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ンソピハ
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ダミン語!(ミニマル系人工言語レビュー第2回)

はーいこんにちはンソピハです。
今回レビューする人工言語は、ダミン語です!

オーストラリア先住民のLardil族とYangkaal族の使っていた人工言語(?)です。
(Yangkaal族については情報がなかったので、ここではLardil族の話だけします。)

ダミン語は、吸着音や吸気音などの音素がある点と、語根が150程度しかない点が特徴的な言語です。

残念ながら今は死語なんですけどねー。

ダミン語を話すことは、waramaワラマと呼ばれる成人の儀式を通過した男性にのみ許されていました。waramaは、男性が成人するために課せられる儀式の二つ目で、その前にはlurukuルルクという儀式があります。

典拠

さて、この記事の情報は、Fleming (2017)Hale & Nash (1997)をもとにしています。

Fleming (2017)の主張を読んでいて、あれダミン語ってほんとに人工言語なのかな?と思ったのですが、この記事では仮に人工言語と見なして話を進めますね。

発音

ダミン語の音韻論はかなり奇妙です。
人工言語だと思いたくなるのも納得です。

ダミン語はあくまでLardil語の言語変種でして、機能語や文法接辞はLardil語をほとんどそのまま使います。ダミン語の音韻論の適用範囲は内容語だけです。

母音はLardil語より一つ少なく3母音(長短の別あり)。
一方、子音はこんなんです:

Image description

(英語版Wikipediaからコピペ。Hale & Nash (1997)に基づく。)

§は、Lardil語にある子音を表します。
ダミン語でも、機能語や文法接辞で使います。

アフリカ以外の言語として唯一吸着音を持っていることは特筆に当たるでしょう。他にも、放出音や両唇震え音もあります。吸気音までありますね。
二度調音する音もあります。例えばj2は、2回[t̠ʲ]と言います。

発音めちゃくちゃ面白くないですか? 私はすごく面白いなと思って、ダミン語の発話をすごく聞いてみたくなりました。で、めっちゃ調べました。

でも残念ながら、ダミン語の録音は公開されてないっぽいです。大学が所蔵しているみたいですね。残念です。

文法

文法はほぼLardil語そのままらしいです。
ひねりが足りません!

語彙

ダミン語の語根は非常に少なく、だいたい150個くらいだそうです。
リアルトキポナですね。

Haleは、ダミン語を人工言語と見なす立場から、「こんな少ない語彙でコミュニケーションできるなんて、国際補助語だ、先住民の叡知だ!」って絶賛してます。
私もこういう語彙少ない系言語大好きですパチパチ

語根を少なくしている仕組みはトキポナと同じです。
ダミン語の単語は、Lardil語の複数の語に対応します。

例えばwuuウー(食用の貝)というダミン語の単語は、Lardil語のmalaマラ(貝)、daangkuダーンク(小さい貝)、jirkarrティルカル(マングローブの貝)、malmulkarnanマルムルカナン(淡水の貝)、baakarnanバーカナン(大きな牡蠣)などの語に対応します。

Lardil語が様々な下位語を持つのに対して、ダミン語には上位語しかありません。

より具体的な概念を表すには、言い換えを用います。
例えば、鳥のシギのことはngaajpu wiiwi-n wuujpuンガーティプ・ウィーウィン・ウーティプ(人を燃やす動物)と言います。Lardil族の神話では、シギがそういう役回りにあるそうです。このように、ダミン語の言い換えには、Lardil族の文化が反映されています。

代名詞の体系も特異です。
単数複数の区別のみならず、なんと二人称(あなた)と三人称(彼、彼女、それ)の区別さえありません。両方n!uuチューと言います。
二人称と三人称の区別を完全に欠いている音声言語は、ダミン語以外ほとんどありません。

こういった語彙の少なさについて、Fleming (2017)は、「手話(Marlda Kangka)と併用することで会話していたのではないか」という見解を示しています。
二人称と三人称の区別を欠いている点も、手話と関連づけて説明することができますね。指さしすればあまり混乱は生まれないでしょう。

それから、ダミン語には反対語を作る接頭辞kurri-クリがあります。
以下はHale & Nash (1997)の挙げた例です:

j2iwuティティウ(小さい)→kurrij2iwuクリティティウ(大きい)
thuukuトゥーク(一つ)→kurrithuukuクリトゥーク(たくさん)
kurrijpiクリティピ(短い)→kurrikurrijpiクリクリティピ(長い)
kawukawuカウカウ(軽い)→kurrikawukawuクリカウカウ(重い)

これはエスペラントのmal-と同じですね。
たしかに人工言語みがあります。

上記の例では、程度の小さいほう(小さい、一つ、短い、軽い)が無標になっているという点も興味深いですね。

話者

ダミン語の話者はLardil族の成人男性でした。彼らは、Demiinkurldaデミーンクルダ(ダミン語の所有者)と呼ばれていました。
ダミン語は主に儀式で用いられていましたが、狩猟採集の場や噂話など日常的な場面でも使われていたそうです。

さらに、成人男性以外の層もダミン語を理解することはできました。でも、ダミン語を話すのは成人男性の特権だったので、女性や子供が話すことは許されていなかったそうです。

もしダミン語が本当に人工言語だったとしたら、特定の民族と人工言語がこれほど密接な関わりを持ったことは、世界広しと言えどそうそうありません。

とはいえ、現在は死語な上に、学習教材も皆無なんですけどね……。(語根のリストすら公開されていません。)

レビューまとめ

さて、レビュっていきましょう。

かわいさで言うと……、どうでしょう。ダミン語は、成人男性が特権で使ってた言語です。家父長制の権威の象徴ですね。絶対かわいくないと思います。かわいさランキング最下位ですね。……とはいえ、まだ先にレビューした言語がアラズ語しかないので、かわいさランキング暫定2位です。

おもしろみはすごくあります。実際に使われていたっていうのがまたいいですよね。自分が研究者だったらぜひとも研究したいものです。おもしろさランキング暫定1位です。

シンプルさについて言うと、文法がLardil語まんまなので、そこまでこだわりは感じませんでした。シンプルさランキング暫定2位です。

使いやすさ……。実際に使われていたのだから、そこそこ使いやすいのでしょう。使いやすさランキング暫定1位です。

学びやすさは皆無です。学習資料がないので。学びやすさランキング暫定2位です。

総合ランキングでは……、暫定2位です!(銀メダルおめおめ)

次回予告

次回はニョンペルミュをレビューしましょうかねー……。いやー、全然違う言語紹介するかもです。

あとここでは、ダミン語を完全に人工言語として解説しましたが、Fleming (2017)を読むと、ダミン語って自然言語っぽい感じがしてきます。その点についても、いずれ別の記事で説明したいですね。(いつやるか分かりませんが……

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