これは語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2024 の 14 日目の記事です。
今年は、最近 (と言っても半年くらい経ってますが…) 作り始めたフェンナ語について書いてみようと思います。取り上げるテーマは、相関詞と関係詞です。
なお、フェンナ語はまだまだ不安定で、以降の内容は今後の改定で変わる可能性が十分にあります。フェンナ語そのものの解説というよりは、フェンナ語で採用したアイデアの紹介だと思って読んでください。
相関詞と関係詞
フェンナ語には、「相関詞」と「関係詞」という 2 つの特殊な品詞があります。この 2 つは常にセットで使われ、一方ともう一方が同じものを指していることを表しつつ、節を繋ぐ接続詞のような役割も担います。
この相関詞と関係詞のペアは、等位接続詞 (and に相当するもの) を除けば、節を繋げる機能のある唯一の機能語です。フェンナ語は、このペアを使うことで、様々な複文を作ることができるようになっています。
この記事では、相関詞と関係詞という考え方 1 つだけで様々な複文が作れる様子を見ていきたいと思います。特に、英語における以下の 3 つの表現が全て相関詞と関係詞で作れることを解説します。
- 関係代名詞
- 従属接続詞 (例として when)
- 接続詞 that
関係代名詞
最も典型的には、相関詞と関係詞のペアは関係節を作るときに使われます。
例えば「彼が焼いた肉を私は食べた」のような関係節を表現するのに、英語では「the meat which he grilled」のように which という関係代名詞を使います1。関係節を作るための専用の代名詞があるわけですね。
フェンナ語ではどうするかというと、ここが相関詞と関係詞の出番です。実際に「彼が焼いた肉を私は食べた」という文をフェンナ語に訳してみましょう。
「彼が焼いた肉を私は食べた」とは、「彼が肉を焼いた」と「私は肉を食べた」という 2 つの文を、両者に出てくる「肉」が同じものであるという関係性で繋ぎ合わせたものだと考えることができます。まずは、この 2 つの文をフェンナ語にしてみます。
- Баже̄мно ме̄цца.
- баже̄мно ме̄цца
- 焼く.能動態.過去時制.三人称定.青類 肉.連用.対格.不定
- 🞂 彼が肉を焼いた。
- Асе̄ман ме̄цца.
- асе̄ман ме̄цца
- 食べる.能動態.過去時制.一人称.赤類 肉.連用.対格.不定
- 🞂 私が肉を食べた。
相関詞を主節に置き、関係詞を従属節に置くことで、相関詞が指すものと関係詞が指すものが同じであるという関係性で 2 つの節を繋ぎ合わせることができます。
今回の場合、「私は肉を食べた」の方が主節なので、こちらに相関詞 те̄/то̄ を使います。一方、「彼が肉を焼いた」は従属節 (関係節) になるので、こちらには関係詞 у を使います。両者で同じものを指している単語は「肉」なので、相関詞も関係詞も ме̄цца「肉」に係る形にします。ただし、2 回も ме̄цца と言う必要はないので、関係節の方の ме̄цца は省略します 2。
結果、次のようになります。
- Асе̄ман то̄ ме̄цца, баже̄мно у.
- асе̄ман то̄ ме̄цца баже̄мно у
- 食べる.能動態.過去時制.一人称.赤類 相関詞.連用.青類.対格 肉.連用.対格.不定 焼く.能動態.過去時制.三人称定.青類 関係詞.連用.青類.対格
- 🞂 彼が焼いた肉を私は食べた3。
直訳して「私は次のような肉を食べた: 彼がそれを焼いた」と捉えれば、どのような構造になっているか分かりやすいかもしれません。
このような感じで、ペアになって両者が同じだということを表すのが、相関詞と関係詞です。
従属接続詞 when
相関詞と関係詞は、他の言語では従属接続詞を使うような表現も作ることができます。
例えば「私が帰ったとき彼は本を読んでいた」という文を考えてみましょう。英語では「he was reading a book when I returned」のように、接続詞 when を使いますね。
さて、「私が帰ったとき彼は本を読んでいた」とは、「私がある時間に帰った」と「彼はある時間に本を読んでいた」という 2 つの文を、「ある時間」が同じであるという関係で繋いだものと見なせます。つまりこの文も、同じものを表す単語を含んだ文が繋がったものなのです。ということは、相関詞と関係詞が使えます。
実際にフェンナ語に訳してみましょう。まず、「私がそのとき家に帰った」と「彼はそのとき本を読んでいた」という文をそれぞれ作ります。
- Абосбе̄зан сокке̄.
