け、同じカテゴリに属する単語は同じ文字列から始まるようにできている。この共通する文字列の部分をノシロ語の中では、(おそらく漢字からの類推で)「部首」と呼んでいる。「部首」を持つとされるのは内容語の類のみで、機能語は「部首」を持たないとされる。しかしながら、一部の機能語は共通する文字列から始まるようにできている。(その共通部分は「部首」とは呼ばないとのこと。)
B1-3.「修飾詞」
文法の説明の中でも出てきたが、英語で言うところの前置詞に該当する品詞を指す用語である。名詞などの句を取り、他の要素を修飾するため「修飾詞」と命名されている。文法に第1類、第2類の区別があり、第1類では修飾詞は名詞に後置されるため後置詞となってしまい、名称と使い方が一致しなくなるため、このような用語に落ち着いたと思われる。
B2.問題があると考える部分とその改善案
B2-1.音韻体系
冒頭の音韻体系の章を見ると分かると思うが、音韻体系は概ね日本語のものを引き継いでいる。FやLなど日本語にはなく、英語にある音素が導入されているが、拗音と撥音があるなど、日本語の音韻体系そのままと言える。
B2-1a.撥音
撥音がどんな音であるか説明が無かった。おそらく日本語の撥音と同様であると思われる。撥音を書き表す専用の文字、小文字のnが指定されているが、私的な意見としては不要と考える。悪戯に文字を増やすのではなく、英語と同様にNやMを使うで良かったのではと思う。また、KやGが続く場合は鼻濁音化するなど、音韻の変化の説明が欲しかったところである。
B2-1b.拗音
日本語にある拗音と直音の対立がノシロ語には存在する。ロシア語などのスラブ語に軟音と硬音の対立があるので珍しい体系とは思わないが、ノシロ語に導入するかどうかの検討はあっても良かったのではないか。このままでは、なんの検証もなしに日本語の音韻体系をそのまま取り入れているだけ見えてしまう。国際補助語を志向しているのであれば、世界的に広く分布する音なのか調査・検討が欲しかった。
個人的な意見としては、英語やエスペラントに拗音が無いことを考慮して、拗音は廃止して "ia, iu, ie, io" のような二重母音に置き換えた方がいいのではないだろうかと考える。一応、最小対立が存在するそうなので、この変更をすると重複する語が出てくるが、個別対応しても良さそうなレベルに収まると思われる。
B2-1c.ZとJの発音
これは邪推であるが、作者が十分に内省できておらずZ, Jの発音が摩擦音なのか破擦音なのか説明がされていないのではないだろうか。国際補助語(普遍言語)を志向しているのであれば、この辺りは説明があって欲しかった。
個人的な案であるが、これらの音は破擦音化しやすいのを考慮して、破擦音に寄せておくのが良いかもしれない。
B2-2.用字の問題
B2-2a.大文字を小文字に
基本的に大文字表記で、撥音と拗音のために小文字表記が使われているが、上記までの改善提案に従うなら、撥音と拗音の専用表記を用意する必要はない。通常の英文と同様、小文字表記を基本にしたほうが良いだろう。
なお底本では文字が全角で表示されていることが多く、非常に読み辛い。部分的に半角表示になっているところもあり、不統一である。この件に関してはp.9に説明があり、表に収まるように一部全角を半角に直したとのこと。……いや、読み辛いから半角に統一してくれ。エディタで一括置換するだけだぞ……
B2-2b.随伴母音の廃止
用字のところでも補足したが、母音が続かない子音字には随伴母音Uが付くという説明が底本にはあった。しかし、ところどころの説明でUが補われていない部分があり、しかもその法則性の説明はない。このような混乱を招くくらいなら、随伴母音は廃止して全て表記した方が良い。書いてある通りに読めば良いというのが国際補助語として相応しい形ではないだろうか。
またここも邪推であるが、作者が発音について十分に内省できていないのではないだろうか。
B2-2c.母音の省略の廃止
助詞の項と時制の項に出てきた、末尾に付く要素について、表記上母音の省略が認められている。しかしこれも書いてある通りに読めなくなるので、母音の表記を必須にした方が良いと考える。量的には少ないが、記憶すべき事項を悪戯に増やすべきではないだろう。
B2-2d.一部の表意性文字の廃止
用字のところで説明が無かった文字が、急に説明中に出現することがある。具体的には、p.119の例文中に急に ">" という文字が出現する。直後に説明でこれは「ン」と読む旨が説明されるが一瞬戸惑う。もう一つの例としてはp.172に "?" という文字が例文中に登場する。これは文末において疑問文を表す約物ではなく、"ESK" と読む単語である旨が直前で説明されている。疑問文を構成するときに文頭にこの "?" を置いて、"ESK" と読んだ上で疑問文とするとのことである。(文末には普通通り、「。」か "." を置いて、文が終わったことを示す。)いや、普通に "n" とか "esk" と表記すれば良くね? 読み方分からなくて戸惑う可能性が。これも悪戯に記憶事項を増やさない方が良いだろうという考えだ。
B2-2e.約物の統一
第1類では「。」や「、」を使用し、第2類では "." や "," を使用するとのことだが、普通に統一しなよ。
B3-1.語彙関連
B3-1a.外来語の扱い
語彙について、A2-1.単語の種類 の項でも説明したが、機能語500語の基本単語と内容語20,000語の国際標準単語があるが、これに加えて任意の言語の単語をそのままの形で文章に取り込んで良いということになっている。実際、底本の中では下記のような表記で例文が登場する。(注: 全角大文字のアルファベットを使っているところも、底本そのままで再現している。)
