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スライムさん
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2025年春(第11回)人工言語コンペ講評(後半)

coi rodo mi'e .slaimsan.
引き続き人工言語コンペの講評を書いていきます。

10: Lanthaniteさんの ミッドウェー語ミッドウェー島王国について

前回に続き、LanthaniteさんはYouTubeの動画での投稿となります。太平洋の真ん中に架空の島「ミッドウェー島」を考えて、そこの言語の想定で考えて頂きました。厳密には実在の島ですが、形は実在の海底の地形がそのまませり上がった島となっており、名称こそ同じですが、架空の島となっております。水はけがよく、水が貴重な環境という条件のようです。

地理的に近いハワイと言語的に近いものとしてミッドウェー語を考えております。注目したいのは、歴史的な経緯として中ミッドウェー語から現ミッドウェー語への変化の部分です。英語の影響を受けて語彙や文法が英語に寄ってきてしまっているとのことです。語彙については、日本語も大量に外来語入ってきているので影響を受けやすい部分かと思います。音韻も日本語では部分的に増えていたりするので、これもあり得ると思います。気になったのは文法の部分で、語順がVSOだったものが英語の影響でSVOに変化しているという点です。ピジン言語に詳しくないので、こういう変化が起きうるのか分からず、有識者に聞きたいです。

なお、中ミッドウェー語の主の祈りの部分の読み上げがお経のようになっていて若干吹き出しました。

11: やみ瀬さんの tpyàmi̋ȉ ‘íƞ トピャムィー語

Notionという総合的なワークスペースからの投稿です。(恥ずかしながら、このサービスは知らなかったです。

言語が使用されている環境ですが、作品の冒頭から引用してみましょう。

”私たちはレッドドワーフの至近距離を公転する木製型惑星の黄昏に謎の力(反水平面的演繹装置:頭文字をとるとNmdbŊmh=C’-Brhで,巨大な単結晶に働くzrwȍő方向の軸の重力を常に逆向きに書き換え続ける)で浮かぶ巨大な氷塊に寄生したcrp’uƞhとs’ʕüの土台の上に形成された巨大なt’òoƞ’に住んでいる……”

初っ端からオフチョベットがてんこ盛りですが、とにかく木星型惑星の衛星に上手く住んでいる人たちの言語のようです。

言語の特徴は……とにかく音素が多い! 「べろくちびる」や「めっちゃそりじた(舌先を軟口蓋につける)」のような、普通は使わないような調音点があります。舌と唇で調音するのとか久々です。舌先を軟口蓋に付けるそり舌は初めてですね。舌が攣りそうです。そしてこれらを聞き分けるというのも難しいでしょう。相当耳の良い人たちなのでしょう。

説明が間に合ってないようで詳細は分からないのですが、TAMというもので動詞のアスペクトを表しているようです。「単発」「再起」「習慣」あたりは取り入れている人工言語は少ない印象のものになります。この辺りの区別が細かいのはロジバンなので、ここを参考にしてみてください。ロジバンのように相を細かく設定する必要はあまりないのですが、どの意味をどう表現するかは考えてみて損はないと思います。

12: 不織布さんの 水星日本語

水星に移り住んだ人達が使う言語で、日本語から変化したという設定の言語です。日本語からの変化という点では前半の講評にあったペルベの言語の言語と似た方針となります。ペルベの言語はピジン言語でしたが、水星日本語は純粋に日本語からの変化のようです。

時間が無くて文法の説明等が書ききれなかったようですが、対話文にある対訳から文法が推測できます。というか日本語の発音が大きく変化しただけで、文法のほとんどは日本語のままのようです。発音の変化は、まさに今起きている変化をそのまま続けていったら、こうなるだろうと推測される発音になっているので、大分納得感のある形になっていると思います。

13: Cyanoさんの オグルト語

ツンドラ気候で、熱を発する石をエネルギー源として発展した地域の言語という設定です。エルフやドワーフも居る世界のようで、トールキンの中つ国がモデルになっていそうです。

実際、言語の方も音韻体系がエルフ語に似ている面があり、軟口蓋音と両唇化軟口蓋音の対立があります。ただし放出音があるのは独自の部分かなと思います。摩擦音の有声無声が条件異音になってるのは個人的には好きな部分です。(自言語を作る時によくやるので。)

注目したいのは、数詞の「接続形」です。数詞を繋げて大きな数字を表すときに、数詞が後続する場合は接続形を使用して数詞を繋げていくというシステムになっています。今まで自分が考えてきた数詞にはこのようなシステムはなかったので、上手い仕組みだなと思いました。また、接続形の方が語形が短く設定されているので、大きな数字の表現が長くなるのを抑制できているのもポイントです。

14 仙丹花さんの 産業革命後のカシュダグ語

厳しい寒さの地域で、元々は神を信仰していた人々の言語と言う設定です。そのため言語は神への祈りの言葉でしたが、霊晶からエネルギーを取るようになり工業化し言葉が命令と報告の体系へと変化したとのことです。産業革命が言語に大きな影響を与えているのが見て取れて非常に面白いと思いました。

産業革命後の文法で人称変化が消失して人称標識に収斂して簡素化されていたり、話題マーカー、焦点マーカー、証拠性の標識が報告用として発達したと推測されたりと、設定によく合致している所が良いと思います。

また、古語の方で名詞の格変化が接中辞を採用しています。私が接中辞を使いこなせていないのもあって、ここは参考にできそうだと思っています。また現代語でこの格変化が大きく衰退して簡単な接尾辞と助詞に収斂しているのもリアリティがあるなと思いました。