- абосбе̄зан сокке̄
- 帰る.能動態.過去時制.一人称.赤類 そのとき.連用.青類.処格
- 🞂 私はそのとき帰った。
- Като̄шно ке̄тташа сокке̄.
- като̄шно ке̄тташа сокке̄
- 読む.能動態.過去時制.三人称定.青類 本.連用.対格.不定 そのとき.連用.青類.処格
- 🞂 彼はそのとき本を読んでいた。
この 2 つの文の сокке̄「そのとき」が同じ時間を指しているので、それぞれの文で相関詞と関係詞を сокке̄ に修飾させます。なお、сокке̄ には相関詞と融合した токке̄ という形があるので、ここではこれを使います。結果、次のようになります。
- Като̄шно ке̄тташа токке̄, абосбе̄зан ӯ.
- като̄шно ке̄тташа токке̄ абосбе̄зан ӯ
- 読む.能動態.過去時制.三人称定.青類 本.連用.対格.不定 相関詞.連用.青類.処格 帰る.能動態.過去時制.一人称.赤類 関係詞.連用.青類.処格
- 🞂 私が帰ったとき、彼は本を読んでいた。
直訳すれば、「彼は次のようなときに本を読んでいた: そのとき私は帰った」でしょうか。
接続詞 that
英語で節を名詞化する接続詞 that も、フェンナ語では相関詞と関係詞で表現します。
「彼が猫を好きであることを私は知っている」という文を考えてみましょう。英語では「I know that he likes cats」となり、節を名詞化する専用の接続詞である that を用います。
少々無理やりですが、「彼が猫を好きであることを私は知っている」とは、「そのこととは彼が猫を好きだということである」と「私はそのことを知っている」という 2 つの文を、「そのこと」が同じであるという関係で繋げたものと見なせます。この形式と見なせるということは、相関詞と関係詞で表現できます。
ベースとなるのは次の 2 文です。
- Ифе̄но ме̄ре̄а.
- ифе̄но ме̄ре̄а
- 好む.能動態.現在時制.三人称定.青類 猫.連用.対格.不定
- 🞂 彼は猫が好きだ。
- Ато̄л сӣа.
- ато̄л сӣа
- 知る.能動態.現在時制.一人称.赤類 それ.連用.青類.対格
- 🞂 私はそのことを知っている。
主節に相関詞を使って従属節に関係詞を使うのは同じなのですが、今回は、主節において сӣа「そのこと」と同じなのは、従属節に含まれる何らかの単語ではなく、従属節全体です。このような場合、従属節側の関係詞としては専用の уссо を使います。また、сӣа にも相関詞と融合した тӣа という形があるので、主節側にはこれを使います。したがって、次のようになります。
- Ато̄л тӣа, уссо ифе̄но ме̄ре̄а.
- ато̄л тӣа уссо ифе̄но ме̄ре̄а.
- 知る.能動態.現在時制.一人称.赤類 相関詞.連用.青類.対格 関係詞 好む.能動態.現在時制.三人称定.青類 猫.連用.対格.不定
- 🞂 彼が猫を好きであることを私は知っている。
直訳は「私は次のことを知っている: 彼が猫を好きである」でしょうか。
まとめ
以上のようにフェンナ語は、相関詞と関係詞という考え方をうまく応用して、いろいろな複文を作ります4。これが何か皆さんの言語創作のアイデアとなれば幸いです。
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この場合の関係代名詞 which は省略でき、結果的に被修飾語の後に節をただ置いただけの形にすることもできます。しかし、関係代名詞が関係節の中で主語として働く場合は関係詞を省略できないので、本質的には関係節は関係代名詞で導かると考えて良いでしょう。 ↩
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ме̄цца が省略されたというよりは、ме̄цца が関係詞 у に取って代わられたと見なす方が適切かもしれません。 ↩
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だいたいの場合で対格の関係詞は省略されるのですが、ここでは説明のため関係詞をそのまま残してあります。 ↩
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ちなみに、ペアになって同じものを表しつつ節を繋げる単語というのは、真新しいアイデアというわけではなく、自然言語にもあります。例えば英語では、関係節の先行詞が that で修飾されて〈that+先行詞+関係代名詞〉という形になることがしばしばあり、これは「関係代名詞」の節で出てきたフェンナ語の〈то̄ ме̄цца (баже̄мно) у〉と同じ形です。また、古典ギリシャ語では、指示代名詞と関係代名詞が照応し、まさにフェンナ語の相関詞と関係詞と似たような用法をとることがあります。フェンナ語では、これらの言語からインスピレーションをもらいつつ、独自に発達させてみました。 ↩
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