警察ーW 殺人犯ーO 生きたままーE 捕まえるーT
これはあまりに無秩序だ。例えるなら「オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにする」という雰囲気の文が量産されるということになるだろう。しかも、用字にも制限が無いので、アラビア文字やデーヴァナーガリー文字で表記されても文句が言えない。最悪の場合、全ての人があらゆる言語を知らなければいけない。まぁそれは極端な話だが、普通に語彙を制限して国際標準単語だけ使うようにした方が良い。せっかく準備したのだから使おうよ。既存の単語に無い概念は随時ユーザーから提案してもらって取り込んでいく体制にしておくのが良いと思う。
B3-1b.「部首」の扱い
意味をカテゴリごとに分けて冒頭部分を共通化するのは、上手い案である。もっとも、この手の発想は人工言語の世界では古来から行われているもので、ノシロ語固有の発想というわけではない。(同様の分類をするときの参考にすることはできると思う。)
B3-3.文法関連
B3-3a.文法の類
SOV語順の第1類とSVO語順の第2類(およびVSO語順の第3類)が語順の型として認められているが、正直どれかに統一すべきと思われる。語順の型が複数あると、学習する時に覚える量が単純に増加するからだ。A2-3.語順の項でも説明したが、第1類では修飾詞が後置、第2類ではその後置される単語にLを加えたものが前置詞として前置されることを説明した。これだけの話なら大したことはないのだが、この類の話が語順の話全体で行われている。前置と後置が逆になっているので修飾の方向が逆になるのかと思いきや、形容詞は前置で統一されていて、関係詞節は第1類で前置、第2類で後置されるなど、文法要素ごとにルールを覚える必要があるため、学習負担が大きい。その割にはリターンを感じられないので、正直、無駄なルールだと思う。一つに統一して欲しい。
B3-3b.主格標識の削除
ここは些末な改善提案にはなる。代名詞の主格(主語)が無標識な一方で、一般名詞では義務的に-Wを付ける。これは不統一感があり、一般名詞でも無標識にしても良いのではないだろうか。あるいは義務表示から任意表示に変更して通常は主格標識を付けないで、付けた時は強調的になるという折衷案もありだと考える。
主格標識を削除した場合に、使役構文のところで無標の名詞というものが出てきて衝突が起きるのだが、大した問題にはならないように思える。
B3-3c.構文を明確にする仕組みの整理
ノシロ語には構文を明確にするための仕組みが少なくとも2つある。一つはA3-3a.助詞の項で述べたもので、名詞の格標識が通常の名詞節内と修飾詞節で変わるというもの。もう一つはA5-1.接続詞に続く項目で説明した、接続詞がどこまで語を結合しているかを区別する仕組みがあるというもの。
工学系の人工言語では、この点に関心を持つパターンがある。いわゆる「頭が赤い魚を食べる猫」のように構文の解釈が一意にならないことが自然言語にはあり、その点を克服する仕組みを備えている言語が人工言語には時々ある。例えば、ロジバンでは機械的に構文解析ができることが目標の一つにあるため、結合の順序を制御するための単語がある。芸術系でもアルカには開き括弧、閉じ括弧に相当する語が用意されており、結合順序を明確にしたい場合はこれを使うこともできる。
このような構文の曖昧さは、意味から補正が入って常識的な解釈の範囲に収まって伝わるため、ほとんどの場合問題にならない。問題になるケースでも語順を入れ替えるなどして言い回しを工夫することで、通常は回避できる。どうにもならない場合でもアルカのように括弧に相当する語があれば十分である。これは提案レベルになるが格標識を整理して名詞節で使用するものに一本化するのと、過剰になっている接続詞を削除するのはどうだろうか。代わりに括弧を導入すれば済むと考える。
C.終わりに
読むの辛かった。ソルレソルの時の比ではなかった。何というか、言語学の知識が十分無いのに国際補助語を作ってしまうとこうなるんだなと。個人言語とか作品の中にフレーバーとして登場するような言語であれば、このレベルでもいいんだけど、国際補助語(作者曰く国際普遍言語。ただし正確な意味は不明。)を志向するのであれば、これは正直考察が不十分だなと感じる。一方で(色々議論の余地はあるが)エスペラントの文法が深く考えられているというのがよく分かる。
あとは全角大文字が出てきたり、半角と全角が混在していたりで、単純に視覚的に見づらい。体裁というのは大事なのだとよく分かった。もし本を書くならこういう点には注意しようと思った。
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解説すごく分かりやすかったです。勉強になりました!
ノシロ語でいう 「任意の 文字列が 使える 語根」という 概念について:
固有名詞を 記述するときは 便利です。
国際標準単語(内容語)を 覚える 手間が かかるので,国際標準単語を 覚えていく 段階で,ノシロ語 文 内部に 挿入された 日本語を 少しずつ 減らしていく,という 使い方を 想定しているのだと 思います。
1年生 前期: 日本語の 内容語で 作った ノシロ文
1年生 後期: 国際標準単語の 基礎語彙に 置き換える
2年生: ノシロ語だけ(固有名詞、高級語彙 除く)の 文章
参考: ローマ字文に 慣れる 方法(ローマ字 あいうえお)
「漢字仮名交じり文に すこし ローマ字を まぜた かきかたから はじめて,だんだん ローマ字の 割合を ふやして いき,最後には すべて ローマ字に する」方法
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