降雨急行さん(出題者)の アッティヴェヨALTiveyo

今回のお題の出題者による作品です。雨期になると水没してしまう国の言語と言う設定です。水没してしまうので国力が弱かったのですが、特殊な樹脂が作られるようになり産業革命が起きたとのことです。言語的には、音素は日本語に近くスタンダードな感じですが、個人的に注目したいのは名詞のクラスと能格的な部分です。

まず名詞が、主に生物のvo名詞、主に非生物のyo名詞、稀にあるjo名詞の3つのクラスに分かれています。ただvo名詞とyo名詞は対比的に用いられることもあるとのことです。名詞は通常格と辺格の対立があり、一文の中に登場する名詞の数によってこの格が能格言語的な形で変化します。すなわち、文に名詞が1つだけ登場するいわゆる自動詞文の時は通常格、文に名詞が2つ登場するいわゆる他動詞文の時は、主語が辺格、目的語が通常格となります。

本題はここからでして、一文に名詞が3つ登場するいわゆる3項動詞の場合、間接目的語が辺格となり、主語と直接目的語が通常格となります。ここで疑問に思うのは「主語と直接目的語が同じ格標識で問題ないのだろうか」という点です。3項動詞の代表は授受動詞「誰かが誰かに何かを渡す」といった動詞かと思います。直接目的語はおそらく「何か」の部分で、普通は物、アッティヴェヨではおそらく物は非生物でyo名詞、主語に来る名詞は普通は生物でvo名詞になると考えられるため実用的には問題が起きないと考えられます。

では、例外的なケースとして、直接目的語に生物が来るような場合はどうでしょうか? 意味的には奴隷貿易的な形で人を物のように渡すような文としてあり得るケースになるかと思います。これだとどちらも人のためどっちが渡す人なのか判別できない可能性が出てきます。例文を見るに、主語-動詞-目的語 語順と推測されるので、おそらく語順で明示するのだと思われます。ただ私が一つ考えたのは、vo名詞をyo名詞に変換するような接尾辞を用意して人を物のように扱うことで直接目的語を明示するという手も使えるのではないかと考えました。

チーム「おにぎり にぎにぎ 屋さん」さん Ghrámia(グラーミア)で話されている言語たち

なんとコンペ始まって初めてのチームでの参加となります。コンペは個人参加が前提だったため、チームでの参加は投票の対象外といたしました。今後、イベントの開催形式を変更する予定で、チーム参加もできるよう検討している所です。半年くらい前にLAMPLIGHTさんの言語が公開されそれで集まった人たちでグループを作ったようです。

舞台は潮汐ロックのかかった惑星グラーミアで、そこに居る知的生命体ユーリスの言語と言う設定です。潮汐ロックのため惑星内は常に日の当たる熱い場所、常に日の当たらない寒い場所、それらの間の狭い常に夕方の場所と極端な環境に分かれています。生命は限られた狭い夕方の場所にとどまっているため、厳しい環境となっています。過去にも古代人が残したロストテクノロジーを復活させることで産業革命が起きたとのことです。この辺りの古代人の石板を解読する過程が小説としてコンテンツに乗っています。これはグループで手分けして作業ができる強みと言えるでしょう。

言語的には、まず生物に唇がないため唇音が削られています。(口は閉じれるためm音だけは存在する。)また指が3本であることから数詞が六進数となっています。このように、人間以外の言語を考える場合は生物の構造から検討するのが大切かと思います。
時制とアスペクト(相)を表す接辞が動詞の前後に割り振られていて、前回紹介したAmeAgari_風斗さんの Daltas語と同様、応用できそうだと思いました。

後、文法の説明をグラフィカルにやっている部分があり上手いなと思いました。おそらくLAMPLIGHTさんがこのように図解的な説明を得意とされているようなので、その影響かなと思いました。このような説明の仕方は有用に思えるので、今後の説明の手法として大いに参考になると思います。

みうこねさんの クーオン語とリシュナクラ

提出期限を過ぎてしまったため投票対象から外れてしまいましたが、考えて頂いたので、講評の対象にさせていただきます。

寒い地方に逃げてきた民族の言語と言う設定です。元々は文字があったものの、寒い地方のため紙による筆記できる環境が得られず、知識の伝承は文字ではなく歌で行うようになったということです。人々は洞窟の中で暮らしていて、その中で音楽に反応して発熱する石が見つかり、これによってエネルギー革命が起きたとのことです。

エネルギー革命後に表音文字が開発されているのですが、石に打ち込んでいるためか、ルーン文字的な直線を基本にした文字となっています。文字の音は元々あった表意文字から頭音法で作られています。

言語的なところとしては、音韻体系を中心に組み立ていました。寒い地方で口を開けない音が好まれたとのことで、母音は口が閉じ気味なものになっています。珍しいのは、子音s, p, kに母音uが続くときは子音が有声化するというものです。後続の母音によって子音の音価が変わるというのは英語にはよくある現象ですが、人工言語では少なめな現象になります。規則性を優先してしまって、そうなるのかなと考えられます。ただ自然言語ではこういう現象はよくあるので、自然言語の再現を目指すタイプの人工言語では、このような現象も少し入れておくといいかもしれません。

おわりに

と言うわけで、今回も多数の方にご参加いただきました。本当にありがとうございます。講評の途中にも書きましたが、次回以降は開催の形式を変更したいと考えています。より多くの方が楽しく参加できるよう努めますので、今後も人工言語コンペをよろしくお願いいたします

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